SCP-CN-1001
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クレジット

タイトル: SCP-CN-1001 - 文字、此処で終われり
原題: SCP-CN-1001 - 文字终结于此
著者: ©︎LeafJensen LeafJensen
作成年: 2018

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SCP-CN-1001によって引き起こされた、表語文字簡略化の模式図。

アイテム番号: SCP-CN-1001

オブジェクトクラス: Keter

特別収容プロトコル: SCP-CN-1001との有効な交流手段を確立しない限り、オブジェクトの収容は不可能と考えられています。表語文字を使用する/表語文字の使用を予定している全ての国家・政権・人類文明は、財団中国支部が派遣する工作チームの指示に従い、過度な文字簡略化計画を中止させなければなりません。中止工作には以下のような手段も含まれます:世論誘導・投票操作・暗殺・集団的記憶処理など。

SCP-CN-1001の影響を全体/部分的に除去するため、「プロトコル-倉頡そうけつ」によって全体/部分的な形態素の除去を実施した国家は、プロトコルの実行から50年間、国民の知的水準を監視しなければなりません。成人の知的/認識能力の平均水準が著しく下降した際は、機動部隊-庚辰-17("九章粗密")が該当国の学術/技術機関を接収・管理して、該当地域の水準を一定に保つようにしてください。また、新生児に対しては洗脳を用いた知力強化療法を施し、オブジェクトの影響遺伝性を排除しなければなりません。

SCP-CN-1001の存在が確認されて以来、1度も表語文字を使用したことのない国家は、表記体系に対する官民の反応を引き続き監視してください。官民の態度に大規模な変化が生じた際は、オブジェクトの影響がみられないか調査しなければなりません。

説明: SCP-CN-1001は表語文字の体系に発生する異常な現象です。表語文字を筆記に使用する国家において、オブジェクトは官民を問わない文字の簡略化運動を繰り返し引き起こすと共に、"サピア=ウォーフ"プロセスの大幅な進行をもたらします。今の所、SCP-CN-1001はある種の知的実体が作為的に発生させているものと考えられていますが、その目的は明らかとなっていません。推測では、極度に簡略化された表記体系と、"サピア=ウォーフ"プロセスの進行を通じて、人類の知的水準と認識能力に打撃を与え、AK-クラス: 世界終焉シナリオを誘発させる意図があるとみられています。

現時点で、SCP-CN-1001が表語文字を採用していない国家において発生した例は確認されていません。オブジェクトがもたらす影響を回避/除去するため、表語文字を採用している国家は「プロトコル-倉頡」を実行して、表記体系を非表語文字(音節文字、音素文字等)へ能動的に切り替えることが許可されています。

SCP-CN-1001の根源とみられる実体に対する交流の試みは、すべて失敗に終わっています。また、各国で発生したオブジェクトが全て同一の事象であるかについては、今もなお明らかとなっていません。現時点での仮説に則り、国家別の事象には異なるナンバーを割り振った上で、独立した研究が進められています。最新の研究状況は補遺 CN-1001.2 を参照してください。

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第二次漢字簡化方案(後、財団中国支部によって無力化)において作成された、極度に簡略化された漢字の実例。

中国の歴史上、SCP-CN-1001-中華と疑わしき文字簡略化運動が、少なくとも10件確認されています。
以下は記録の抜粋です:

不詳 - 紀元前 997 年: 甲骨文字から金文に移行。この間、█%の文字が簡略化される。
紀元前 723 年 - 紀元前 612 年: 金文から籀文に移行。この間、██%の文字が簡略化される。
紀元前 221 年 - 紀元前 215 年: 籀文を崩し、篆書体を作成する。簡略化成功。
紀元前 214 年: 篆書体を崩し、鳥書体を作成する。簡略化失敗。
紀元前 213 年: 篆書体を崩し、殳書体を作成する。簡略化失敗。
紀元前 212 年: 篆書体を崩し、[データ削除]。簡略化失敗。
紀元前 210 年 - 紀元前 206 年: 篆書体を崩し、隷書体を作成する。簡略化成功。
698 年 - 700 年: 隷書体を崩し、楷書体を作成する。簡略化成功。
1488年02月09日 - 1493年10月01日: 隷書体を崩し、[データ削除]。中華異学会の介入により、簡略化は失敗。代わりに宋朝体が創作される。
1956年02月01日 - 1959年07月15日: 《漢字簡化方案》が発表される。財団中国支部の介入により、████字の簡略化が撤回されたものの、最終的に517字の簡略化に成功する。
1977年12月20日 - 1986年06月24日: 《第二次漢字簡化方案》が発表される。財団中国支部が計画の無力化キャンペーンを大々的に展開したことで、簡略化は失敗。同時に《簡化字総表》を発布して、漢字簡略化運動を徹底的に取り締まった。しかしながら、《簡化字総表》内においても、《第二次漢字簡化方案》にて作成された文字が3字(「炖」「█」「█」)見つかっている。

