NEDO 国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構
  1. ホーム
  2. 事業紹介
  3. バイオマス燃料開発
  4. バイオマス Leader’s Vision

バイオマス Leader’s Vision
バイオマス燃料活用の成功例を多く積み上げることが、NEDOの使命

2024年9月25日

  • 新エネルギー部 バイオマスグループ 主任研究員 矢野 貴久の写真

多様な価値を持つバイオマスを利用する意義

―バイオマスエネルギーは近年、持続可能な社会の構築やSDGsに取り組む企業・自治体から大きな注目を集めています。バイオマスは、どのような価値をもたらすエネルギーなのでしょうか。

矢野:バイオマスの価値はさまざまあります。まずカーボンニュートラルな特性を持ち、化石燃料の代替とすることで温室効果ガス(GHG :Green House Gas)排出削減に貢献できるという環境的価値。それからバイオマス発電や持続可能な航空燃料(SAF: Sustainable Aviation Fuel)、バイオエタノールなどの新しいエネルギー事業から収益を得られるという経済的価値。そして、新事業が立ち上がることで雇用が生まれるといった社会的価値などです。木質バイオマスならば、原料供給地となる森林にかかわることで、国土保全や地域の農林業の活性化が進むことも社会的価値に加えられます。

―バイオマスの利用方法も多種多様です。なぜNEDOは、「バイオマス燃料開発事業」に取り組んでいるのでしょうか。

矢野:国際再生可能エネルギー機関(IRENA)の調査によると、2022年時点の日本のバイオマス発電設備容量は5.5GWで、世界第7位に位置しています。つまり日本にとってバイオマスは、活用のポテンシャルが非常に高いエネルギーだということです。事実、2021年に策定された「第6次エネルギー基本計画」では、再生可能エネルギーを組み合わせて2050年に向けて主力電源化する目標を掲げており、バイオマスエネルギーは2030年には日本の電源構成の5%、導入量に換算すると800万kWを担うことが期待されています。

一方、2022年3月時点のバイオマス発電導入量は560万kWで、2030年目標の70%程度の達成であり、まだまだ“道半ば”という状況です。2030年目標の達成は、2050年カーボンニュートラル社会の実現を目指すうえで重要なポイントです。課題も多く、けっして平坦な道のりではありませんが、NEDOとしてその達成を後押しすることは、非常に意義のあることだと考えています。

NEDOが進める2つのバイオマス燃料事業

―では、具体的にNEDOのバイオマス燃料開発事業について教えてください。

矢野:NEDOでは現在(2024年10月時点)、バイオマス燃料開発に関する2つのプロジェクトが進行中です。

1つは「バイオジェット燃料生産技術開発事業」。バイオマスからSAFを製造する技術を開発し、2030年頃の商用化を目指すというプロジェクトです。プロジェクトには大きく3つの柱があります。

1つめの柱は、SAFの一貫製造プロセスを開発する取り組みです。2021年6月には、安全性の国際規格をクリアした木くず由来のSAFと微細藻類由来のSAFを航空会社の定期便に供給しました。SAF製造は研究途中の分野ですが、技術開発の成果を社会実装できたことで、一定の役割を果たせたものと考えています。

2つめの柱は、SAFの原料調達から製造、供給までの一貫したサプライチェーンを構築する取り組みです。SAFの原料は、植物や廃食油・油脂(動植物)、都市ごみ(廃ガス含む)、微細藻類などさまざまです。また、バイオマスからSAFへの変換方法の選択肢も多いため、SAFの商用化に向けて原料と変換方法の最適な組み合わせを探るには、サプライチェーンの実例を1つでも多く蓄積することが重要です。

3つめの柱は、SAFの原料の1つである微細藻類を大量培養する技術の研究です。広島県大崎上島町にある日本微細藻類技術協会(IMAT)の基盤技術研究所などで、安定的にSAFを製造し、かつコスト低減につながる微細藻類の大量培養法や藻の選定などを行っています。

  • 矢野 貴久
    再生可能エネルギー部 バイオマスユニット ユニット長

―では、もう1つのプロジェクトはどのようなものでしょうか。

矢野:「木質バイオマス燃料等の安定性・効率的な供給・利用システム構築支援事業」というプロジェクトです。簡単にいえば、「バイオマス発電と林業を両立するシステム」をつくる事業です。

日本のバイオマス発電では、建設廃材やチップやペレットなどの木質バイオマスを燃料に使用しています。特に木質バイオマス発電所は、2012年にスタートしたFIT制度の支援を受けて各地で建設が進みました。林野庁の資料によると、設備認定を受けた木質バイオマス発電所は、2020年3月末時点で382カ所、このうち180カ所が稼働しています。

一方、FIT制度の支援を受けられる期間は20年です。卒FIT後も発電事業を継続するためには、木質バイオマス燃料を安定的に供給する体制づくりが不可欠です。このプロジェクトはその課題解決のために立ち上げました。

―木質バイオマス燃料プロジェクトは、具体的にどのようなプロジェクトでしょうか。

木質バイオマス燃料のプロジェクトにも、3つの柱があります。

1つめの柱は、エネルギーの森づくり、つまり木質バイオマスのための森を整備する事業です。コウヨウザン(広葉杉)やユーカリ、ヤナギなど成長速度が速い早生樹を耕作放棄地などに植林し、木質バイオマス発電の燃料とする計画です。木質バイオマス燃料のための森は、製材用の樹木を育てる森とは異なり、下草刈りや枝打ちなどの手間をかける必要がありません。地域の人口減少が進む中、できるだけ管理の手間を省ける育林方法を模索しています。

