"先生にはチャンスがありました、だから今度はこっちが人に覚えてもらう番です"
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クレジット
タイトル: SCP-7608 - そしてもう聞こえない
翻訳責任者: Tetsu1 Tetsu1
翻訳年: 2025
著作権者: AstersQuill AstersQuill
原題: And Then is Heard No More
作成年: 2025
初訳時参照リビジョン: 15
元記事リンク: https://scp-wiki.wikidot.com/scp-7608
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休止状態のSCP-7608
アイテム番号: SCP-7608
オブジェクトクラス: Keter
特別収容プロトコル: SCP-7608は関連するディスクと共に標準異常物品収容ロッカーに収容されます。ディスクは実験時にのみSCP-7608から取り外されます。SCP-7608は過去または現在に、音楽や演劇に携わっている職員が扱うべきではありません。
SCP-7608の活性化時、職員は認識災害物質への曝露を監視され、青春時代の曲はとうに昔のものであることを確認しなければなりません。
説明: SCP-7608は異常な改造を施されたパナソニックSL-S250CポータブルCDプレイヤーとディスクです。休止状態では不活性であるものの、活性化するとSCP-7608は事前に録音されたトラックを再生し、聴者に一連の指示を繰り返すよう促します。
デジタル分析では、SCP-7608は聴者の音楽的能力を補助する役割を果たすという説が示されました。この説は、SCP-7608の分布パターンと、収集された実例の大部分におけるその後のコンサートや音楽制作に関する言及に基づいています。更なる分析で、背景ノイズの形で認識災害的な歪みがあり、自己同一性と記憶を司る脳の領域に直接影響することが判明しました。
SCP-7608は1990年代後半から2000年代初頭にかけて、ヴェール外で活動する評判の良い販売業者のSyncope失神によって配布されました。配布前に回収された機器には、配布先の学校名、及び「リハーサルテープ」の文字が書かれたラベルの貼られたディスクが含まれていました。SCP-7608は、アメリカ合衆国に住む18歳未満の人物の9人に1人以上に影響する可能性があると考えられています。本稿作成時点で、配布されたSCP-7608のうち収容されているのは3分の1のみです。
最初に回収されたSCP-7608を使用した映像は、異常な内容から機動部隊エータ-11("猛獣")Euryd.AICによってフラグ付けされたYouTube動画でした。チャンネル名は破損していましたが、『カーテンコールは来ず』と題されたこの動画は、カバー曲や独白のシリーズの一つとしてアップロードされていました。削除される前に動画は23再生されていました— 存在を覚えている人物はほとんどいないものと思われます。
«ログ開始»
<カメラから手がどく。少女がデスクを前に座り、前のめりで独り言をつぶやいている。しばらくして、彼女は後ろに身を傾けて微笑む。>
???: こんにちは、皆さん! 私の名前は[データ破損]、ケンデールレイクス高校の4年生で、オーディション前最後の動画です。<ため息。>さて、リッカーズ先生と話したんですけど、そこで私が…… 緊張してたと。
<ぎこちなく笑う。>
???: まあそりゃするでしょうよ。四年生だしこれまで一番よくやったのは合唱ですよ。一生懸命頑張ってきた成果をみんなに見せる機会はもうこの一回だけなんです。<咳払い。>とりあえず、そこで先生がこれくれて—
<SCP-7608をカメラに掲げる。>
???: — これが私をガイドしてくれるって、高校のショーでスターになったときに先生も使ってたと言ってました、それ以上話は聞きませんでしたけど。バスに遅れるとこだったんで。止めなかったら絶対ぶっ通しで話されてました。
<沈黙。>
???: でも時代は変わりました。先生にはチャンスがありました、だから今度はこっちが人に覚えてもらう番です。
<SCP-7608をデスクにセットして「再生」を押す。しばらくするときしむ音や回転する音がし、その後パチパチという音に変わる。>
SCP-7608: リピートアフターミー。
???: わかった!<沈黙。>あっ、しまった。リピートアフターミー。
SCP-7608: 私は誰?
???: [データ破損]。
<SCP-7608は静かになり、スネアドラムの一定の音が聞こえる。[データ破損]は首を振る。瞳孔が広がり、音楽が止まる。>
???: 私は誰?
SCP-7608: 年が終わるとき、私は彼らの記憶のどこに残る?
???: [...]
SCP-7608: イヤーブックにインクで書かれた名前? 授業や演劇で輝いた生徒の一例? それとも何の波風も立てないまま?
???: みんな、なんかこれあんま—
SCP-7608: 言いましたよ。リピート。アフター。ミー。
<肩をこわばらせてカメラを見る。>
???: [...]
SCP-7608: 5月にここのホールが空となり、束の間の友人や教師がいなくなれば、見るものは何が残っている?
???: [...] (ささやき) うーん、これはもう駄目だ。
SCP-7608: 何も見る価値はない、あなたは自分にあったものを何も見なかったから。
???: [...]
<カメラに不具合が生じる。映像が戻ると[データ破損]の目はぼやけている。彼女は反応しない。>
SCP-7608: アンコールが終わり、顔のない観客が拍手をし、言うことは何が残っている?
???: [...]
SCP-7608: 何も言う価値はない、あなたは幼稚な夢に言葉と時間を無駄にしてしまったから。
<カメラに不具合が生じる。[データ破損]の口がぼやける。彼女は反応しない。>
SCP-7608: そして照明の下で、地元チームが勝利し、バンドが勝利の音を奏でて、聞くものは何が残っている?
<環境ノイズが静まる。フォー・シーズンズの『December, 1963』のインスツルメンタル版が穏やかに流れ始める。>
SCP-7608: その時初めて、私たちは校庭に集まって、人生で一番の夜を思い出す歌を一斉に歌う。
<[データ破損]はデスクの前で身体を揺らす。テープからは日常会話の声が聞こえる。声はハーフタイムについて、クォーターバックについて、街で映画を観ることについて話している。記録からは[データ破損]の声も聞こえ、歌詞のリハーサルや音階のウォーミングアップを行っている。これは曲が終了するまで約4分30秒継続する。>
SCP-7608: そして私たちはあなたの記憶の中で永遠に生きる。
<SCP-7608は沈黙し、[データ破損]は泣き始める。記録は更に5分間続いてから終了する。>
«ログ終了»