クレジット
タイトル: SCP-顔見るな-J - シャイニングガイ
著者: Enginepithecus Enginepithecus
作成年: 2022年
財団の雇用と収容の基準が改定されてから一月が経つ。僕自身、突然収容室から引っ張り出されて書類を手渡された時は唖然としたし、今でも信じられてない。
雇用者 住所: ███████████████████
氏名: 財団日本支部理事 獅子
被雇用者 住所: サイト-81██宿舎 096号室
氏名: シャイニングガイ
財団は増え続ける異常存在アノマリーと、対処にあたる職員数の圧倒的不足とに悩まされた末、この決断を下したのだそうだ。そしてそもそも元々異常性を持った職員が多かったという日本支部にて、この制度が真っ先に試験導入されたのだ、と。
オブジェクト指定ナンバーを外され、職員証を手渡され、船旅でドンブラ日本支部へとやってきた僕は、今日もまたサイト内の宿舎から出勤をする。寝間着を着替えて襟を整え、遮光グラスの宇宙飛行士みたいなヘルメットで頭を覆って留め具をパチリ。出かける前に見渡す部屋にはシングルベッドが完備され、窓際にはイミテーションの観葉植物。まるでホテルの一室みたいで、凄く暮らしやすい良い部屋だ。収容下から雇用下に変わり、圧倒的に環境は良くなった。
だけど......
......だけど、僕には1つ悩みがあるんだ。
「おう、オリエンテーションぶりだな!」
朝11:00。まだ遅めの人だと眠気が抜けきらないこの時間の空気をぶち破るような威勢ある声。
あの人は確か、元SCP-357-JP-J......「マッチョが売りの少女」さんだ。サイト西棟実験エリアの廊下、僕は実験器具入りダンボールを乗せた台車を押しながら彼女に言葉を返す。
「おはようございます......。えーと、機動部隊配属の筈では......、またどうしてここに?」
ここは精密器具がひしめく、重要な実験の為の一画。扉の並んだ、筋トレには不向きな廊下をバックに、僕とは対象的にマッチョな笑顔で僕の隣を歩きつつ彼女は
「あぁ、それなんだけどな。財団の誇る技術を以っても、実験器具の出せる最大圧力が足りないらしい。」
......と、全身の筋肉からミシミシ音を立てながら答えた。
「お前はそんなガリガリで良いのか?もっと筋肉マッスルを鍛えないと。だってお前、顔見たやつを地の果てまでも追いかけるんだろ?」
うん、やっぱりか......。これ言われるの何度目だろう。
「......いやそれはシャイガイですよ。僕は......」
「......あぁ、そうか大元の本家と、パロディのJ版だと違うのか。失礼しちまったな。」
「......。」
......あぁ、また今日も悩みゲージが溜まっていく......。
「......なぁ、シャイニングガイ。」
「何スカ?」
「......何にしても、ガリガリは良くないからプロテイン奢るぞ?」
お昼時。やっぱり僕は、台車で荷物を押している。今度は休憩ルームに飾る、抽象画たちを運んでる。
ガラガラガラ。ガラガラガラ。
何だろう?僕の台車の音だけじゃなく、背後からも同じような、台車を押してる音がする。僕が振り向くより早く、背中の方から愚痴をこぼす声が聞こえた。
「むむむむむむむむ、私が荷物運びなんてどうかしてるよ。私こそが救済、最高の医師だというのに、むむむむ......」
その声を聞きつつ振り向き終わると、そこにいたのは元SCP-049-J、「ペスト野郎」さんだった。
「仕方ないですよ。財団がそう決めた訳ですし、ほら、収容から雇用に移行しただけでも万々歳ですよ。」
「むむむむむ......」
ふと彼の台車に目をやると、何やら機械部品の詰まった輸送ボックスと共に乗っている、目力の強い真っ白けと視線が合った。
「ちょっと ぺすとやろうさん? そのひと、しゃいにんぐがい ですよね?」
この人(?)はSCP-040-JP-Jで知られた「ねこ」さんだ。空調設備の定期点検を担当してるらしいから、多分一緒に運ばれてる機械部品はそのための道具なんだろう。
「むむむむそうだな......。顔を見ると灼熱の光を放って、見た者の目を焼き尽くすとか、むむむ」
ねこさんの言葉に、タクシー代わりにされてるペストさんが答えた、と思ったら......
「せっかく あつくないのに、しゃくねつなんて ねこは ごめんです。ねこは にげますね。」
「え、あ、ちょっと......」
「あぁ!逃げるな!......うーむむむ、ある意味本家のシャイガイよりも悪疫か、むむむむ......」
光ってるのは僕の特徴なのに、結局比較対象に出てくるシャイガイ。悩みゲージがまた溜まる......。
「............シャイガイよりも。うん。かもね......。」
夕食時。
「えーとこの荷物は、葉ヶ玉博士のオフィスか......」
今度の荷物は、サイトの図書室からの貸出の本。分厚い図鑑が10冊くらい、台車にドンと積まれてる。
コンコン。
「貸出の図鑑のお届けですー。」
扉をノックし、声をかける。
「オーケーオーケー、今鍵開けるから待っててなー!」
待ってましたと言わんばかりに、葉ヶ玉博士の声がする。
部屋に入ると、葉ヶ玉博士は夕食のチキンを食べていた。辛いやつらしく、頭皮の顕なその頭には、じんわりと汗が浮かんでいる。
「油で汚すといけないから、とりあえずそこのデスクの脇に積んどいてくれ。......ご苦労。良かったら君もチキンつまむか?」
博士はそう言った後、数秒間固まって、僕のヘルメットに目をやっていた。
「......そういや、シャイニングガイ君はそれでどうやって夕食を?」
まぁこれも僕の異常性。
「僕は、食事は元々しないので。」
「あー、そっか096もそうだったっけか。いや、羨ましいよ。」
葉ヶ玉博士は、納得顔でそう言った。うん、もう良いよ......。
「聞いたぞ?君は頭が殺人的に光ってるって。私と同じだ!ガハハ!......それでメットを脱がなくっても過ごせるんなら、ツルピカ頭を見られなくって済むもんな!」
夜。1日分の業務を片付けた僕は、自室へと戻り、シングルベッドの端にふぅ、と腰を下ろす。既に悩みゲージは振り切れていた。毎日の事ではあるけれど。
「......あぁ、皆何も分かってないな......。」
結局、僕の悩みはそのまんま。
僕は頭に手をやって、遮光メットのロックを指でカチッ、と外す。
「結局全部、僕のこの名前が悪いんだ......。」
遮光メットの中からは頭ではなく、白熱した光を放つ灼熱の電球が現れる。
「僕は......、僕はSCP-1093 - ランプマンのパロディなのに......。」
SCP-1093%20-%20The%20Lamp%20Man