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労働政策研究報告書 No.191
キャリアコンサルティングの実態、効果および潜在的ニーズ
―相談経験者1,117名等の調査結果より

平成29年3月24日

概要

研究の目的

キャリアコンサルティング施策の効果的推進にあたり、労働者属性や領域に応じたキャリアコンサルティングの実態及び効果のきめ細かい把握は不可欠となる。そこで、過去にキャリアコンサルティング(およびそれに類似した個別キャリア相談、以下、キャリアコンサルティング)を受けた相談経験者に調査を実施し、定量的な実態把握および分析を行った。あわせて、キャリアコンサルティングの未経験者にはその潜在的なニーズについて調査を実施した。以上の調査によって、今後の労働行政におけるキャリアコンサルティング施策全般に有益に活用しうるデータを提供することを目的とした。

研究の方法

×ばつ男性・女性の16セルを設定し、各セルに400〜900名を割り付けて、総計約9,950名に調査に回答を求めた。最終的にキャリアコンサルティング経験者1,117名およびキャリアコンサルティング未経験者8,833名の回答を収集した。

主な事実発見

  1. 調査の全回答者9,950名のうち、キャリアコンサルティング経験者は1,117名で全体の11.2%であった。個人属性との関連を検討した結果、キャリアコンサルティング経験者は、(1)基本的に年齢が若い層で多かった。(2)大卒ホワイトカラーで大企業で正規就労を長期間にわたって継続してきたと解釈される層で多かった。(3)本人の職業やキャリアに対する意識(現在の満足感、自分のキャリア、キャリア計画、職業能力に対する意識等)が高い者で多かった(図表1)。

    図表1 年齢別のキャリアコンサルティング経験者の割合

    [画像:図表1画像]

  1. 過去のキャリアコンサルティング経験が現在の状況に与える影響を検討した結果、キャリアコンサルティング経験者は、(1)転職経験がある者が多かった。(2)総じて現在の働き方の面で良好であった。具体的には、現在、従業員規模が大きい勤務先で働き、役職に就き、年収が高かった。(3)総じてキャリア意識が高かった。具体的には、現在の生活に満足し、生涯のキャリア計画は将来の仕事やキャリアに備えて自分で立て、他社でも通用する職業能力を持ち、自発的に職業能力に取り組む者が多かった。ただし、キャリアコンサルティング経験と現在の状況に単純な因果関係を想定することは厳密には難しく、キャリアに対する関心とキャリアコンサルティングを受けた経験には、ある種の循環的な因果関係があると推測された(図表2)。

    図表2 キャリアコンサルティング経験の有無別にみた個人年収およびキャリア意識

    [画像:図表2画像]

  2. キャリアコンサルティングの相談内容のうち上位3位は「転職」「仕事内容」「自分の職業の向き不向き」であった。相談内容は、相談場所・機関と密接に関連していた。概して、企業の中では「モチベーション・アップ」や「配置転換・出向・転籍」「職場内外の人間関係」、企業の外では「転職」の相談が多かった。学校では「就職活動」「進学・留学」の相談、公的機関では「学校卒業後の就職活動の相談」が多かった。相談内容は、相談担当者とも関連がみられた。キャリア相談の専門家は「転職」の相談、それ以外の相談の専門家は「人間関係」「精神面の不調」、その他の関連する担当者は「学生時代の就職活動」の相談内容が多かった。
  1. 相談場所・機関については、大まかに「企業内」「企業外」「公的機関」の3つの類型に分類して整理することが可能であった。すなわち、(1)大企業に勤める者、正規就労者、勤続年数が長い者、役職者、年収が高い者は、相談場所・機関が「企業内」であることが多かった。(2)中小企業に勤める者、非正規就労者、勤続年数が短い者、役職なし、年収が低い者は、相談場所・機関が「公的機関」であることが多かった。(3)自発的なキャリア計画・能力向上に関心があり、転職志向・独立志向を持つ者は、相談場所・期間が「企業外」であることが多かった。
  2. キャリアコンサルティングの効果について、(1)キャリアコンサルティング経験者は、概してキャリアコンサルティングによって問題は解決し、キャリアや職業生活は変化し、相談して良かった、役立ったと受け止めていた。(2)キャリアコンサルティングの結果、どのような面で変化したかをたずねた結果、「将来のことがはっきりした」「就職できた」「仕事を変わった、転職した」が上位3位であった。(3)概して「キャリアに関する相談の専門家」に相談した者で「問題は解決した」「カウンセラーに助けてもらいながら自分で解決した」「キャリアや職業生活は変化した」の回答が多かった。また、賃金が「高くなった」、労働時間が「短くなった」との回答が多かった。さらに相談して「とても良かった」「とても役立った」との回答が多かった。
  3. キャリアコンサルティング未経験者を対象に相談ニーズを検討した結果、(1)年齢によって相談ニーズは大きく異なった。例えば、20代後半では29.3%が相談したいと回答するなど、20代から30代前半で相談ニーズは高かった。(2)具体的に相談したい内容も年齢によって異なった。概して20〜30代では相談したい内容が多かったが、20代では就職活動や進学・留学、職場の同僚や上司との人間関係、精神面の病気についてのニーズが大きく、30代では職業能力開発や職業生活設計、昇進などのキャリア関連の相談内容のニーズが大きかった。(3)長時間労働と相談ニーズとの関連も深かった。長時間労働に象徴される働き方の問題とキャリアコンサルティングの関わりについては、今後、より一層の問題関心が持たれる必要があること等を示唆した(図表3)。