早生樹以外では、広葉樹のバイオマス燃料化にも取り組んでいます。戦前の里山には、薪や炭など伝統的バイオマスの材となる広葉樹の林(薪炭林)が整備されていましたが、戦後になって薪や炭の需要が減少すると、広葉樹の林は手入れされずに放置されました。そこで里山の復活も兼ねて、広葉樹を木質バイオマスに活用する計画を立てています。実は針葉樹よりも広葉樹のほうがよく燃え、熱量も高く、燃料に適しています。ただし、これから育てるとなると、スギやヒノキと比べて管理の手間がかかるため、効率的な育て方などの研究もあわせて進めています。

2つめの柱は、チップやペレットの効率的な生産・輸送方法を開発する事業です。製材とは異なり、チップやペレットに加工する材は山から運び出す際の形状に制約がありません。運びやすい大きさに切り分けたり、極端な話、山の上でチップ状に加工して下ろしたりすることもできます。また、木材を燃料に活用するためには材を乾燥させる必要がありますが、ペレットなら、粉状にして乾燥させてから固める、チップ状にして乾燥させてから粉状にして固める、などさまざまな方法が考えられます。最も効率的、かつ経済的な木材の搬出方法や加工方法を研究・開発しています。

3つめの柱は、品質規格を策定する事業です。従来のチップやペレットの取引では、生産者と発電所が相対で取引・契約する商慣行が多いため、市場メカニズムが働きづらい状況にありました。たとえば、生産者が燃料としての質を高めるために材の乾燥に力を入れたり、石や砂など混入を防いだりする方策を講じても、価格に反映されづらい傾向にありました。本来ならば、品質の良い燃料は相応に見合った価格で取引されるべきですよね。そこで材の品質規格を策定し、チップやペレットの製造事業者の努力が適切に反映されることを目指し、将来的には流通ルートの拡大に寄与すると考えています。

  • 成長速度が速いユーカリなどの早生樹を植林し、木質バイオマス発電の燃料とする。写真(手前)はユーカリのチップ。

課題は、低コスト化と安定的な原料調達先の確保

―それぞれのプロジェクトのアウトプット、目標達成に向けて、どのような課題があるとお考えでしょうか。

矢野:SAFに関していえば、いかに製造コストを抑えられるかが、大きな課題です。SAFの調達価格は、化石由来のジェット燃料の3〜4倍ともいわれ、普及拡大の妨げになっています。

また、将来のSAFの需要増に応えるためには、原料調達先の確保も重要です。たとえばSAFの原料となる廃食用油は、食品加工工場からだけではなく、今後は未回収の飲食店や一般家庭などからの回収も視野に入れておくべきかもしれません。一般の人にもっと広くSAFを知ってもらうよう、今後も働きかけていくつもりです。

原料調達では、新しい原料に目を向ける必要があります。たとえば、SAFの原料の1つにサトウキビやトウモロコシ由来のバイオエタノールがあります。現在はアメリカやブラジルからバイオエタノールを輸入していますが、輸送時に発生するGHGや将来にわたる安定調達を考えると課題があります。バイオエタノールには「第二世代」と呼ばれるセルロース系エタノールがありますが、これらは木質バイオマスや古紙、パルプなどを原料にして製造できます。海外に依存しなくても、すでに日本に大量にある資源を有効に活用できるように、技術開発に取り組んでいきます。

―木質バイオマス燃料の課題はいかがでしょうか。

矢野:大きな課題としては、早生樹を植林するための耕作放棄地等の確保です。燃料の安定供給と低コスト化のためにはまとまった規模(面積)の植林地を確保する必要があります。植林する早生樹を、発電用途だけでなく、生分解性プラスチック(バイオプラスチック)の原料に活用するなど、森から生まれる有価物の種類を増やし、森に手を入れることのメリットや経済的効果を地元の人に広く伝える必要があります。自治体と連携しながら、地域の農業委員会などに働きかけていきます。

NEDOとともにリスクをチャンスに変える

―最後にプロジェクト全体を統括される立場から、NEDOのバイオマス燃料開発事業に参加する、あるいはこれから参加を検討する企業、プレーヤーに向けた期待をお聞かせください。

矢野:バイオマス燃料の研究開発は、リスクが伴う、チャレンジングな事業です。もしかすると、企業単体では、なかなか踏み込めないかもしれません。ただそのような時にこそ、NEDOを活用してほしいと思っています。

私たちNEDOでは、事業で直面するリスクを乗り越えられるように費用面でサポートしたり、チャンスを生かす場を提供したりしています。バイオマス燃料に関しては、NEDOには長年研究開発に携わってきた実績があり、課題解決につながる知見も多く蓄積されているので、ぜひ積極的にコミュニケーションを取っていただけると嬉しいですね。企業や研究・開発のご担当者さまには、NEDOの公募にチャレンジしていただき、NEDOを活用しながら自社が抱える技術的な壁をブレークスルーしていただきたいと願っています。

バイオマスエネルギー分野で企業やプレーヤーの皆様の事業をお手伝いすることを通じて、「この方法ならうまくいく」という成功例をひとつでも多く蓄積し、それを起点にまた次の開発へとつなげる。そうした建設的な循環を生み出していくことが、私たちNEDOの社会的な使命だと思っています。

プロフィール写真

矢野 貴久

新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO) 再生可能エネルギー部 バイオマスユニット ユニット長

2021年11月から現職。NEDOのバイオエネルギー研究開発の企画・立案や、プロジェクトマネジメントを行っており、現在は、NEDOの「バイオジェット燃料生産技術開発事業」や、「木質バイオマス燃料等の安定的・効率的な供給・利用システム構築支援事業」のプロジェクトマネージャーを担当。1997年にNEDOに入構以来、バイオエンジニアリング、医療機器開発、バイオエネルギーなどの分野の数多くの国家プロジェクトのマネジメントに携わっている。

AltStyle によって変換されたページ (->オリジナル) /