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筑波山の自然

筑波山の植物
筑波山は、標高は低いが、ふもとから山頂にかけて植物の「垂直分布」が見られる。 山麓から神社裏にかけて、アカマツ、コナラ、スダジイを中心とした常緑樹、中腹がモミ、アカガシ、スギ、シキミの森林、山頂付近がブナ林ととなっている。 ふもとから中腹までが暖温帯性の常緑広葉樹林、山頂付近は冷温帯性の落葉広葉樹林、その間は、常緑樹林と落葉樹林の中間帯で、おおむね3つの森林帯に分かれている。 特に山頂付近のブナ林は、植生上、貴重な存在とされる。
また、通常は標高が高くなるほど気温が低下するが、冬の筑波山では中腹の気温がふもとよりも暖かくなる気温の「逆転現象」が起こる。 「斜面温暖帯」と呼ばれるもので、筑波山の南斜面から西斜面にかけて、標高約200mから約300mのベルト状に気温が麓より2〜3°C高い場所をいう。 通常、標高が100m上がると、気温が約0.6°Cずつ下がる。ところが山の中腹では、放射冷却現象で冷やされた地表近くの空気が、 斜面を下り降りる山風となり、上空の暖かい空気を引き下ろすため、結果として麓よりその周辺が暖かくなる。 この現象は、筑波山特有のものではないが、他の山に比べ顕著に現れている。その理由は、山風が起き易い山容と、山の規模が、 斜面温暖帯をつくる上で、適当な規模であると考えられている。 地元ではこれを利用し、みかん栽培が行われている。もともとはフクレミカン(通称ツクバミカン)という、直径約3cm程度のものが栽培されていた。 皮が薄く、よい香りがするのが特徴で、土産品としても売られている。また、つくば名産の七味唐辛子に乾燥した皮(陳皮)を利用している。 最近では、観光果樹園で、温州ミカンの栽培がされ、人気を集めている。
筑波山で発見された植物は「ツクバキンモンソウ」「ツクバグミ」「ツクバトリカブト」「ツクバザサ」「ツクバヒゴタイ」 などツクバの名を冠しているものが多い。 「ウスゲサンカクヅル」「ヤマナルコユリ」「クモキリソウ」などもツクバの名が入っていないものも筑波山で発見されている。 また、市の花となっている「ホシザキユノシタ」、それに「ツクバウグイスカグラ」は筑波山にしか生息しない固有種だ。
ホシザキユキノシタ
ユキノシタ科ユキノシタ属。通常のユキノシタに比べ、花弁が退化してオシベと同じぐらいの大きさになり、星の様に見える事からホシザキと名付けられた。 茎は高さ30〜50cm程度になる。葉は通常のユキノシタに白い班があるのに対し、ホシザキユキノシタにはほとんどない。
ホシザキユキノシタの花 ホシザキユキノシタの葉
星型のホシザキユキノシタの花(左)、白い班の少ないホシザキユキノシタの葉(右)
カタクリ
ユリ科カタクリ属に属する多年草。筑波山の山頂周辺はじめ、広い場所で開花し、春の訪れを告げる花となっている。
昔はこの鱗茎から抽出したデンプンだから「片栗粉」の名がついた。現在の片栗粉は、ほとんどがジャガイモから抽出したデンプン粉になっている。
カタクリの花
紫の花が美しいカタクリ
ニリンソウ
筑波山の春を代表する花。筑波山では登山道沿いに多くの群生地があり、容易に見つけられる。 1つの茎が分かれて2つの花を咲かせることが多いことから「二輪草」が和名となった。 5つの花弁の役割を担う萼(がく)片が特徴。萼片は4つのものや6つのものもある。 多年草で、春に花をつけた後、夏ごろには地上部は枯れてしまう。 若葉は山菜として食べられるが、有毒のトリカブトと似ていることもあり、事故も起きている。
ニリンソウ
ニリンソウ
ヤマトグサ
ハコベに似た多年草で、たくさんの白い花糸のおしべが垂れ下がる雄花を咲かせるのが最大の特徴。 同じ株に雌花もつく。風媒花。葉は対になっており、十字につける。木下の影などに群落となっている。 日本の固有種。牧野富太郎博士らによって学名がつけられた。 和名の「大和草」は「日本の草」という意味であると牧野博士は述べている。 高知県で最初に発見され、その後、筑波山でも見つかり、第2の産地とされている。
ヤマトグサ花 ヤマトグサ葉
ヤマトグサの花(左)、ヤマトグサの葉(右)
ダイモンジソウ
ダイモンジソウは、5つの花弁が「大」の字に見えることからその名がある。 岩上に密着して咲く多年草で、花期は秋。筑波山でも登山道沿いの岩に咲く姿を見ることができる。
ダイモンジソウ
ダイモンジソウ
ツクバトリカブト
