クレジット
翻訳責任者: Yukth Yukth
翻訳協力者: walksoldi walksoldi
翻訳年: 2024
著作権者: PeppersGhost PeppersGhost
原題: SCP-5703 - When Lori Came Home For Christmas
作成年: 2020
初訳時参照リビジョン: 17
元記事リンク: https://scp-wiki.wikidot.com/scp-5703
特別収容プロトコル: SCP-5703はその入り口を埋め塞ぐことで隠蔽されています。SCP-5703の間取り図と記録の全ては改竄または破棄されています。元より敷かれていたパイン材フローリングの撤去を含む (ただしこれのみに限りません)、建物の壊乱は禁止されています。近隣の居住区における正常性の認識を維持するため、SCP-5703を内包する家屋は一般的な機能性住宅の1棟として残されます。行動に異常が生じているかに着目し、当該家屋の居住者を電子監視下に置いてください。
説明: SCP-5703はダイアン・パインとロバート・パインが所有していた郊外型住宅の2階に位置する寝室です。 SCP-5703の床板の隙間からはヒト由来の毛髪が生えています。構造イメージング技術により、部屋内部には異常が存在しないことが示されています。
超常事案5703-01: 20██年12月24日の日没直前、ローリー・ハモンドと彼女の婚約者であるデイヴィッド・ウェザーズがパイン邸に到着しました。その時点以降、前述の4名全員が消息を絶っています。当該人物らの失踪事案が発生した直後にSCP-5703が発現したものと推測されていますが、当該事案との因果関係は未だ不明の状態です。
以下は、行方不明となる夜にウェザーズ所有の携帯電話で録画された動画4本の転写です。現在進行中の法医学的・科学的な調査結果が得られるまで、以下に描写される当該事案に関する推論は保留されます。
[ 映像1は、SCP-5703を内蔵する邸宅の前でカメラに笑顔を向けるハモンドのショットから始まる。彼女は片方の腕に小さなギフトバッグを複数携え、もう片方には近隣のスーパーマーケットで買った食料品を抱えている。]
ハモンド: サム!着いたよ!撮ってるからね。
ウェザーズ: ハモンド家のクリスマスイニシエーション、始まり始まり。
[ ハモンドがドアベルを鳴らそうと試みるが携えた複数のバッグにより上手く押すことができない。代わりにウェザーズが鳴らす。]
ハモンド: あら、私の英雄さん。
[ ハモンドがウェザーズに向けてキスをするように口を窄めてふざける。しばらくして、ぶかぶかのサンタ帽子をかぶったパイン氏がドアを開ける。パイン夫人がその後ろから慌てて駆けよってくる。]
パイン夫人: あらまぁ!あらあら、私のベイビー!ほら来て、まるまる1年分のハグが溜まってるんだから!
[ パイン夫人がハモンドを抱きしめようと腕を伸ばす。ハモンドが横に避けて玄関に滑り込む。]
ハモンド: ごめん、ちょっと待って!手がふさがっちゃっててさ。ちょっとこれ—
パイン氏: ほら、荷物持っててあげるよ、ロリオー 。
ウェザーズ: ハグが溜まってるって仰ったのは誰です?ハグあげます!
パイン夫人: [ 笑い声。] ハグもらうわ!
[ パイン夫人と抱擁を交わす間もウェザーズは携帯電話を把持し続けている。カメラの角度が上向きになり、天井の一角に黒ずんだ粘性物質と幾束の髪毛の房が付着している様子が映される。ウェザーズは気付いた素振りを見せない。]
ハモンド: [ 画面外、前述の発言と重なりながら。] ちょっと待って、この袋が… [ 擦れる小さな音 ] 指に引っかかっちゃって!これでよしと… わぁ!
パイン氏: [ 画面外、ハモンドに抱擁を交わしたと思われる。] ああ、待ちかねてたよ!はっはっは!よし、デイビッド、お次は君の番だ!
[ ウェザーズがパイン氏と抱擁を交わす。再びカメラが天井の染みを映す。わずかに大きくなったように見える。]
パイン氏: そうこなくては!我々人間というのはハグする集まりなんだから。ビデオ撮ってるのかい?
ハモンド: デイブとの初めてのクリスマスを記録してるんだよ、サムのために!あとは将来の子どもたちのために。大事なことなんだから!
