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日本における「CSV(共通価値の創造)経営」の先駆けであるキリンホールディングス(HD)はいま、「専門性」と「多様性」を兼ね備える両利き人財によってCSV経営をさらに力強く推し進めようとしている。また、デロイト トーマツ コンサルティング(DTC)も経済価値と社会価値を同時に追求する「DTC Value経営」(*)に舵を切っている。キリンHDの人事総務戦略を担当する坪井純子氏と、人的資本経営に関して多くの企業を支援してきたDTCの古澤哲也、上林俊介の両氏が、「人的資本経営の高度化」をテーマに、あるべき人財戦略を語る。
「専門性」と「多様性」の両利きを追求する人財戦略
古澤 キリングループの人財戦略の特徴として、「専門性」と「多様性」がキーワードになっていることが注目されます。一見すると背反する要素の組み合わせともいえる専門性と多様性を、人的資本経営の中で同時に追求されているのはなぜですか。
坪井 人的資本経営の要諦は、経営戦略と人財戦略をいかにリンクさせるかということだと思いますが、持続的な価値創造と企業価値向上のためにどのような人財が求められるのかという問いが出発点になっています。
これだけ不確実性が高く、変化が速い時代ですから将来の経営環境は誰も正確に予測できませんし、10年先の経営戦略を決め打ちするのはリスクが大きすぎます。キリングループはビールを祖業として、医薬品やヘルスサイエンスなどに事業領域を広げてきましたが、10年後の事業ポートフォリオは大きく変わっている可能性があります。一方で、人が育つには時間がかかります。10年後にも通用する人財戦略は何かを突き詰めていった結果、浮かび上がってきたキーワードが専門性と多様性です。
つまり、社会で通用する強みとして専門性の軸を持っていると同時に、経営環境の変化に対応できる多様な視点を持った人財を育成するということです。
古澤 なるほど、根底には環境変化への適応力を高めるという狙いがあるわけですね。生物の世界でも、遺伝情報の中に独自性と多様性を兼ね備えているほうが、変化への適応能力が高いといわれますから、バイオテクノロジーを得意分野とするキリングループらしい考え方だと思いました。
坪井 キリングループは40年ほど前に医薬品に参入しましたが、発酵バイオテクノロジーという基盤技術はビールと共通しています。アンカーとなる専門的な強みがあるから、選択肢が広がる。選択肢を広げるためには、多様な視点が必要ということです。
古澤 キャリア開発では、専門性が先か、多様性が先かが議論になることがありますが、キリングループの場合は、アンカーとなる専門性が先にあって、そのうえで多様な視点を持つ、多様な経験を積むという発想ですね。
1985年キリンビール入社。キリンビバレッジ広報部長、横浜赤レンガ代表取締役社長などを経て、2012年キリンホールディングス(HD)CSR推進部長兼コーポレートコミュニケーション部長、2014年キリン執行役員CSV本部ブランド戦略部長、2019年キリンHD常務執行役員ブランド戦略部長、2023年3月より取締役常務執行役員として人事総務戦略を担当。ファンケル社外取締役を兼務。
組織・人材コンサルティング歴15年以上。国内外の企業のさまざまな経営課題を組織・人事面から解決する業務に従事。特に、経営・事業戦略をグローバルに推進するためのグローバル人事戦略の立案、各種人事基盤の設計から組織風土改革までをトータルに支援する経験が豊富。主な著書に、『MOTリーダー育成法』(中央経済社、2007年)、『変革を先取りする技術経営』(共著・企業研究会、2009年)等がある。
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