クレジット
連邦記録法に則り、以下に電子コピーを掲載
UIUファイル2011-119: コードネーム "チアフルスタチュー"
概要: 当該容疑者はDepravityクラス悪魔であり、口腔内に麻薬性スモッグを随意に発生させる変則性を持つ。
名前: グリプティキ
変則性相互参照: コロンビア出身、悪魔生物学、低級悪魔、売人、低度の薬物依存症・アレルギー症状
身体的特徴:性別 | 身長 | 体重/体格 | 生物種 | 髪 | 目 | 特徴的属性 |
---|---|---|---|---|---|---|
男性 | 170cm | 140kg/痩身 | 悪魔 | 無毛 | 赤色 | 石質皮膚 |
能力: 容疑者は随意かつ短時間で口腔内に暗紫色を呈した麻薬性スモッグを発生させることが可能である。通常の場合報酬とされる特定概念の消費によりエントロピーの総和は保たれるが、容疑者の思考的欠落に起因して結果的にエントロピーの崩壊を招く。
麻薬性スモッグはメタンフェタミンを豊富に含有しており、その発生プロセスの異常さを根拠として"パラドラッグ"に指定されている。また、自身も発生の際に微量ながら吸引しており、現在の症状はそれに起因している。
目的/動機: オルタナティブ・コロンビアへの入国勧誘。麻薬性スモッグの販売を通じて知り合った客に対し、「楽園にはもっとスゴイのがある」、「退屈な日常から抜け出さないか?」などの言葉により客の好奇心を揺さぶる様子が確認されている。ジョン・ドゥ・カルテル の活動に深く関与していると推測されているが、詳細は不明。
活動規範: 容疑者はミシガン州デトロイト市内の格安ホテルを転々としており、コンビニエンスストアで購入した生活必需品や固定客の差し入れなどを頼りに質素な暮らしを送っている。
週に二度、デトロイト川沿いにある知人が経営するバーを訪れる。高頻度で最安値のラム酒を注文し、閉店近くまでマスターと雑談に興じている。
行動: 比較的収入の低い、低所得層を対象としたパラドラッグの販売。麻薬性スモッグをビニール袋に詰め、1袋当たり20ドルを基本的な売価としている。非常に安価であることから、容疑者が主な活動拠点としていたデトロイトでは多数の人物から支持を得ている。
A: 麻薬性スモッグ 2袋: 固定客の一人、アンドレイ・ミルサイムの自宅から押収。小さなビニール袋に充填された状態で発見された。
B: 医療用注射器 2本: 容疑者の宿泊したホテルのトイレで発見。注射器の針から容疑者の血液サンプルを採取することに成功。
C: 羊皮紙 1枚: 上述とは別のホテルの一室で発見。古代ギリシャ及びブードゥー教の特徴が混在した奇跡論的図形が焼印されており、その付近で発見された、ペースト状のカエルの心臓は何らかの儀式コストとして使用されたと推測されている。
D: メモ用紙 1枚: 上述の羊皮紙の付近で発見。悪魔言語学に基づくメッセージが付されており、現時点で「幸福」、「寂しい」、「近づいた」を意味する単語が確認されている。その他については鑑識結果待ち。
現状: 聖水ペイントの施された銀製の独房内にて拘留中
罪状: 超常薬物の所持・拡散、不法滞在
量刑: 無期限拘留
UIU活動記録:
2011年08月03日: ラーンド・ストリートにあるバス停付近のベンチで休憩していたところ、ギャングスタのウルマ・チムニに偶然出会う。しばらく談笑するが、麻薬の販売を巡って口論に発展し、その後暴行を受ける。その場に居合わせた警察官により喧嘩は仲裁され、付近の病院で治療を受けるよう助言される。
2011年08月04日: 小さな病院で診察を受けていたところ、医者に現在の症状を指摘される。すぐさま通報され、デトロイト警察署に身柄を確保される。その際に特段抵抗する様子は確認されなかった。
2011年08月07日: 幾度の取り調べにより容疑者の変則性が明らかとなったため、デトロイト警察署はUIUに調書データを提供した。その後UIUはこれを対応すべき事案と判断し、容疑者に関する諸業務の引継ぎが行われた。
尋問ログ #01
実施日: 2011年08月09日 13:00
担当者: ハンネス・ヴィラワイナー
目的: 担当者と容疑者の顔合せ、容疑者の思想・背景の確認
担当者: ハロー、グリプティキ。調子はどうだい?
