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「らんまん」長田育恵氏を支える"師匠"井上ひさし氏"最後の教え"演劇との出合いは運命?早大の部室が...

[ 2025年3月7日 11:30 ]

こまつ座「フロイス」作・長田育恵氏インタビュー(下)

こまつ座に完全オリジナルの新作舞台「フロイス―その死、書き残さず―」を書き下ろした長田育恵氏
Photo By 提供写真

2023年度前期のNHK連続テレビ小説「らんまん」などで知られる劇作家の長田育恵氏(47)が、こまつ座に書き下ろした完全オリジナルの新作舞台「フロイス―その死、書き残さず―」(演出・栗山民也氏)は8日、東京・紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYAで開幕する。昨年のNHKドラマ10「燕は戻ってこない」も好評を博し、今、次回作が最も注目される脚本家の一人。長田氏に自身のキャリアや今後の展望、"師匠"井上ひさし氏の教えについて聞いた。

こまつ座は1983年、井上氏が座付作家として立ち上げし、翌年、「頭痛肩こり樋口一葉」で旗揚げ。以降、本公演「父と暮せば」「きらめく星座」「紙屋町さくらホテル」、特別公演「ムサシ」「組曲虐殺」「藪原検校」など、評伝劇を中心に名作を上演。井上氏に関わる舞台を専門に創り続け、今回が第153回公演となる。「木の上の軍隊」は映画化され、今年7月に公開される。

長田氏は日本劇作家協会の戯曲セミナー研修課で井上氏の個人研修生に採用され、師事。それだけに、自身初となるこまつ座への脚本執筆に「宣教師ルイス・フロイスというお題も難しいですし、大変なオファーを頂いたな、と身が引き締まりました。いつかこまつ座に書いてみたい、というような大それたことを思ったことはなかったので、喜びよりも9割がプレッシャーでした」と重圧を告白。

それでも、イズムを受け継ぐ者として「井上先生に恥じないものを書かねば」と決意。85年の第2回公演「日本人のへそ」以来、数々のこまつ座作品を演出してきた名匠・栗山氏とは、読売演劇大賞優秀作品賞に輝いた「ゲルニカ」(20年)でタッグを組んだとあり「栗山さんとのご縁もあってのお声掛け。新作を創るために私も力になりたい、必死にやらねばと思いました」と振り返った。

幼少期は体が弱く「外で遊ぶより、本を読む子どもでした。物語を書いて生きていきたい、と思うようになって、小説家を目指して早稲田(大学第一文学部)に進みました」。たまたま学部から一番便利な場所に部室があったのが、早大ミュージカル研究会。「ジャズダンスの練習風景が見えて、私もやってみたくて入部しました。脚本は自由投稿制で、試しに書いてみたら、その年の12月に行われる本公演に投票で選ばれてしまって。その時点で1年生の6月です。サークルの伝統として脚本を書いた人が演出も務めることになっていて、高校演劇の経験もない私は、先輩たちに電話をかけまくって、一から教えてもらいました。いきなり演劇の武者修行に放り込まれた感じです(笑)」と"運命的な出合い"を明かした。

同じ大学1年の96年、新宿・紀伊國屋ホールで鑑賞した劇団「自転車キンクリート」の名作「法王庁の避妊法」が衝撃的だった。

「それまでは、どのような感情でも言葉で言い表すことのできる小説が最上級だと思っていたんですけど、演劇は人間の営みを観客の目の前で見せるから、役者が台詞をしゃべらなくても、登場人物たちの感情が伝わってきたんですよね。演劇の言葉は"言葉がない時間"のために書かれているんだ、とカルチャーショックを受けました」

そして"物語を書く"道へ進み、07年には日本劇作家協会の戯曲セミナーに参加。「受講料を払って、1年間あらためて勉強しました。当時は1年かけて書き上げた脚本を希望する先生一人に読んでいただき、見どころがあれば翌年1年間さらに先生から学べる個人研修生という制度がありまして、私は井上先生の個人研修生に採用されたんです。他の先生はゼミ形式でしたけど、井上先生の場合は"追っ掛けの権利"をもらえる、みたいな感じでした(笑)」。井上氏は10年に亡くなったため、長田氏が"最後の弟子"となった。

講演会の楽屋など、井上氏の仕事場に足を運ぶ形の授業。「鎌倉の喫茶店で一度だけ、プロットを作る場に同席させていただいたこともありました。こまつ座の作品を上演中の劇場では、井上先生が物販にサインする手を止めないまま『この間の提出物だけど』と"即席講義"が始まったりして。1年間、具体的なテクニックというよりは、大作家の背中を間近で見ることのできる本当に貴重な機会を頂きました。当時の私には、その大きさがまだ理解できていなかったですけど」と述懐した。

「らんまん」オンエア時には"師匠"の教えの一つとして「人が一生に一度だけ口にする"本当の意味が宿る言葉"を書く」を挙げたが「最後の個人研修で、井上先生は『あなた自身の心の力で今日1日をいい方向に向かわせなさい』とおっしゃって。当時は人生訓だと受け取りましたけど、劇作家になった今、締切に追われたり、筆が進まなかったりすると、夜、つらいんですよね(笑)。そういう時は"あれは人生訓じゃなく、生涯、物語を書いていくためにはどうしたらいいのかを教えれくれたんだ"と先生の言葉がふと思い出されたりします」と感謝した。

今年は、ノーベル文学賞受賞作家ヘルマン・ヘッセの最高傑作「シッダールタ」の舞台化(11〜12月、東京・世田谷パブリックシアター)にも挑戦。演出家・白井晃氏と初タッグを組み、シッダールタが悟りの境地に達する姿を描く。

「キリスト教から今度はシッダールタと、通り一遍ではいかない依頼を頂きました(笑)。同じ年に偶然、こういう企画が続いたのは、戦争や紛争、虐殺が続く今の時代や人間を、宗教を糸口に捉えようと演劇人が考えているからだと思います。そういう脚本を書ける劇作家だと認知していただいているのなら、とてもありがたいと思いつつ、やっぱり大変な題材です。『らんまん』の後、作品の難易度が確実に上がっていますけど、皆さんの期待に応えられるよう、励んでいきたいと思います」

=インタビューおわり=

◇長田 育恵(おさだ・いくえ)東京都出身。早稲田大学第一文学部文芸専修卒業。2007年、日本劇作家協会の戯曲セミナーに参加。翌年から井上ひさし氏に師事した。09年、劇団「てがみ座」を旗揚げ。18年には「海越えの花たち」「砂塵のニケ」「豊饒の海」の戯曲で第53回紀伊国屋演劇賞個人賞を受賞。23年、朝ドラ脚本に初挑戦した「らんまん」は屈指の名作となり、その成果により、令和5年度文化庁芸術選奨新人賞を受賞。昨年のNHKドラマ10「燕は戻ってこない」も評判を呼び、東京ドラマアウォード2024連続ドラマ部門優秀賞に輝いた。

だいやまーくこまつ座第153回公演「フロイス―その死、書き残さず―」公演日程
<東京公演>3月8日(土)〜30日(日)紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYA
<兵庫公演>4月5日(土)兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール
<岩手公演>4月12日(土)奥州市文化会館Zホール大ホール
<高崎公演>4月16日(水)高崎芸術劇場スタジオシアター
<宮城公演>4月18日(金)仙台銀行ホール イズミティ21大ホール
<大阪公演>4月25日(金)〜26日(土)梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ

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