【令和時代の人生百年計画】(04) 男女の性的欲望は全く違う!



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今回は"驚くべき事実"を告げよう。少なくとも私は、これを知った時に腰が抜けるほど驚いた。但し、女性の読者はそうではないかもしれない。次のような場面を思い浮かべてほしい。貴方は研究所の薄暗い部屋に1人で座っている。目の前にモニターが置かれていて、2分間に編集された様々な動画がランダムに流される。動画にはエロティックなものと、そうでないものがあって、手元にある目盛付きダイヤルで、どの程度性的欲望を感じたかを報告する。何も感じなければゼロ、オーガズムに達するほど興奮すれば1回転させて360度だ。モニターに映し出される動画は以下の5種類だ。1男女のセックス2ゲイ((注記)男性同性愛者)のセックス3レズビアン((注記)女性同性愛者)のセックス4ボノボのセックス5風景等何でもない動画――。アフリカ中央部の熱帯雨林に住むボノボは、チンパンジーと共に人類に最も近い霊長類だ。"ラブ&ピースのエイプ"とも呼ばれ、オスとメスだけでなく、オス同士やメス同士も積極的に性的なコミュニケーションをする。「なんだ、それだけか」と思うかもしれないが、この実験にはひとつだけ、普通でないことがある。男性はペニスに、女性はヴァギナにプレチスモグラフィという器機を装着しているのだ。これは体内の血流の増減を測るもので、身体的な興奮度を知ることができる。貴方が異性愛者の男性なら、結果は調べるまでもないと思うだろう。興奮するのは男女のセックスとレズビアンのセックスで、ゲイのセックスなど見たくもなく、ボノボに至っては何の為にそんなものを見せられるのかわからない。

男性被験者の結果を示したのが図1で、縦軸が興奮度、横軸が性的刺激だ。これを見るとわかるように、男性は、何でもない動画、ボノボのセックス、ゲイのセックスには主観的には欲情せず、男女のセックスとレズビアンのセックスに興奮した。一方、身体的な興奮度はというと、ゲイのセックスでも若干、ペニスの血流が増加している。異性愛者の男性がゲイのセックスに身体的には(僅かに)興奮しながら、そのことを主観的には否定するのは、ホモフォビア((注記)ゲイ恐怖)を示しているようで興味深いが、それは本題ではないのでここでは置いておこう。重要なのは、男性では、身体的な興奮と主観的な興奮が大凡一致していることだ。ここで、「なに当たり前のこと言っているの?」という突っ込みが入るだろう。「巨乳が好き」という男がいれば、巨乳のAV女優が出てくる動画で勃起するに決まっている。これは確かにその通りで、何の不思議もない。"驚くべき事実"は、女性の反応を示した図2だ。被験者は全て"異性愛者"と自己申告しているが、ヴァギナの血流の増加で計測した身体的な興奮度で目を引くのは、男女のセックスだけでなく、ゲイのセックスやレズビアンのセックスでも同じように興奮していることだ。そればかりか、ボノボのセックスでも身体的には反応している。それでは、主観的な興奮度がどうなっているのかを見ると、男女のセックスで最も欲情し、次いでレズビアン、ゲイのセックスで、ボノボのセックスに対しては、何でもない動画より興奮度が低い。この実験を主導したメレディス・シバースは、女性の性的欲望を研究する神経心理学の第一人者だが、彼女はボノボのセックス動画について、実際の挿入場面が10秒程しかなかったことに注意を促している。それに対して人間の性行為は、どれも丸々2分間続いていた。シバースは、これがボノボのセックスを見た女性被験者の身体的な興奮度が低かった理由ではないかという。ボノボのセックス動画でも2分間性行為が続いていたら、女性の身体的な興奮度は、人間の性行為を見た時と同じレベルまで上がったというのだ。この実験結果からわかるのは、女性は身体的な興奮と主観的な興奮が一致していないという事実だ。これは男にとって到底信じられない事態だ。何故なら、"ペニスが勃起すれば欲情している"というのは、りんごが木から地面に落ちるという以上に確実なことだから。そうでない"人間"がこの世界に生息していることなど想像すらできないのだ。シバースは、「女性があらゆる性的刺激に対して身体的に興奮するのは、進化の適応ではないか」と述べている。"挿入される性"である女性は、不測の事態から繊細なヴァギナを守らなければならない。人類が進化の大半を生きてきた旧石器時代には"#MeToo運動"などなかったから、男からいきなり襲われることが頻繁に起きただろう。

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そんな時、「この男とセックスする価値はあるか?」とか「話し合いで解決できないか?」等と一々考えている余裕はない。素早くヴァギナを濡らして、損傷しないよう備えるほうがずっと大事だ。男による性暴力が日常的に起きる世界では、女性は性的刺激を感知した途端に女性器を興奮させるように進化した。とはいえ、あらゆる性的刺激((注記)ボノボのセックスですら!)に意識的にも興奮していたら、日常生活を送れなくなってしまう。この問題を解決するには、本当に((注記)心理的に)興奮するのは心を許した相手(=好きな男)だけにすればいい――。こうして、身体的な刺激が脳の性的な興奮回路に至るまでに切断される"設計"になったのだろう。女性の性的欲望が男性と大きく異なることは、1980年代から様々な研究者が指摘していた。聞き取り調査では、女性の多くが「セックスを迷惑に思っていてもヴァギナが愛液で濡れる」と回答している。"強いられたセックス(=レイプ)"のような状況でも女性器が反応したり、場合によってはオーガズムに達したという報告もある。無理強いされたセックスに女性が抵抗しても、これまでは男の論理によって、「身体が興奮しているんだから感じているんでしょ?」と一蹴されてきた。だがシバースは、「男と女の性欲は全く違う」という事実を示すことで、こういう男に都合のいい思い込みを否定したのだ。日本だけでなく欧米でも、女性器が反応すれば"性的同意があった"と見做される。この前提が崩れたとしたら、"同意"や"抵抗"についての男性の判断は大混乱に陥るに違いない。


橘玲(たちばな・あきら) 作家。1959年生まれ。早稲田大学第一文学部卒。『宝島社』の元編集者で雑誌『宝島30』2代目編集長。2006年、『永遠の旅行者』(幻冬舎)が第19回山本周五郎賞候補となる。『言ってはいけない 残酷すぎる真実』(新潮新書)・『専業主婦は2億円損をする』(マガジンハウス)・『朝日ぎらい よりよい世界のためのリベラル進化論』(朝日新書)等著書多数。


キャプチャ 2019年5月30日号掲載

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