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SCP-3898: The Burden(重荷)
著者: CadaverCommander CadaverCommander
画像クレジット: https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Two_brothers_ship_anchor_cropped.jpg
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初期収容の際のSCP-3898、エージェント・パルマーの変換の数秒前
特別収容プロトコル: SCP-3898は15x15x15以上の通常型危険オブジェクト収容ユニットの中央に保管します。
財団職員はいかなる状況においてもSCP-3898の効果範囲に進入することは許可されません。もし暴露されると、職員は拘束され、健康であり本人及び他者への危険はないと判断されるまで心理観察下に置かれます。
SCP-3898の隔壁は、対象の確保のための遠隔操作型の拘束および鎮圧装置、および試験の結果生じる体液、海水、死体、岩屑の除去のための自動清掃システムを装備しなくてはなりません。
説明: SCP-3898は長さ2.5メートル、重さ約350キログラムの鉄製のアドミラルティ型の船舶用の錨です。SCP-3898は推定140-150年分の海水への暴露に相当する腐食と劣化の様子を示しています。SCP-3898は物質的あるいは化学的な異常性を示しておらず、サンプル採取や破壊テストでは予想されるとおりに切削可能です。
SCP-3898の表面からおよそ5メートル以内に進入した人間は、一連の異常な心理効果を受け、それは個人ごとに変化します。これらの効果は、その持続時間と、必要とされるSCP-3898からの距離に応じて即時型と持続型に大きく2種類に分けられます。
SCP-3898への暴露の即時型効果はSCP-3898の効果範囲に対象がいるときにのみ発現します。この効果には、様々な発現率や重症度の幻覚、幻聴、SLUDGE症候群を伴う卒倒、能動的な自殺の試みといったものが含まれます。
SCP-3898への暴露による持続型効果は対象がSCP-3898近傍から取り除かれた後も持続します。対象は常に大うつ病性障害に該当する症状を呈し、更に自殺念慮、非致死的な自傷、躁病エピソード、慢性的不安感、免疫力の低下を様々な程度で示す可能性があります。これらの効果の持続期間と重症度は対象が最もSCP-3898に近づいた際の距離および総暴露時間と相関します。抗うつ薬、記憶処理といった治療法は、これらの症状を軽減させ、持続期間を短縮すると判明しています。
SCP-3898の被覆されていない表面へ接触すると、以下のログに詳述されたような広範で劇的な異常な効果がもたらされます。
対象: D-3898-01
手順: 対象はオブジェクトに接近するよう指示される。
即時的影響: 1分32秒間、何も観察されない。対象は混乱を示し、明白な理由なく泣き始める。対象は顔を触り、さらなる混乱を示すと、含み笑いをして床に脚を組んで座る。対象は、彼女が収監される数年前に、白血病に起因する合併症の結果死亡した兄の生々しい記憶を経験したと報告する。対象は個人的な後悔と、兄の声を思い出せないことについての嘆きを口述しながら泣き始める。これはおよそ4分間続き、対象は自然発生的に意識を失い、涙を流し続け、時折痙攣する。対象は遠隔操作型回収システムによりチャンバーから回収される。総暴露時間は6分22秒。
持続的影響: およそ3日間続く、時折躁病エピソードを伴う大うつ病性障害。治療の必要はなし。
最大接近時距離: 4.3メートル。
対象: D-3898-04
手順: 対象はオブジェクトに可能な限り接近するよう、しかし接触はしないよう指示される。
即時的影響: 対象は即座にSCP-3898へと接近し、1.3メートルで突然停止する。 D-3898-04はその場で静止する。自発的な流涙が始まる。対象は収容ユニットの床に横たわり、胎児のような体勢をとり、声を上げて泣く、うめき声を上げる、制御できないヒステリックな咽び泣き、そして過呼吸といった激しい感情的苦悩の徴候を示す。5分45秒で、対象は体を伸ばし、意味の取れない哀願のような発言をしながら這ってSCP-3898から離れようとするが、突然停止する。対象はSCP-3898へと振り向く。対象の目は恐怖で見開かれ、金切り声を上げ始める。それ以上は移動せず、対象は1分27秒間叫び続け、おそらくは酸素欠乏により意識を失う。対象は遠隔操作型回収システムによりチャンバーから回収される。総暴露時間は8分02秒。
持続的影響: 意識不明から回復した際、D-3898-04は半緊張病性状態にあり、発話、食事、移動、意識的な入眠を行わず、経静脈的栄養とホスピス的看護を必要とした。11日後、D-3898-04には一般的心理療法セッションや抗鬱剤などの精神病治療法が施された。対象は治療に反応し、3ヶ月後には暴露の影響から完全に回復したが、現在までチャンバーでの経験を話すことを拒否している。
最大接近時距離: 1.3メートル。
対象: D-3898-09
手順: 対象はオブジェクトに可能な限り接近するよう、しかし接触はしないよう指示される。テスト進行役はより良い心理的変化の評価のため、対象との継続した会話的接触を維持するように主任研究員カーン博士により指示されている。書き起こしは以下となる。
(D-3898-09は収容内に入るように指示される。ハッチが彼の背後で閉じられる。)
D-3898-09: おかしな感じはしないな。
上級研究員レイノルズ: オブジェクトが見えるか、09?
(D-3898-09はドアから向き直り、チャンバーの中央に面する。)
D-3898-09: ああ、医学校に行っていたから、あれが「錨」だってわかるぜ。
上級研究員レイノルズ: よく聞いてくれ、09。オブジェクトに速く近づいて、できるだけ近くに寄ってくれ。
D-3898-09: あれが俺を取って食うことはあるか?
