第2章
一流コンサルタントになりたければ、
ワインのテイスティングを学べ
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45万部突破の人気シリーズ最新刊、『餃子屋と高級フレンチでは、どちらが儲かるか?[不正会計編]』が7月17日に発売になりました。ヒカリと安曇教授のコンビが、今度は粉飾や横領という不正会計の問題に挑みます。その出版を記念して、同書のプロローグから第2章までを、全5回に分けてご紹介いたします。
片道切符
ヒカリのニューコンへの入社を祝うため、安曇教授が予約したのは、渋谷駅から坂を登ったところにあるワインレストランだった。
目立たない店で、やっとたどり着いたときは約束の時刻を少し回っていた。
「遅れてすみません」
ヒカリは安曇の前の席に腰を下ろすと、ため息をついた。
「もう、やめたくなりました」
「どうしたんだね」
「先生、聞いてくれますか。私、ニューコンに入りたくて先生のゼミも、インターンシップも頑張ったんです。でも、働くのはタイガーコンサルティングとかいう、聞いたこともないコンサルティング会社なんです」
安曇はわずかに首をひねった。
「つまり君はニューヨークコンサルティングに採用されなかった、ということなのかね?」
「いいえ」と言って、ヒカリはもらったばかりの社員証を安曇に見せた。
「入社したのはニューコンです。でも半年間は研修という名の試用期間で、その研修先がタイガーなんです」
ヒカリは、ガックリと肩を落とした。
「片道切符なんです」
「つまり、一度出向したら二度と戻れないということか」
「虎の穴って、呼ばれていて、ここに送られた新入社員はほとんど途中で退社するそうです。もう、やめたくなりました」と言ってヒカリはうなだれた。
「そうそう君に言わなかったかもしれないが、ボクの教え子がニューコンの社長をしているんだ」
「前原社長ですね。安曇ゼミだったんですか?」
「素晴らしく頭のいい学生だった。ただ線が細くて、組織のリーダーになれるような男ではなかったんだが」
「そうなんですか...」
ヒカリには、安曇が何を伝えようとしているのか想像もつかなかった。
「ゼミのOB会で聞いたんだが、新入社員で正規に採用するのは5割だと言ってた」
入社を許可された10人のうち、半分は落とされるのだ。
「それから実際にニューコンの戦力となれるのは、2、3人だそうだ。そんなに厳しくして優秀な人材が育つのか。ボクには疑問だけどね」
安曇の話をヒカリは上の空で聞いていた。明日にでも退職願を出そう。早くやめれば、来年度も第二新卒として就活できる。グズグズしている場合じゃない。