有毒植物であるトリカブトの一種。薬用にも用いられる。ヤマトリカブトの亜種で筑波山で最初に発見されたことからこの名がある。 ヤマトリカブトとの違いは葉の切れ込みの深さなどがある。初秋に紫色の鮮やかな花をつける。筑波山でも意外と登山道脇などに自然に生えている。
ツクバトリカブト
ツクバトリカブト
アケボノソウ
アケボノソウは、秋の花で筑波山の登山道脇などに咲く白い花。 特徴ある花弁の模様が「宇宙人」にも例えられ人気となっている。 もともとアケボノソウの名前の由来は「曙」であり、花弁の模様が夜明け前の空の星々に似ているからとされる。
アケボノソウアップ アケボノソウ
特徴ある花弁のアケボノソウ(左)、アケボノソウ(右)
サラシナショウマ
サラシナショウマは、筑波山の秋を代表するといってもよく、 登山道脇などに、白い穂のような特徴的な花をつける。 名前の由来は、新芽を山菜として水にさらして食した「晒菜(さらしな)」と 根は「升麻(しょうま)」という解熱などが効用の漢方薬となる。
サラシナショウマ
特徴ある花をつけるサラシナショウマ
ヤマユリ
夏に特徴ある大型の花を咲かせる多年草。強い香りがある。 筑波山に自生しており、登山道沿いなどで見ることができる。
ヤマユリ
ヤマユリ
マルバクス
クスの木の変種で、植物学者として著名な牧野富太郎博士が名前をつけ、1940(昭和15)年に発表されたマルバクスの標準木(タイプツリー)が筑波山神社拝殿脇にある。 普通のクスの木の葉に比べ、丸型でやや大きい。葉の幅に対する葉の長さが普通のクスノキが2から2.5倍であるのに対して、マルバクスのそれは1.3から1.6倍となっている。 なお、この木は自然に生えていたものではなく、北海道開拓使(開拓権少書記官)の八木下伸之氏が明治初期に寄進したものという。
マルバクス
拝殿脇にあるマルバクスの標準木。写真奥が拝殿。
ブナ
筑波山のブナ林は、山頂付近に島状に残る。ブナは、寒い地方の植物で、関東地方の平野では育たない。平均気温が山麓より4°C以上低い筑波山の標高700m以上が生息可能地域。 同様の理由で標高が700m以上ある加波山には島状に残るが、そのほかの筑波山周辺の山には無く、茨城県内では、最北部の八溝山地まで無い。
ブナは、今から2万年前ごろ、寒冷期となっていた時代に、この地域一帯にも広がっていたと見られ、それが現在まで残ったもの考えられる。いうなれば氷河期から脈々と生命をつないできた貴重な植生だ。 また、有史以降は、筑波山神社の境内として、大切に保護されていたため、ほぼ自然林に近い。 ただ、最近は観光客の増加などもあり、ブナの根元が踏み固められ、枯れるものもでている。枯れる原因は、それだけでなく山頂付近の電波塔のコンクリートによる土壌のアルカリ化や、同じくコンクリートによる周辺の温度上昇が挙げられている。 特に危機感を強めているのは、ブナが枯死した後、次の世代が育たないこと。このままでは、絶滅の恐れも指摘されている。
ブナ林
山頂付近のブナ林
ブナ林看板 ブナ林切り株
ブナ林の保護を訴える看板(左)と、枯死したブナの木の切り株(右)
スダジイ
スダジイは、ブナ科シイ属の常緑広葉樹で、照葉樹林を構成する代表的な樹木。 通常「シイ」といった場合は、スダジイを指す。
筑波山の北側に位置する椎尾山薬王院のスダジイの樹叢が茨城県の天然記念物に指定されている。 薬王院を中心とした約2.6ha。直径30cm以上のスダジイが100本を越える。
また、筑波山大御堂の西側にはスダジイの巨木がある。樹皮にコブがあり、枝の広がりも美しく堂々とした風格が漂う。
大御堂のスダジイ
大御堂の西側にあるスダジイの巨木
切り株
2011(平成23)年9月の台風による強風で倒れた弁慶七戻り近くの木。伐採され年輪には年代が表示されている。 1700年まで表示されていたが、芯の近くは空洞になっており、江戸時代初期ないし安土桃山時代ごろからの樹木ということになる
アカガシ
常緑広葉樹。筑波山だけでなく、国内では、宮城・新潟県以南の本州、四国、九州に自生する。 材料は固く、昔から農機具などの部材に利用されてきた。樹木の赤みがかっていることからこの名がある。屋敷林として植えられることも多い。
アカガシ
御幸ケ原登山道沿いにあるアカガシ
トウゴクミツバツツジ
関東の山地に多く、1000m以上の山に自生することが多い種。 低木落葉樹で、春に枝先から1から3個の花を咲かせる。そのあと、三つ葉が特徴の葉をつける。 通常のミツバツツジとはおしべの数の違いなどがある。
トウゴクミツバツツジ
トウゴクミツバツツジ
筑波山の昆虫