容疑者: やあハンネス。変わらず調子はサイコーだよ。顔面ブルーなアンタは何を知りたいんだい?
担当者: 正しくは「何」をじゃなくて「全部」を、だな。じゃあまずは自己紹介でもしてもらおうか。できればこの紙切れに書いてある内容以外で頼むぜ。
容疑者: オーライ。僕はグリプティキ、ニックネームはGrip。愛しき楽園から遠路遥々やってきた魔法の商人さ。ちょいと指を回せばみんなが笑顔になれる、そんなハッピーなものをね。
担当者: 俺もその楽園とやらに踏み入ったことがある。お前の言うとおり、住人らは実に楽しそうだった。頭ん中にあるクソをひねり出した面をして幸せ者を気取ってやがった。口から漏れたドブの臭いと汚れたパンツを隠そうともせずにな。
容疑者: ずいぶんと意地悪な言い方。僕らが嫌いなのかい?(鼻を啜る)
担当者: この職業に就いてれば誰でも嫌いだろうよ。俺はコロンビアの、警察手帳とハッパをポケットに詰め込んだ野郎とは決定的に違う。なあグリップ教えてくれ。何故契約という悪魔の本質を放棄してまでコロンビアに尽くす?
容疑者: 気持ちの良い魔法はいかに契約が冷たい檻なのかを教えてくれた。今も僕が活動するために契約は結んでいるけど、決して制限するものじゃない。僕がやっているのは僕の善意によるものだ。魔法を振り撒いて、彼らが与えてくれた快楽の感覚と生き甲斐への感謝を補填する。宇宙の法則は納得しないだろうけど、僕はそれで満足しているんだよ。
担当者: 麻薬をばらまくことと恩返しに何の関係があるんだ? 金か?
容疑者: まさか。(鼻を啜る)僕の麻薬は楽園への片道切符。パーティーは多ければ多いほど楽しい、そうでしょ?
担当者: さっきの「彼ら」、ジョン・ドゥ・カルテルの連中がそう言ったのか?
容疑者: ああ。彼らはアーティストで、先生で、恩人で、革命家だ。僕らの故郷は灰色の荒野と砂の香りが拡がるばかりで、絶対的に、エンターテイメントに欠けていた。この世界も、ルールだの何だので一方的に僕らを縛り付けて、溢れんばかりの刺激を前に「お預け」を強要したんだ。そんなとき、ヨダレを垂らした僕らの鎖を外して抱擁してくれたのが彼らだ! そんな彼らを僕は愛しているし、手伝いたいし、可哀想な人を救いたい。それが人情ってもんじゃないか!
担当者: (机に拳を叩きつける)マッハッタンの便器から這い出た蠅が人情を語るんじゃねえ。お前や、お前みたいなやつらに誘われて一般社会から姿を消した人間が何人いるか知っているのか? 少なくとも419人、戻れぬとこまで堕ちてしまった。彼らは愚かで弱い。だがお前らがいなければそうならなかったのも事実だ、そうだろ?
容疑者: 解らないね。君が怒っているのも、その人数のどこが問題なのかも。
担当者: ……最後に質問だ。罪悪感を抱いたことは?