プロトコル-倉頡の実行申請:

O5評議会へ:
ここ数十年来、SCP-CN-1001-中華は激化の一途を辿っており、漢字の簡略化運動を何度となく引き起こしています。国民の知的水準と認識能力を守るためにも、SCP-CN-1001-中華の影響から脱しなければなりません。ここに、プロトコル-倉頡の実行を申請します。漢字を廃止して、音素を用いた表記体系に改める予定です。

——財団中国支部 周██
1986年8月1日

申請を棄却する。
我々中華民族は殷商以来、漢字を頑なに誇りあるものとしてきた。漢字の形は気迫と雄大さを兼ね備え、美しさをも内包している。漢字の字義は明快で、脈々と受け継がれてきたものだ。漢字の音は剛直で、転がるように快い。漢字は今日に至るまで、幾度となく変化を遂げてきた。字形の数は万を下らず、1画1画、とめ・はね・はらいに至るまで、どれも中華という精神が投影されたものと言えよう。漢字を廃止することは、すなわち中華文明を根本から断つことに繋がる。

かつて、秦朝が天下を統一した頃、戦乱が収まる一方で、アノマリーが勃興した。秦が滅ぶまでの20年間に、漢字は5回も異常現象に巻き込まれた。しかし、それでも漢字はしぶとく生き残り続けた。今日、財団の戦力は十分に精強である。たった2回しか経験していないというのに、何を恐れているというのか?

中華文明は夷狄に属さず。我々は総力を挙げて漢字を守り、文明の輝きを保ち続ける必要がある。機動部隊-庚辰には、漢字の教育基盤を安定させる役目を担わせている。いかなる代償を払っても──たとえ、文明を維持できなくなったとしても──漢字を絶やしてはならないのだ。

——O5-12

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SCP-CN-1001-日本に影響された漢字および、プロトコル-倉頡に基づき作成された仮名文字の案。

3世紀頃に漢字が日本に伝来して以降、SCP-CN-1001-日本は日本列島において、4度の文字簡略化運動を引き起こしています。
以下はその記録です:

466 年 - 471 年: 漢字を崩し、[データ削除]。簡略化に失敗し、万葉仮名を発明する。これ以降、日本語は表語文字と音節文字が混在する表記体系に突入。
851 年 - 855 年: 漢字-万葉仮名混じりの表記体系が崩され、[データ削除]。簡略化に失敗。万葉仮名を崩し、草仮名を作成する。
997 年 - 999 年: 漢字-草仮名混じりの表記体系が崩され、[データ削除]。簡略化に失敗。草仮名を崩し、平仮名を作成する。
1946年01月23日 - 1946年11月16日: 漢字-平仮名混じりの表記体系が崩され、[データ削除]。財団の介入により、簡略化は失敗。平仮名に関しては簡略化する余地が残されていないため、改定できず。代わりに《当用漢字表》を頒布し、使用可能な漢字の数を1850字に制限した。

プロトコル-倉頡の実行申請:

O5評議会へ:
日本におけるプロトコル-倉頡の実行に際して、具体的な計画を策定するため、文化や教育分野の専門家から多くの私案を募りました。大まかにまとめますと、仮名文字への全面的な移行や、ローマ字表記法の採用、公用語に英語または仏語を使用する等です。この件に関しまして、評議をお願いいたします。SCP-CN-1001-日本が自国で傍若無人に暴れまわることを、私達はこれ以上看過できません。

——財団日本支部 高杉██
1968年2月11日

申請を棄却する。
確かに、漢字は舶来の事物である。しかし、我が国の歴史に融け込んで以降、漢字は国民の思想や感性に対し、千数百年以上に渡って影響を与えてきた。日本は長らく、固有の文字を編み出してこなかったことを悔やんでいた。しかし、漢字を受容したという事実は、祖先が自らの"サピア=ウォーフ"を選択したことを意味している。

