◇獣医師記者・若原隆宏の「競馬は科学だ」
弥生賞ディープインパクト記念は皐月賞へのステップレースとして長年、最も有力馬がそろう傾向を強く示していた。一昨年の勝ち馬は後のダービー馬タスティエーラだったし、その前年はアスクビクターモアが勝ち、2着はドウデュースだった。さらにさかのぼって、現在馬名をこの競走に冠するディープインパクトは言うに及ばず、タイトルホルダー、ワグネリアン、マカヒキ、ワンアンドオンリー、エピファネイア、キズナなど、後のクラシックホースがここを使っている。
今年はここまで重賞勝ちした馬がいないメンバーになった。後の菊花賞馬ダンスインザダークが勝った1996年以来。出走馬の素質を見抜くというのが検討の中心テーマになるだろう。
登録馬の中でとりわけ特徴的な臨戦過程の馬が2頭。新馬戦を勝ってからここに直行してきたのがブラックジェダイトとレディネスだ。このうち、ブラックジェダイトは、現状ではあまりレース数を使えないということで、ひとっ飛びにこの登竜門に挑戦するという。
原因は陣営のアナウンスではっきりしていて「食いが細い」から。Monsunの肌にキタサンブラックという配合だから骨格はしっかりしているが、新馬戦の段階では馬体重450キロと、近年のこの時期の3歳馬としては小柄な部類だ。
陣営は「まだ線が細い」というが、横からの視点では特段に細くは映らない。トモの上縁で最も高い位置にあるのが腰角。この位置は500キロを超える馬と比べても決して低くないし、この下に配置されている駆動系の筋群も十分厚い。腹回りが巻き上がるようなことにもなっていない。
食いが細くて成長が追いついていないところがあるなら、幅が出てきていないところだろう。背中の稜線(りょうせん)から左右両側に体表がすぐに下がっている。鞍を乗せたときに、体幹を貫く最短距離で、両あぶみが近い位置にある。
薄く切ったカステラが、厚く切ったときより立てにくいのと同じように、幅がない馬は軸がぶれがちだ。ところが5日の美浦Wでの併せ馬では背中が真っすぐ保たれていて、走行安定性が高かった。物理的な不安定性を補うのは、背骨に沿って配置されている最長筋という筋肉の強さだろう。成長途上の段階で見せる背中の強さは、今回求められる素質の片りんとも受け止められる。
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