俺の"茶碗"。緑と桜模様のコントラストが素晴らしい。
概論
"茶碗"とは、平安時代から奈良時代にかけて中国から日本に伝来した食器の一つである。元来は "茶碗"とは茶を飲むための器を指す言葉であったが、現代では広く陶磁器製の碗を指して呼ぶ。主に文字通りの茶器としてや、米をよそう器として用いられる。
スシブレードにおいて箸で寿司をはさみ、茶碗にぶつけない限り自主的に寿司が回転することはない。そして我々スシブレーダーにとって茶碗とは、その魂たる寿司と寿司をぶつけるために使用される発射台である。しかし負け続きによる金欠で箱根そばに寄り、パサパサの天ぷらが乗った単品そばを貪り食っていたとき、一緒に出てきた湯吞み茶碗を見て俺は閃いた。「こいつ、使えるんじゃね?」と。
思いついた後、脳内シミュレーションを何度か繰り返し可能だと結論が出た時、俺はそばを咽る勢いで啜り会計を済ませ、讃美歌を叫びながら駅構内を走り回った。早速骨董品店で適当な安い湯呑み茶碗を購入し使用し始めた。手になじむ作りで普段使いの際にも結構気に入っている。
スシブレード運用
"茶碗"は陶磁器で構成されており、さらに中に液体を入れることが前提として運用されるため重量は十分にある。加えて円筒形の形状は安定性が高い。遠心力によって中の茶をまき散らせば、シャリとネタの分離を促すことによる相手の弱体化が期待できる。 "茶碗"自体の耐久力もあるため、より危険な硫酸とかを入れておけば即死攻撃まで放てる。中身を水に装い毒を入れれば、負けた相手の寿司を毒物に変えて暗殺することさえ可能なはずだ。
滑らかな形状であるため一点に集中した攻撃には弱いが、通常のスシブレードによる並大抵の攻撃なら受け流すことができる。例え敗北したとしても、"茶碗"の中身さえ残っていれば飲み干せば済むためコスパもいい。中身は最悪水でいいことも含め、応用性と財布への優しさを兼ね備えた寿司と言えるだろう。
攻撃力
防御力
機動力
持久力
重量
操作性
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他の活用法
俺が使用しているのはいわゆる"湯呑み茶碗"であるが、茶碗にも多くの種類が存在する。また、骨董品としての瀬戸物には価値があるものも多い。職人による数百年前の仕事に思いを馳せつつ茶を飲むというのも詫び寂びがあっていいものである。
エピソード
"茶碗"を使い始めてからしばらく経ち、久しぶりに闇親方から伝達が来た。精神酢飯漬けにさえ抵抗し、寿司を盗んで闇寿司を脱走したスシブレーダーを始末しろとのことだった。余程強靭な精神力の持ち主であることは間違いない。
向かったのは夜の銀座の裏道だった。俺のような貧乏人にとってこんな場所は毒でしかない。さっさと済ませて報酬を受け取り、その金で安くて旨い飯を食いたかった。今夜の飯はラーメンかカレーか、と考えていた時、奴は現れた。
ギンギラギンのピアスとネックレス。趣味があまりに悪いドクロのネクタイ。ド派手な外套。でかいグラサン。奴こそが標的、"成金のキンメ"であることは間違いなかった。聞いた話によればスシブレーダーにいきなり勝負を挑んで負かし、勝った瞬間に食わせもせず強奪して転売しているとのことだ。もはや成金というより強盗に近い。
とはいえ、かなりのやり手なことは間違いなく、"銃"を向けたところで弾は握りにされるだけに終わるだろう。となれば真っ向勝負で勝つ他あるまい。キンメは瞬時に俺の素性を察したらしい。
キンメ: 「おっとぉ、こんな所で闇寿司に出くわすなんてついてねーなぁ。回らない寿司たらふく食った直後にさぁ......キャバの予約どうしてくれんだよぉ」
妙に間延びした喋り方は苛立ちを増幅させる。空腹も相まって俺の殺意は遭遇から3秒で最高値に達した。懐から "茶碗"二つと箸を取り出す。一つは寿司、もう一つは射出用である。
俺: 「ならすぐ終わらせてやるよ!こちとら腹減ってんだ、天国のキャバ嬢にでも抱かれてろ!」
