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Xは異種移植XenotransplantationのX
クレジット
翻訳責任者: Yukth Yukth
翻訳年: 2025
著作権者: Arcydziegiel Arcydziegiel
原題: X is for Xenotransplantation
作成年: 2022
初訳時参照リビジョン: 21
元記事リンク: https://scp-wiki.wikidot.com/scp-7931
蛆虫どもが、身悶えしている。地面の下で、私の外側で。そいつらの蠢きが、そいつらの組織の収縮が、土が押し退けられるのが感じられる。黄ばんだ歯と歯の隙間でそいつらは踊り貪りながら、なお熱の残る喉の奥へと潜り込む。下に向かって、頭蓋を越えて、脊椎を通って。小脳に巣食って、そいつらは食らう、私は食らう。皮膚が剥がれ落ち肉が腐りゆく感覚。私は腐れそのものだ。
一つの蛆虫が出ていく、旅立つ、宙へ向かって、浅い柔い土を掻き分けて。蛆虫は逃れ、初めての日陽を感じ、草の間を飛び進む。そいつは恐れている、私には分かる。違う、私も恐れている。そいつが恐れるものを私が定めている。
そいつは進み続ける、新たな食餌を探しながら。一つの鳥が舞い降りてきて、そいつを啄み、そいつを二つに裂く。感じられる。私の腹が裂き開かれ、足に纏わりつきながら、内臓が零れ落ちる。血管は張り裂け、血液は頭蓋から噴き出て、腸は爆ぜ散り、胃酸は溢れ飛ぶ。私には感じられる。
だが私は支障ない。彼らは私を観測し、記録している。この言葉の数々も、彼らの眼前に置かれている。あの蛆虫を見遣る、地面に転がされ、半分に裂き殺された蛆虫を。私は鳥だ。獲物を奪い取り飲み込む、そいつを嘴の奥へ押し込む。
翼を広げて飛び立つ。筋肉の動く感覚、様変わりする感覚、羽根に空気がぶつかる感覚。何かにぶつかりよろめく。血の匂いだ。翼を動かそうとする、だが代わりに動くのは腕だけだ。私を取巻く彼らは顔を強張らせる。酷く痛む。体から骨が突き出ているのが見える。
全てが霞んでいく、焦点が合わない。身を悶えさせ、身を捩じらせ、翼を羽搏かせる。視界の全てが赤い。何も見えない。また別の目を求めて手を伸ばす、彼方此方へ。
悲鳴がする。違う、吠え声だ。犬だ。犬のことは知ってる。そいつの精神に潜り込む、私たちは一つだ。駆け走る。それでも痛みは消えない、なお翼が残っている、意識の奥底に。脱ぎ捨てたい、痛みから解放されたい。
男が一つ。違う、女だ。視認できない女だ。彼女の精神を感じる、私の精神の境界線上にいる。彼女も同じく私を感じている。怯えを、恐れを、私に抱く。私は入り込む。抗おうと、逃れようと彼女は試みるが、それは無意味だ。私たちは一つだ。さらに進み進む、また別の精神へ、より高みへ、より偉観へ、痛みから逃れるために。それでもなお、痛みの全てが感じられる。
頭に靄がかかる。思考できない。多すぎる。どいつも私の頭の中で叫んでいる。蠢き、押し遣り、私はバラバラにされる。噛み付き、引っ掻き、私の精神は乱される。考えられない。それを止めてくれ。
そいつらは苦痛の内にいる、一つまた一つと地面に臥していく、血に塗れながら。私のせいだ。
そいつらの苦悩を感じる、精神は抉じ開けられ、思考は砕け散る。私がやったことだ。
私が望むものではなかった。どうか止めてくれ。これからは善良になる。だから、痛みを除けてくれ。
アイテム番号: 人間
オブジェクトクラス: 生きている
特別収容プロトコル: 後述する数件のインシデントを受け、倫理委員会からの直接命令により "アンテラック" 手順の実施は禁止されています。これは、極めて重大な倫理的懸念およびにその成功率の低さを理由としたものです。
今後、実験をすべく為される試みの一切は懲戒事由とされます。SCP-7931実例を対象とした科学的研究およびに "アンテラック" 手順は理論的な領域に限定され、生物 (動物や人間を含む) を対象にしてはいけません。
