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資料シリーズNo.278
職業適性検査結果からみた職業能力の推移と評価
―GATB経年データ分析に基づく検討―

2024年4月12日

概要

研究の目的

厚生労働省編一般職業適性検査(GATB)は、中学校や高校の進路指導や、若者から中高年齢者までの幅広い求職者層に対する職業指導用として活用されている、一般的な職業能力を測定する検査である。当検査の手引について、前回の改訂(平成25年)から約10年が経過したため、その間の環境変化への対応とともに検査の妥当性等の確認を行うこととなった。

検査の妥当性等を確認するには、大量の検査実施データを多角的に分析する必要がある。今回の手引改訂に係る検討においては、前回の手引改訂時と同様に、(公財)愛知県労働協会の協力により、2012年度から2022年度にわたる過去11年分のGATB検査解答データ(中学生、高校生、大学生等の生徒・学生、一般成人等)18万件超の提供を受け、その分析結果を元に検討を行うものとした。

本研究では、その分析結果を通じて検査の妥当性等を検討するとともに、中学生、高校生、大学生等の生徒・学生や、一般成人の適性能得点の状況や経年変化を確認し、一般的な職業能力とその推移について確認することを目的としている。

研究の方法

業務データ分析・文献サーベイ・研究会開催

業務データの対象期間:
2012年4月〜2023年3月。
対象:
(公財)愛知県労働協会が業務の一環で検査を実施し、採点のために収集・蓄積されたGATB検査解答データ(団体実施データ18万7,712件、個人実施データ4,888件)

主な事実発見

  • GATBの主要な対象層である中学生と高校生に関して、実施年度ごとにGATB下位検査と適性能得点の平均を算出し、推移を確認した。

    中学生(特に各年度で一定数以上のサンプルが得られている中学2年生)では、過去11年間での検査得点の推移は概ね横ばいか、一部の適性能(運動共応)に若干の下降傾向がみられた。各実施年度でほぼ共通した傾向としてみられたのは、書記的知覚(Q:文字校正など、間違い探しの正確さに関連した能力)が最も高く、次いで形態知覚(P)が高く、一方で空間判断力(S)と運動共応(K)が低いという特徴であった。

    高校生では、学年ごとに傾向は多少異なるものの、全般的にみると過去11年間で下降傾向がみられた。特に顕著な落ち込みを示していたのが空間判断力(S)と運動共応(K)で、高校1年生においては2012年度と2022年度では10ポイント程度の下落が確認された。書記的知覚(Q)と形態知覚(P)は、中学生と同様に比較的得意とする能力分野ではあったが、それでも過去11年間で低下する傾向がみられた。以上のように、中学生や高校生にとって得意・不得意となって現れる能力に一定の偏りがみられることが示唆された。高校生については、学科別(普通科、商業科、工業科、農林水産科)に分けた検討でも同様の傾向がみられた。

  • 次に、専門学校生、短大生、大学生について特徴の確認を行った。

    各年度で一定数以上のサンプルが得られていた専門学校生と短大生(女性)について確認したところ、専門学校生では過去11年間での一貫した低下傾向はみられず、短大生(女性)では運動共応(K)と空間判断力(S)に関して、以前から低めだった得点がさらに低下する傾向を示していた(図表1:適性能得点平均値の年度別推移(上)高校1年生、(中央)専門学校生、(下)短大生(女性))。一方で、短大生(女性)のその他の適性能得点については、概ね横ばいで、低下傾向は確認されなかった。

    全年度分のデータを合計し、大学・短大・専門学校・高校の学校種間で検査得点の比較を行ったところ、大学生において、全領域の適性能得点が有意に高いという傾向が確認された。(図表2:学校種別の適性能得点平均値と標準偏差)