キンメ: 「なんかほざいてんなぁ、茶碗に茶碗ぶつけんのかぁ?普通に割れそうだなぁ。売ってもただの茶碗だしなぁ、価値ねえよな。さっさと消えろよぉ」
"茶碗"に予め用意しておいた緑茶をぶち込み箸で挟む。選ばれたのは急須の茶に最も近い綾鷹である。怒りで手が震え地面にびしゃびしゃとこぼれ落ちるが関係ない。射出用の湯呑みに "茶碗"をぶつけ、
「「3!2!1! へいらっしゃい!!!!」」
相手が繰り出したのはいかにも成金らしい鰻重。鰻の蒲焼きに山椒と金粉らしき粉が山盛りレベルで乗っている。いける。この程度なら攻撃を受け流しつつ悪趣味な粉とタレを緑茶で洗い流せる。
キンメ: 「貧乏臭ぇ茶碗だなぁ。この調子ならすぐお前の顔面ごと粉々にできるだろうなぁ」
俺: 「日本の侘び寂びの心が分からんのかぁ!?クラスター緑茶散布!」
キンメ: 「クラスターは侘び寂びじゃねぇよぉ」
最大限の殺意を込めて緑茶が撒き散らされる。設置面積がでかい重箱ならばスリップを起こして停止するのも時間の問題であろう。勝利を明確にイメージしたその時、じわりと滲む汗に俺は気づいた。
俺: 「暑くなってきている......?」
今は6月の上旬。温暖化が進んでいるとはいえ、夜の都会の気温が汗ばむほど高くなるのは異常事態だ。さらに、回転する奴の鰻重はバチバチと閃光を放っていた。これは......
キンメ: 「引っかかったなぁ!俺の蒲焼きは備長炭で12時間じっくりと焼き熱を溜めた特別製だぁ!しょぼい水なんざあっという間に乾いちまう!更に......」
キンメが合図すると、鰻重は急加速し金粉と山椒を撒き散らし始めた。粉は空中を舞ったかと思うと瞬く間に爆ぜる。まるで花火を目の前で点火したような熱と光だ。恐らく1680万色はある。グラサンはこの対策か。こっちはなんとか受け流しているような状態だが、"茶碗"はカウンターが不可能な以上ジリ貧に追いやられるだけの状態にある。
キンメ: 「山椒も特別だ!混ざった状態で加熱し空気に触れると反応し超高温に達する!テルミット蒲焼きの熱で溶けちまえよぉ!」
俺: 「お前はなんで焼けねえんだよ」
キンメ: 「断熱なんだよこの服はよぉ。俺が好きでこんなコート着てると思うかぁ!?」
いやそうにしか見えんが、というツッコミをする間もなく地面のアスファルトが粘つきだした。まずい。非常にまずい。陶器の融点は800度程度。それに対して、テルミット反応は確か1000度を超えたはず。 「テルミット蒲焼き」とやらが本当にテルミット反応と同じものかは不明だが "茶碗"の機動力は落ち始めている。茶は恐らくとっくに渇き切ってしまっているだろう。 溶けるのも時間の問題だ。
俺: 「これを受け取れ!」
ペットボトルに余っていた緑茶を "茶碗"にかける。だが光による目眩しで軌道は逸れ、 接地面しか冷却ができなかった。茶はジュワジュワと音を立てながらあっという間に蒸発していく。
キンメ: 「そんなもんかぁ!?そろそろ時間もねぇしな、お前も消し炭にして戻るかなぁ」
冷却に失敗した "茶碗"の上部は回転しながら赤熱を始めた。鰻重のテルミット使用中は操作不能に陥るらしいとはいえ、もう "茶碗"は完全に溶けきるだろう。
打つ手なしか......と思われた、その時。俺の熱でやられた脳みそに閃光が走った。
俺「回転を加速しろ!回りまくるんだ!」
キンメ: 「あぁ〜〜?ついにイカれちまったぁ」
冷却されていない上部のみが遠心力でぐにゃぐにゃと変形を開始する。
鰻重は粉を出すのを止め、 "茶碗"に向けて回り出す。高熱を伴う暴力的なその回転が"茶碗"に向けて放たれる。
俺「綾鷹だ!受け取れ!」
万一を考え常備していた2L入り綾鷹。それを全力で "茶碗"にぶちまける。水蒸気で視界が遮られ、鰻重の動きが止まる。赤熱が収まり、発生した蒸気のその先には——
真・茶碗