    図表3 働き方に関する質問項目と相談ニーズ他の相関係数

    [画像:図表3画像]

政策的インプリケーション

  1. キャリアコンサルティング経験者は、おもに20代〜30代前半に多く、その相談内容はもっぱら転職であった。今後、キャリアコンサルティング施策を考えるにあたって、その具体的な利用者層イメージとして若年就労者の転職をより一層強調して考慮する必要がある。
  2. キャリアコンサルティング経験のある者は、現在、昇進し、年収が高く、総じてキャリア意識も高い。ただし、本来、資質に恵まれキャリア意識が高い者であった可能性も高く、そうした対象層がキャリアコンサルティングを選好することによって、より一層本人のキャリア面に良い影響を与えるという良循環を考えることができる。一方、そうした循環のうちにない者に対しては、キャリアコンサルティングを含むキャリア形成支援施策はキャリア形成の良循環をもたらす機会となる可能性があり、キャリアコンサルティング等の環境整備をより一層充実させる必要がある。
  3. キャリアや職業に関する相談の経験のある者に対して、その相談内容等をたずねた結果、「30歳前後の企業外のキャリアカウンセラーによる転職の相談」が多かった。自由記述内容等からその全員が実際に転職をするのではなく、試みに転職相談を受けるものまで含むことが推察されるが、一方で、転職を希望するこの年代層に対するキャリアコンサルティング施策の側からの政策的な介入支援を従来、十分に意識されておらず、今後、より一層「30歳前後の転職を希望する就労者」に対するキャリアコンサルティングのあり方、アプローチを考える必要がある。
  4. キャリアコンサルティングは、実際に経験した者にとってはおおむね効果があると感じられていたが、なかでも「就職」「自分の職業の向き不向き」「資格取得」「能力開発」「将来のキャリア計画」「キャリア開発」などの職業やキャリアに直結した内容の場合、より有益であったと評価されやすい。一方で、職場の人間関係、精神面の病気・不調は、職業やキャリアの相談の枠内で持ち込まれる場合があるにも関わらず、現状では対応が十分ではなく、今後の課題となる。
  5. 概して、キャリアに関する相談の専門家に相談した場合、より効果が高いが、一方で自由記述では、カウンセラーの質やスキルのばらつきに関するネガティブな側面についても指摘されており、キャリアコンサルタントの質向上の議論と並行して注視すべきである。
  6. キャリアコンサルティングを経験したことがない者のうち、年代が若い層では一定のニーズがあり、20代後半では約3割に達する。基本的に大企業に勤務する若年正社員でニーズが高いが、一方で、長時間労動他の働き方の問題を抱え、かつ、会社側から適切に扱われていない、相談窓口がないといった場合には、より相談ニーズが高い。長時間労働に象徴される働き方の問題とキャリアコンサルティングの関わりについては今後、より一層の問題関心が持たれるべきである。

政策への貢献

キャリア・コンサルティング施策を中心に、幅広くキャリア形成支援政策および職業能力開発政策に資する。

本文

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研究の区分

プロジェクト研究「生涯にわたるキャリア形成支援と就職促進に関する調査研究」
サブテーマ「生涯にわたるキャリア形成支援に関する調査研究」

研究期間

平成28年4月〜平成29年3月

執筆担当者

下村 英雄
労働政策研究・研修機構 キャリア支援部門主任研究員

データ・アーカイブ

本調査のデータが収録されています(アーカイブNo.97)。

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