ワシントンD.C.などが7月に最賃改定
―加州では医療施設従事者対象の引き上げも
ワシントンD.C.(コロンビア特別区)やカリフォルニア州のロサンゼルス市、サンフランシスコ市などは2025年7月1日、最低賃金を改定した。これらの地域は毎年7月に、物価に連動するなどの形で最賃を引き上げている。カリフォルニア州では医療施設の従事者らを対象にした最低賃金を2024年10月16日に導入し、今回その水準を引き上げた。このほかアラスカ州やオレゴン州などでも最賃を改定している。
物価連動方式では2〜3%の引き上げに
米国の連邦最賃は2009年7月以降、時給7.25ドルのまま据え置かれている。しかし、全米50州のうち約半数の州や主要都市(市、郡など)では、これより高い最賃を設定し、毎年改定を続けている。特定の業種や職種を対象に、一般労働者より高い最賃を設定している州や市もある。多くの地域では年初に改定を行っており、2025年1月も21州が物価連動方式などにより引き上げを実施した(注1)。他方、一部の州や西海岸の主要都市などでは、毎年7月に最賃を改定している。
2025年7月1日に最賃を改定した主な州や市等は、アラスカ州、オレゴン州、首都ワシントンD.C.(コロンビア特別区)、カリフォルニア州の主要都市(サンフランシスコ市、ロサンゼルス市など)、シカゴ市(イリノイ州)などで、物価連動方式のところは、2〜3%の上昇率となっている(図表1)。
図表1:米国の各州・市等における最低賃金の主な改定状況(2025年7〜9月)(単位:ドル/時給)注:改定時期(改定額の適用日)は備考欄に記載した州を除き、いずれも2025年7月1日。
出所:経済政策研究所(EPI)ウェブサイト等より作成
各地の状況
各地の引き上げ状況を見ると、ワシントンD.C.では、首都圏のCPI-U(都市部の消費者世帯を対象とする消費者物価指数)の変化に連動する形で、時給17.5ドルから時給17.95ドルへと引き上げた(2.57%上昇)。D.C.ではチップを得ている労働者向け最賃制度(チップとの合計が一般労働者の最賃水準となることを条件とする)を段階的に廃止し、2027年7月までに一般労働者と同額に統一するスケジュールを設定している。当初、今回の7月改定で時給10ドルを12ドルに引き上げる予定だったが、2025年10月に延期した。現地報道によると、トランプ政権が導入する飲食店従業員らが受け取るチップへの課税免除の動向やその影響を見極めるためとみられる。
オレゴン州では、全米都市平均のCPI-Uの変化に連動して引き上げた。同州では「都市部」「非都市部」「ポートランド都市圏」の三つの地域で異なる水準の最賃を設けている。
アラスカ州では、2024年11月5日の住民投票で、最低賃金を引き上げる州法を可決した。これにより、当時の最賃である時給11.73ドルは、物価に連動する形で2025年1月に11.91ドルへと引き上げられた。さらに、今回の7月改定で、州法が定めた時給13ドルに引き上げた後、2026年7月に14ドル、2027年7月に15ドルへと段階的に引き上げることとしている。2028年1月以降は物価に連動して自動的に引き上げる。
フロリダ州では2020年11月3日の住民投票により、最低賃金を2026年に時給15ドルまで段階的に引き上げる州法が可決された。当時の最賃は時給8.56ドルだったが、この州法に基づき、2021年9月に10ドルへと引き上げられた。その後も毎年改定を続けており、2025年9月は、現在の時給13ドルから14ドルへの引き上げを予定している。
ワシントン州の主要都市では、時給20ドル前後の高水準の最賃が設定されている。シアトル市は、2025年1月に、それまでの時給19.97ドルの最賃を20.76ドルへと引き上げた(ただし、従業員500人以下の事業者については、1時間あたり2.72ドル相当のチップまたは医療給付の提供を条件として、時給18.04ドルの最賃を適用する特例がある)。
