VOL.202 APRIL 2025
ENJOYING JAPANESE SAKE, NIHONSHU
フランス料理と一緒に楽しむ日本酒
Photo: L’Effervescence
日本酒は和食だけでなく、世界各国の料理とも組み合わせることで、新たな食の楽しみ方を生み出している。そこで、日本酒を提供している東京の港区にあるフランス料理店のソムリエに話を聴いた。
Photo: L’Effervescence
東京の南青山や表参道にほど近い西麻布の閑静な住宅街にあるフランス料理レストラン「レフェルヴェソンス」は、世界的なグルメガイドで「訪れるために旅行する価値がある卓越した料理」を提供すると高く評価されている。この店は、2015年からフランス料理と日本酒のペアリングに力を入れてきたという。シェフソムリエの増田 憲治さんは、日本酒とフランス料理との相性についてこう語る。
「当店ではバターはもちろん、牛乳由来の乳清1も調理によく使われます。そのため、乳酸菌の発酵を活かして造られる生酛造り2の日本酒は、相性が良いと考えています。乳製品や乳清に含まれる穏やかな酸味が、生酛造り特有の乳酸由来の風味と調和し、よく合うためです。この製法は、伝統を大切にしながら自然の力を活かす酒造りの方法であり、当店のフランス料理の理念とも通じるものがあります。これが、私たちがこの日本酒をおすすめする理由の一つです」
レフェルヴェソンスは食材の生産者の名前をメニューに記載するなど、産地とのつながりを大切にするレストランだ。料理で日本の土地の恵みを表現しているならば、お酒も日本の土地で造られた日本酒を合わせてもよいのではないか、という問いから、ソムリエたちは一から日本酒を学び始めたと言う。
Photo: Nathalie Cantacuzino
お店を代表する蕪の料理に合わせるお酒には、こうした提案をしているという。
「当店の蕪のお料理は、調理法を変えず、毎日提供しております。季節により感じる味わいや香りが変化しますので、その時の蕪の味わいに寄り添ったお酒を選んでおります。例えば冬でしたら、甘さが感じられる時期ですので、味わいを引き締める程度のかすかな苦味を持った日本酒を合わせることでより甘さにフォーカスしてお楽しみいただけます。
春には、山菜などにも感じられるような心地よい苦味のニュアンスがでてきますので、苦味の苦手なかたには甘みを感じるものでバランスを取るように選ぶこともあります。また香りも味も淡いお酒を合わせ、苦味をしっかりと感じていただき、より春らしい味わいを強調することもあります。
お料理はもちろんですが、お客様の好みに合わせてペアリングのポイントを変えた提供もしています」
Photo: L’Effervescence
お店には、国内外から多くの客が訪れるが、日本酒にあまりなじみのない外国人からは次のような反応があるという。
「当店で初めて日本酒の生酒3を飲んだお客様は、搾りたてならではのフレッシュな香りや酸味に驚かれます。海外に輸出されている日本酒の多くは火入れ4 されており、一般的にまろやかで甘味のある味わいが特徴です。そのため、酸味を感じる生酒は、これまでの日本酒のイメージと大きく異なるのでしょう。また、料理の温度に合わせて、日本酒を温めて提供することもあります。同じ日本酒でも、温度によって味や香りの印象が変わるため、その変化に驚かれるお客様も少なくありません」と増田さんは語る。
料理とともに日本酒を楽しむことで、日本の食文化や酒造りの奥深さを感じてもらえるという。
「日本は南北に長く、また東西でも文化が異なるため、それぞれの地域に根付いた食文化があります。その土地ごとに相性の良い日本酒が造られており、その多様性こそが日本酒の魅力です」
フランス料理の洗練された味わいと日本酒の調和が生み出す新たなペアリングの魅力。日本酒のポテンシャルの高さを物語っている。
- 1. 牛乳から乳脂肪分や主要なタンパク質を除いた液体のこと。チーズを作るときなどに固形成分を固めると副産物として大量にできる。ホエイとも呼ばれる。
- 2. 伝統的な日本酒造りの製法。アルコール発酵のために人工の乳酸菌を添加する製法が一般的なのに対し、乳酸菌を自然に育てて発酵を促す方法。手間がかかるが、しっかりしたコクと酸味、複雑なうま味が特徴。
- 3. 搾ってから一切の加熱滅菌処理をしない酒のこと。
- 4. 品質を保つため、酒を搾った後に加熱滅菌処理を行うこと。
By TANAKA Nozomi
Photo: L’Effervescence; Nathalie Cantacuzino