○ 概要
1.概要
1965年にAicardiらにより初めて報告された。脳梁欠損、点頭てんかん、網脈絡膜症を三主徴とする先天性奇形症候群。様々な種類の脳奇形、難治性痙攣、重度の精神発達遅滞を呈し、本疾患の本態は神経発生異常と考えられている。まれな疾患であり、原因も不明であるため治療法も確立されていない。
2.原因
現時点では不明。患者の大部分が女児であることから、X染色体顕性遺伝(優性遺伝)(男児では致死性)又は常染色体上の限性発現遺伝子の異常により女児にのみ発症するとも考えられている。de novoの均衡型転座(X;3)を伴う症例から遺伝子座はXp22にマッピングされているが、疾患責任遺伝子単離には至っていない。
3.症状
脳梁欠損、てんかん性スパズム、網脈絡膜症(Lacunae)を三主徴とするが、てんかん性スパズムは他の発作型(多くは焦点運動起始発作)でも代替可能である。痙攣発作は生直後から3か月頃までに発症することが多く、全例に出現し、難治性である。脳波ではヒプスアリスミアの頻度は低く,左右独立した解離性サプレッション・バーストが特徴的である.完全脳梁欠損は70%前後に認められ,部分欠損は前方欠損が多い.多小脳回と脳室周囲の異所性灰白質がほぼ全例に認められる.大脳半球の非対称性も特徴的である.約半数で半球間裂や脈絡叢に囊胞が認められる.網脈絡膜裂孔は,通常両側性で,大きさの異なる複数の病変が視神経乳頭や黄斑部の周辺に存在する.
4.治療法
痙攣に対しては抗けいれん薬(ACTH、バルビツレート等)を用いるが、難治性である。摂食障害や肺炎などが主な死因であることから、それらに対する予防や対症療法などの全身管理となる。根本治療はない。
5.予後
中枢神経系の異常(脳回・脳室の構造異常、異所性灰白質、多小脳回、小脳低形成、全前脳胞症、孔脳症、クモ膜嚢胞、脳萎縮など)、重度の精神運動発達遅滞、筋緊張低下、眼症状(視神経・脈絡膜欠損)、骨格異常(椎体奇形、側弯、肋骨欠損、癒合、二分肋骨)、口唇口蓋裂、摂食障害、肺炎、腫瘍性病変を併発し、不良である。
○ 要件の判定に必要な事項
1. 患者数(令和元年度医療受給者証保持者数)
100人未満
2. 発病の機構
不明(遺伝子変異が推定。)
3. 効果的な治療方法
未確立(対症療法のみ。)
4. 長期の療養
必要(先天異常で生涯持続。)
5. 診断基準
あり(研究班作成の診断基準あり)
6. 重症度分類
精神保健福祉手帳診断書における「G40てんかん」の障害等級判定区分及び障害者総合支援法における障害支援区分における「精神症状・能力障害二軸評価」を用いて、以下のいずれかに該当する患者を対象とする。
「G40てんかん」の障害等級
能力障害評価
1級程度の場合
1~5全て
2級程度の場合
3~5のみ
3級程度の場合
4~5のみ
○ 情報提供元
「Aicardi症候群の疾患病態解明と診断・治療法の開発研究班」
研究代表者 横浜市立大学 准教授 三宅紀子(現 国立国際医療研究センター研究所 疾患ゲノム研究部 部長)
「希少てんかんに関する包括的研究 」
研究代表者 国立病院機構 静岡てんかん・神経医療センター 客員研究員 井上有史
研究分担者 昭和大学医学部 小児科学講座 教授 加藤光広
<診断基準>
アイカルディ症候群の診断基準
A.症状
主要徴候
1.スパスム発作a
2.網脈絡膜ラクナ(lacunae)b
3.視神経乳頭(と視神経)のcoloboma、しばしば一側性
4.脳梁欠損(完全/部分)
5.皮質形成異常(大部分は多小脳回)b
6.脳室周囲(と皮質下)異所性灰白質b
7.頭蓋内嚢胞(たぶん上衣性)半球間又は第三脳室周囲
8.脈絡叢乳頭腫
支持徴候
9.椎骨と肋骨の異常
10.小眼球又は他の眼異常
11.左右非同期性’split brain’脳波(解離性サプレッション・バースト波形)
12.全体的に形態が非対称な大脳半球
a.他の発作型(通常は焦点性)でも代替可能
b.全例に存在(又はおそらく存在)
B.検査所見
1. 画像検査所見:脳梁欠損をはじめとする中枢神経系の異常(脳回・脳室の構造異常、異所性灰白質、多小脳回、小脳低形成、全前脳胞症、孔脳症、クモ膜嚢胞、脳萎縮など)がみられる。
2. 生理学的所見:脳波では左右の非対称又は非同期性の所見がみられる。ヒプスアリスミア、非対称性のサプレッション・バースト又は類似波形がみられる。
3. 眼所見:網脈絡膜ラクナが特徴的な所見。そのほか、視神経乳頭の部分的欠損による拡大、小眼球などがみられる。
4. 骨格の検査:肋骨の欠損や分岐肋骨、半椎、蝶形椎、脊柱側弯などがみられる。
C.鑑別診断
以下の疾患を鑑別する:
線状皮膚欠損を伴う小眼球症(MLS)。先天性ウイルス感染。
<診断のカテゴリー>
A-1、2、4を必須とし、さらにA-5、6、7、8のいずれかの所見を認めた場合に診断できる。
<重症度分類>
精神保健福祉手帳診断書における「G40てんかん」の障害等級判定区分及び障害者総合支援法における障害支援区分における「精神症状・能力障害二軸評価」を用いて、以下のいずれかに該当する患者を対象とする。
「G40てんかん」の障害等級(※1)
能力障害評価(※2)
1級程度の場合