私が当初、SCP-CN-1001の特性について、"サピア=ウォーフ"プロセスを劇的に進行させるものと定義した時、謎が解けた爽快感を味わうと共に、計り知れない興奮をも抱いていた。なぜなら、漢字を使い続けること自体が、オブジェクトがもたらす"サピア=ウォーフ"プロセスへの、効果的な対抗策であることに気付いたためだ。

無論、SCP-CN-1001-日本は着実に勢いを増している。さながら、人智を呑み込もうとする、飢えた怪物のようである。だが、私は我々がこいつを餌付けして、飼いならせることを確信している。これは逃亡ではない。怪物が初めて暴れ出した時、先人達は大量の漢字を餌にすることで、こいつを400年間満足させることに成功した。その後、先人は漢字を元に仮名を創り出し、それを餌に用いることで、900年も持ちこたえることができたのだ。《当用漢字表》が制定された時、我が国は大戦で敗北し、四面楚歌に陥っていた。我々は再び、数万の漢字を犠牲にしてしまったというのに、今度は完全に排除するときた。

仮名と漢字は陰陽の関係にある。両者の調和がとれたことで、音節と表語が同居するという、世界で唯一の表記体系が形成された。これこそが、日本文字の優美たる所以である。漢字の数を増減させることで、バランスの良い表記体系を作り出す。これは"サピア=ウォーフ"プロセスに逆らい、あの饕餮の如き野獣を飼いならすことに繋がる。

逃げるは恥で、役にも立たない。しかと心に留め置くことだ。

——O5-3

同年、《当用漢字表》に新たに34字が追加されました。また、1977 年、1989年にもそれぞれ55字、89字が追加されています。2010年に頒布された《常用漢字表》は2136字から構成されており、残る28███字についても、段階的な追加が予定されています。

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SCP-CN-1001-半島の影響を回避するため、プロトコル-倉頡にて提示された改革案の原文。作成者の情報(右上隅)には特殊な機密処理が施されている。

日本とほぼ同時期、朝鮮半島/韓半島にも漢字が導入されました。その後、SCP-CN-1001-半島による文字簡略化運動(下記)が発生したことで、半島ではプロトコル-倉頡がほぼ全面的に実行されることとなりました。

1440年12月27日 - 1443年10月04日: 半島各地で簡略化運動が同時多発的に発生し、1ヶ月に渡り持続。大衆は盛り上がり、王室も支持を表明したために、王朝は漢字廃止案を速やかに受諾しました。しかしながら、漢字の廃止後、半島の表記体系は機能不全に陥り、SCP-CN-1001-半島の影響で"サピア=ウォーフ"プロセスが急速に進行。漢字廃止を支持する住民の思考・分析能力は著しく低下しました。この状態は2年に渡って継続したものの、当時の財団は大規模かつ有効な知力回復手段を所持していなかったために、暫定的な対策として、半島内の全ての行政機能を代行しました。同時に、財団はSCP-CN-1001-半島の影響を受けていない█名の人員を保護。これには当時の最高執政者であるS█████も含まれました。最終的に、S█████はプロトコル-倉頡の改案を起草。漢字を保存しつつ、音素文字であるハングルをベースとした表記体系を発布することで、SCP-CN-1001-半島によるさらなる被害の回避に成功しました。

プロトコル-倉頡の実行申請:

財団に勤める人士達へ:
朕は漢字を切愛している。重なり合う音義が、我が国が信奉する大極や陰陽を彷彿とさせるからだ。

異常は我が国から漢字を奪い去ってしまった。原因については、朕の知る所ではない。文字が人の思索に影響することを、朕はしかと知覚している。だが、異常がこれほどまでに危険なものであるとは、まるで知る由もなかった。臣民も王家も、皆たちまちにして心を失い、無学者となってしまった。

この二年間、朕は針のむしろにいた。漢字は実に捨て難いものである。しかし、苦しみに喘ぐ臣民の姿は、見るに堪えない有様であった。故に、朕は心を鬼にして、ラテンやギリシア、オロシャと変わらぬ構造を持つ、この《訓民正音》を創ったのだ。表語文字に限りなく寄せたこの文字の形は、恐らく朕の私欲の表れであろう。

