クレジット
翻訳責任者: Yukth Yukth
翻訳協力者: ccle ccle
翻訳年: 2024
著作権者: Amelia Wright Amelia Wright
原題: SCP-5669 - The Sea my Solace
作成年: 2021
初訳時参照リビジョン: 18
元記事リンク: https://scp-wiki.wikidot.com/scp-5669
SCP-5669の沈んだ部分。
特別収容プロトコル: SCP-5669に関する発展的研究により、継続的な隠蔽および伝播する現象の抑制が異常性を誘発することが示唆されています。研究と検討の結果、積極的な収容手順を放棄して自己無力化を見越した段階的プロセスが複数の収容スペシャリストにより実施されています。
特別収容プロトコル: SCP-5669が遠隔地に位置すること・異常性が比較的無害であることを理由に、低レベルSafeクラス収容の取り組みが確立されています。SCP-5669の周囲3km四方が進入禁止区域に設定されており、これを受けてカバーストーリー5669-A ("光ファイバー敷設工事") が適用されています。SCP-5669を取り囲む砂浜と干潮地域に対してARTモントーク27 ("海辺の怠け者"Beach Bums) 隊員が配置されています。SCP-5669により生成された物体は厳密な同定の後に取り除かれ、分析・収容のためにサイト-27の倉庫に移送します。
説明: SCP-5669はニューヨーク州モントーク近郊に位置する一部が浸水した1軒の家屋です。悪天候の続く時節において、SCP-5669からは1〜100本のガラス瓶が散発的に放出されます。色・形状・製造元は不定ですが、牛乳瓶が最も一般的です。ガラス瓶の要素とは無関係に、全ての瓶には樹皮に類似する素材に書かれたメッセージが1枚、堅く巻かれた状態で包含されています。6月になるとメッセージが込められた瓶の発生は著しく減少します。
補遺: 回収されたメッセージ
SCP-5669文書作成以後、約██件の特異なメッセージが発見されています。各メッセージは一人称であり、長大なものから比較的に短めなもの、文章断片、時には詩集などの形式で一貫性なく記述されています。以下は重要なメッセージをおおよその記述の古い順に並べたものとなります。
あの日の舞踏会に参加した、もう1人の独り身の方へ
貴方のお名前を伺う機会を逸してしまいました。先の水曜日の夕べ、ダンスホールの外れに佇む貴方の姿が私の瞳に映りました。ダンスの申し出を、そう心にしていたのです。ダンスパートナーも居らず手持ち無沙汰でいたのは私と貴方の2人だけでしたので。ワルツのような大仰なものではなく、あの夜を締めくくるに相応しい、ほんのささやかな踊りを1つと。
貴方の元へ行こうと、そして恭しく自己紹介差し上げようと決めた心は、貴方に近づくその度に幾許か怖気づいてしまいました。パートナーが居るのではないか、やって来るのが遅れているのではないか、その考えを払う術も持ち合わせていなかったのです。ですので、私はダンスホールを去りました。立ち去り、振り返らないではいられなかったのです。このような形で自己紹介差し上げてお近づきを願うのが望ましくないことは私にも分かっていますが、今すぐにはこうする他ありませんでした。私はメリー=ジーン・ルーシー=クロフォードと申します。母がメリー・ルーシー・ジーンの中から好きな名前を選べずに全て名前を付けたのだ、なんて冗談を姉と妹は申しております。皆、私のことをジーンと呼びますが、それは私が真ん中の子供で、ジーンも真ん中にある名前だからかもしれませんね。或いは、メリーやルーシーよりも響きが良いのでしょうか。私にもよくわかりません。恐らく、先の理由もそう間違ったものでもないのでしょう。私はあまり友人を多く持てず、町に繰り出すこともままならず、出会いもない身の上でおりました。先週の水曜日がここ数ヶ月で唯一出会いのあった日なのです。
近いうちに貴方を家にご招待したく思います。3月は1日のお昼どきなど如何でしょうか?焼きたてのケーキでお迎えいたします。私の母より教わりましたので、新しいお近づきの際には袖の下にお茶とケーキを忍ばせなさい、なんてね。
またその時まで。-ジーン
私の特別な人へ。
水曜日からあっという間に週末になっていただなんて、手に取る新聞でようやく気付かされました。あの日のことに私はすっかり心奪われていたようです。あの日は… とても素晴らしいもので、そして本来の自分というものに想い馳せました。モントークの皆に求められていた私のかたちから解き放たれて、うわべを取り繕う必要もない。彼らは私のことをよく知ってるわけではない、けれど… 貴方と過ごした数日、ただそれだけで心に安らぎが訪れたのです。気持ちがよかった。本当に素晴らしい。素晴らしいことでした。このことをお伝えする機会に恵まれなかったので、以前と同じく、手紙で大事なことを綴ろうと思います。これが最後です。約束です。それでも、貴方が私のことをこの町の誰よりも大切に想ってくれていること、それが私にとっての幸せということを貴方にお伝えしたかったのです。
