単身高齢者などの賃貸住宅への入居の不安を解消!改正「住宅セーフティネット法」がスタート
居住支援法人が、契約書を持った大家さん(貸し主)の男性と借り主の高齢女性ともに支援している様子のイラスト。
POINT
孤独死や家賃の滞納、近隣住民とのトラブルに対する不安などを理由に、大家さんから賃貸住宅の入居を断られるかたがいます。こうしたかたが安心して賃貸住宅に入居できる環境を整備するための「住宅セーフティネット法」が改正され、令和7年(2025年)10月1日に施行されました。
賃貸住宅をめぐっては、このように入居を希望しても断られるケースがある一方で、空き家・空き室が増加しているといわれており、大家さんと入居者の双方が安心して利用できる仕組みづくりが必要です。
誰もが安心して暮らせる社会の実現に向け、最新の取組を紹介します。
1住宅セーフティネット法とは?
「住宅セーフティネット法」は、正式名称を「住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律」といい、平成19年(2007年)に制定されました。
高齢者や低額所得者など、住宅の確保が困難な方々(住宅確保要配慮者(以下「要配慮者」という。))が安心して賃貸住宅に入居できるようにするための施策を進め、誰もが安心して暮らせる社会を実現することを目的とした法律です。
[画像:住宅確保要配慮者を表すイラスト、高齢者、低額所得者(月収15.8万円以下)、障害者、被災者(発災後3年以内)、こども(高校生相当まで)を養育している者、国土交通省令で定める者など。]
2法改正により、要配慮者へのサポートが拡充
賃貸住宅を取り巻く状況の変化
近年、高齢者世帯や単身世帯の増加、持ち家率の低下などから、要配慮者の賃貸住宅への入居に対するニーズが高まっています。
賃貸住宅には、公営住宅などの公的賃貸住宅と一般の民間賃貸住宅があり、これらが人々の居住の安定を支えています。一方で、民間賃貸住宅の空き家・空き室は一定数存在しています。要配慮者に対する住宅セーフティネットを強化することで、誰もが賃貸住宅に入居しやすくなり、空き家・空き室の活用にもつながります。
[画像:ALT=]
資料:国土交通省「「住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律(住宅セーフティネット法)等の一部を改正する法律」の公布時点の資料」から政府広報室作成
資料:総務省「住宅・土地統計調査(昭和63年(1988年)から令和5年(2023年))」から政府広報室作成
単身高齢者などは、緊急時に大家さんが連絡や相談をする親族などがいないケースも多く、孤独死や死亡後に物件内に残された家財の処理が問題になります。また、低額所得者などについては家賃の滞納リスクも指摘されています。こうしたことへの不安から大家さんが要配慮者の入居に拒否感を持っているのが実情です。
一方で、地域の居住支援の担い手である「居住支援法人」が増えてきています。住宅セーフティネット法には、要配慮者への支援を行う「居住支援法人」制度があり、都道府県がNPO法人、一般社団法人、社会福祉法人、居住支援を目的とする会社などを指定します。支援の内容は、要配慮者向けの家賃債務保証や賃貸物件への入居相談、見守りや生活支援などです。今では全国で1,000を超える居住支援法人が指定されています。
改正の主なポイント
令和7年(2025年)10月1日に施行された改正法は、大家さんが賃貸住宅を提供しやすく、要配慮者が円滑に入居できる環境整備を目的としたものです。改正のポイントを4つご紹介します。
1 入居後の変化やトラブルに対応できる「居住サポート住宅」の創設
居住支援法人などが大家さんと連携して提供する「居住サポート住宅」が、要配慮者の心強い支えになります。市区町村長などが認定した居住サポート住宅では、日常生活にサポートが必要なかたの場合は、1日に1回以上のICT(情報通信技術)など、例えばセンサーやスマートメーター、IoT家電などを活用し、異常を検知して安否確認を行ったり、1か月に1回以上の訪問などによる見守りをしたりするほか、困りごとが生じた際には自治体や福祉事務所などの各種相談窓口へつなぐ、というサポートを受けられます。
大家さんにとっても、居住支援法人などによるサポートが行われるので、入居者の孤独死や健康状態の変化などに伴うトラブルといったリスクが少なくなり、安心して部屋を貸すことができます。居住サポート住宅の入居者に対しては2でご紹介する「認定家賃債務保証業者」を活用することができ、さらに居住サポート住宅に生活保護受給者が入居する場合は自治体から大家さんに直接家賃が振り込まれる「代理納付」が原則となるため、大家さんは安定した家賃収入を見込めるようになります。
