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VOL.202 APRIL 2025
ENJOYING JAPANESE SAKE, NIHONSHU 日本酒とともに味わう日本料理


日本料理、茶懐石の研究指導にあたる料理教室を主宰する柳原やなぎはら 尚之なおゆきさん。19世紀始めから続く日本料理の流派近茶きんさりゅうの宗家。
Photo: 久間くま 昌史まさし

日本酒は、その飲み口によって合う料理がある。日本酒に合う料理について、日本料理、茶懐石1の研究指導にあたる料理教室を主宰する柳原やなぎはら 尚之なおゆきさんに話を聴いた。

「日本酒の起源は定かではありません。ただ、魏志ぎし倭人わじんでん2の記載により、3世紀くらいには日本で米から造る酒があったとされ、やがて独自の発展をして今日に至っています。奈良時代(712年から794年)の都の平城へいじょうきゅうには造酒ぞうしゅという酒や酢を実際に造る役所がありましたので、8世紀には本格的な酒造りがされていました。ただ、最初の頃の酒は現在のどぶろく3に近いものが主でしたが、室町時代(1336年から1573年。諸説あり。)になると麹も掛米4も共に精米する諸白もろはく5という技術が開発されたことで今の清酒に近いお酒へと洗練されていきました」

時代によって日本酒が変化するともに、日本の食事も変化していったと柳原さんは説明する。


日本酒と和食は互いに影響を受け合いながら進化していった。写真は燗鍋かんなべ6(右側やや上)と八寸はっすん7北寄貝ほっきがいと焼き銀杏いちょう
Photo: 五間ごま かおる

「実は、お酒と和食は互いに寄り添い、影響し合いながら進化していきました。海外のメニューにあたる「献立こんだて」という言葉は「一献」すなわち一杯の酒に対して、その酒とともに楽しむ一品のさかな8料理を出すという習慣から来ており、それくらい日本料理と酒は切り離せない関係にあります。平安時代(794年から12世紀末。諸説あり)の貴族達のだいきょう料理9では酒がふるまわれ、室町時代の武士社会の中で確立された本膳料理10においても、料理の脇には酒が添えられました。さらに、酒文化が花開くのが江戸時代。17世紀の後半になると街に料理屋が広がり、庶民らも茶屋11などでお酒を楽しむ文化が浸透していきました。生きるための食事から楽しむための食事へと変化し、酒とともにさまざまな料理を食する酒の肴の文化が発展していったのです」

16世紀頃までのお酒は現代と比べると甘かったので、口取り12と呼ばれる羊羹ようかん13のような寄せ物14やや甘く煮た昆布などといった甘いおかずと合わせられていた。


現代ではおせち料理15に入れられる口取り料理。栗きんとん(真ん中右)などが彩りよく盛られている。
Photo: 久間 昌史

「精米技術が進化して日本酒が洗練されてくると、味が辛口で雑味がなくなりますから、口取りが合わなくなり、口代わり16が提供されるようになりました。辛口の酒に合う、酢の物17や焼き物18や山菜19など何種類かの料理を盛り合わせたものになります」


辛口の酒に合う口代わりの例。上部から時計周りにはまぐりの花え サツマイモの天ぷら 山菜の胡麻和ごまあえ 風呂吹きねぎ
Photo: 五間 薫

酒の醸造技術が向上し、和食に大きく影響したことがもう一つある。

「日本の醸造文化というのは、全てこうじ20を使います。お酒の醸造技術が進化すると、和食に使う調味料の技術も進化していきました。醤油しょうゆ味噌みそ、みりん21、全て日本酒の醸造技術の発展の恩恵を受けて一緒に進化することができたのです。これらを発酵調味料と呼び、日本料理には欠かせないものです」


発酵調味料の数々。和食の味付けには欠かせない。
Photo: 五間 薫

日本酒と和食の相性の良さには、発酵という観点から共通性があることも一因となっているのではないかと柳原さんは考えている。

「日本料理は、油と香辛料で味を組み立てることが多い海外の料理と異なり、水や出汁だし、そして醤油、味噌、みりんといった発酵調味料で味わいを構成しています。お酒と同じ作りかたをする発酵食品が含まれていることが相性の良さを生み出しているのではないでしょうか」

