春日野や春日山が万葉集に詠われるなど、大宮人らの絶好の遊楽逍遥の地として親しまれました。 万葉集において記述される奈良公園に関する地名は全86首にのぼります。 野(春日野、浅茅原等)に関する歌 29首 山(春日山、御蓋山等)に関する歌 40首 川(率川、能登川等)に関する歌 17首
中国で伝統的に画題となってきた「瀟々八景(しょうしょうはっけい)」になぞらえて、日本各地で「八景」の名所が選ばれています。 奈良の南都八景は、寛正6年(1465)の文献に見られ、我が国で最初に選定された八景です。 江戸時代に発行された『大和名所図会』や『新撰大和名所往来』といった書物の中に登場します。 1.東大寺の鐘 2.春日野の鹿 3.南円堂の藤 4.猿沢池の月 5.佐保川の蛍 6.雲井坂の雨 7.轟橋の旅人(行人) 8.若草山の雪
明治より大正・昭和にかけて、数多くの文人等が奈良を訪れ、また住まう中で、奈良公園における景観の特性を評した記述を残しています。 「兎に角、奈良は美しい所だ。自然が美しく、残つてゐる建築も美しい。 そして二つが互いに溶けあつてゐる点は他に比を見ないと云つて差し支へない。 今の奈良は昔の都の一部に過ぎないが、名画の残欠が美しいやうに美しい。」 ■しかく志賀直哉『奈良』,昭和13年(1938) 「奈良公園は日本で一番美しい公園だと思う。(中略)なんとなく自然的な雄大さがあり、よくある箱庭趣味によってゆがめられていない。特にこせこせした築山や引きずってきてすえつけた岩石などのないのが気持よい。 もちろんこんなものはここでは必要がない。何しろ自然そのものが背景に丘陵山岳を配し、前景の地形を優雅に構成しているからだ。」 「木立ちは、美しい公園で見受けられるようにあまり密生せず、ここかしこの丘のすそで、まだ斧を加えられたことのない、荘厳な原始密林に連なっている。樹木類は主としてスギ、マツ、クスノキ、常緑のカシワ、モミジ、ケヤキ等」 「荘厳な公園へ眼を向けると、まったく神秘的なながめで、至るところ、これらのなれた獣と共に、千古の寺や塔が赤、白の装いをこらし、絵のような美しい形を、ほのかに見せている。(中略)およそ地上に、これ以上理想的の平和な風景はあり得ない。」 ■しかくエルヴィン・フォン・ベルツの日記より明治37年(1904)4月17日の項(トク・ベルツ編『ベルツの日記』)