要配慮者や大家さんなどが居住サポート住宅や居住支援法人を探したいときは次のウェブサイトから調べることができます。
[画像:居住支援法人と居住サポート住宅の支援イメージのイラスト。居住支援法人が、居住サポート住宅に住んでいる要配慮者の安否確認についてICTなどを活用して実施している。]
2 家賃滞納に困らない仕組みの創設
最近では、民間賃貸住宅へ入居する際、個人の保証人を立てるのではなく、家賃債務保証業者と契約することが多くなっています。
今回の法改正では、要配慮者が利用しやすい家賃債務保証業者を国土交通大臣が認定する制度が創設されました。この制度では、認定家賃債務保証業者は、居住サポート住宅に入居する要配慮者の家賃債務保証を原則断らないこと、要配慮者との家賃債務保証の契約について、緊急連絡先の設定を求める場合には親族などの個人に限定せず、法人でも可とすることなどが定められています。
また、認定家賃債務保証業者は、独立行政法人住宅金融支援機構(JHF)の家賃債務保証保険を利用でき、保険の対象範囲と保険割合が拡充されています。
3 残置物処理に困らない仕組みの普及
入居者の死亡後、物件内に入居者が使用していた家財などが残されていると、大家さんなどがその処理に困り、次の人に部屋を貸せないといった問題がおきます。
こうした残置物の処理を円滑に行えるよう、居住支援法人の業務に「残置物処理」を追加しました。亡くなる前に入居者(賃借人)と居住支援法人等(受任者)の間で残置物の処理などに関する契約を締結しておき、入居者(賃借人)が死亡した場合は、居住支援法人等(受任者)が入居者の相続人などに代わり残置物の処理などを行います。
4 賃貸借契約が相続されない仕組みの推進
通常の賃貸借では、入居者(賃借人)の死亡後、借家権が相続人に引き継がれます。大家さんは、賃貸借契約を解除するには、入居者(賃借人)の相続人を探し、契約解除の申入れをする必要があります。
一方で、「終身建物賃貸借」は、入居者(賃借人)の死亡時まで継続し、死亡時に終了する(相続されない)賃貸借です。この「終身建物賃貸借」契約を締結するための都道府県などに対する手続きが簡素化され、賃貸物件の大家さんが利用しやすいものになりました。
要配慮者の受入れについてのよくある質問
国土交通省において、住宅セーフティネット制度の活用が促進されるよう、要配慮者の受入れにあたり、大家さんからよく寄せられる質問とその答えをまとめた国土交通省「大家さん向け住宅確保要配慮者受け入れハンドブック」を掲載しています。
住宅と福祉が連携した居住支援体制の整備
地方公共団体の住宅部局や福祉部局、不動産関係事業者・団体、福祉関係事業者・団体、居住支援法人などを構成員とした会議体である「居住支援協議会」において、地域における居住支援体制の整備を推進しています。
居住支援協議会は、居住支援に関する課題について、必要なときに互いに連絡・相談し、適切な支援や課題の解決をはかる「つながりの場」です。今回の法改正により、市区町村での居住支援協議会の設置がいっそう推進されています。
居住支援協議会の一覧は、国土交通省「住宅確保要配慮者居住支援協議会について」をご確認ください。
コラム:居住支援の事例紹介
居住支援法人による取組事例として、NPO法人と不動産会社が連携し、住宅探しから生活相談まで、あらゆる住まいに関する相談を断ることなく対応する例や、家族が担ってきた機能を補完する地域互助会を設立し、サロン運営や看取り、葬儀まで実施する居住支援法人もあります。
居住支援協議会による取組としては、協議会の活動を広く周知するためウェブページの開設や居住支援ニュースレターを発行したり、勉強会やワークショップを開催し関係支援機関同士の連携を深めたり、入居者情報あんしんシートを用いて入居者の情報の共有を進めたりしています。
このほか、使用状況などから異常を検知して通知してくれる、センサーやスマートメーター、IoT家電などを活用したサービスを提供している企業などもあります。
まとめ
賃貸物件を「貸したいけど貸すのは不安」「借りたいけど借りられない」というミスマッチが多く見受けられます。国内では、高齢化や単身化の急速な進展から高齢者を始め住宅の確保に配慮が必要な人が増えています。一方で増加している空き家・空き室の対策も注目されています。
今般の法改正で、大家さんは物件を貸すリスクが軽減し、要配慮者は借りやすく、また住みやすくなる環境の整備が推進されます。住宅の確保は社会全体の問題で、私たち一人ひとりが理解を深めていく必要があります。
「貸す人」と「借りる人」の双方にメリットをもたらす新しい仕組みが日本の社会のセーフティネットとして機能していくことが期待されています。
(取材協力:国土交通省 文責:内閣府政府広報室)