[ カメラが玄関ホールにパンする。祭日向けの飾りつけが控えめになされている。写真は掛けられていない。]
ウェザーズ: そう、弟くんや未来の世代みんなに、パイづくりで僕が大失敗するところを見せなきゃいけないんですよ。
パイン夫人: それは楽しみね!パイの作り方はこの子に見てもらった、のかしら?
ウェザーズ: ちょっとだけ!レシピは確認しましたけど、僕たち— いや、僕は試してみたりとかしてませんよ。
パイン氏: 心配いらないさ。私でもできるくらいなら誰にでもできる!
ハモンド: パパでもできるなんて誰も言ってないけど?
[ 皆が笑う。]
パイン夫人: 来てくれて、ほんっとうに嬉しいのよ。昨年は2人抜きのクリスマスだったものだから。
ウェザーズ: 娘さんをお借りしちゃってすみませんでした。お義母さん。
パイン夫人: いえ、いいのいいの!みんなが、今この時この場所に集うことが嬉しい、ただそれで十分なのよ。
ハモンド: サム抜きけどね。
パイン夫人: そうね、そうね。あの子の魂はここにいるわ!
ウェザーズ: 僕が会わなきゃいけない "もふもふくん" もいないようですけど?
ハモンド: そうだ!バターズは?
パイン氏: 彼は家のどこかにいるよ。たぶんまだ2階かな。前みたいには動けなくてね。
ウェザーズ: おじいちゃんか、かわいそうに。
ハモンド: バターズはあなたにメロメロになるはず!探しましょ。
パイン氏: その前に、お持ちのもので何かお困りごとはありませんかね?
ハモンド: やば!危ない危ない。トランクが開けっ放しだ。
パイン氏: なに![ 大げさに小走りする。] 到着!
ハモンド: まだパイの材料を運んでないや、それとアイスクリームもあるからね。
パイン夫人: 全部こっちで運んどくわ。2人ともくつろいでてちょうだい。
ハモンド: プレゼントはツリーの下に置いときましょ。
[ハモンドとウェザーズがギフトバッグをリビングルームに運ぶ。ツリーは電飾とティンセルで飾られ、人形の頭を模して塗装されたパピエマシェ製のオーナメントが掛けられている。]
ウェザーズ: うわ!
ハモンド: どしたの?
ウェザーズ: 君んちのツリーはアタマで覆われてるんだね。
ハモンド: 怖がらないでよ!パイン家の伝統のひとつなんだ。
ウェザーズ: 伝統を重んじてるってのは聞いてたけど、ちょっとね。パイづくりは?パイづくりはクールだよ。でもこれは?単純に気味悪いって。
ハモンド: カワイイ、でしょ!手作りなんだよ。今日の日の催しの一部なんだ。ひとつひとつがパパとママが就学援助した子供たちを表しているの。いや、待って、もしかしたら食糧支援か何かかも。スワジランドだったかな?
ウェザーズ: いやぁ、それはすごい数の子供たちだね。でもってアフリカだろ?すごい数のホワイトの子供たちだね。
ハモンド: わぉ、レイシスト発見!
[ ハモンドが雪だるまのぬいぐるみを掴んでウェザーズに投げる。カメラが揺れる。2人が笑う。ウェザーズがぬいぐるみをハモンドに投げ返す。ぬいぐるみが彼女から逸れてオーナメントに当たる。ツリーから落ちたオーナメントが粉々になる。]
ウェザーズ: マズい。ごめん。あら、これって脆いんだね。
ハモンド: 大丈夫。1つ無くなったところでパパママは気づかないだろうから。
[ ウェザーズが砕けたオーナメントを拾い上げる。刈られた毛髪の束が中から落ちてくる。]
ウェザーズ: あーっと、ロー?
ハモンド: えっ。それって— いや、うん、私ほうき取ってくるよ。
[ 映像1終了。 ]
[ 映像2は、ゴミ箱の中の様子を映した場面から開始する。砕けたオーナメントに加え、アイスクリーム桶や七面鳥の丸焼きなど、未開封の食料品類が捨てられている。]
ウェザーズ: ねぇ。ロー?これ見てよ。多分だけど、ご両親が—
[ 悲鳴が上がる。カメラがキッチンに向けられる。口を両手で押さえてシンクの前で立ち尽くしたハモンドがすすり泣いている。]
ウェザーズ: どうした?
[ ハモンドが激しくすすり泣く。]
ウェザーズ: ローリー、どうした?大丈夫?
