厳冬より、送り出します......
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Info
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タイトル: アーカイブ#3508: 春についての留書
翻訳責任者: snoj snoj
翻訳年: 2024
著作権者: The Obsidian Shard The Obsidian Shard
原題: 归档#3508:关于春日的记录
作成年: 2024
初訳時参照リビジョン: 5
元記事リンク: ソース
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疑似終末イベント"静寂の冬"が発生した時、本ページを開いてください
砕葉集#52:
遺物、層雲、想像
混沌、覆水、分裂
漠然、混乱、削除
西端、蛾群、迷宮
砕葉集#80:
水桶、触手、寒気
虚構、河流、墓参
錠剤、星光、万物
異星、育種、光年
砕葉集#14:
敦煌、万仏、我流
他郷、遠望、恒星
彼我、闇夜、黎明
衛星、航海、誕生
ひと切れの果肉:
章老人の仕事はすこぶる明快だ。落ち葉をかき集め、その模様を刷り出し、財団のデータベースに送る。それだけである。
これら落ち葉が一体どういうものなのか、彼には上手く説明できない。自分の集めた葉と、普通の葉の違いを言い表すだなんて、なおさら難しいことだ。彼はただ黙って、自身の独特なインスピレーションに従いながら、今日も落ち葉を探し続けるのだ。
時折、一、二輪の散り花に出会うこともある。葉上の言葉に比べ、花上の言葉はより一貫しており、章老人の想像力を刺激する。彼は花の中に、世に出ぬ物語が秘められていることを知っている。しかしながら、彼の拾う花はことごとく暴雨に打たれ、見るも無惨に千切れてしまっていた。
章老人はしばしば、冗談を飛ばす。あの木を見つけたのは自分だから、木が付ける独創的な花葉を見出だせるのも、自分だけなのだと。だが、同僚は皆、彼が大ボラを吹いていると話す。木について訊ねても、彼は何も言い出せず、しきりに手を振り回すだけだからだ。しかしそれでも、落ち葉や散り花、季節の移りに対する彼の感性には、誰しもが疑いを挟まずにいる。──時機が来ればきっと、章老人はパソコンの前で、落ち葉を転写したテキストを眺めることだろう。そして、長い溜め息をつき、言うのだ。「秋過ぎて、たちまち冬がやってくる。ああ、夜が長くなっちまう......時が遅くなっちまう......」
それから、彼は長らく集めてきた花葉をすべて梱包し、あなたの元へ送り出すだろう。
O.Z.研究員による"静寂の冬"疑似終末の記録:
まだ財団に加入しておらず、放浪者の図書館を仮住まいとしていた頃。幸運にも私は、その......実体、いわゆるSCP-CN-3508に出会ったことがあります。
ご存知の通り、SCP-CN-3508はたいへん不思議なオブジェクトです。ソレの前では、既知のあらゆる言語が意味を失います。当オブジェクトもある種の、純粋概念的なアノマリーなのかもしれません。いかなるフォーマットでも記録できませんが、狭義の反ミームを有しているわけではありません。私には、ソレが感じ取れるのです。
ソレはさながら、1本の樹木のようで、図書館の中心で生え育っています。ソレの根っこは深々と、歴史に、代々の集合的記憶に突き刺さっています。ソレは言葉を吸い上げると、枝や葉、花を自由気ままに付けていきます。
司書が言うには、ソレの時間はつまるところ、我々の時間であり、ソレの成長は、我々の成長と同等なんだそうです。春から夏にかけて、ソレは葉を茂らせ、花が咲き乱れます。時折、誰かが授粉のためにやってきて、秋に実が結ぶよう取り計らいます。秋になり、果実が土壌に落ち込めば、ソレは短い厳冬を乗り切り、再びの春を迎えます。授粉する者がいなければ、ソレは延々と、長い冬を過ごすことになるでしょう。
冬、生命は氷の中で圧縮されます。あらゆるものが沈黙し、積雪はうめき声すらも呑み込んでいきます。これがすなわち、"静寂の冬"疑似終末なのです。──宇宙はエントロピーの増大に逆らい、時間ですらも緩慢となります。時が来たら最後、一切合切が凝固して、いかなる生命も存在しなくなります。そして、すっかり忘れ去られたかのように、宇宙のすべてがかき消されるのです。
以上は最悪のケースを想定したものです。一方で、3508の四季変遷に関する館内資料を読みますと、授粉に来る人は段々と少なくなっているようです。冬は着実に、その長さを伸ばしております。
アイテム番号: SCP-CN-3508
オブジェクトクラス: 不適用
特別収容プロトコル: 収容は不可能。
詳細は『アーカイブ#3508: 春についての留書』を参照してください。
説明: SCP-CN-3508は異常な概念で、中心部位は放浪者の図書館に所在しています。情報によると、オブジェクトは"静寂の冬"疑似終末の主要な誘因を構成しています。上記を除き、確固とした情報は今のところ掴めていません。
ご覧の通りです。長過ぎる冬をどうにかして避けようと、我々は夏の花葉を、秋の実と土を集めて参りました。大雪で道が塞がれる最後の瞬間、これらをすべて打ち上げて、あなたの元に贈り届けたのです。
ここまでお読みになりました、SWN-001実体各位へ。授粉は完了しました。皆様のご協力に感謝します。あなたの存在があってこそ、春の日は再び訪れるのです。
授粉の失敗をご心配でしたら、どうぞまた、夏の留書を読んで頂ければと思います。それから、いつもの日常に戻って、あなたの蕾が花開くのを、気長に待ってみてください。