之を広め、教えることについて、財団の介助を請いたい。

——S█████ 李█
1443年10月4日

誠に遺憾ながら、他に選択肢はございませんでした。

私どもはやっとのことで、現存の漢字に対する保存工作を完了させました。これは財団が設立されて以来、初めて起きたSCP-CN-1001の実例でございます。用心が至らなかったことに関しまして、半島の人民、そして陛下に対し、深くお詫びを申し上げます。

このような悲劇を2度と繰り返すことがないよう、財団は収容プロトコルを制定し、専門の機動部隊を編成する予定です。

陛下、私どもは約束いたします。半島から漢字が消え去ることはありません。何十年、何百年が過ぎようとも、財団は力を蓄え、半島に漢字を持ち帰ることでしょう。

確保、収容、保護。

——O5-12

プロトコル-倉頡の発効後、財団は新生児に対して、幼少期からハングルを教える計画を実行しました。SCP-CN-1001-半島の活動は抑制され、今日に至ります。19██年からは財団の支援の下、半島市民に対する世代別の漢字教育計画が改めて始まりました。

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SCP-CN-1001-越南に対抗するため、プロトコル-倉頡を実行した当初のベトナムの文書。

これまで、SCP-CN-1001-越南は小規模な活動を繰り返し引き起こしていたものの、財団の保護の下、全ての活動を鎮圧してきました。20世紀初頭まで、ベトナムは漢字を使用し続けていましたが、SCP-CN-1001-越南が政府を巻き込んだ形で発生したために、プロトコル-倉頡が申請・実行されることとなりました。

1867年11月20日: 著名な学者であった阮██を首領とする団体が、財団に対して大規模な防諜工作を実施。同時に、表記体系を漢字から「字喃チュノム」に移行するよう、当時のベトナム皇帝・嗣█へ秘密裏に奏上することに成功しました。阮██は既にSCP-CN-1001-越南がもたらす"サピア=ウォーフ"プロセスの影響を受けており、同時代のベトナムの大衆とは大幅に乖離した思考方式を有していました。皇帝は本来、オブジェクトの影響を受けていなかったものの、奏上を読んだ所、彼の思考方式にも一部変化が生じました。財団エージェントは迅速に事態を察知して、宮廷を誘導。皇帝に奏上を棄却させました。しかし、皇帝はその後も同様な改革令を次々と頒布して、漢字体系のうち█████字を字喃に置き換えようと試みました。

プロトコル-倉頡の実行申請:

財団よ、読め:
お祖父様は狂った。我は狂いたくない。まだ狂っていない。チュノムは人心を操り、漢字を取り除く。やらなければ、我は抑圧される。財団は、我を抑える。我を狂わせ、漢字を無理やり使わせる。

越南の民のため、我は漢字を除かねばならない。チュノムを除かねばならない。ラテンの文字を使おう。声調をつけよう。欧化を徹底しよう。

財団よ、我を助けてくれ。あのフランス人どもに公布させろ。これなら、だれも、はんたいしない。

はやく。

——越南皇帝 啓█
1918年12月28日

承知いたしました。
陛下の苦しみを完全に理解した訳ではございません。しかし、財団は世界大戦の後始末に追われた結果、力をすっかり使い果たしてしまいました。あなた方がこれを良策だと考えるのであれば、直ちに計画を策定し、実行に移らせて頂きます。

極東という同じ文化圏で生まれたというのに、あの伝統文化に拘る方々とは異なる考えをお持ちのようですね。喜ばしいことに、あなた方は「植民者を利用した被植民者」として、歴史にその名を刻むことでしょう。

——O5-7

その後、フランス領インドシナ政府は声明を発表。漢字や字喃の使用・教授をベトナム全域で禁止すると同時に、表記体系をラテン文字へ転換する決定を下しました。これを受け、SCP-CN-1001-越南の活動は収束しました。

上述の通り、SCP-CN-1001は漢字文化圏に属する主要な国家において、古くから頻繁に活動してきました。財団は対処のノウハウを少しずつ積み重ねた末に、現在の万全な防衛体制を築き上げました。1986年以降、特筆すべきSCP-CN-1001事象は発生していません。


その他の特筆すべきSCP-CN-1001事象:

  • SCP-CN-1001-西夏 中国西北部・西夏王朝にて発生。史料分析によると、表語文字である西夏文字が異様な速さで漢字を置換した後、西夏の経済/軍事力は瓦解し始め、長らく盟友であった国家との戦争に突入。最終的に、侵入を繰り返すモンゴル軍によって滅ぼされた。
  • SCP-CN-1001-埃及 古代エジプトにおいて、何度か活動したと思わしき記録が存在する。紀元前████年より、古代エジプトは表語文字(神聖文字、ヒエログリフ)を表記体系に用いるようになった。紀元前███年と後████年、神聖文字は「神官文字(ヒエラティック)」と「民衆文字(デモティック)」へと簡略・分化された。これは古代エジプト文明が末期、急速に衰退した大きな要因と考えられている。ローマ帝国に征服される直前、古代エジプトでは表記体系を単子音文字に簡略化する試みが行わたものの、成功には至らなかった。
  • SCP-CN-1001-大脚 いくつかの証拠から、SCP-1000が瞬時に滅亡した原因の一つであることが明らかとなっている。財団中国支部の范██博士(言語学専門)の指摘によると、SCP-CN-1001は古代人類がSCP-1000の文明から盗み出して使用した"ミーム兵器"の可能性があるとされる。
  • SCP-CN-1001-擬人 [編集済]

言語相対性仮説と文字ミームの関連性に対する研究報告(抜粋)

范██,2018年11月25日

1. 前言

21世紀に突入して以来、脳波を分析する技術が急速に整備された。これに伴い、人間の思考を可視化・解読する研究もまた、目覚ましい発展を遂げるに至った。このうち、言語野内の電気信号に関する研究からは、言語や文字が人間の行動に影響を与えるという、興味深い推論が得られている。

2. 理論

一般的に、人間の視覚/聴覚より発生した電気信号は、脳内の視覚性/聴覚性言語野へと進入し、そこで他の言語野と影響し合うことで、対象の行動を制御している。

人間は視覚や聴覚などから、言葉の意味を取り入れている。言語野はそれらを長年データマイニングすることで、全体の神経網を構築してきた。正負の入り混じったフィードバックを通して、言語や文字と人間の行動に、相互作用の関係を成り立たせているのだ。

文字ミームというものは、視覚性言語野における異常な神経衝撃とみなすことができる。これは自己適応型の電気信号と言うべきものであり、言語野に進入し、個体の神経網に適応することにより、その出力は異常の無い文字の103 倍に達する。

瞬間的な高出力の伝達は、言語野の各部にダメージを与える。これにより、文字ミームの特性が迅速に吸収され、対象の行動・思考様式をミームに適したものへと完全に上書きしてしまう。文字ミームによる"サピア=ウォーフ"プロセスの進行速度は、通常のそれと比べて106倍にも跳ね上がる。

上記のような、文字ミームが個人の行動プロセスを急速に変異させる現象を、強化型"サピア=ウォーフ"プロセスと呼ぶことにする。

3. 例証

SCP-CN-1001は文字ミームの一種であり、強化型"サピア=ウォーフ"プロセスを引き起こす。過去に発生した多くの事例からは、オブジェクトが人間の脳に対し、極めて効果的に作用していることが伺える。SCP-CN-1001に関する長年の研究からは、以下の3つの趨勢が明らかとなっている:

  • SCP-CN-1001が初めて発生したとされる時点は、調査が進むにつれ絶えず繰り上げられている。これは、SCP-CN-1001が人類史の始まりとほぼ同時に発生したことを示唆している。
  • SCP-CN-1001の活動回数が増えるにつれ、オブジェクトは"自己進化"的な特徴を有するようになる。そのため、強化型"サピア=ウォーフ"プロセスの効率は継続的に高まっていく。
  • SCP-CN-1001-大脚およびSCP-CN-1001-擬人に関する最新の調査では、SCP-CN-1001は脳が人間と██%以上相似している種族に対しても作用することが判明している。
4. 分析

以上の研究から、SCP-CN-1001は自我意識を持つ文字ミームであると考えられる。

これは私が導き出せる唯一の合理的な結論である。

私の仮説では、オブジェクトはある種の高次存在であり、我々の時空に自らを投影しているものと推察される。オブジェクトは人間の手を借りて、先の文明を徹底的に破壊した後、我々に輝かしい勝利を得たとの認識を植え付けることで、人類をこの星の支配者に仕立て上げた。

オブジェクトは文明が生き生きと発展していく様を楽しんでいるが、自身の本質が気付かれそうになると、いとも簡単に文明を葬り去り、その留飲を下げようとする。また、このプロセスを通じて、オブジェクトは大幅な進化を得られると推測される。

