定期メディカルチェック待ちのSCP-976-JP
アイテム番号: SCP-976-JP
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: SCP-976-JPは生物サイト-8102の小型生物用収容室に収容されています。収容室の四隅にはカント計数機が1つずつ設置されており、収容室内の空間中のヒューム濃度およびSCP-976-JPの内部ヒュームを自動的にモニタリングしています。いずれかのカント計数機がヒュームの著しい不均衡を検知した場合、即座に無臭性の鎮静ガスが噴出されSCP-976-JPを無力化します。
上記以外の基本的な取り扱いは標準的小型ネコ科生物取り扱いマニュアルに従ってください。SCP-976-JPを発声によって呼び寄せる必要が生じた場合は、より効率的な取り扱いを行うために「アナ」という単語を使用することが許可されています。同じ職員が一週間以上連続して飼育を担当することは推奨されません。飼育担当の連続勤務は最長でも一週間まで、なおかつ前回の勤務から一ヶ月以上のインターバルを挟んで担当するようにしてください。
説明: SCP-976-JPはヒューム変動能力を有する雌のイエネコ(学名:Felis silvestris catus)です。年齢は1歳から2歳であると推定されています。SCP-976-JPのいずれかの感覚器で知覚可能な領域内のヒューム濃度は、常にSCP-976-JPの内部ヒュームと同じ値に保たれます。SCP-976-JPがヒュームを変動させるメカニズムは不明ですが、ヒューム濃度の固定に伴う各種の空間パラメータの変動は、スクラントン現実錨を用いて同じ値のヒューム濃度に固定した場合と一致します。固定されたヒューム濃度を人為的に低下させる試みは現在のところ成功していません。
SCP-976-JPは特定の条件が満たされた場合に自身の内部ヒュームを変動させる性質があり、それに伴って固定されるヒューム濃度の値も変動します。最も多く確認されているケースは、ヒューム濃度固定領域内にその時点での固定数値を上回る内部ヒュームを持つ実体が侵入した場合です。このとき、SCP-976-JPはただちに自身の内部ヒュームを対象の内部ヒュームよりも僅かに高い値に変動させます。正確な変動上限は不明ですが、実験では██Hmまでの上昇が確認されました。この性質のため、ほとんど全ての現実改変者はSCP-976-JPの周囲で能力を行使することができなくなると推測されます。
また極めて希少なケースですが、SCP-976-JPが非常に強いストレス下で極度の興奮状態に陥った場合、上記の固定的な変動とは大きく異なる現象が発生します。このときSCP-976-JPの内部ヒューム濃度分布に著しい乱れが生じ、0.██Hmから██Hmまで無秩序に入り混じった、マーブル状と形容されるような様相を呈します。この乱れはすぐさま周囲へ適用され、空間中に極度の高ヒュームポイントと極度の低ヒュームポイントが隣接して密集した状態になり、ある種の現実断層と呼ぶべき現象が無数に発生するとみられています。この現象は世界オカルト連合の排撃班一個分隊が収容前のSCP-976-JPと接触した際に一度だけ発生が確認され、これによって分隊構成員13名全員が死亡しました。回収されたヒューム表示機能付き映像記録装置の解析と事後の現場検証の結果、分隊構成員はいずれも超常的な原因で死亡したことが確認されました。
死亡者数 | 死因 |
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3名 | 互いの肉体の部位が無作為に入れ替わり、急性拒絶反応で死亡 |
1名 | 心臓を嘔吐 |
2名 | SCP-976-JPへの掃射直後、ランダムに空間転移したライフル弾に被弾 |
1名 | 肉体が裏返る(財団エージェント到着時点では生存) |
2名 | 正中線に沿って壁に埋め込まれ、血流不全で死亡 |
1名 | 頭部が天井と結合した後、頸部がちぎれ胴体のみ落下 |
1名 | 横隔膜よりも下が床と結合(財団エージェント到達時点では生存) |
1名 | 四肢の末端からほぐされるように分解 |
1名 | 肉体の60%が虫食い状に消滅 |
現実改変者とのクロステストおよび他のオブジェクトの収容への利用に関しては、各部署からこれまでに合計██回の提案がなされていますが、現時点では個体喪失の懸念および自己防衛のための現実断層の発生の恐れから、全て却下および保留とされています。
補遺1: 第██回目の研究班ミーティングにおいて、SCP-976-JPのオブジェクトクラスをEuclidからSafeに変更することが提案されました。理由としては、現在の特別収容プロトコルに基いた収容が容易かつ確実的であると考えられることに加え、現実断層の発生条件が極めて特殊であり脅威度が低いと判断されることが挙げられています。ミーティング出席者の反対多数で正式な変更申請は見送られましたが、反対者の三分の一は将来的な変更が充分ありうるとの意見を表明しています。
アナが......もとい、SCP-976-JPが現実断層を発生させることは恐らくあり得ないだろう。発生のファクターとなる実体はもう存在しないのだし、特別収容プロトコルが順守されている限りは代わりになるものが見つかるとは到底思えないからな。 ――研究主任 ██博士
SCP-976-JPが収容されたのは、GOCがKTE-████-Green "White-Bread"と呼称していた、要注意団体[編集済]の関係者と目される財団未収容の現実改変者の隠れ家です。KTE-████-Green "White-Bread"は民間人とGOCエージェントを合わせて███名以上を殺害あるいは消滅させたことでGOCの現実改変者粛清作戦の対象となり、█年間の潜伏の末に頭部を狙撃銃で撃ち抜かれて終了させられました。狙撃成功後、排撃班の制圧分隊が隠れ家に突入して要注意団体に関する証拠物品の回収を試みましたが、現地で遭遇したSCP-976-JPが発生させた現実断層によって全滅しました。
