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VOL.203 MAY 2025
[SPRING SPECIAL ISSUE] VARIOUS VARIETIES OF CHERRY BLOSSOMS IN JAPAN (PART 2): ADMIRING THE CHERRY BLOSSOMS AT CASTLES IN JAPAN [知ってほしい日本のカルチャー]現代のライフスタイルにあったさまざまな漆の作品

スザーンさんが制作した漆で装飾したアクセサリー。漆を使うことで、マットな質感やつるつると輝いたように見える表面など、様々な表現が可能だ。
Photo: ISHIZAWA Yoji

石川県で活躍する漆芸作家のスザーン・ロスさんは、漆1の多様な技法を活かして、漆のアートやアクセサリーなども手がけています。スザーンさんが提案する現代のライフスタイルにあった漆の作品の楽しみ方を紹介します。

漆を使ったプロダクトやアートというと、多くの人がまず思い浮かべるのが漆器2ではないでしょうか。しかし、日本では日々の暮らしの中で使われる器や重箱3など以外にも、漆はさまざまな用途で使われてきました。


料理などを詰める重箱3の一例。漆が塗られ、防腐性が高いなどの特徴がある。

漆には防水性や防サビ効果、抗菌効果、さらには接着剤としての効果があります。そのため、古くから木造建築物の柱や手すり、天井に用いられてきたほか、仏像の制作にも用いられてきました。丁寧に下地をつくった上に漆を何度も塗り重ねることで、神社仏閣4のような貴重な建築物や仏像を劣化から保護したのです。漆は機能面で大変優れた材料であるだけでなく、その表現力の高さも魅力です。仏像の髪の毛にあたる部分や柔らかな衣類の質感なども漆で表現することができるのです。

漆は生産量が少なく、極めて貴重な原料であるため、ペンキなどの塗料が登場してからはだんだんと使われなくなってきました。しかし、私は貴重な漆の技術を受け継いでいくためにも、人々のニーズの変化に対応しながら漆の新しい価値を提案していくことが必要だと考えています。

その一つとして提案したいのが、インテリアに取り入れることです。現代の日本の住まいでは昔ながらの障子5や畳6のある和室7は減っており、西洋風のモダンな内装が一般的になっています。しかし、こうした空間に漆で描いたアート作品を飾るのも魅力的だと思います。私は能登半島地震8の被害を受けて限られた道具しかなかったときに、漆と金箔、和紙9を使って31枚の漆のアートを描き(写真参照)、展示会を開催しました。この創作は私の心の癒やしになったと同時に漆の可能性をさらに探求する機会となりました。


スザーンさんが制作した漆のアート。漆と金箔、和紙を使った作品の一つ。
Photo: ISHIZAWA Yoji

また、家具やキッチンカウンターの表面に漆を塗ることで、現代の住空間に日本の伝統美を融合させることもできます。漆は耐久性があって、使い続けるほどに味わいが増します。防水、抗菌効果もあるので食品を使う場所にも最適です。私が以前住んでいた輪島の自宅のキッチンカウンターも表面に漆を4回塗って仕上げました。艶やかで美しいカウンターに仕上がり、とても気に入っていました。

若い世代のかたや外国人に漆の魅力を知ってもらうために、私は手に取りやすい漆のアクセサリーを制作しています。日常的に身につけることができるイヤリングやペンダントなどは、漆の質感や軽さを直接感じてもらうきっかけになります。最近は若い男性がアクセサリーを購入してくれることもあり、性別や年齢問わず漆の美しさが伝わっていることをうれしく思います。他にも、漆とレース、和紙を使って帽子を制作したこともあります。一見、通常の帽子と変わらないデザインですが、防水であるだけでなくわずか50gという軽さです。驚くほど多くの他の素材と漆を使うことで自由自在に形をつくることができるのも漆の魅力です。


スザーンさんが制作した漆と和紙を使った帽子
Photo: Suzanne Ross

スザーンさんが制作した漆とレースを使った帽子
Photo: Suzanne Ross

このように幅広い表現ができる漆は大きな可能性を秘めています。私は伝統的なスタイルを守るだけではなく、現代のライフスタイルやニーズに合わせた新しい表現や用途を提案しながら、これからも漆の価値を引き出す作品づくりを続けていきたいと思います。

スザーン・ロス
英国のロンドン出身、現在は石川県金沢市在住。ロンドンの王立芸術院(The Royal Academy of Art)で開催された江戸時代の美術展で漆と初めて出会い、漆芸技術をマスターしようと1984年に来日。人間国宝に認定された作家に師事するなどして修行を積み、長年、石川県輪島市で活動してきた。しかし、昨年(2024年)の能登半島地震で被災、現在は同県金沢市の湯涌ゆわく温泉おんせんに工房兼ギャラリーを移転。日本の漆の素晴らしさを伝える活動に精力を注いでいる。
Photo: ISHIZAWA Yoji
検索:スザーン・ロス

  • 1. ウルシ科の落葉高木。古くから日本でも栽培されてきた。
  • 2. 漆を塗って仕上げた器。
  • 3. 料理を詰める箱形でふた付きの器。二重、三重と重ねて用いる。漆塗りのものが多い。
  • 4. 神社や寺院の社殿のこと。
  • 5. 室内のしきりや外気を防ぐのに用いる建具の総称。近年は、格子状に組んだ木製の枠に白紙を貼ったものが一般的に使われている。
  • 6. 日本で利用されている、主に和室の床に敷くもの。わらを重ねて麻糸でまとめたとこに、藺草いぐさで編んだ表をつける。通常、縁に布でへりをつける。
  • 7. 日本の伝統的なスタイルの部屋のこと。主に畳を敷き詰めた部屋のことを指す。
  • 8. 2024年1月1日、石川県能登地方で発生したマグニチュード7.6の地震。輪島市も激震した。建物の倒壊や火災、土砂災害、津波などの被害が広範囲に及んだ。
  • 9. 日本古来の製法で作られる伝統的な紙のこと。

By Suzanne Ross
Photo: ISHIZAWA Yoji; Suzanne Ross; PIXTA

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