  • 次に、成人(20歳代〜50歳代以上)の適性能得点の推移を年齢段階別に検討した。20〜30歳代は比較的どの領域も高めで、50歳代以上では20〜30歳代よりも顕著な低下傾向がみられた(図表3:年代別適性能得点平均値)。全般的な能力的特徴としては、高校生データと同様に、相対的に書記的知覚(Q)が高く、空間判断力(S)と運動共応(K)が低いという結果であった。さらに、JILPT資料シリーズNo.169(労働政策研究・研修機構, 2016)で分析された年齢段階別のデータ(2013年時のデータ)と比較したところ、能力的特徴の現れ方には大きな違いがないことを確認した。

図表1 適性能得点平均値の年度別推移(上)高校1年生、(中央)専門学校生、(下)短大生(女性)

[画像:図表1:適性能得点平均値の年度別推移について、左に高校1年生、中央に専門学校生、右に短大生女性を示したグラフ。]

図表2 学校種別の適性能得点平均値と標準偏差

大学、短大(女性)、専門学校、高校について、学校種別に適性能得点平均値と標準偏差を示した表。
大学 短大(女性) 専門学校 高校 有意差
N=2427 N=7112 N=5431 N=119391 (**および言及のない組合せは、学校種間で1%水準の有意差)
平均値 標準偏差 平均値 標準偏差 平均値 標準偏差 平均値 標準偏差
G 知的 98.85 24.03 84.59 21.17 82.83 26.98 85.06 22.65 「短・高」のみ有意差なし
V 言語 106.06 23.87 95.52 21.04 90.17 24.63 90.88 21.36 「専・高」のみ有意差なし
N 数理 101.09 23.60 87.45 20.42 83.85 26.73 89.11 22.26 **
Q 書記 110.36 23.41 104.49 21.76 98.92 25.41 102.75 22.34 **
S 空間 88.62 22.29 82.40 21.36 82.18 24.13 83.93 22.46 「短・専」のみ有意差なし
P 形態 101.02 22.75 98.47 21.96 94.56 24.77 99.07 22.56 「短・高」のみ有意差なし
K 共応 98.56 25.54 87.98 23.70 82.57 27.87 88.30 24.66 「短・高」のみ有意差なし

図表3 年代別適性能得点平均値

[画像:図表3:20歳代、30歳代40歳代50歳代以上の4区分に分けて、適性能得点平均値を示したグラフ]

政策的インプリケーション

本研究は限られた一地域で収集された検査解答データというサンプルの限界はあるもの、進路指導・キャリア支援の現場で活用されているGATBの性能面の頑健さについて、分析結果から一定程度確認することができた。GATBは一般的認知能力との関連が強く、学歴の高さと正の相関を示し、加齢とともに低下するという従来の知見を反映した結果を確認することができた。

一方、GATBの主たる対象層である中学生、高校生については、今回得られたデータに限定していえば、空間判断力(S)と運動共応(K)の低下傾向が長年続いていること、しかも、1983年改訂時の基準よりも大幅に低下した状態で長年推移している現状も確認できた。空間判断力(S)と運動共応(K)は、一般成人の間でも近年低下傾向がみられており(他方で、文字や数字の間違い探しに関連する書記的知覚(Q)は相対的に高い傾向がみられており)、日本人が得意・不得意とする能力的特徴が1983年時点と比べて大きく変化している可能性が示唆された。本研究は、GATBの手引改訂という業務上の目的を達成するために実施されたものであるが、その過程で発見された知見は、今後の研究課題として大きな広がりをもつと考えられる。

政策への貢献

本報告の分析結果の一部を今年度末に作成するGATB手引改定案に反映し、首席職業指導官室に提出予定。

本文

研究の区分

プロジェクト研究「職業構造・キャリア形成支援に関する研究」
サブテーマ「キャリア形成・相談支援・支援ツール開発に関する研究」

研究期間

令和5年度

執筆担当者

深町 珠由
労働政策研究・研修機構 主任研究員
石井 悠紀子
労働政策研究・研修機構 アシスタントフェロー

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