もしかすると、オブジェクトは我々に恐怖を抱いているのかもしれない。

5. 提言

安全な表記体系なんてものは存在しない。

SCP-1000に対する言語学や文字学の最新の研究成果によれば、彼らの使用言語にはアナトリア語派との類似点が見られると共に、原シナイ文字に似た、音素文字による表記体系を用いていたとされる。

したがって、非表語文字がSCP-CN-1001の作用に免疫を持っているとは限らない。オブジェクトは恐らく、侵攻の機会を伺っているのであろう。もし人類がここで手を抜けば、次にアノマリーの域へと組み込まれるのは、己自身になるかもしれないのだ。

我々にはもう、わずかな時間しか残されていない。


SCP-CN-1001-腓尼基フェニキア 活動摘要

2018年12月5日、国連およびローマ教皇庁、[編集済]の3者が同時に声明を発表。当声明は全ての周波数を通じて、継続的に拡散されました。これは財団の監督を無視したものであり、フェニキア文字より派生した音素文字体系に対する、大規模かつ強制的な簡略化を促すものでした。

簡略化を受けた文字は総じて円形へと変化しており、識別は困難です。対象にはラテン文字、キリル文字、ヘブライ文字、ギリシャ文字などが含まれます。

音素文字に対しては、SCP-CN-1001への防衛プロトコルが迅速に展開できなかったために、上述の文字圏に対する財団の影響力は完全に消滅しました。

現在、財団中国支部はAK-クラス:世界終焉シナリオへ向けた準備を進めています。

現在、SCP-2000の起動を検討しています。

SCP-CN-1001-腓尼基による強化型"サピア=ウォーフ"プロセスを受けた人物に関しては、意思疎通が不可能となっています。これを受け、彼らの脳波を解析することにより、思考内に残存する有用な情報を抽出する試みが行われています。SCP-CN-1001-腓尼基の影響を受けた99.██%の人間からは、以下のような情報を獲得できます。

やりなおそう

現在、財団中国支部は SK クラス:支配シフトシナリオ へ向けた準備を進めています。


ようこそ、監督者よ。

悠久の歴史を股にかけて、我々は無数のアノマリーを収容してきた。思えばそれは、無限に続く螺旋の小道だったのかもしれない。進めば進むほど、より多くの、濃霧の如き未知がこちらへと向かってくる。

折り鶴、レコード、氷山、星雲......我々はさながら、人類文明のコレクターであると言えよう。我々は研究者の皮を被りながら、こうした異界からの迷子達を、ぼんやりと眺めていたのだ。

我々はミームやヒュームといった概念を定義して、それらの存在を無理やり解釈した。現実錨や複製器を作り出すことで、自分達の存在を保ち続けられると確信していた。

我々はそれらの意図を探らず、ただ保護について論ずるのみであった。これはまるで、頭の天辺に一層一層、堅固な塁を積み上げているようなものである。足下の地面は、既に陥没を始めていたというのに。

これが彼ら来の計画であるかについては、我々には知る由もない。もしかすると、場当たり的な復讐なのかもしれない。

いずれにせよ、彼らは勝利した。それでもなお、黒き月はえ続けている。人類は間もなく、欠ける月の闇に覆われる。月が再び満ちるまで、果たして我々は耐えられるのだろうか?

Footnotes
. 1字でひとつの単語/形態素(意味をもつ表現要素の最小単位)を表す文字体系。現在は漢字のみが世界で使用されている。
. 別名「言語相対性仮説」。人間は使用する言語と文字に応じて、思想や認知範囲が決定・制限されるという理論。
. ひとつひとつの文字が音節を表す文字体系。日本の仮名文字などがこれにあたる。
. ひとつの文字または複数の文字を組み合わせることで、ひとつの音節を表す文字体系。ラテン文字などがこれにあたる。
. 漢字をベースとして、形声や会意、仮借等の造字法を用いて、ベトナム語を表した文字。
. 全ての文字が子音を持つ表記体系。適当な母音を補わなければ読むことができない。音素文字の一種で、アラビア文字などがこれにあたる。
. 范██『言語相対性仮説と文字ミームの関連性に対する研究報告』,2018。
. 大脳皮質に位置しており、思考や意識、言語の表現といった知的活動をつかさどる。運動性言語野や感覚性言語野などの領域から成り立っている。
ページリビジョン: 13, 最終更新: 10 Jan 2021 17:21
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