ブナ林にエゾハルゼミ、エゾゼミ、アカエゾゼミと山地系のセミが住む。このほかニシカワトンボ、シイオナガクダアザミウマなどの北限になっているのが特徴。 またホタルは、山麓にヘイケボタル、中腹にゲンジボタルがいる。山頂付近でヒメボタルが以前確認されたが、現在は不明。 筑波山はあまり高い山では無いため、珍しいものは少ないが、自然が多く残っているため、登山道などでも多様な昆虫が見られる。 人気の昆虫も多く見られ、虫好きの子供たちにとってはまさに楽園だ。 茨城県自然博物館第1次総合報告書(1998年)では約1300種類の昆虫が記録されている。 なお、筑波山は国定公園のため昆虫採集は出来ない。
チョウは、ナミハゲハ、キアゲハ、クロアゲハ、ジャコウアゲハ、カラスアゲハ、オオムラサキ、ゴマダラチョウなど。このほか、渡り蝶として知られるアサギマダラも見られる。
トンボは、オニヤンマはじめ、ギンヤンマ、ヤマサナエ、シオカラトンボ、アキアカネなど。珍しいところではムカシトンボが生息する。
甲虫類では、カブトムシ、ノコギリクワガタ、ミヤマクワガタ、コクワガタ、カナブンなどが見られる。
アサギマダラ ツマグロヒョウモン
長い距離を飛ぶことで知られる渡り蝶アサギマダラ。男体山登山道(左)、同じく御幸ケ原近く女体山方面への山頂連絡路(右)
ツマグロヒョウモン ツマグロヒョウモン
ツマグロヒョウモンのメス。宝篋山山頂付近、7月中旬(左)、ツマグロヒョウモンのオス。筑波山女体山山頂付近、7月初旬(右)
キアゲハ クロアゲハ
キアゲハ。宝篋山山頂付近、7月中旬(左)、クロアゲハ。宝篋山山頂付近、7月中旬(右)
メスグロヒョウモンメス メスグロヒョウモンオス
メスグロヒョウモンのメス。宝篋山山頂付近、7月中旬(左)、メスグロヒョウモンのオス。宝篋山山頂付近、7月中旬(右)
オニヤンマ
エメラルドグリーンの眼が特徴のオニヤンマ。筑波山大御堂西参道で
アキアカネ ナツアカネ
アキアカネ。筑波山女体山山頂、7月初旬(左)、ナツアカネ。筑波山御幸ケ原、7月中旬(右)
ノシメトンボ
ノシメトンボ。宝篋山中腹、7月中旬
筑波山の野鳥
鳥類は、オオタカ、ノスリ、チョウゲンボウ、サシバ、トビなどの猛禽類はじめ、ホトトギス、ウグイス、シジュウカラ、ジョウビタキ、 メジロ、キジ、カッコウ、コゲラ、ヤマドリ、フクロウなど16目36科118種類 (茨城県自然博物館第1次総合調査報告書=1998年)が確認されている。
筑波山の両生類・爬虫類・他
四六のガマで有名なニホンヒキガエル(アズマヒキガエル)はじめ、ツクバハコネサンショウウオ、イモリ、ニホントカゲ、ニホンカナヘビ、 ニホンマムシ、ヤマカガシ、アオダイショウ、サワガニなど。両生類が10種、爬虫類は6種(茨城県自然博物館第1次総合調査報告書=1998年) 確認されている。
ツクバハコネサンショウウオ
ツクバハコネサンショウウオは、もともとハコネサンショウウオだと見られていたが、成体で他の地域のものに比べて尾が短い、 幼生の段階で体に銀白色の斑紋が多い、同じく幼生で尾の背中側にはっきりとした黄色い線が出る、という特徴ある。 2013(平成25)年2月、京都大学大学院の研究者が、日本爬虫両棲類学会の国際誌に新種として発表した。 新種のサンショウウオの発見は、関東地方では、1931(昭和6)年のトウキョウサンショウウオ以来82年ぶり。
筑波山の哺乳類
哺乳類は、ニホンイノシシ、ニホンイタチ、ホンドタヌキ、ホンドテン、ニッコウムササビ、ホンドリス、ニホンノウサギ、 ムササビ、キクガシラコウモリなど23種類(茨城県自然博物館第1次総合調査報告書=1998年)がいる。
筑波山の岩石
筑波山の岩石で最初に思い出されるのは花崗岩ではないだろうか。筑波山の北側の真壁は花崗岩の産地。真壁石として全国的に有名だ。 筑波山は、中腹より下はそれらと同じ花崗岩だが、中腹より上は、斑レイ岩で出来ている。女体山山頂のあのつるつるした表面の岩が斑レイ岩である。
斑レイ岩は、マグマが地中でゆっくりと固まった深成岩の一種で、それが地上に出てきたもの。そのなかでも角閃石(かくせんせき) や輝石を含み黒っぽいのが特徴の堅い岩石。 一方花崗岩は、同じく深成岩の一種だが、石英と長石で主に構成され、斑レイ岩などに比べると風化しやすい。
筑波山の奇岩もほとんどが斑レイ岩で出来ている。また、登山道などで見られる岩石のほとんども斑レイ岩となっている。
筑波山頂岩
筑波山頂の岩
筑波山の傘雲
つくば市水守から見た筑波山にかかるかさ雲
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