容疑者: ないね、僕らはボランティアだから。
担当者: 救えねえな。
容疑者: こっちのセリフさ。
尋問ログ #04
実施日: 2011年08月21日 10:00
担当者: ハンネス・ヴィラワイナー
目的: 勧誘された人物の行方、オルタナティブ・コロンビアの内部情報
担当者: 約二週間ぶりだなグリップ。元気そうで何よりだ。
容疑者: あのときはごめんよ。僕ったら何だかひどく無神経なことを言ってしまったようだ。(鼻を啜る)
担当者: いいや問題ない。上司の小言としばらく晩酌を我慢しなきゃならないこと以外はな。
容疑者: (笑い声)で、今日は何のお話をしようか。
担当者: お前が勧誘した人間はどんなルートでコロンビアへ行くんだ? フライトはもちろんのこと、船もヘリにも乗った形跡がない。いずれも日常からフッと、忽然と姿を消している。
容疑者: (鼻を啜る)僕はスレンダーマンと知り合いでね。特に親しくはないからよくわからないけど、彼が一流の誘拐犯なのは確かさ。
担当者: 悪いジョークを聞いているような気分だぜ。そのスレンダーマンとやらの居場所は?
容疑者: さあ? 彼は働き者だからね。彼はどこにでもいるし、どこにもいないんだろうね。
担当者: (溜め息)まあいい。次はお前の大好きなコロンビアについて詳しく教えてくれ。そこには何があって、何がお前らを惹き付ける?
容疑者: そうだね……この世界にあるものが無くて、無いものがある。無秩序とラブだ。もう何でもあり! 人間も獣人もスライムも僕らも、手を取り合ってファックな自由を謳歌しているんだ。(鼻を啜る)そうそう「レッドリボン&リボルバー」という大人気ローカル番組があってね、麻薬風呂に浸かった元大統領が世界のセックスを紹介するんだ。これが面白くって面白くってさ、機会があったら観てみなよ。
担当者: その機会がないことを祈るよ。
容疑者: (笑い声)皮肉屋だな。
担当者: じゃあ次の質問だ。麻薬を世界中に撒いて、コロンビアを閉鎖して、空飛ぶ有害大陸「オルタナティブ・コロンビア」を建ててカルテル連中は何がしたいんだ? その目的は?
容疑者: さあ? 僕が思うに、笑い声に溢れた世界平和じゃないかな。
担当者: もう少しマシなジョークを言ってくれ。
容疑者: ジョークじゃないさ。恐れずに魔法を受け入れてみてよ。そしたらきっと、戦争や争いがいかにバカらしくて、無価値なのかを理解できるよ。アフガニスタンの子供たちがヒマワリを美しいと思い、インドの女性がブルーサファイア色の海を泳げる。性別も人種も国境も貧富も! あらゆるラインは白い魔法で曖昧になるだろう。人類何千万年の夢、平等と平和が真に実現するんだよ! (鼻を啜る)ハンネス、君はどう思う?
担当者: ああ素晴らしいな。その過程を除けば。
容疑者: 僕らは相容れないね。愚か者Racistめ。
2011年08月23日
午後23時44分、独房で就寝していた容疑者が突如消失した。消失する15秒前、独房内の空間は波紋状に歪み、それに伴って容疑者を除く周辺の物体に幾何学的な亀裂損傷をもたらした。その過程で設置された監視カメラは破損したため、消失の瞬間を記録することに失敗した。本来高い封緘能力を持つ銀製の檻も同様に破壊されており、これは奇跡論的過負荷を受けたことに起因している。
独房内を詳しく調査したところ、本来ベッドの存在していた地点を中心に少量の硫黄の粉末が飛散しているのが確認された。これは悪魔が送還される際に発生する残滓物質の特徴と一致していることから、ジョン・ドゥ・カルテルの関連者または何らかの高度な術者による送還儀式によって容疑者は転移したと推測されている。また、キャビネットの残骸からは以下の紙製文書が発見された。
親愛なるハンネスへ
突然のことですまない。君は嫌っていたようだけど、僕は君のことが大好きだよ。僕らは隣人でそこにコンクリートの壁なんてないんだ。ハンネス、どうか平和を愛してくれ。
エデンで待っているよ。友人のグリプティキより
現在は容疑者の行方を捜索中である。