クレジット
タイトル: SPC-3316-JP - 亡霊サメ迎撃用サメ霊体ミサイル
著者: Enginepithecus Enginepithecus
作成年: 2024
中央情報管理局ならびにプロジェクト運営事務局C I C A P O C Oによる通達
SPC-3316-JPは現在構築が一時的中断状態にあるプロジェクトです。
本プロジェクトが殴打対象と指定する亡霊鮫科存在に対して現実的な有効殴打手段は現在発見されておらず、早急な手段確立が急務です。
プロジェクト番号: SPC-3316-JP
鮫科殴打ケイパビリティ: SPC-3316-JPは超攻撃的霊体鮫科存在への即時迎撃的な殴打システムとしての運用が期待されます。熟練殴打エージェントのみならず見習い、新人までもを含めた全殴打エージェントへのSPC-3316-JPの配備は "SoI-2013 - 亡霊サメ" への早急な迎撃殴打を行う為の急務です。
プロジェクト構成: SPC-3316-JPは要即時殴打対象と見做されるSoI-2013への間接殴打計画であり、生存状態で拘束された各種鮫科存在を構成要素として含みます。
以下は本プロジェクトによる殴打対象となるSoI-2013についての要点抜粋資料です。
SoI-2013 - 亡霊サメ
確認時期: 2023年12月28日〜現在
現状: 未殴打
性質: 極めて攻撃的
形質と能力: 推定全長2〜3m霊体状の身体を持ち、物体に対する一方的な物理干渉が可能。空中や物質中を遊泳し、瞬間的な転移を行う。また断続的に身体各所から無秩序に余剰頭部が突き出しては引き戻る変形を繰り返す。(複数の証言と、不鮮明ながらSoI-2013を捉えた2件の映像により確認)
現時点で7名の殴打エージェントが遭遇。遭遇地域はいずれも完全にバラバラであり、畑、空中、家屋内の水道等からの出現も確認される。遭遇者の内2名の上級殴打エージェントは直ちに応戦、殴打を試みたが拳は霊体を擦り抜けて空振りに終わったと報告されている。また新人3名を含む他の5名の遭遇者の事例ではやはり殴打が通じない中で一方的な噛みつきを受けて負傷。その内1名と同伴していた目撃者からは「SoI-2013が嘲る様な笑い声にも聞こえる唸り声を上げた」、「此方に来い、との人語を発した様に聞こえた」、等の証言も確認される。
遭遇者を含めてセンターの誇る殴打エージェント達はSoI-2013の殴打に対して極めて意欲的であり、殴5-02に代表される様な自身を霊体化する方法を用いれば可能ではないか、と彼女への直接の弟子入りを志願する声すらも聞かれますが、直接的な霊体化や一時的な霊体化変異はいずれも付け焼き刃で習得できるスキルではない為SoI-2013への即時的な殴打手段としては不適当であるとの事実があります。
以上の事から、短期的な集中鍛錬によって習得可能な殴打手段として考案されたのがSPC-3316-JPです。小型〜中型の鮫科存在を羽根の付いた円筒状の拘束具によって拘束し、これらは生存を保った状態でエージェントに携帯されます。配備可能数に上限がある事から、各地のセンター拠点にて複数セット常備した5匹入りパックから殴打エージェントが遠征時に都度貸し出しの形で持ち出す形で運用します。全殴打エージェントは本日付けで直ちに殴打による霊体ミサイル発射の訓練を開始し、1ヶ月以内の習得を義務付けるものとします。発射の手順は以下の通りです。
1拘束された鮫科存在をパック内から取り出す%E3%83%9F%E3%82%B5%E3%82%A4%E3%83%AB%EF%BC%91.jpg
2殴打エージェントは後部より強靭な殴打を瞬間的に叩き込む
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3 2によって鮫科存在は肉体を破壊されるが極めて瞬間的である為に自身の死亡に気付くことなく霊体として形状を保ち続け、そのまま撃ち出されてSoI-2013へと着弾する
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これにより間接的な霊体殴打のみに留まらず、サメミサイルの直接殴打との一拳二鮫で効率化された鮫科存在殴打が可能となります。その一方で発生する前述の配備数問題に対処するため、ミサイルの素材となる鮫科存在の緊急確保を目的として各地の水族館や海洋生物研究機関、それに加えてWWS、日本生類創研、回転寿司 勝、Fluxio等の鮫科存在群の多数保有が予測される団体への襲撃も計画されています。
追記: 2024年3月10日現在、本プロジェクトはセンター南太平洋支局所属の統括であるギル将軍からの度重なる中止要請によって実施へと至っていません。以下はギル将軍による声明です。
現在進行中だという霊体ミサイルのプロジェクトに、私は断固反対だ。この運用は大量殺戮に等しい。今一度冷静に思い出すべきだ、我々の理念はサメを殴る事にあり、殺す事には無い。
SoI-2013と名付けられた件の亡霊サメへの殴打について、我々センターのほぼ全ての者達が前のめりであり意欲的である。だがこの亡霊自体が何に由来するかを我々は見返すべきなのだ。1名だけだが、この亡霊との遭遇からセンター脱退を申し出た新人殴打エージェントがいただろう。亡霊サメ出現の原因について私の見解は、彼が脱退届で示した推測と同一のものだ。あれはサメを殺す者への、そしてそれを統括する者達への怨嗟そのものの塊だ。ただ一匹のサメなどではない、数多の怒れる魂達の集積だ。
あの亡霊は、全身から幾つもの異なる頭が突き出しては消えていく。複数の証言や映像から明らかなこの事実は、混沌とした亡霊の内面を象徴しているのだろう。彼らは統制の取れた単一の意思などは無く、ただ己を意味も無く屠った存在への怨嗟によって歪に繋ぎ止められている。そして私自身は彼らの中からサメの肌をした五指の拳が突き出されたなら、亡霊達へと己のこの身を差し出さねばならない。亡霊達の中から人語が発されたのが事実なら、その日は遠くないだろう。かの亡霊とは、我々自身が犯してきた罪そのものの写し鏡なのだ。
亡霊を殴る為にまた無数の鮫科存在を殺戮するならば、それは亡霊達をより憤怒させ、撃ち込まれる霊体を自身達に同化する事で更に強大化させ混沌に輪を掛け、今以上に致命的な敵対という結果に終わるだけだろう。そればかりか考えられる最悪のシナリオは、融合自我の完全な崩壊による人類全体への被害の拡大だ。現時点で既に頭が全身から突き出しては戻りを繰り返す程に不安定な融合自我なのだ。そこに幾度も無数の霊体を繰り返し注ぎ込めば、今ある "センターだけを狙う" という僅かな理性すら失われかねない。
「サメを殴る」、それだけが我々の理念なのだ。いたずらに殺戮を繰り広げるのは我々の理念を履き違えた行為であり、しかも本件については危険性上限の予測すらつかない。このようなミサイルは到底許されるべきではない。
— 南太平洋支局所属統括 ギル将軍