同州のタックウィラ市とレントン市では、従業員500人以上規模か否かで異なる最賃を設定していたが、2025年7月の改定で、タックウィラ市は15〜500人未満規模の最賃を21.1ドルに引き上げ、500人以上規模との差を解消した(15人未満規模には州最賃=時給16.66ドルを適用)。レントン市は従業員15〜500未満規模の最賃について、2024年7月に「500人以上規模の最賃から2ドルを差し引いた額」、2025年7月に「同1ドルを差し引いた額」と、規模間の差を縮めていき、2026年7月に同額にすることとしている。500人以上規模の最賃は毎年1月に、物価(シアトル・タコマ・ベルビュー都市圏のCPI-Uの変化)に応じて改定している。このため、15〜500人未満規模の最賃も、物価変動の影響を加味して引き上げる形になる。
西海岸都市のホテル従業員対象の最賃
カリフォルニア州の西海岸主要都市でも、物価に連動して最賃を引き上げるところが多い。今回の改定でサンフランシスコ市は時給19.18ドル(2.73%上昇)、ロサンゼルス市は時給17.87ドル(3.41%上昇)に引上げられた。なお、同州マリブ市は森林火災の影響で引き上げを見送り、1年間据え置くこととした。
また、同州にはホテル従業員らを対象に、一般労働者より高い最賃を設け、段階的に引き上げている都市が複数存在する。例えば、ロサンゼルス市では時給22.5ドル(客室60室以上)、ロングビーチ市では時給25ドル、ウエストハリウッド市では時給20.22ドルと、時給20ドルを超す高水準となっている。ただし、ロサンゼルス市では、2028年までに客室60室以上のホテル従業員らの最賃を時給30ドルにするため段階的に引き上げる現在の条例に対して、ホテルオーナーらが「経営難を招く」として反発。2026年6月に条例撤回の是非を問う住民投票の実施を目指して署名を集め、市当局に提出した。市当局は署名が必要数を満たしているかどうかを確認する間、引き上げを凍結すると発表している。
カリフォルニア州の「医療施設従事者」対象の最賃
カリフォルニア州では、2023年10月13日に、医療施設の従事者らを対象にした新たな最賃法が州知事の署名によって成立した(注2)。この州法は、医師、看護師といった医療サービス提供者だけでなく、清掃員や調理人、警備員など医療施設で働くあらゆる従事者を対象に、最賃を時給25ドルへと段階的に引き上げる方針を定めている。
当初は2024年6月1日の施行を予定していたところ、州の財政赤字が懸念されたことから延期していたが、同年10月16日に施行した。同州法では、現状、医療施設を図表2の通り4つの区分ごとに段階的な引き上げを行い、時給25ドルに達した後は、物価連動方式により自動的に改定するスケジュールを示している(図表2)。
図表2:カリフォルニア州医療施設従事者対象の最低賃金(2025年7月1日改定)(単位:ドル/時給)2028.1〜物価連動
2027.7〜19.95ドル
2028.7〜20.65ドル
2029.7〜21.37ドル
2030.7〜22.12ドル
2031.7〜22.89ドル
2033.7〜25.00ドル
2035.1〜物価連動
2028.7〜25.00ドル
2030.1〜物価連動
2029.1〜物価連動
出所:カリフォルニア州ウェブサイトより作成
今回(2025年7月1日)の最賃改定はいずれもこのスケジュールに従ったものである。例えば1は2024年10月16日(一部は2025年1月1日)に設定した時給23ドルを24ドルに、2は時給18ドルを18.63ドルに、4は時給21ドルを22ドルにそれぞれ引き上げる内容になっている(3は今回の改定なし)。
注
- 労働政策研究・研修機構(2025)「21州が最低賃金を引き上げ ―2025年1月、約926万人の賃金が上昇の見込み」JILPT海外労働情報2025年1月参照(本文へ)
- カリフォルニア州立法情報ウェブサイト新しいウィンドウ参照(本文へ)
参考資料
- 経済政策研究所(EPI)ウェブサイト(Minimum Wage Tracker新しいウィンドウ)
- カリフォルニア州ウェブサイト(Health Care Worker Minimum Wage Frequently Asked Questions新しいウィンドウ)
- ブルームバーグ通信ウェブサイト、参照
参考レート
- 1米ドル(USD)=146.09円(2025年7月8日現在 みずほ銀行ウェブサイト新しいウィンドウ)
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