かつて図書館だった場所。
評価: +45

クレジット

タイトル: かつて図書館だった場所。
著者: ©︎Tachyon Tachyon
作成年: 2019

評価: +45
評価: +45


そこはかつて図書館だった場所です。



その図書館には様々な本があった。

誰かを静かに恐怖させる本があった。

誰かがふと微笑んでしまう本があった。

誰かが確かに共感する本があった。

誰かがひとりでに奮い立つ本があった。

誰かが書き手の才能を羨む本があった。

新たな本を産み出そうと決意した、誰かの背中をそっと押す本があった。

誰もが読めた。誰かが読んだ。特別気に入った本を、借りていく者もいた。




そこはかつて図書館だった場所です。



司書は去った。

或いは、己の血肉の欠片を残し。

或いは、己の血肉の欠片と共に。

そうして図書館だった場所は、いつしか図書館ではなくなった。




そこはかつて図書館だった場所です。



今は亡き光芒に縋る異形の書は。

死に希望を見出だす人々の書は。

奇妙な発想を喰らう大鯨の書は。

光年の彼方で人を憎む星の書は。

かつて書架に並び、読まれ、評され、書架より溢れたあらゆる書は。

今はない。




しかし、そこはかつて図書館でした。



そこには、確かに本があった。物語があった。

読み手が抱いた想いがあった。




いまや、そこは図書館ではありません。

あらゆる書はいずれ朽ちる。


過去をも喰らう虚ろの書も。

拡散する情報たるの書も。

帰郷を望む集合意識の書も。

死角より首折る彫像の書も。

やがてそれらの目録たるすらも。


すべては過去となるだろう。

それでも、物語は在り続けるだろう。

綴られた幾千幾万字を忘れようとも。

一冊を読み終えて本を置き、目を閉じて、何かを想ったあの瞬間を忘れることはないだろう。





私は、憶えている。
貴方も、きっと。



そこには、かつて、確かに──。








ページリビジョン: 10, 最終更新: 10 Jan 2021 17:29
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