クレジット
翻訳責任者: Kokorikyo Kokorikyo
翻訳年: 2023
著作権者: Uncle Nicolini Uncle Nicolini
原題: Sebastian
作成年: 2022
初訳時参照リビジョン: 12
元記事リンク: https://scp-wiki.wikidot.com/sebastian
「どうしてこうしたのか、教えてくれないか?」
信じられないかもしれないが、俺のきっかけは猫だった。
高校の時、午後のあいだ地域の市長候補の選挙事務所の手伝いに配属されたことがある。二人の友人と共に、ある男のために働いた。
両親は俺たちを選挙事務所まで送ってくれた。事務所の職員は一軒一軒チラシを配ることにさせ、俺たちはトラックに飛び乗り、選挙区である住宅街まで送って行ってもらった。送ってくれた人は二時間後に迎えに来ると言って去っていった。
彼らが去って二分も経たないうちに、付近のどこかから小さな猫が鳴いているのを聞いた。ああ、俺は動物が大好きなんだ。だから近くに子猫がいたとしたらペットにしたかったな。辺りを見回しても何もいなかったけど、その時またおんなじ子猫の鳴き声がして、その声は駐車場の隅に放棄された箱から聞こえていた。俺が近づくと、そこには二匹の子猫がいた。一匹はまだ可愛らしく眠っていて、もう一匹は必死に鳴いていたから、その箱を動かそうとした。
眠っている子は黒猫で、もう一匹の子はぶち猫。その子たちの親はどこにも見当たらなくて、あと数日も生きられなかっただろう。友人らと周りに集まって、その子たちに名前を付けた。黒猫の子はパブロ、ぶち猫の子はセバスチャン。その子たちが遊んでいるのを見たくて、パブロを起こそうとつついてみた。パブロは動かなかった。
パブロは死んでいた。
酷いと思ったよ。俺はできる限りのことをセバスチャンにしてやりたかった。パブロと同じような運命から守る。近くの店に公衆電話を見つけて、友人に小銭を持っていないか訊ねた。彼らからなんとか小銭を二枚集め、二手に分かれることにした。一人はセバスチャンの側にいてやって、俺ともう一人は店に向かった。
店に入り、コインを突っ込みながらできる限り速く母の電話番号を押した。母は数回鳴った後に応えた。俺はセバスチャンを獣医に診てもらわなくちゃならないと必死に必死に説明したが、母はただ俺が馬鹿な猫を心配し、責任を放棄し、何より彼女の時間を無駄にしたことを叱り始めた。
信じられるか?
俺は母に町内の動物病院の電話帳を調べてくれるよう説得した。友人がその番号をメモして母との電話を切り、病院の誰かからもっと同情的な返答が来ることを願った。俺は電話に出た女性にセバスチャンを引き取ってほしいと懇願した。あの子は今すぐに助けが必要なのだと。彼女は既にネコはいっぱいで、これ以上引き取ることはできないと言った。俺は時間を割いてくれたことに感謝し、電話を切った。もう何をすればいいのか分からなかった。
友人と俺は住宅街に戻り、三人で箱の前で合流した。その時唯一の希望は俺たちを送ってくれた人だった。だから待った。二時間の沈黙は、時おりセバスチャンの食べ物や助け、治療を求めて鳴く声に遮られた。
ついにその人が現れた。彼らにセバスチャンを一緒に乗せて獣医のところへ届けてほしいと懇願した。あいつらは何て言ったと思う?「私は猫アレルギーなんだ。できない。」もし俺がもっと年上だったら、セバスチャンを乗せろとあいつらと戦っただろうがな。だが俺は大人に怯えるガキだった。だからセバスチャンを置いて最後に箱を見遣って、トラックに乗った。
選挙事務所に着いたとき、選挙マネージャーから残ったチラシを返すよう言われて、俺たちは家を回りに行かなかったからただチラシの山を返した。彼女は怒り、酷い職務倫理だとか俺たちがどれだけ怠け者のティーンエイジャーかを叫んだ。彼女が選挙運動のためなんてサインするのを拒否したから、俺たちはみんなその課題でF判定を取っちまった。
その日より無力に感じた日は人生で一度も無いよ。だから言わせてくれ、俺は生涯でずっと何か特別なことをしたいと思っていた。死にかけのかわいい子猫を救う事は俺でも可能で特別なことだった。だが俺はできなかった、しなかった。人生で最悪の日は何かって聞かれたら当然あの日だって答えるよ。
そして俺はフィールドエージェントとして財団に入った。模範的な職員で、たまにある忠誠度テストでも非常に優秀な成績を収めた。俺はとてもうまくやった、だから実際この部門にスカウトされたんだ。はじめは単純なものだった。ここへいってこの人を観察しろ。あっちへ行ってあの人を観察しろ。こいつの従兄弟に暴行しろ。あいつの父親を殴れ。
ついには殺人にまで及んだ。財団で何も成さなかった連中をな。初めは俺もやりたくなかったさ。たいていの人間は仲間である人を殺すのに抵抗があるんじゃないかな、わかるか?それも初めは間接的な殺人から始まった。 誰かにシリンを注入する。そいつに致死注射を打つんだ。だがもっと暴力的な要求をされるようになった。そいつの顔面を撃て。その愚か者を塩酸風呂に落とせ。俺はそれに従った。
部門は俺にこう刷り込み続けた。「あなたはこれをすることで財団を手助けしているのです。あなたは世界を救っているのです!」俺はそれを心から信じてた。何より俺は特別だった、そうだろ?財団のために働いてるだけで充分特別だっていうのに、この部門にスカウトされて特別中の特別になった。最高の中の最高だったんだ、世界を護るためなら何であろうと喜んでするよ。
その時は納得できたんだ。言われた通りにやるだけで生涯ずっとなりたかった特別な存在になれたんだ。認めてもらおうと必死になってて、俺が必要とした時にその部門はそこにいた。悲しいことだな?ああ、アンタが俺に抱いてた好意的な印象は消え去ってしまったわけだ、な?あるいはアンタの処分リストに載った時から消えてたか、ふん。
だがその前に、先日のことだ。研究開発部門のアリソン研究員が財団を辞めたいと言った。だから部門は重大な関心を持つアリソンをターゲットとし、排除すべく俺を派遣したわけだ。彼女は病んだ死にかけの猫だ。問題はない、そう思う。今までにだって何人も殺してきた、猫一匹くらいどうってこと無いだろう?
だから彼女がまだサイトに居るうちに彼女の家を訪ねた。中に入ると俺は、年老いて、やせた猫がソファーの上で寝ているのを見た。その子を見てセバスチャンだと思った。同じ斑模様の、同じ悲しげな顔の、同じ哀れな鳴き声の。突然、俺は十代に戻った。突然、あの汚れた住宅街の駐車場に、俺はまた人生で最悪の日に、引き戻されたんだ。
実行できなかった。身動きもできなかった。最悪なのは俺が猫を殺すのにしくじった後、アンタが代わりの誰かを送って実行させたってことだ。俺はもうできないんだ。もう辞めたい。
それが何を意味するかは分かってるさ。辞めようと人間するに何をするのか。アンタが気にも留めないのも分かってる、だからそれを俺にもう一度信じさせるためにやってくれ。分かっているよ、俺はアンタの道具としてここを去るってな。