その後、協定により後方待機していた財団の調査チームがKTE-████-Green "White-Bread"の隠れ家に踏み込み、SCP-976-JPと一冊の日記帳を回収しました。この日記帳はKTE-████-Green "White-Bread"の私有物とみられ、粛清作戦前日までのおよそ400日分の出来事が記述されています。
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「近頃、壊し屋共も来なくなって張り合いがない」と██に相談してみたら、██の奴、妙な提案をしてきやがった。ネコを飼えだって? 気まぐれで退屈しないからだと言っていたが、疑わしいものだ。
オレ達の思い通りにならないものなんてない。オレ達はそういうものだ。言うことを聞かない動物だって反射的に念じてしまったらそれまでだ。退屈しのぎにもなりはしない。██の奴、閉じ込め屋と壊し屋に追われ過ぎて遂におかしくなったんじゃないだろうか。
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[前半は無関係な内容のため省略]
ふと浮かんだアイディア。オレの力で、言うことを聞かせられない生き物を作ってみるのはどうだろう。全能のパラドックスの実演だ。全知全能の神は自分でも持ち上げられない石を作れるか。急に興味がわいてきた。明日にでも試してみよう。
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結論から書くと、狙い以上のモノができた。言うことを聞かせられないなんてレベルじゃない。あいつが近くにいるだけで力を使うことすらできなくなるくらいだ。オレの力は思っていたよりもずっと強力だったみたいだが、正直言ってあまりにも不便だ。力が使えないと日常生活にも困ってしまう。
こんなことになるなら処分方法を考えてからにするべきだった。捨てるか殺すか保健所か。どれが一番閉じ込め屋に気付かれにくいのだろう。奴らは手下をそこら中に送り込んでいるはずだから、保健所に持ち込んだら足がついてしまうかもしれない。
疫病神め。
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[前半は無関係な内容のため省略]
それにしても██め、他人事だと思って好き勝手いいやがって。何が責任もって世話をしろだ。
だがまぁ、殺すと何が起こるか分からないから止めておけ、というアドバイスは納得だ。殺してただの死体になってくれたらいいが、そうでなかったらもっと面倒なことになるかもしれない。下手に捨てたら閉じ込め屋に目を付けられるかもしれないから、しばらくは飼い続けて様子を見るしかなさそうだ。
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あいつもようやくオレに慣れてきたらしい。気が付いたら足にすり寄ってきている。かと思ったら、しばらく触っただけで隣の部屋に行ってしまう。本当に気まぐれで自分勝手な奴だ。
[後半は無関係な内容のため省略]
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あいつがずっと膝の上に乗っている。これを書いている今もずっとだ。最近冷えてきたからオレの体温で温まっているんだろうか。下ろしても下ろしても戻ってくるから、どけるのはもう諦めた。
そういえば、今年は暖房が必要かもしれない。いつもは力を使って寒さを防いでいたが、今年はこいつがいるからそれができない。寒いのは嫌いだし、凍死されるのは迷惑だ。明日にでも調達しよう。
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大事なことを忘れていた。あいつに名前を付けていなかった。なんて名前を付けようか悩んだが「アナ」と呼ぶことにした。A、N、N、Aでアナ。パッと思いついた名前だがあいつにピッタリだ。
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██がアナの処分方法を考えてきた。普通のネコとして他の誰かに譲ってしまえばいいというのだ。言われてみれば簡単な話だ。よく会う知り合いは大体みんな力を持っているので、アナを押し付けようという発想が浮かばなかったんだろう。赤の他人に譲ってしまえば済む話なのに。
だけど、アナを他人にやるつもりは今のところない。外に出たがらないから大人しいものだし、ヒマなときに毛並みを弄ってやるのは意外と楽しい。何より退屈しないのがいい。飽きるまではこのままでいいだろう。
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アナが来てくれてから明日で一年になる。記念日を心から祝うなんて本当に久しぶりだ。つくづくオレは人生に飽きていたらしい。何もかもが思い通りになることに飽き飽きして、そのくせ飽きていたことにも気が付かなかったんだ。けれどアナのおかげで何もかも変わった。不自由な暮らしがこんなに幸せになるなんて思わなかった。
明日はいつもの奴よりも高価な猫缶を買って帰ろう。ああ、そういえばいつの間にか、アナのごはんを力で調達しなくなっていた。アナが「そんなことをするな」と言っているような気がしてならないんだ。昔のオレが見たら引っくり返るだろうな。
アナは今もオレのヒザの上でノドを鳴らしている。なんて幸せなんだろう。
編集注: この記述の翌日にGOCの粛清作戦が実行されました。