外国のかたには、発酵過程を経てできる日本酒と発酵調味料で味付けされる和食とのマリアージュをぜひ楽しんでほしいという。


発酵調味料である醤油を付けて食べる刺身。発酵過程を経て造られる日本酒と相性がよい。
Photo: 五間 薫

「日本酒の肴としては刺身さしみ22が代表的だと思います。食材そのものの持つ味を感じながら、発酵調味料である醤油を合わせる和食ならではの食べかただと思います。ほかにも冷奴ひややっこ23やかまぼこなども醤油を付けた上に、山葵わさび24紫蘇しそ25柚子ゆず26など和ハーブとも呼ばれるものを少し添えて香りと味のアクセントを加える食べかたもあります。また、おすすめなのが漬物27。漬物には日本酒の製造過程で重要な乳酸菌が含まれており、発酵食品としての共通点もあり相性が非常に良い。日本全国にさまざまな種類があり、地域ごとの特色を楽しむことができるので、地方で郷土料理を楽しむ際にもぜひ試してみてほしいですね」


漬物の一例。旬の野菜をぬか漬けにしたもの。
Photo: 五間 薫
  • 1. 本来は茶事において出す食事のこと。
  • 2. 3世紀、日本にあったとされる邪馬台国やまたいこく、及びその頃の倭人わじん(日本列島の住民のこと)の風習などが記されている古代中国の文献。
  • 3. 蒸した米に、こうじと水を加えて醸造しただけの、かすをこし取らないままのどろりとしたにごり酒。
  • 4. 日本酒造りの仕込みの工程で、「もろみ造り」に使われる米のこと。「HIGHLIGHTING Japan」2025年3月号「ユネスコ無形文化遺産に登録された日本の「伝統的酒造り」のわざと魅力」参照
  • 5. 精白した白米のみを用いたこうじと蒸米でかもした酒。
  • 6. 酒を温めるための鍋。
  • 7. 会席料理などの日本料理で杯事用に酒肴料理を少量ずつ盛り合わせたもの。
  • 8. お酒を飲むときに、お酒とともに味わう料理のこと。魚の料理に限らない。
  • 9. 平安時代の貴族たちの宴会などで供された料理形式で、日本料理のルーツの一つとされる。
  • 10. 16世紀頃に確立した正式の日本料理。細かく体系づけられており、酒を飲みながら食べる料理とされていた。現代の冠婚葬祭など儀礼的な場で食べる会席料理の原型とされている。
  • 11. 客室があり、客の注文に応じて料理を食べさせる店。料理茶屋。
  • 12. 「口取りざかな」の略。現在は、かまぼこ・きんとん・だて巻き・昆布巻きなど。
  • 13. 和菓子の一種。あんを主に寒天を用いたり蒸したりして固めたもの。
  • 14. 寒天やゼラチンなどを用いて材料を冷やして固めた料理。
  • 15. 「HIGHLIGHTING Japan」2025年新年号「一年の幸せを願う新年のおせち料理」参照
  • 16. 口取りのさかなの代用として出す三種類ぐらいの簡単なおかずの盛り合わせ。
  • 17. 魚介類や野菜を合わせ酢と合わせた酸味のある料理。
  • 18. 魚・鳥・獣肉などを焼いた料理。
  • 19. アクの強い山菜を茹でたりして,それに適した調味料と混ぜ合わせる日本料理の調理法。
  • 20. 米,麦,大豆等の穀類やふすま,ぬか等を蒸してコウジカビを繁殖させたもの。 酒・みそ・醤油等の醸造には欠かせない。
  • 21. 「HIGHLIGHTING Japan」2025年3月号「伝統的なみりんの歴史と特徴」参照
  • 22. 鮮度のいい魚介類を生のまま薄く切って食べる料理。「お造り」とも言う。
  • 23. 豆腐をそのまま醤油しょうゆとネギなどの薬味で食べる料理。
  • 24. アブラナ科の日本原産の植物。色は緑色で、さわやかな香り・辛味が特徴。
  • 25. シソ科の一年草。日本では古くから栽培され、香味野菜として利用されている。
  • 26. 柑橘類の一種。果皮に独特のさわやかな風味があり、お椀や煮物の風味付けに使われる。
  • 27. 主に野菜を塩漬けにした保存食。ぬか漬けや味噌漬け、こうじ漬けなど全国に様々な種類がある。醤油・酢などの調味料ともに漬けたもの。

By MOROHASHI Kumiko
Photos: GOMA Kaoru, KUMA Masashi

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