湯呑みなどではなく、一般的な意味での"茶碗"がそこにはあった。回転と赤熱により、ろくろの原理で上部のみが広がった結果、湯呑み茶碗が真の茶碗へと変じたのである。無論、アツアツの綾鷹も共に。
キンメ: 「ふざけてんのかぁ?形が変わってもなんも変わんねぇよぉ!水蒸気で蒸し暑いんだよぉこっちはよぉ!」
俺: 「俺が一番暑いわ!」
さっき断熱材がどうとか言ってたよなこいつ。
再び鰻重が接近し、テルミット蒲焼きが発動される。だが、鰻重が"茶碗"と衝突した瞬間。
キンメ: 「は、弾かれたぁ?」
俺: 「形が変わっても何だよ!」
厚ぼったい湯呑みモードでは不可能だったカウンターが、より薄型になったことで可能となる。変形前と後では"茶碗"は全く別の寿司と化すのだ。
さらにカウンターの衝撃で煮えたぎる綾鷹が蒲焼きに浴びせられ、沸騰の勢いで一枚の蒲焼きと米が飛び出す。大量のテルミットの誤爆により、鰻重は更に遠くへ弾かれた。
俺: 「戦闘力がガタ落ちだな!テルミットも使い切ったんじゃないのか!?」
キンメ: 「まぁだまだぁ!!!!」
捲れ上がった鰻の裏から金色の粉末が舞い上がる。途端にそれは破裂し、米と鰻は飛んで"茶碗"に覆い被さった。高温を発生させながら蒲焼きは"茶碗"を減速させんと巻きつく。
キンメ: 「超高熱で溶けちまえぇぇ!!!!」
絶叫がこだました。計画は完成した。
俺: 「日本の侘び寂びと風情をナメてかかったな!!」
回転による斬撃で蒲焼きがバラバラに刻まれる。
茶碗。熱々の茶。鰻の蒲焼き。白米。これらが合わさった場合にのみ完成される、
真・ひつまぶし
ひつまぶし。本来は鰻の蒲焼きとともにネギなどの薬味や出汁、茶などが出され、食べながら合わせることで味わいの変化を楽しむ郷土料理。そのさまは段階的に進化した"茶碗"と重なる。"ひつまぶし"は最後に茶漬け状態にして食べるのがセオリーだ。つまり、これこそが"茶碗"の最終形態にあたる。
キンメ: 「テメェぇぇぇぇぶち殺す!!!」
俺: 「声がでけえよクソ成金!」
三枚ほどある蒲焼きの一枚を失ってもなおも"ひつまぶし"に向かってくる鰻重。だがその歩みはもはやガリのようにフニャフニャだった。
俺: 「最期の晩餐だぜ!喰らっとけ!ウナギガトリング!!!!」
回転とともに細切れの鰻が連続で射出され、鰻重を的確に減速させていく。辺りが鰻の破片まみれになり、撒き散らされた茶を浴びた鰻重は目に見えてふやけていく。熱を散々溜めた蒲焼きが直撃したキンメは「あっつ!!!」と叫び、そのド派手な外套が焦げ落ちていく。
キンメ: 「侘び寂びと風情どこだよぉ!!!ふざけんじゃねえぇぇぇ!!!!」
俺: 「終わりだな」
煮えたぎる茶と鰻が重箱を押し倒した。鰻重が転倒し、派手な外套に金色と緑色の粉が撒き散らされ——
粉塵爆発を起こした跡に焦げたギンギラギンのアクセサリーが転がった。消し炭と化したキンメの側には、焦げてひっくり返った鰻重が転がっている。死体の口に鰻重の余りを突っ込み、残りは持ち帰ることにした。"茶碗"、いや今は"ひつまぶし"と俺の未来のために。
今回の報酬は確か手取りで30万程度だったはずだ。すき家の鰻重くらいなら食える程度には余裕ができた。砕けた鰻の破片一つも残さず拾い集める。腹が減ったのでいくつか食ったのは秘密だ。口の中で焼けるように熱くなった蒲焼きを食いつつ"ひつまぶし"を抱えていると、回る寿司屋で茶だけを啜っていた日々から随分とのし上がれたような気がした。
関連資料
「綾鷹」の商品ページ
今回助けられた「綾鷹」には、緑茶以外にもほうじ茶や抹茶ラテなどさまざまなバリエーションが存在する。これらを内容物に使用した場合どうなるのかは研究の余地があるところであるが、中身はやはり日本の伝統である緑茶が望ましいであろう。
あつた蓬莱軒のホームページ
140年の歴史を誇るひつまぶしの名店。名古屋に行く機会があれば寄ってみるのもいいだろう。
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文責: 錆川 詫助