NEDO 国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構
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「バイオマス燃料」知っておきたい基礎知識

2024年9月25日

1.バイオマスとは?

バイオマス(biomass)は、生物を表す「バイオ(bio)」と、量を表す「マス(mass)」を組み合わせた造語です。厳密な定義はなく、一般には「エネルギー源として利用可能な生物由来の資源」という意味で用いられています。日本の法律上は、「新エネルギー利用等の促進に関する特別措置法施行令」(1条1項)で、「動植物に由来する有機物であってエネルギー源として利用することができるもの(原油、石油ガス、可燃性天然ガス及び石炭並びにこれらから製造される製品を除く)」と定義されています。

2.バイオマスにはどんな種類がある?

バイオマスの種類は、多種多様です。たとえば、間伐材、建築廃材、製材残材などの木材、稲わらやもみ殻などの農業残渣、エネルギー作物、藻類、古紙、製紙汚泥(ペーパースラッジ)、黒液(木材から木質繊維を取り出す過程で排出される黒色液体の廃棄物)、家畜ふん尿、食品廃棄物、厨芥(ルビ:ちゅうかい)(厨房から出る生ごみ)、紙くずなどの一般都市ごみ、下水汚泥などが、バイオマスとして利用されています。

これら多様なバイオマスには定型化された分類法がなく、性状(乾燥系/湿潤系)や発生源(木質系/農業・畜産・水産系/建築廃材系など)などによる、さまざまな分類方法が採用されています。一般には「廃棄物系資源」、「未利用系資源」、「生産系資源」に大別されます。

NEDOでは、発生のタイミングの違いから、「未利用資源」と「生産系資源」という分類を採用しています。未利用資源とは、逆有償で処分する義務が伴わないもので、山林に放置される林地残材などが代表例です。一方の生産系資源とは、「エネルギー作物など、エネルギー利用のために新たに生産する資源」のことです。

3.エネルギー資源としてのポテンシャル

バイオマスを効率的にエネルギー利用するためには、発生した状態から2次エネルギーに形態を変換させる必要があります。これを「バイオマスのエネルギー変換」といいます。エネルギー変換技術には「物理的変換」と「化学的変換」があり、化学的変換はさらに「熱化学的変換」と「生物化学的変換」に分かれます。

物理的変換とは、文字どおり、物理的な処理でバイオマスを利用しやすい形態に変化させることです。木材からチップをつくるなどがこれに該当します。

一方、化学的変換とは、化学反応を形態変換に用いる技術です。熱化学的変換は熱による化学反応で、生物化学的変換は微生物による化学反応です。それぞれバイオマスをエネルギー利用しやすい形態に変化させます。バイオマスから変換された電気や熱、ガス、液体燃料、メタン、水素などの2次エネルギーは、発電や熱、輸送燃料など、幅広い用途に利用されています。

4.バイオマスはなぜ「カーボンニュートラル」なエネルギー?

バイオマスは「カーボンニュートラル」な特性を持ち、地球温暖化防止に貢献するエネルギーと考えられています。

しかし、たとえばペレットやチップなどのバイオマスを燃焼させるとCO2が発生します。それでも「バイオマスがカーボンニュートラルな資源」とみなされるのは、燃焼で発生するCO2量と、樹木などの植物由来のバイオマスが生育過程で大気中から固定したCO2量が等しいと考えられるからです。燃焼させても、既に固定したCO2を放出するだけなので、プラスマイナスゼロ、つまり炭素中立(カーボンニュートラル)というわけです。

ただし、樹木がバイオマスとして利用できるよう成長するまでには時間がかかります。短期間に大量の樹木を伐採しつづければ、吸収できるCO2量が減り、地球温暖化防止対策を妨げることになりかねません。また木質バイオマスのライフサイクル(栽培・伐採・運搬・加工)の過程で排出されるCO2量も少なくなく、これらを無視しては真の意味でのカーボンニュートラルになりません。

バイオマスをカーボンニュートラルな資源として持続的(サステナブル)に利用するためには、バイオマスの加工や使用時に排出されるCO2量を減らす技術の開発とあわせて、早生樹などの植林・育林を通じて、炭素循環の回転を速くする仕組みづくりが重要です。

