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ゴリアットの鶏跛から分かること【獣医師記者コラム・競馬は科学だ】

2024年11月22日 06時00分

◇獣医師記者・若原隆宏の「競馬は科学だ」
ジャパンCに来日したゴリアットの特徴の一つに常歩でみせる左トモの鶏跛(けいは)がある。通常の常歩では蹄は低い位置を前後するが、鶏跛のアシでは、蹄を最初に鉛直上方に引き上げて、高い位置から振り下ろすように着地させる。鶏の歩行に似た動きのため、このように呼ばれる。

獣医師記者・若原隆宏

食餌性のものや、一部の神経障害で起こるとされるものなど原因はさまざまだが、競走能力に大きな影響があると考える向きは少ない。実際、日本でもトウカイテイオーやドゥラメンテが鶏跛を呈しながら、ダービー馬になった。
グラファール師によると、同馬は3歳の入厩当初から鶏跛を示していたという。「キャンターになると忘れてしまうらしい。面白いよね」と、同師は笑ったが、調教を直接見る限り、ダクでもキャンターでも左トモの蹄軌跡がやや高い。さすがにギャロップでは消えるが、鶏跛の馬としてはキャンターでも特徴的な歩法が残るのは珍しい。
もちろん鶏跛が重度だから、このような歩法になっている可能性もある。一方で、別の可能性も考えておかねばならない。そもそも一般にキャンターやギャロップで鶏跛が消えるのはなぜなのか。
馬がキャンターやギャロップで進む時、後駆は全体としてバネとして機能する。一般には収縮して力を生み出す筋肉すらも、「収縮した(伸ばされた)状態を伸ばされて(縮められて)たまった力学的エネルギーを放出するバネ」としての機能が第一だ。
筋肉には、動き方を"意思"によって制御される「随意筋」と、心筋のように動きに"意思"の関与しない「不随意筋」がある。馬の後駆の骨格筋は随意筋だが、高速走行時には走行中の力学的制約が大きくなって"意思"の介在できる余地が狭まる。人の走行でも、着地点など細かく考えて動くわけではないだろう。安定走行時の後駆各筋は、不随意筋かのように振る舞うと考えることもできる。
ゴリアットがキャンターでも、鶏跛に特徴的な左トモの動きをわずかながらに残すのは、ある程度高い走速度(運動エネルギーが高い状態)でも、左トモを随意的に動かしていることを示している。具体的には、トモの前方への回収が速い。より高ピッチな走行フォームを実現できる。
実績からすれば、ゴリアットのキャンターは、高い能力の裏付けのひとつだ。

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