1~5全て
2級程度の場合
3~5のみ
3級程度の場合
4~5のみ
「G40てんかん」の障害等級(※1)の等級を確認し、能力障害評価(※2)の該当性を確認する。
※1 精神保健福祉手帳診断書における「G40てんかん」の障害等級判定区分
てんかん発作のタイプと頻度
等級
ハ、ニの発作が月に1回以上ある場合
1級程度
イ、ロの発作が月に1回以上ある場合
ハ、ニの発作が年に2回以上ある場合
2級程度
イ、ロの発作が月に1回未満の場合
ハ、ニの発作が年に2回未満の場合
3級程度
「てんかん発作のタイプ」
イ 意識障害はないが、随意運動が失われる発作
ロ 意識を失い、行為が途絶するが、倒れない発作
ハ 意識障害の有無を問わず、転倒する発作
ニ 意識障害を呈し、状況にそぐわない行為を示す発作
※2 精神症状・能力障害二軸評価 (2)能力障害評価
○判定に当たっては以下のことを考慮する。
①日常生活あるいは社会生活において必要な「支援」とは助言、指導、介助などをいう。
②保護的な環境(例えば入院・施設入所しているような状態)でなく、例えばアパート等で単身生
活を行った場合を想定して、その場合の生活能力の障害の状態を判定する。
1
精神障害や知的障害を認めないか、又は、精神障害、知的障害を認めるが、日常生活及び社会生活は普通に出来る。
○適切な食事摂取、身辺の清潔保持、金銭管理や買い物、通院や服薬、適切な対人交流、身辺 の安全保持や危機対応、社会的手続きや公共施設の利用、趣味や娯楽あるいは文化的社会的活動への参加などが自発的に出来るあるいは適切に出来る。
○精神障害を持たない人と同じように日常生活及び社会生活を送ることが出来る。
2
精神障害、知的障害を認め、日常生活又は社会生活に一定の制限を受ける。
○「1」に記載のことが自発的あるいはおおむね出来るが、一部支援を必要とする場合がある。
○例えば、一人で外出できるが、過大なストレスがかかる状況が生じた場合に対処が困難である。 ○デイケアや就労継続支援事業などに参加するもの、あるいは保護的配慮のある事業所で、雇用契約による一般就労をしている者も含まれる。日常的な家事をこなすことは出来るが、状況や手順が変化したりすると困難が生じることがある。清潔保持は困難が少ない。対人交流は乏しくない。引きこもりがちではない。自発的な行動や、社会生活の中で発言が適切に出来ないことがある。行動のテンポはほぼ他の人に合わせることができる。普通のストレスでは症状の再燃や悪化が起きにくい。金銭管理はおおむね出来る。社会生活の中で不適切な行動をとってしまうことは少ない。
3
精神障害、知的障害を認め、日常生活又は社会生活に著しい制限を受けており、時に応じて支援 を必要とする。
○「1」に記載のことがおおむね出来るが、支援を必要とする場合が多い。
○例えば、付き添われなくても自ら外出できるものの、ストレスがかかる状況が生じた場合に対処することが困難である。医療機関等に行くなどの習慣化された外出はできる。また、デイケアや就労継続支援事業などに参加することができる。食事をバランスよく用意するなどの家事をこなすために、助言などの支援を必要とする。清潔保持が自発的かつ適切にはできない。社会的な対人交流は乏しいが引きこもりは顕著ではない。自発的な行動に困難がある。日常生活の中での発言が適切にできないことがある。行動のテンポが他の人と隔たってしまうことがある。ストレスが大きいと症状の再燃や悪化を来しやすい。金銭管理ができない場合がある。社会生活の中でその場に適さない行動をとってしまうことがある。
4
精神障害、知的障害を認め、日常生活又は社会生活に著しい制限を受けており、常時支援を要する。
○「1」に記載のことは常時支援がなければ出来ない。
○例えば、親しい人との交流も乏しく引きこもりがちである、自発性が著しく乏しい。自発的な発言が少なく発言内容が不適切であったり不明瞭であったりする。日常生活において行動のテンポが他の人のペースと大きく隔たってしまう。些細な出来事で、病状の再燃や悪化を来しやすい。金銭管理は困難である。日常生活の中でその場に適さない行動をとってしまいがちである。
5
精神障害、知的障害を認め、身の回りのことはほとんど出来ない。
○「1」に記載のことは支援があってもほとんど出来ない。
○入院・入所施設等患者においては、院内・施設内等の生活に常時支援を必要とする。在宅患者
においては、医療機関等への外出も自発的にできず、付き添いが必要である。家庭生活においても、適切な食事を用意したり、後片付けなどの家事や身辺の清潔保持も自発的には行えず、常時支援を必要とする。
※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項
1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る。)。
2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続す
ることが必要なものについては、医療費助成の対象とする。
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