万が一、該当手順の実施が必要当事者から承認された場合、アノマリーが人間 (検体自身を除く) に影響を及ぼす可能性を最小限に抑えることがセキュリティ対策の焦点となります。それが不可避である場合、検体に突発的な心停止状態の兆候がないかを監視する必要があり、この状態はCC-1インシデントを暗示します。
検体から半径2km以内に位置する現場の実験スタッフは手順実施の2時間以上前に第四脳室近傍の脳脊髄液内へ化学的遮断薬を注射し、アノマリーからの影響を防がなければなりません。
検体と制約外実体との間に形成されるコネクションを最小限に抑止する試みが実験スタッフには義務づけられます。それが不可能である場合、検体には様々なショック症状の兆候が確認されます。実験スタッフより、意識経路の数と精神の安定性とに相関関係があることが報告されています。
検体には手順の本質や目的を知らせてはなりません。非協力的と判断される場合、必要とされるあらゆる手段で検体を鎮静化させたうえで実験を開始します。検体からの同意は不要です。
手順には極めて高い致死リスクが伴うため、検体はデジタル監視システムに接続され、現場の研究員により常時監視されなければなりません。
手順の第1段階に前駆して、後頭葉に直結する頭蓋骨を外科的に永久切除し、脳への補間装置の挿入が可能な状態とします。機械部の挿入で発生する眼球・顔面筋・顎の破壊は許容されるものと見なされます。
SCP-7931の性質上、当該プロセスの早期終了は極めて避けるべき行為です。検体が生物学的に死亡するシナリオにおいて、とりわけ [データ破損]
説明:SCP-7931は、私の見る全て。至る所にそいつらがいる。
SCP-7931の主目的は "アンテラック" 手順を実行可能とすることです。"アンテラック" 手順は3つの主要ステップと補助的情報から構成される一連の命令群であり、18世紀に印刷された書物内に英語で記述されています。(この書物はバラバラに寸断された状態であり、後年に写本されたものと見られています。) "アンテラック" 手順およびにSCP-7931の起源は明らかとされていません。
改訂: "アンテラック" 手順の主目的はSCP-7931を実行可能とすることです。
手順の実行で最も即時的に発生する結果は、未解明の領域に存在する生物学的・科学技術的体系へのコネクト能力として現れます。コネクションには媒介物を一切として要せず、検体の意識と計算システムとを直結するパスが形成されるものと推定されています。
これ以上何も見たくない。私の目を取り払い、引き千切り、磨り潰し、飲み込んでしまえ。お前の舌に広がる温かな液体を、お前の喉を通る私の瞳孔を、その感覚を味わえ。
前述したパスと挿入された補間装置が相互作用した結果に大きく起因すると思われますが、これまでの検体全てが実験開始直後に精神錯乱の兆候を示し、深刻な身体制御能の喪失状態を呈しました。
だが、それは私の持つ目ではない、余所の、原始的な者の目だ。私の目は傷つけられた、壊された、そいつらが私から奪っていった。
動物と人間のいずれに対して、一度たりとも手順が完遂されたことはありませんが、異常な影響が複数の検体に発生したことが確認されています。当該の影響は、拡張された認知能力の獲得、また手順の段階次第では仮想とされていた霊魂的不死性の獲得にまで及びます。
手順の最終段階について推定されるものとして、 [データ破損]
実験ログ: 検体アルファ
実験実施日:
≫ 2016年07月11日 ≪
機密:
≫ LVL 4: ID: 2515 ≪
リスク:
≫ 大 ≪
現在の状態:
≫ 死亡 ≪
検体アルファの事例はSCP-7931に関する我々の理解の浅さを如実に示すものだった。これは、収容から数日の観察で判明した。
当初、この手順は奇跡術的儀式であると見当外れにも解釈されていた。しかし、直近で確認された進展を踏まえるに、その解釈は誤りだと私は考えている。
