ゼフュロス
ゼフュロス(Zephyros)は、日本のトランペット奏者である曽我部清典の発案によって作られたスライドとピストンバルブを併せ持つトランペット。1993年に初めて実用化された[1] 。
概要
[編集 ]通常の(ピストンバルブを持つ)トランペットにスライドを取り付ける構想は多くのトランペッターの概念にあったものの、トランペットの限られた管の長さの中でスライド部を確保するという技術的困難が伴ったため、長年実現されなかった[要検証 – ノート ][注釈 1] 。しかし、常に新しい音楽表現を追究してきた曽我部にとってC管のスライド付きトランペットの開発は悲願であり、必要不可欠なものであった[1] 。
1993年、曽我部は名古屋のバルドン楽器の竹山に製作を依頼。7月に試作器が出来上がるが、ベルなどに問題が発生したため、ヤマハの管楽器アトリエに改良を依頼し、ピッコロトランペットのベルなどを取り付けたり、スライド部の改良を施したりするが、B♭管用にしかならない。このため、ネロ楽器が引き続き製作を引き受け、音色を豊かに幅広くさせる目的でのベルの焼き鈍しと銀 メッキを施したC管スライド付きトランペットはついに完成する。これが初代のゼフュロスである[1] 。
その後、改良が重ねられ、ピストンにヤマハで新しく開発されたXENOIIを使用したゼフュロスII(ヤマハのE♭管のベル使用)をはじめ、ゼフュロスIII(B♭管 グローバル社製)が次々に開発され、ゼフュロスIVではベル部分を長く取ったため、音色と吹奏感に飛躍的な改善がみられた[1] 。
ゼフュロスIIの特徴
[編集 ]通常のC管よりやや鋭い音が特徴。スライド部の長さを確保するため、管の細い部分が多く、大きなベルの取り付けができなかった。その後、E♭トランペットのベルを焼き鈍し、柔らかくすることで音色に幅を持たせることに成功、低音域にも対応できるよう改良された。スライド付きでグリッサンドが自由に使え、トロンボーンで使えない音程にもピストンとの併用で対応できる。グリッサンドの幅はピストンを押さない状態で増4度、ピストンを全部押した状態で約長3度[1] 。
ゼフュロスIVの特徴
[編集 ]ベル部分を長く取ることで音色と吹奏感を飛躍的に改善させる。艶消しの表面には梨地仕上げの工程でピーニングという加工硬化作用が施されることで金属が鍛えられ、音に悪影響を及ぼす残留応力の除去にも成功した[2] 。
ゼフュロスのための作品
[編集 ]この画期的なスライド付きトランペットは新たな音楽表現を切り開く可能性を秘めていたため、多くの先進的な作曲家の創造力を刺激し、短期間に多くの作品が生まれた。
(初演順・日付は初演日)
- 伊東乾 ミカ(サッフォーの詩による愛と死の歌)1993年11月22日
- 伊東乾 フェスティーナレンテ(デュオバージョン)1994年5月15日
- 伊東乾 フェスティーナ・レンテ(協奏曲)1994年9月16日
- 野田雅巳 ペシャワールの谺 1994年12月23日
- 中川俊郎 クィド・スム・ミゼール(哀れなる我何を)1995年10月26日
- 松平頼則 源氏物語(モノオペラ)1995年10月28日
- 川島素晴 Πολυπροσωποζ III 1995年12月21日
- 土屋雄 モノディ 1995年12月21日
- 中川俊郎 唇・舌・歯・喉のためのエチュード 1996年1月5日
- 中村滋延 KAGAMI 1996年1月5日
- 中川俊郎 ファンファール・ストリエ 1996年8月3日
- 山口淳 化身V 1996年10月15日
- 松平頼暁 インタールード・フォー・レクイエム 1996年12月6日
- 久田典子 コンプレッション・ポテンツィアータ 1996年12月6日
- 川島素晴 Πολυπροσωποζ II 1997年4月27日
- 田中吉史 eco lontanissima V 1997年5月10日
- 曽我部清典 Nach allen Seiten F liegen..... 1997年5月10日
- 松岡貴史 忘れられた時 1998年1月17日
- 柴山拓郎 Duo Duet 1999年6月4日
- 川島素晴 変奏曲、2つの間奏と終曲を伴う 1999年6月4日
- 柴山拓郎 Duo Duet(solo version) 1999年9月26日
- 土屋雄 A study of Resonance 1999年9月26日
- 松岡みち子 天水〜(ゼフュロス・鉦・キーボードのための) 2000年2月20日
- 三輪眞弘 メガホンM 2000年7月14日
- 後藤英 タン・トレッセ2 2001年2月10日
- 川島素晴 ゑすとslide物語 2001年3月25日
- マウリツィオ・ピサーティ 雪女 2001年10月22日
- 後藤國彦 雪中の狩人 2002年12月27日
- 平部やよい 融ける石 2003年8月25日
[1] その他、ゼフュロスのために編曲された曲として、バルトークの「ルーマニア民俗舞曲」(鈴木隆太・曽我部清典編)、宇多田ヒカル「First Love」(原田敬子編)など約6曲がある。
脚注
[編集 ]注釈
[編集 ]出典
[編集 ]関連項目
[編集 ]- ファイヤーバード (楽器) (英語版) - メイナード・ファーガソンが考案した、ピストンバルブとスライドを併せ持つトランペット
- スーパーボーン (英語版) - 同じくファーガソンの考案による、スライドとピストンバルブを併せ持つトロンボーン