[ 弱々しい動物の鳴き声がする。ウェザーズがシンクに近づく。血まみれの前脚が1本、排水溝から突き出ている。]
ウェザーズ: クソッ!何なんだよ?
ハモンド: 分かんないよ!バターズが初めから中にいたの!
ウェザーズ: 大丈夫— 大丈夫だから、落ち着こう。助けられる… この子を助け出そう。何か方法がある。どこかに—
[ より激しく強張った泣き声がする。ハモンドが首を横に振る。]
ハモンド: どうか赦して!
[ ハモンドがスイッチを入れる。ディスポーザーが作動して排水溝へと前脚が吸い込まれる。動物の鳴き声が止む。映像2終了。]
[ 映像3は、天井の定点を映している。シーリングファンの羽根がフレームの端に映る。最初の映像で確認された黒ずんだ染みが同様に映っている。ハモンドの泣き声が聞こえる。]
パイン氏: 大丈夫だ。大丈夫だから。
ハモンド: [ 弱々しい声で。] 大丈夫じゃない、意味わかんない。
パイン氏: 全てのことは起こるべくして起きてるんだ、ロリオー。たとえ、それが私たちに理解できなくとも。それが恐ろしいことでさえも。
パイン夫人: ねぇ、ずっと昔のことだけど、靴下しかもらえなかったクリスマスの日を覚えてる?あなたとてもがっかりしてた、でも本当に立派でもあったのよ、私は覚えてるわ。あなたは笑顔で、感謝の言葉を口にして、なんて良い子なんでしょうって覚えてる。そしたらボビーがサンタ姿でやってきて、欲しがってた新しいゲーム機をプレゼントしてもらったわよね。あなた、ただ笑って、これでもかって大はしゃぎして、私たちにギュッとハグして。そうだったしょう?覚えてる?
パイン氏: [ 前述の発言と重なりながら。] 大丈夫だ。全て大丈夫だから。ただ座っていなさい。それでいい。そうだ。パパがここにいる。大丈夫だから。深呼吸して。大丈夫だ。もうすぐクリスマスなんだから。
ハモンド: いや、そんなことなかったよ。
パイン夫人: あったわよ、ねぇ。
ハモンド: なかったよ!
パイン夫人: あったわよ。そうでしょう?デイビッド?覚えてる?デイビッド?あの時、どんなに嬉しかったか、あなたは覚えてる?
[ 強張った呻き声が聞こえる。]
ハモンド: デイブって?どうして—
パイン氏: 大丈夫だから。パパがついてる。
ウェザーズ: そ— そういえば。そうだ、言われて思い出したよ。
パイン夫人: それで、あなたはどうだったの?
ウェザーズ: うん。本当に、あぁ、あれは最高のクリスマスだったよ。
ハモンド: は?ママ、なんでそんなことまで知ってるの?ママはデイブのお母さんじゃ—
パイン夫人: でも、そうなのよ。あなたも前から言ってた言葉そのままよ、もうデイビッドはうちの家族の一員なの。デイビー、ハニー、もう1つ、パイン家の伝統をやる準備はいい?
[ 近くのガラス窓が割れる。ハモンドが叫び声をあげるがすぐに口を覆われる。]
パイン氏: 心配しなくていい、ベイビーガール。パパがついてる。大丈夫だよ、ロリオー。全て上手くいくから。弟に会いたい?そうしたら安心できる?
パイン夫人: そうよ!忘れてたわ。サミーがいるんだわ。会いに行きましょう。あなたのお古の部屋にいるわ。どんな部屋だったのか、今はもう思い出せないでしょうけど!安心して、あなたのものはそっくりそのまま置いてるから。おいでらっしゃい、立って。さあ立って、かわいい子だから。行く時間よ。
[ 硬材の床を不規則にたたく音と足音がする。移動するにつれて声が小さくなる。]
パイン氏: 大丈夫だ。大丈夫。静かに。この子に手を貸してやってくれ、息子よ。
ウェザーズ: 本当に大丈夫かい?オーケイ。丁重に運ぶよ、ロー。
パイン夫人: サミーはすごく喜ぶはず。あなたが信じられないくらい、あなたに会いたがってたから。私たちだってあなたと同じくらいあの子も愛してるのよ、ローリー。あなたもそうでしょう。でもあなたいなかったから。去年はいなかった。でも、今年はいるものね。
パイン氏: もうすぐだ、ベイビーガール。
[ ドスンドスンいう音が徐々に増していく。]
パイン氏: [ 上述の音と重なる。] 上って、階段を上って。そう。もうすぐだ、もうすぐクリスマスなんだ。
ウェザーズ: これまでにない最高のクリスマスになるね、ロー。
パイン夫人: デイビー、カメラを持っててちょうだい。サミーが後で見たがるでしょうから。
[ 映像3終了。 ]
[ 映像4は、SCP-5703内部にある。ハモンドが床に横たわる。意識はあるが朦朧とした様子である。パイン夫妻が彼女の傍らにひざまずく。ウェザーズに把持されていると思われるカメラが小刻みに震える。未塗装のパピエマシェ製の頭を模した1つの箱がドア横に映る。]
ハモンド: お願い。ママ。私そんなの無理。
パイン夫人: できるわよ。私の勇敢な娘はどこ?
