特定非営利活動法人 AMネット

先日、京都メディアフォーラムに参加しました。

京都三条ラジオカフェという、コミュニティFMとカフェが一体となったスペースに30人ほどが集まり、メディアについてあれこれ語り合うイベントです。

京都メディアフォーラムは2006年以来、毎月一回のペースの開催ですでに60回を超えています。

今回のテーマは、「160円の、その先に―」。

160円って、一体何の金額だと思いますか?








答えは、雑誌『ビッグイシュー』を1冊売って販売員が得られる金額です。

そんな雑誌、駅の売店や大型書店では見たこと無いって?

それもそのはず、『ビッグイシュー』とはホームレスの人々が路上で販売している雑誌なのです。

1冊300円で販売されており、そのうち160円が販売員の方の収入になります。

『ビッグイシュー』の表紙には、「ホームレスの仕事をつくり自立を応援する」と書かれています。

さまざまな事情でホームレス状態になった人が、仕事と収入を得て自立した生活に復帰することを支援する目的で制作され、販売される雑誌なのです。

そのため、販売員にはホームレスの人しかなれません。

しかも、「ビッグイシュー行動規範」を守れると約束した人のみ、販売員になれるのです。

さて、そんな雑誌『ビッグイシュー』がなぜ成功したのか、という話は、ビッグイシュー代表の佐野章二さんの著書『ビッグイシューの挑戦』をお読みください。



今回のイベント参加は、販売員の方にお話を聞くことが一番の目的でした。

普段、JR大阪駅や四条河原町近辺、地下鉄中百舌鳥駅などで購入することが多いのですが、正直に言うと、販売社の方と挨拶程度しか言葉を交わしたことがなかったのです。

販売員の田中さんは、今年6月に自分がホームレス状態になったと認識し、はじめて生死の境にいることに気づいたと言います。それまでネットカフェを転々としていた生活を送っており、所持金が底をつきかけ、もう食べていくことができなくなりました。そのとき、ネットカフェに置いてあった『路上脱出ガイド』を読んで、ビッグイシューのことを初めて知り、検索して事務所にたどり着いたそうです。







「販売を始めても、なかなか声を出すことができなかった」と田中さんは言います。しかし、初めて買ってくれた女性から「ありがとう」という言葉を聞き、「こんな僕でも感謝されるんだ」と思ったそうです。その女性に「ありがとうございます。ありがとうございます。」と返すと、「ありがとうは一回でいいで」と言われたそうです(笑)

その後も、販売を続けるうちにいつも買ってくれる人が増えてきて、今販売している場所が暖かく感じられたと言います。



田中さんはサッカーの練習や夜回りなど、雑誌の販売以外にも多くの活動をされています。

そのときに感じたのが、「僕自身もホームレスなのに、ホームレスの人を捜す夜回りをしている。僕って一体何者?」ということ。

「自立を支援する、と言うけど、本当の自立って一体何だろうか」。

この一言が参加者に投げかけられた疑問でした。



質疑応答やその後の懇親会でも「自立とは?」という問題を巡って話し合われました。

ある人は、自分の生活を自分で切り盛りして行くこと、と言います。

またある人は、生活費を自分で稼ぐこと、と言います。

他人に迷惑をかけないこと、という意見もありました。

自分にできることは自分でして、できないことは人に頼るのも自立のあり方では、という福祉を勉強している大学生の話もありました。



「ジリツ」とは「自立」とも「自律」とも書きます。

今使っているパソコンの変換では、

「自立」:他の助けや支配を受けず、自分ひとりの力で考え判断し、行動すること。
「自律」:自分の立てた規範に従って行動したり、自らを規制したりすること。

と説明されています。

つまり、「ジリツ」には二つの意味があり、田中さんの投げかけた疑問に答えるには、この二つの要素を考えなければならないということです。

『ビッグイシュー』は、ホームレスの人々に当面の生活手段(仕事や収入)を提供することで、「自立」を支援しています。では、「自律」は?

昨夜、田中さんのお話を聞いていて、田中さんは「自律」している、という印象を受けた人は多いのではないでしょうか。

自分がホームレスになったいきさつや、『ビッグイシュー』の販売を始めたきっかけ、上手く販売できなかった当初の失敗談や、今後自分がどうすべきなのかを率直に語る姿に、「自律」した人間像を発見することができます。

ひるがえって、いまホームレス状態にない人々は「自律」していると本当に言えるでしょうか?

ここまで読んでくださった方々にもぜひ伺いたい疑問です。


(堀内あおい)

posted by AMnet at 22:17| スタッフのつぶやき(堀内) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする