クレジット
SCP-5576 - 残る後悔はそれだけだ
All That’s Left to Regret
Cremo Cremo とJack Waltz Jack Waltz の共著
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Fig. 1.1 収容6日前のSCP-5576
特別収容プロトコル: 現在、SCP-5576はサイト-228の標準人型収容室に保護されています。SCP-5576に対する特別研究が認可されており、現在監督司令部の観察下にあります。
SCP-5576に関するさらなる情報は制限されています。
説明: SCP-5576は元サイト-228管理官ジョナサン・メラーです。SCP-5576の異常性質はその死の1分後に発現し、概ね半径3m以内に存在する全ての物質が約2分間の時間逆行を経験します。SCP-5576を含むこの領域内の全ての物体と人物が影響を受けます。既知の例外的存在はSCP-5576の記憶だけです。
SCP-5576の異常性質の作用機序に対する調査は進行中です。
発見: SCP-5576の異常性質は、96歳となった退職後11年目の2008年当時に発生した住宅火災の最中に発見されました。監視カメラ映像によると、消防士が現場に到着するまでの間に、対象は煙によって窒息し約30回亡くなりました。
財団の介入に続いて、カバーストーリーA3549B("焼死")が地元報道機関に流布され、記憶処理が適切に施行されました。SCP-5576の家族には適切な死体が提供され、オブジェクトは尋問と研究のために拘束されました。
インタビュイー: SCP-5576
インタビュアー: アルバート・クレン博士
[ログ開始]
クレン博士: こんばんは、ジョン。
SCP-5576: 構わん、俺をスキップIDで呼んでいいぞ、アル。俺は本当に気にしないから。
クレン博士: 知ってるだろうけれど元同僚とこういうことをするのは初めてでね。
SCP-5576: ハッ、始めの10回ばかりは慣れないだろうが、いずれ慣れるものさ。
クレン博士は微笑む。
クレン博士: さて、気分はどうなんだジョン?
クレン博士とSCP-5576は同時に発言する。
クレン博士: あるがままに?
SCP-5576: あるがままに。
両者共に笑う。
SCP-5576: ハハッ!覚えてるか?
クレン博士: 忘れるわけないだろ?毎日聞いてたんだからさ!
SCP-5576: オゥ!オールド・ジェムもそう言い出したのを覚えてるぞ。なんてヤツだい。あいつはまだここに勤めてるのか?
クレン博士: あー、いえ、残念だけれどもね。早期退職したよ。ここの古株のほとんども寂しがっているね、時々。
SCP-5576: おおう、残念。彼を忘れることはなさそうだ。だがよ、もっと良いニュースがあるんだろ!
クレン博士: えっ?
SCP-5576: お前のことだよ!俺がいない間に上研に昇進したんだろ。
クレン博士: は?あー、ハハッ!ありがとう、ジョン。
SCP-5576: 管理官になるまでそう長くは掛からないって言っとこう。なんてったって俺の下でしばらく働けたわけだからな。
クレン博士: へへっ。管理官ね。ふん...... 考えたこともなかったな。抜群のキャリアを目指したことなんてなかったけれども。管理官について身を以て知ってるからさ。
SCP-5576: おい、俺を信じろよ。その地位に届くまで長く掛かるとは思わんぜ。誰しもがなれるって訳じゃない。だから自分を誇っていいんだぜ、アル。さらにオマケとしてな、現場から普通は遠ざかれるんだ。そして俺があの当時に座ってたのと同じ席に座ることになるだろう。もちろん取り替えられてない限りは、だが、いや、考えてみると多分交換してるわ。
SCP-5576は大袈裟にため息をつき、2人は共に笑う。その途中SCP-5576は喘ぐ。
SCP-5576: さて、ニナは今何歳だ?12?15?
クレン博士: 今は11歳。子どもの成長はほんと早いものだね、ジョン。
SCP-5576: わかるぜ。彼女をはっきり覚えているよ。愛らしい小さなわんぱく娘だった。
クレン博士: ああ、まだまだその通りだ。彼女がカリーとどれだけトラブったもんか知らないだろうが、彼女の味方に常になる気にはならなかったな。誰かしら子どもを守らなくちゃいけないってもんだろ?
SCP-5576: その通りだ。子どもにとっちゃよくはないんだろうがね。俺はその手の話の専門家じゃないが。
クレン博士: ああ...... へっ、「15?」だって?時間経過を把握することにかけちゃまだまだ下手くそだなぁ?締め切りがいっつも背後からじりじり寄って来たもんだったなあ、そうだろ?いっつも私が緩みを指摘していたことを覚えてるよ。
SCP-5576: ああジーザス、考え直してくれ。もう少なくとも10年前のことじゃあないか。毎回助けてくれたことには感謝しきれないよ、アル。俺はめっちゃ忘れん坊なんだよ。
2人は前回より大声で笑う。
クレン博士: 友を中途半端にゃしてらんなかっただけだよ、まあ、少なくともあなたは
クレン博士は雑談を止めるよう命じられ、尋問の継続を思い出させられる。
クレン博士: あー、うむ、SCP-557
SCP-5576は遮るようにため息をつき、あたかもそれ以上クレン博士が話すのを止めるかのように手を挙げる。
SCP-5576: 今のを推測するに、あいつらから「挨拶やめろ」とかそういう何かを言われたんだろ?賭けてもいいね。
クレン博士は目を逸らして口籠りながら発言する。
クレン博士: それでは...... うー、それでは続けましょう、SCP-5576。
SCP-5576は歯を見せて笑うが何も発言しない。
クレン博士: では、始めに、事件以前に自身の異常性質について知っていましたか?
SCP-5576: あの時初めて死んだよ、アル。き、気持ちの良いもんじゃなかったが
SCP-5576は咳き込む。
SCP-5576: つ、エヘン、づけよう、俺は決して知らなかった。こうなったのは多分あの...... 俺がガキだった頃からだ、正直に言うと。
クレン博士: ふむ、私たちは
SCP-5576: お前も知る通り、俺はここに在籍していた間、多くのアノマリーと共に過ごしてきた。これらの性質はきっとその結果だとお前は言うかもしれないな、当たり前だが。
クレン博士: その通りです。私たちもそう考えています。あなたがここで過ごした日々いや、年月かの間に接触した全てのオブジェクトを現在調査中ですし、この能力を付与するような振る舞いをしうるそれらとの間に、ある種の繋がりがあるかどうかを見ています。
SCP-5576: はいはい。標準プロトコルだな、えぇ?
SCP-5576の発言を受けてクレン博士は軽く含み笑いをする。
クレン博士: ええ、標準ですね。とはいえ何か他に思い当たる理由はありますか?今丁度話したものの他に。
SCP-5576: 言いにくいな。そうだな...... ふむ。俺はかつて大量のオントキネティック異常群たちを扱っていた。特に現実改変者たちだ。
クレン博士: 現実改変者たちを扱う仕事をしていた?
SCP-5576は躊躇する。
SCP-5576: 極めて多くのをな、ああ。
クレン博士: それは...... おかしい。
SCP-5576: どうした?
クレン博士: このリスト上には何も見当たらないぞ。
クレン博士は目を通していたファイルをSCP-5576に手渡す。
SCP-5576: こいつらは...... 全部俺が関わったアノマリーなんだな?
クレン博士: ああ。
SCP-5576: おぉ...... ああ。誰も知らないって訳だ、そうだろ?
クレン博士: ふむん?
SCP-5576: 当たり前だが、このことをお前に話したことはかつてなかったと思う。いやここ228の誰にもだ、だが
クレン博士: サイト-17で働いていたことがあるのか?
SCP-5576: なにっ。どうして
クレン博士: このインタビューの直前に職員ファイルを読んだよ。その...... 控えめに言って驚いた。正直信じられなかった。本当にそうなのか?あなたは...... 本当に?
SCP-5576は眉間にしわを寄せ、擦る。
SCP-5576: もしそうだと言ったらお前は俺をどう思うんだ、アルバート。
クレン博士: ええと、噂は噂だとばかり。つまり...... 見方を変えることはない、と、理由としてはただそれだけ。あなたはまだ私の同僚で...... 友達だ。
SCP-5576は痛々しい表情を浮かべ目を撫でる。
SCP-5576: ありがとう、アル。
SCP-5576は躊躇する。
SCP-5576: そのほとんどが、リストに載っていない。
クレン博士: 登録されなかった?なぜ?
SCP-5576は返答しない。クレン博士はしばらく沈黙する。
クレン博士: しかし、それはつまり......
SCP-5576は弱々しく頷いて足元を見下ろす
SCP-5576: 新人の頃、俺は17に派遣された。俺はあん時は情熱的なガキだった。お前ならきっと俺を...... むきになっていると表現しただろう。俺は諦めなかった。そこに居た...... 皆を救けようとした理由の一部だ。
間
SCP-5576: そこに送られてきた全員を、俺は全身全霊を尽くして彼らを救いたかった。俺には到底耐えられないような他の皆がしたことを、俺はしなかった。俺は意固地だった、ほとんどの点において。
クレン博士: それでは助けようとしていたんだね?その...... もちろんあなたならしただろうな、ジョン。ああ、あなたは常に優しい男だったから。
SCP-5576は目を伏せる。
SCP-5576: 俺はベストを尽くしたんだ、アル。できる限りのことを全てしたんだ。だが...... だけれども、俺は諦めてしまった。
間
SCP-5576: 何度も何度も何年も惨状を見続けた挙句、俺は慈悲を見せるのを辞めたんだ。俺は...... 俺は忘れたんだ。
SCP-5576は視線を戻す。その唇は震えている。
SCP-5576: 苦しいよ、アルバート。最初は、ただ忌まわしい過去を遠ざけられると思っていた。俺は...... 退職前に、忘れさせてもらったんだ。そのことを二度と考えたくなかった、残りの人生を家族とただ楽しみたかったんだ。呪われることなく...... あの顔たちに...... あの記憶に。強烈な薬だった。効果はあったんだ...... そうだったんだ、だが......
その笑顔は震えている。
SCP-5576: だが、知ってるだろ、アル...... 最近、全てが俺の所に戻ってきたんだよ。頭ん中にその全部がどうしようもなく溢れ出した。永遠にあの記憶を埋もれさせたままにすることはできなかったんだろうと思う。
間
SCP-5576: 俺はあの席に座っていた、何百回もいや、何千回もだ。覚えられないほどの回数だ。だが、テーブルのこちら側に座ってみると新鮮だな。心の底の方では、俺がこうなりたかったとお前は言えるだろうな、アルバート。俺は幸せだよ。
クレン博士: でも...... なぜなんだ、ジョン?
クレン博士は口籠る。
クレン博士: だ、大丈夫。決してそのようなことをしたかった訳ではないって私はわかってるから。もし欲しいなら、間違いなく医務室にお薬を処方してもらえるから。
SCP-5576は咳き込み、微かに笑みを浮かべる。
SCP-5576: いいや、アル、それでいいんだ。これが誰かが俺を呪ってのことなら、俺は受け入れるよ。仕返しはしない。そして本当に正直に言うと、俺が幸せな、普通の生活を暮らすのは、俺の仕出かしたこと全てに対してシンプルにフェアじゃないんだろう。
[ログ終了]
更新(2022年01月03日): 2022年1月3日時点で、SCP-5576は111歳です。その年齢と健康状態のために、SCP-5576はベッド上にて一日平均45〜50回発生する、実体の死を伴う末期的ループを経験し始めました。
さらなる研究のためのサイト-17への移送は保留中です。
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