ハモンド: できるはずない。まだ準備もできてない。それに— [ 声が震えている。] それにパイづくりは?デイブはパイも食べちゃいない。
パイン氏: 何事も最後には終わるものだよ、私のかわいい子。クリスマスでさえ。人間でさえ。[ ハモンドの髪を撫でる。] それはパイでさえ。
[ 調子外れに歌いながら、パイン夫人がハモンドの靴と靴下を音もなく脱がし始める。]
パイン夫人: [ 歌う。]
遠くの飼い葉の桶で 御子が目覚める
Away in a manger, the baby awakes
永遠とわにわたしのそばで 泣くこともなく
Close by me forever, no crying he makes
[ パイン夫人が歌いながら両手でハモンドの右足を持つ。床板の隙間に爪先を押し入れる。ハモンドは爪先を引き抜こうとわずかに試みるが状態は変わらない。パイン氏も歌に加わる。大げさなバリトンで歌う。]
パイン夫妻: [ 歌う。]
愛を汝に いとおしい子ら 空の彼方から見守られる
I love thee, dear children! look down from the sky
オーはわたしの揺り籠のそば 夜の明けるに至るまで
O stay by my cradle till morning is nigh
[ ハモンドの右足の爪先が不可解な力により床板の隙間に引き込まれる。力が増して足指の軟組織・硬組織を断裂・圧壊する。血液と肉片が床板の隙間に吸い込まれていく。ハモンドがパイン氏に弱々しく腕を伸ばす。パイン氏は彼女の髪を撫で続けている。]
パイン夫妻: [ 歌う。]
畜舎の牛が鳴いている わたしのそばにおいでください
The cattle are lowing; I ask thee to stay
常盤ときわに汝を愛します どうか慈愛をお恵みください
I love thee forever, and love me I pray
[ プロセスが加速する。ハモンドのくるぶしより先が急速に圧壊して床に引き込まれる。結果、重度の骨折を負ってハモンドの脚部が腫れ上がる。大きなうめき声を上げながらハモンドが床板に爪を立てる。隙間に入らなかった肉片の一部がパイン夫人の傍に転がる。パイン夫人がキャンディケインを使って肉片を隙間に押し入れる。]
パイン夫妻: [ 歌う。]
愛する子みなに祝福を 我らの優しき御心で
Bless all the dear children in our tender care
我らに天への導きを 汝のおそばで永らえん
And take us to heaven to live with thee there
[ 振り子時計の12回鳴る音が遠くから聞こえる。ハモンドの左足で同様のプロセスをパイン夫人が繰り返す。パイン氏がハモンドの額にキスをする。ハモンドは痙攣している。]
パイン氏: [ 前述の時計の音と重なりながら。] メリークリスマス、愛しい子。
パイン夫人: ラッピングステーションからハサミの大きなやつを取ってくるわ。みんなで手伝ってあげないと、そうでしょう?デイビーのためのスペースが残っているかも確認しなくちゃね。
[ パイン夫妻がカメラに振り返り笑みを向ける。]
パイン夫人: やっぱり、あなたはもう家族の一員ですもの。
[ 映像4終了。 ]
後記: その後のウェルネスチェックで訪れた法執行官により、人毛と成分不明のパルプの塊に包まれたウェザーズの携帯電話がSCP-5703内部から発見されました。ハモンドとウェザーズは少なくとも失踪の16ヶ月前から恋人関係にあったことが判明していますが、超常事案5703-01以前にダイアン・パインおよびロバート・パインと何らかの関係 (家族関係かそれ以外かを問わず) があったことを示す証拠は一切存在していません。