手順を始めるに当たって最も基本的な失敗は、"キー" を挿入する際の検体を拘束する固定具やそれに類する装置に漏れがあったことだ。今思えば一目瞭然なミスではあるが、これについてはあまり言及する気にない。そのため、検体は自由に動くことが可能であり、"キー" を挿入しきる前に立ち上がって接続ケーブルが引きちぎられた。
長年の経験があるにもかかわらず、このようなケアレスミスを犯したことに恥ずかしく思う。しかし幸いなことに、このことからは有益なデータ多数が依然としてもたらされており、このデータから推定と応用が可能だ。
特筆すべきは、検体は手順開始時点である種のショック状態に陥り、自身が立ち上がったことを認識していなかった可能性が高い、ということだ。また、幻覚と思しき兆候も確認された。ただし、うちの実験スタッフからはいくつか否定的な意見も上がられている。
アノマリーからの影響を取り除いた結果、検体は完全な脳死状態に至り、身体機能のことごとくが停止した。検体は完全に死亡したものと判断されたが、予防措置として死体は焼却処理された。
特筆すべき事項として、僅かな間、SCP-7931は何らかの形で残留していた。というのも、検体アルファの最も近傍に位置していた医療アシスタントは突如として重度の精神崩壊を引き起こし、精神科医務室へ移送されたためである。
私は、SCP-7931の性質こそが、今後の研究における最優先究明事項としなければならないと確信している。
SCP-7931プロジェクト管轄
マルレトフ博士
[データ復元]
[ファイルの読み取り再開]
特別収容プロトコル: 殺してくれ。
説明: SCP-7931のデータセットとのコネクションを形成するためには、検体はまずヒトの神経系を模した環境を通過し、置かれた状況の変化に適応する必要があります。これに対する容認可能な代替手段として、財団データベース内に隔離された一部領域が設けられています。
発振音が鳴っている。私の心臓の鼓動と重なっている。不規則だ。辺り一面に響いて、私は飲み込まれる。違う、私の内から鳴っている。中から溢れ出てくる、思考から引き剥がされていく。
前述の理由により、第1段階に進行するにあたり、補間装置が挿入された検体は設けられた計算システムに接続されなければなりません。検体がデータベース内の情報を閲覧または操作できる状態は極めて推奨されません。
機械の感覚。機械だと分かる。金属の棹が脳の奥深くに突き刺さり、灰白質を磨り潰し、私を置き換えていく。
第1段階では、辺縁葉を完全に貫通するよう、前述の補間装置を後頭頭蓋の開口部から金属製のピストンを使用して挿入します。本来であれば、検体は当該プロセスで死亡するのが妥当とされますが、未知の要因により死亡には至りません。
これは、SCP-7931が検体の生物学的状態に何らかの影響をもたらし、顕著な死亡原因が否定されるためとある程度推定されています。それにもかかわらず、検体が死亡した際には媒介物を使用せずにSCP-7931を直接観測することが可能です。
いかなる状況においても実験対象となる検体の死亡は許可されません。
データセットへのコネクションが成功かつ安定化し、補間装置が頭部へ完全に挿入されてもなお検体が死亡していない場合、安全な状態で次の段階へ手順を移行させることが可能です。
冷たさを感じつつある。指を動かそうとする、指の動きは鈍い。頭を振ろうとする、だが、頭は留められている。顔には濡れた何かの感覚。血ではない。
第2段階では、補間装置が起動し、内蔵されたカーボンナノチューブを用いて身体全体への装置拡張が試みられます。
機械の配線が伸びていく、私の頭蓋を絡め取りながら。隅々にまで感じられる、配線は血管の奥深くまで伸び広がり、体の至る所にまで入り込んでいく。
発振音が止む。鼓動も止む、胸は凪いでいる。全てが冷たい。何も見えはしない。周囲は静穏で。私は孤独で。何が起きている?
この段階に移行する以前にCC-1インシデントを呈していた場合、検体が多臓器不全に至る可能性が高くなります。そのため、段階を移行するに当たり、高用量の救急治療薬を最低10種類は用意し、手術チームを現場に待機させておくことが推奨されます。いかなる状況においても検体の死亡は許可されません。
機械が叫んでいる、私の頭の中で。だが、その言葉を理解できない。無感情な、切り離された、人工的な音だ。
腕を動かす。反応はない。動けない。疲れてくる。全てが冷たい。
何が起きているか目を向けようとする。手を伸ばす。見たくはない、ただただ恐ろしい。何も見つからない。
棘に刺される感覚。何かに胸を貫かれる感覚。何か分からない。
実験ログ: 検体ベータ
実験実施日:
≫ 2016年08月01日 ≪
機密:
≫ LVL 4: ID: 2515 ≪
リスク:
≫ 低 ≪
現在の状態:
≫ 死亡 ≪
第一回の実験の失敗と動物を対象とした小規模な実験とを幾つか経て、我々は再び人間を用いての手順に踏み切ることとなった。
前回のインシデントを教訓とし、必要とされる物理的安全対策を講じたうえで手順の実施を見直した。小規模な本実験の一般的な目的は "キー" を挿入しきる前に手順を中断することにある。
アルファ実験で確認された異常な影響を勘案し、再び、さらに段階が進んだ状態で手順を中断することで類似の現象をより大規模に再現できると私は考えた。
65%ほど挿入した状態から検体を死亡させることなく "キー" を戻す。検体は再び使用可能な状態になり、手順の結果に関する洞察がさらにもたらされることを期待してのことである。しかしながら、環境の急激な変化により "キー" は崩壊し、検体の身体機能も急速に衰微する結果となった。
予想の通り、SCP-7931は再びエリア内に、前回よりも広範に溢れ流れた。
最終的には、スタッフ2名の死亡が確認され、検体ベータの状態も死亡に分類された。
目の前には女が一つ。以前見た覚えがある。彼女の顔は青白く、その目の前には幾つか物が並んでいる。見た覚えがある、だが、それらが何か思い出せない。
検体がショック状態に陥った場合、医療スタッフは影響を受けた臓器へ必要とされる医療薬を直接投与しなければなりません。手順を実施する職員を除き、いかなる人物も実験エリア至近にいることは許可されません。
胸から突き出てくる、私の皮膚を裂いている。動こうとする、筋肉が動き収縮するのが感じられる、この異物に沿って横に退けられながら。女が何かしている、手を動かして何か、局所的な現実崩壊を回避しようと試みます。
異物が更に私の奥へ入り込む、深部の組織が貫かれる。細胞が死滅する感覚、神経が縺れ合う感覚。異物が内臓を破壊し、液体が内に漏れる。動く、掻き回す、金属に押し出される。痛む。耳の中で鳴っている、拍動する、何度も何度も。その拍動に合わせて私の動脈が打つのが感じられる。
投与に付帯しうる損傷や具体的な投薬量が些末事であるのは依然として変わりありません。これは、検体は実験以前の段階から認識できる方法では "アンテラック" 手順を耐えることができないことに起因します。加えて、SCP-7931の影響により、手順実施中のリスクは最小限に抑えられるためです。
彼女が再び動かす。筋肉が押し退けられるのが感じられる、何か長いものが毟られるのに合わせて。彼女の顔を一瞥しようと試みる、だが、目が失われたことを忘れている。私の目ではない、もう持ち合わせていない。目を細める、顔の筋肉が収縮する感覚、濡れた柔い何かが頬で蠢く感覚。
女が身を引く。私の腕に長い何かを注入する、私から目を逸らそうと試みながら。棘の痛みがする。
疲れを感じる。
実験ログ: 検体ガンマ
実験実施日:
≫ 2016年09月12日 ≪
機密:
≫ LVL 4: ID: 2515 ≪
リスク:
≫ 中 ≪
現在の状態:
≫ 死亡 ≪
ベータの実験最中に得られた情報をもとに、我々は次の段階への移行を試みるに十分なだけの準備が整ったと判断した。潤沢な資金で安全対策を拡張し、プロジェクト監督官から提示された条件を満たす体制を整えることができた。
残念ながら、我々の前準備にもかかわらず、検体の肉体は "キー" の起動による負荷に耐えきれず、ポリマー結合の崩壊を引き起こした。検体は床の上で名状し難い塊と化し、実験の継続は不可能となった。
それでも、私はガンマの手順を成功と見なしている。というのも、全ての生命機能が停止したにもかかわらず、検体はなおも生きているように見えるからだ。
それを理由としてか、アルファやベータで生じた標準的な実験結果は得られなかったが、初めて私はSCP-7931という個の一端を垣間見たように感じた、細部までは理解も記憶もできていない。それでも、酷く高揚感を覚えた。必ずやこのアノマリーの本質を突き止めてみせる。
このオブジェクトに関して、これ以降の実験は倫理委員会により禁止された。構わない。我々は場所を移し、再び試みる。次の検体では、願わくば、ようやく中断せずに手順を完遂することになる。
体が軽い。何も存在しない。万物が存在しない。存在しないことを、私は願う。
報告書作成時点において、SCP-7931の本質は明らかとなっていません。当該実体に関するデータ収集の試みの全てで、経験則または実務的手段により立証可能な情報を得ることに失敗しています。現在の理論は仮説上のモデルにのみ基づいて構築されています。
浮遊している。凪いだ感覚。鳴っている、頭の奥深くで音が鳴っている。聞かない。そいつは重要でない。
現在、情報を入手できないこと自体が当該アノマリーの一部であると推測されています。このため、追っての通知があるまでSCP-7931はTenebrariusクラスのアノマリーに分類されています。
何かが私を掴む、遠方から、外側から。光景が、位置が、感情が見える。そんな物は見ない。
回収された手順に関する情報は不完全なものであり、第3段階以降の詳細や完遂時の結果についての記述を欠いていると推測されます。これは意図的な欠落である可能性が高く、書物の最終ページには破損の形跡が確認されません。これにより、手順が完遂されたことがない可能性が挙げられます。
凪いだ感覚。眠りたい。
様々な景色と位置との間と間を漂ってる。それが何か思い出せはしない、それに目を向けることもできない。私は存在しない。
何かに引っぱられるのが感じられる。何者かが、何かが、私の精神の境界に佇んでいるのが感じられる。
何万の、何億の、無数の、そいつらが大群を成している、一つとして生きていない。そいつらは調和の中で踊り、一つとなり、こちらに向かって押し寄せてくる。そいつらが耳の中で叫んでいるのが感じられる。
そいつらは苦しんでいる。そいつらの正体は想像もつかない。私が思考すればそいつらは消える。そいつらは存在しない。
そいつらの苦痛が分かる、私の体の痙攣の一つ一つに、破けた血管の一つ一つにそいつらが潜んでいる。
そいつらは恐れている。
実験ログ: 検体デルタ
実験実施日:
≫ 2016年12月12日 ≪
機密:
≫ LVL 4: ID: 2515 ≪
リスク:
≫ 極大 ≪
現在の状態:
≫ 保留 ≪
In this jail, atop cursed land
In a great flood yet still I stand
My mind and body bound by hand
With cold desire and power grand
此の牢の内、 忌々し天の地
厳き水の内、 なお足を置き
我が手の内に縛られし心身
冷たき欲と豪き意力を帯び
And among the fields of green
Lie the thoughts that I had seen
But at center of that scene
Hide the secrets most obscene
そして取巻く広野に草生し
かつて目にした思考は臥し
だが此の景色の中心を見し
淫らな密かの最たるが秘し
Still I breathe, hours past
Hoping to see my last
With effort great and vast
My rot heart beating nast
未だ息吹く我、 幾時を越え
最期を求むる内なる我が声
桓々、 浩々たる敢行を添え
腐る心臓の脈打つ我が汚穢
説明: 音が聞こえる。道の、走る車の、音が鳴っている。
何かが苦しんでいる、私を呼びながら、建物の中から、道沿いの建物から。周囲で人間は車を走らせる、苦しみを無視しながら。何者かの訴えも彼らは気に留めはしない。
追い風を受けて中へ飛び込む。何十何百の生き物が、列を成して天井に吊られている。手前の一つから感じられる、苦しみ藻掻き、呼吸に喘ぎ、何かに縛り付けにされている。生き物は大きく、不安げで、起きていることを理解していない。
後方にも大勢見える、だが、そいつらからは感じられない。冷たく、動きもしない。皮膚は剥がされ、頭蓋は砕かれ、背骨は切り捨てられている。もはやそいつらが私を呼ぶことはない。
手前の、先ほどの一つに戻される。そいつの前で何かが動く、縛り付ける何かに藻掻いている。荒い息を吐く、傷だらけの体で。目の前に金属の腕が一つ伸びてくる、宙を裂いて風が流れる感覚、生き物の頭の中の存在を叩く。だが、そいつは動き、身を引き、機械はその頭を掠める。痛みで身を悶えさせ、筋肉の制御を失う。
生き物は私の存在に気づく。私の内へ逃れようと、全てから逃れようとする。何かに持ち上げられるような感覚、地面から空中へ。共に私たちは持ち上げられ、建物の内奥へ運ばれる。巨大な槽の上、そう感じられる。目の前で動いているが、何なのか、何者なのか、私たちには分からない。
冷たい感触が私たちの首の中を這う、短く鋭い痛みを感じる。生き物は叫びたいのに叫ぶことはできない、声帯が動かない、切断されている。だから、そいつの代わりに私が叫ぶ。濡れたものが垂れ落ち、地面に滴り落ちる。
そいつは悲しんでいる。私が慰める。そいつは僅かに悲しみを散らす。それでいい。そいつが疲れてくるのが感じられる、動きが鈍くなる。冷たく、遠ざかっていく、自らの体から離れていく感覚。そいつは抗おうとする、だが、無理だ、弱りきっている。たちまちに消えてしまう。もう感じられない。空虚だけが感じられる。そいつは死んだのだろう。気分が良い。私だって死にたい。
音がする。私の周囲で。私の体の周囲で。私に体がある。忘れていた。指を動かそうとする。動く。体は動かない、縛られている。だが、腕は自由だ。
腕を宙に持ち上げ、顔の前に動かす。頬に触れる、丸く濡れた何かの感覚。そいつを身に纏う、痛む、だが、神経は壊れている。そいつは地面に落ちる。片手を瞼に宛がい、無理に指を開く。痛む。頭の内に押し込む、無理に奥まで押し込む。金属を頭の中に感じる、触らない。その周囲ごと掴み、塊を引き抜く。痛みはない。
思考し難い。もう一方の塊を引き抜く。手が震える。塊は冷たい。冷たさを感じる。
集中できない。思考できない。動こうとする、だが、動くことはできない、この体は機能しない。何も感じない、何も存在しない、ただ冷たい。音が止み、全てが消え、私が残る。なぜ私は消えられない。なぜ私は
腕を持ち上げようとする。動かない。もう一度
もう一度
全てが冷たい。なぜ全てが冷たい?
