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ダルマ・スートラ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
インド哲学 - インド発祥の宗教
ヒンドゥー教

ダルマ・スートラ(dharma suutra)は、ヴェーダ文献における律法経のことであり[1] 紀元前6世紀から紀元前2世紀にかけて叙述、記録された、ヴェーダの祭式学《カルパ・スートラ (英語版)》に附属した法文献の総称[2] 。特定のヴェーダ学派の教義と結びつく性格を有する[1] [注釈 1]

成立の過程

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ダルマ・スートラは、バラモン教の天啓聖典であるヴェーダに付随する文献群のひとつとして成立しており、バラモン教社会の4つの種姓(ヴァルナ)それぞれの権利義務と日常生活のあり方を規定した[2] 。ヴェーダの補助文献として成立した6種のヴェーダーンガ Vedāṅga の一つである「カルパ・スートラ」の一部分を構成する[2] [注釈 2]

アーリヤ人の侵入以来、インドにはヴェーダ文化が栄え、祭式を中心とする伝統的なバラモン社会がつくりあげられた[4] 。しかし、紀元前7世紀ころより伝統的な価値観や生き方に異議を唱える禁欲主義が台頭したため、みずから「正統世界」と称した伝統社会は反省と世界観の再編成を迫られた[4] 。それは多く祭式を司ったバラモン層によって担われ、紀元前6世紀ころよりさかんに進められた[4] 十六大国時代にあった彼らは世俗の権力者である王侯の支持をとりつけて4ヴァルナを軸とする身分制にもとづいたヴァルナ体制社会の確立をはかって、この体制下における人間の生き方、あり方(ダルマ)を追究した[4] 。ダルマ・スートラとはそのために編まれた教典である。

ダルマ・スートラは、法(ダルマ)について述べた文献としてはインドにおける最初期のものであるが、実際の裁判など実用目的のための法典ではなく、あくまでもヴェーダを補完する文献の一つとして、ヴェーダを継承する諸学派によって編まれた宗教文献であり、また、要点のみを組織的に配列する「スートラ体」という極度に簡潔な独特の散文体で叙述されている[2] [5] [注釈 3]

ダルマ・スートラは、のちに『マヌ法典』として集大成されるヒンドゥー法典の先駆けとなった文献であるが、そこにはすでに、再生族(すなわち、バラモンクシャトリヤヴァイシャの上位3ヴァルナ)の男性)が生涯においてたどるべき四住期(アーシュラマ)についても規定されていた[7] [注釈 4]

ダルマ・シャーストラとの関係

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ダルマ・スートラは、広義のダルマ・シャーストラには含まれるが、狭義のダルマ・シャーストラには含まれない[注釈 5] 。『マヌ法典』をはじめとする後者が紀元前2世紀ころから西暦5世紀ないし6世紀にかけてサンスクリット韻文体で記された法典であるのに対し[8] 、ダルマ・スートラはそれに先だつ年代において、サンスクリットの散文体で記録された教典である[1] 。ダルマ・スートラの一部には韻文も含んでいるが、その多くは後世の付加と考えられている[5] 。また、その独特な「スートラ体」は法典文学(ダルマ・シャーストラ)にも多大な影響をおよぼした[5]

脚注

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注釈

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  1. ^ バラモン教に由来する3つの学派には、ヴェーダーンタサーンキヤヨーガがある[3]
  2. ^ 「カルパ・スートラ」は、シュラウタ・スートラ(天啓経)、グリヒヤ・スートラ(家庭経)、シュルバ・スートラ(祭壇経)、ダルマ・スートラ(律法経)の4部門に分かれる[2]
  3. ^ ダルマの原義は「支えを保つ」である[6] 。これを、人間を人間たらしめるものと解釈すれば「真実」、宗教者にとっては「教え」「教法」となり、社会的脈絡のなかでは「倫理」「道徳」となる[6] 。倫理・道徳がさらに共同体のなかで強制力をともなう行為パターンとして固定するならば「義務」「法律」という意味になる[6]
  4. ^ 四住期の法も他のヴァルナの規則と同様、『マヌ法典』において最終的な確立をみる[7]
  5. ^ 天啓聖典(シュルティ (英語版))であるヴェーダに対し、ダルマ・シャーストラは聖伝聖典(スムリティ (英語版))に包摂される[6] 。ダルマの内容と権威はすべてヴェーダにもとづくが、ヴェーダそのものは天の声、神の啓示と考えられているのに対し、ダルマ・シャーストラはあくまでも賢者聖人によるものと考えられている[6]

出典

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参考文献

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関連項目

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基本教義
宗派
人物
哲学
聖典
ヴェーダ
分類
ウパニシャッド
ウパヴェーダ
ヴェーダーンガ
その他
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