5.バイオマスをめぐる世界の状況

地球温暖化防止という観点から、世界中でバイオマス利用が進んでいます。主な利用用途は発電で、ほかにも輸送や暖房などの燃料に使用されています。国際エネルギー機関(IEA: International Energy Agency)の資料によると、2020年における世界全体の1次エネルギー総供給に占めるバイオマスの割合は9.5%です。また、再生可能エネルギー機関(IRENA: International Renewable Energy Agency)がまとめたバイオマス発電設備容量の推移に関する資料によると、2022年における世界のバイオマス発電設備容量は149GWで、2012年からの10年間で約1.93倍増加しています。

途上国では、経済成長に伴って今後、薪や炭といった伝統的なバイオマスから化石燃料へのシフトチェンジが起こることが予測されています。一方でアメリカや欧米の先進国を中心に、バイオマス利用を政策に掲げて取り組む国も増えており、今後も一定規模でのバイオマス利用が続くと考えられています。

世界のバイオマス利用で近年、特に大きな動きを見せているのが輸送燃料分野です。たとえば、国連の専門機関である国際民間航空機関(ICAO: International Civil Aviation Organization)は、航空需要の世界的な拡大傾向を受けて、国際航空分野の2020年以降の温室効果ガス(GHG :Green House Gas)排出量増加分をゼロとする目標を策定し、その達成のためにバイオマス由来の持続可能な航空燃料(SAF: Sustainable Aviation Fuel)の積極的な利用を促しています。また2021年には、世界経済フォーラム「Clean Skies for Tomorrow Coalition」が、世界の航空業界が使用する燃料に占めるSAFの割合を2030年までに10%に増加させることを目指す「2030 Ambition Statement」宣言を発表しました。

6.日本の近年のバイオマスをめぐる動き

日本では、「バイオマス活用推進基本法」(2009年)にもとづき設置された「バイオマス活用推進会議」がバイオマス活用を後押しするさまざまな施策を推進しています。また、2022年9月に政府が策定した「バイオマス活用推進基本計画(第3次)」では、バイオマスの年間産出量の約80%を利用するという野心的な目標を掲げられています。

日本のバイオマス利用の中心は発電用途です。「第6次エネルギー基本計画」(2021年)では、2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、S+3E*を大前提に、再生可能エネルギーの主力電源化を徹底するという方向性が示されました。同計画が想定する2030年度の電源構成をみると、再生可能エネルギーが占める割合は36〜38%、バイオマスはそのうちの5%(800万kW)を担うことが期待されています。

日本のバイオマス発電は、2012年に創設された「再生可能エネルギーの固定価格買取制度」(FIT制度)などの政策効果によって、着実に導入が進んでいます。2018年度の電力構成における再生可能エネルギーの割合は16.9%、そのうち2.3%がバイオマス由来のエネルギーです。IRENAの調査によると、2022年の日本のバイオマス発電設備容量は5.5GW、世界第7位の水準です。

一方、バイオマス発電施設の多くは、FIT制度の支援を前提に事業を行っているため、支援期間(20年)終了後もそれらの施設が事業を継続できるような、新たな仕組みの構築が急務となっています。

*:安全性(Safety)を大前提として、安定供給(Energy Security)、経済効率性(Economic Efficiency)、環境適合(Environment)を同時に実現する考え方

7.国内におけるバイオマスエネルギー利用の課題

今後、国内のバイオマスの利用を拡大するためには、クリアしなければいけない課題がいくつかあります。すべてのバイオマスにいえることですが、バイオマスを持続的に利用するためには、長期的かつ安定的に資源を確保できることが重要です。ただし、人口減少や廃棄処理技術の向上などで、今後日本のバイオマスの多くを占める廃棄物量の減少が見込まれています。そこで限られた資源を有効に活用するためには、より効率的なエネルギー変換技術の開発や新しいバイオマス回収先の開拓、微細藻類が産生する「藻類バイオマス」や木材などを原料とする「セルロース系バイオマス」などの資源開発などを並行して進めていくことが大切です。

また、国内のバイオマス発電は、太陽光発電や風力発電など、ほかの再生可能エネルギー発電よりも発電コストが割高になっています。発電コストの多くは燃料費が占めます。また、燃料となるバイオマスの多くを輸入に頼っています。バイオマス発電の普及拡大には低コスト化と国内も含めた燃料の安定供給に向けた施策が不可欠です。

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