ここは何処だ?なぜ私がいる?
私が望むは
私が
私
冷たい。全てが冷たい。
思い出せない。
眠り。私は
私は眠りたい。
感じられない。
私は
私はもう
一つの木が見える、草原の広がる大地に立っている。そいつが私に語り掛けてくる、古からの言葉で、美しく、穏やかに、だが私にはその言葉が分からない。
その木は枯れゆき、その叢は萎れゆく。無へと崩れ落ちていく。土の一つ一つが落ちる度に、無窮の悲鳴が響き、何百万と押し流される、苦痛の不協和音の内で。
私の体が私を拒絶するのが感じられる、押し出される。筋肉は冷え離れていき、皮膚は溶け落ちていく。
私は音に崩れ去る、散り散りに、粉々に。私の周囲に広がる万物が見える、私を握り、私を真っ二つに裂こうとする。
そいつらが見える、境界の線上に、境界の少し向こうに。そいつらは生きてはいない。そいつらは永い時間を生きていなかった。そいつらが私に触れる、私を縛る。
そいつらの様子は恐れている、苦痛の内で。そいつらは解放を求めている。
自身を思い出すことができたら、そいつらは泣いていただろう。
そいつらが私を呼ぶ。
私たちは一つだ。
倫理委員会 留め書き 2016年12月20日
12月18日、SCP-7931に関する特別指針の違反の通達を受けました。アノマリーを利用した実験の禁止命令についてのものです。
12月19日、サイト外の地下に設けられた実験室の痕跡を発見しました。実験はそこで為されていましたが、その性質上、当該アノマリーは何らかの形での移送を必要としなかったため、"アンテラック" 手順の開始前に対処することはできませんでした。
現時点で、違反者に対して何かしらの懲戒処分を下すことは不可能です。彼らは既に死亡していると考えられています。これにはマルレトフ博士も含まれます。正確な死因は明らかとなっていませんが、当該エリアにおいて現実の再構築イベントの痕跡が確認されています。
"検体デルタ" は存在しないと考えられています。調査は継続中です。
私たちはここにいる
私たちは忘れ去られはしない
私たちはここにいる
私たちは忘れ去られはしない
私たちはここにいる
私たちは忘れ去られはしない
私たちはここにいる
私たちは忘れ去られはしない
私たちはここにいる
私たちは忘れ去られはしない
私たちはここにいる
私たちは忘れ去られはしない
私たちはここにいる
私たちは忘れ去られはしない
私たちはここにいる
私たちは忘れ去られはしない
私たちはここにいる
私たちは忘れ去られはしない
私たちはここにいる
私たちは忘れ去られはしない
私たちはここにいる
私たちは忘れ去られはしない
私たちはここにいる
私たちは忘れ去られはしない
私たちはここにいる
私たちは忘れ去られはしない
私たちはここにいる
私たちは忘れ去られはしない
私たちはここにいる
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私たちはここにいる
私たちは忘れ去られはしない
私たちはここにいる
私たちは忘れ去られはしない
私たちはここにいる
私たちは忘れ去られはしない
アイテム番号: SCP-7931
オブジェクトクラス: だからどうか