また貴方に会える日を楽しみにしています。ソネットを紡いだり、愛の言葉を囁くなんて叶わない関係にあることは承知しているけれど、私にとって貴方は大切な人と思わずにいられない。本当に大切な人。
貴方に恋している、そう思えるのです。
今年の海岸には冬が早く訪れそうです。木々や草花、崖の周りの森に冬の到来を感じました… けれど、真に冬が感じられたのは浜辺と海そのものを目にした時でした。勢いよく打ち寄せる波と… 穏やかな波とが交互に砂浜へやってくる。貝殻やきれいなものを海から空へと運んでくれるような、穏やかな波。私は冬が嫌いでした。寒さが嫌いで、死が嫌いで。でも今では、柔らかさと静けさを感じます。私は-
冬に貴方を見ます。海の静けさと崖を囲むそよ風の中に貴方を見出します。私は貴方へ、口づけします、それに苦難が伴っても。明日の夕暮れには大雪が降るのでしょうね。吹雪が海の向こうから、冷気と暗闇と静寂を携えて来るのでしょう。貴方が好きだと話してくれた、そんな天気です。ラジオから流れる古惚けたラブソングの歌詞のように聞こえるかもしれないけれど、冬の季節に私は貴方に恋しました。きっと貴方と出会えたから、海を眺めたその時に、岸で踊る2人が目に浮かぶのです。
今この時にでも、貴方を愛していると言いきれます。そして日を追うごとにその気持ちは増していくばかりに思えるのです。新しい冬の日を追うごとに。
アイ・ラブ・ユー
貴方への愛が故に、詩を綴りました。今度いらしたら音楽に合わせましょう。貴方はチェロを持ちいらして、そしたら私はピアノを弾きながら貴方を想って歌いましょう。
炎の燻る髪を靡かす貴方への愛My love with hair of a smoldering fire
夕暮れに吹かれる春風への想いthoughts of spring and evening wind
貴方の赤らむ指を運ばせるwho I will hold with ginger fingers
重く苦しいこの胸にand bring close to my heavy
光の言葉を口ずさみ 重く沈んだ肚の灰にchest, with words of light, and heavy ash in my belly
私の魂を慰む貴方への愛My love who comforted my soul
空は移ろいWhen skies were gone
貴方が私を抱き留めるAnd who will hold my embrace
海のようにAs but the ocean
雲のようにAs the clouds
生ある全てと生のない全て 貴方への愛My love with everything and everyone
煌めく星々と交わす口吸いKiss the stars when they shine bright
凍てる満月にふたり浮かびAbove a cold moon
暖かな貴方に抱かれ続けるKept warm by my darling and embrace
愛が為の、貴方への言葉。To say words because I love you.
昨夜、貴方と私の素敵な夢を見ました。私たちは連れ立って、家の庭で花々に手を加えていました。現実の庭では花が枯れていきます。土が酸性に寄り過ぎているうえに庭地が海水に浸されていると聞かされています。それでも、私が手を止める理由にはなりません。
貴方が去ったあの時から、苗木やチューリップは育ち始めて家の下までその根が伸びていきました。まるで貴方が私のそばにいて古びた庭と家を癒してくれたかのように、全て貴方のおかげのように感じられたのです。愛しい貴方、メロドラマめいたことを言うつもりも、哀れみを乞うつもりもありません。けれど私の心の穴を埋めたのは貴方だったのです。貴方のおかげで欠けた私が満たされたのです。庭の傍に、古びた家の傍らに貴方もいてほしい、夕べごとに貴方と手を取り合っていたい、そして朝焼けの度に貴方と目覚めの口づけを交わせたらと思うのです。
秘し隠すことなく、貴方と一つになれる日もそう遠くないのでしょう。庭に咲いた大輪の花のように、あるいは海辺に打ち寄せる波のように。どうか早く会いにいらして。想いが募るのです。
愛を込めて、ジーン。
補遺No.1: ブラウン博士のメッセージ
SCP-5669の主任研究者であるジョゼフィン・ブラウンにより、ニューヨーク州モントーク所在の自宅近辺の海岸に流れ着いた瓶から以下のメッセージが発見されたことが報告されました。財団の歴史部門に勤務する以前、ブラウンはレズビアンの歴史と文学に関する著名なアーキビストでした。歴史的調査により、以下の画像は、ジョゼフィン・ブラウン博士の元に出現するまで公にされていなかったものであることが判明しました。
私たちのことを心に留めてくれて、目にしてくれてありがとう。時が経てばこのように偲ばれる必要もなくなるでしょう。皆もわかってくれるはずです。愛をこめて、ジーン・クロフォードとネリー・クロフォードより。