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【獣医師記者コラム・競馬は科学だ】冬に強いられる札幌馬場担当者の"帯勝負"

2025年2月14日 06時00分

◇獣医師記者・若原隆宏の「競馬は科学だ」
寒冷環境下での芝の管理を取材して、当初想定していなかった面白い話を聞いた。冬場に開催のない北海道、とりわけ一定期間、芝走路も根雪に覆われる札幌では、馬場担当者が大変神経を使う"勝負どころ"を迎えるのだという。

獣医師記者・若原隆宏

札幌では例年、まとまった雪が降った後、長期間積雪がとけずにいわゆる根雪の状態になる。根雪の下の芝で生じる問題に「雪腐れ病(Snow mold)」がある。円形などのスポット状に芝が侵されてダメージを受ける。
雪腐れ病の原因は菌類。日本語で「菌」の指す範囲は紛らわしく、キノコやカビの属する「菌類」と、大腸菌やサルモネラ菌などの属する「細菌」の2つにまたがる。菌類は細胞に核のある真核生物、細菌は細胞に核のない原核生物で、生物の分類としてはかなり離れた領域にある。紛らわしいので、生物系の研究者や学生は「細菌」の方は専ら「バクテリア」と呼んだりする。雪腐れ病の原因は真核生物で、カビなどと同類の「菌類」の方だ。
ゴルフ場などの芝で、夏に桃色や白色のキノコが生えているのを見たことはないだろうか。それら全てが該当するわけではないが、雪腐れ病の原因菌の中には、越冬してこうしたキノコを形成するものもある。
原因菌はカビの仲間なので、対処としては芝が根雪に覆われる前に防カビ剤を散布する。ただし、散布してから積雪まで間があいてしまうと、せっかく散布した防カビ剤は流されたり飛んでしまったりして芝にとどまらない。散布は根雪に覆われる直前のタイミングを見計らう必要がある。
いくら小回りといえども札幌の芝コースはラチが最も内にあるAコースで1周1640.9メートル、幅員25〜27メートルと広大だ。防カビ剤の散布面積もそれだけ広い。費用は1回100万円を超えるとか。散布が早過ぎれば散布し直さなければならないし、散布しないままに根雪に覆われてしまえば雪腐れ病による芝のダメージと、その修復は免れない。
札幌の馬場担当者は冬場に入ると、天候調査とにらめっこしつつ「いつドカ雪が降って根雪になるか」、そのタイミングに神経をとがらせる。非開催中、主なメンテナンス対象の芝が雪の下で手が出せなくなるからといって、札幌の仕事は楽になどならない。むしろ100万円のオーダーの言ってみれば"帯勝負"を強いられている。

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