上級研究員レイノルズ: ない。近づいてくれ。
D-3898-09: 言い方は悪くないな。やる気になる。
(D-3898-09はSCP-3898に速く近づき、0.3メートルで停止する。彼は尻に手を当てる。)
D-3898-09: 何が起きるんだ?
(間)
上級研究員レイノルズ: 少し待ってみてくれ、09。
(D-3898-09は腕を組み、32秒間静かに立っている。それから彼は手を伸ばして涙を拭う。彼は手を見て、鼻を鳴らす。)
D-3898-09: おかしいな。俺は何も......
(D-3898-09は微笑む。涙が彼の顔を流れる。)
上級研究員レイノルズ: D-3898-09、何かおかしなことはあるか?
D-3898-09: ......いや、何もない。何も......特別なことは。自分に何が起きているかわからないが、俺は......変な感じがする。何か......沈んでいるような。
上級研究員レイノルズ: 説明できるか?
(対象は目を見開く。)
D-3898-09: 絶望したことはあるか、博士?
上級研究員レイノルズ: あると思う。誰だって時にはそう感じるものだろう?
(対象は笑う。)
D-3898-09: そう、そうだ!人は車が壊れたときに絶望を感じる。仕事のプレゼンをしくじったときに、テストで悪い点をとったときに。傷ついたときに、愛する誰かが愛を返して来なくなったときに。
(対象は咽び泣き始めるが、まだ微笑みを浮かべている。)
D-3898-09: 人はもうすぐ死ぬと告げられたときに絶望する。愛するものが死んだときに、あまりに道を外れて、あるべきところへもう帰れないと悟ったときに。
(間)
D-3898-09: だがこいつはそういう全部とは違う。こいつは息もつけなくさせる。こいつは肺に鉛の棒が入ってるみたいに感じる。俺の肩を押さえつけ、俺の背骨が曲がっていくように感じる。
(D-3898-09は収容チャンバーの観察窓へと向く。それは極性隠蔽板により隠されていた。D-3898-09はテスト開始前に目視的に監視されているとは知らされていなかった。)
D-3898-09: 博士、あんたはバカバカしいクズだ。俺にはあんたが見ている物が見える。そしてあんたが知っていることもわかる。俺たちはひび割れたダムの真ん前に立ってるのさ。その向こうにはたくさんの物があって、そいつらそれぞれが得意なものを持っている。そして奴らと俺たちの間にいるのは......お前か?あんたとあんたの仲間か?俺にはそいつがあんたの顔の中に見える。俺にはあんたの目の向こうに真実が見える。そして俺はそいつをあんたよりもよくわかっている。
(D-3898-09は振り向き、SCP-3898を見る。彼は目を見開き、手を口に当てる。彼はSCP-3898の向こうを、チャンバーの反対側の何かを見るかのように見ている。彼は手を体の側面に移動させる。)
D-3898-09: そしてお前だ。
(対象は笑う)
D-3898-09: 俺にもお前が見えるぞ。俺にはお前が何を求めているかわかる、そしてそいつは俺じゃないってことも。俺はお前を拒絶する。お前は俺が生きがいに残したクソちっぽけなものを奪えない。俺のせめてもの無視も。俺はカス程も働かねえ。俺にはお前が見えるぞ、その底に。お前がそこに隠れているのが、クソの欠片ほどのお前が。
(D-3898-09は返答を聞いているかのように黙る。)
D-3898-09: クソ野郎。違う。俺には何が起きるかわかっている。
(間)
D-3898-09: なぜなら俺は十分に強くはないからだ。そしてお前もそれをよくわかっている。
(D-3898-09は親指を両眼窩に入れ始める 。この行動が引き起こす痛みへの発声その他の応答は見せない。)
D-3898-09: 重荷は重い。そして俺は弱い。
(上級研究員レイノルズが鎮圧システムを起動する前に、D-3898-09は自身の目を破壊することに成功する。D3898-09は収容内から遠隔操作型回収システムによって搬出され、医療処置が施された。)
接触テスト: これらの試験のいずれにおいても、対象はSCP-3898に可能な限り速く接近し(近接テストとなるのを避けるため)、手で触れることにより物理的に接触するように指示されています。
事案レポート3898-01: 2015年11月27日、テスト対象D-3898-58はSCP-3898に指示されたとおりに物理的接触した。しかしながら、以前のテストと違い、即時的に観察できる影響はなかった。D3898-58は片手でSCP-3898の中央軸を掴んだまま長時間動かず、チャンバーのインターコムで観察スタッフが質問しようとするまで小声で発話し続けた。D-3898-58は応答せず、上級研究員レイノルズはチャンバーから対象を引き出すように命令した。対象にロボットアームが触れる前に、D-3898-58は発話を終了し、解読不能な最後の一言を発声した。彼はその後腕を上げ、350 kgのオブジェクトを頭より高く持ち上げ、天井へと向けた。対象はその後服を残して消失した。SCP-3898は床に落ちたが、外見上ダメージはなかった。
事案の評価とそれに続くセキュリティ映像記録の解析により、消失以前のD-3898-58の発言が明らかとなった。書き起こしは以下となる。
D-3898-58: ……ああ。
(間)
D-3898-58: いや、驚いたわけじゃない。
(間)
D-3898-58: 俺か?冗談だろう?
(間。対象は笑う。)
D-3898-58: 本気ってわけだ。俺にはできねえ。やろうとしたってな。
(間。対象は再び笑う。)
D-3898-58: なあ兄弟、聞けよ。お前はもう俺の頭に入ってるんだ。周りを見てみろよ。しっかりとな。全部が見えるか?俺がどこにいるか、俺に何が起きたか。何を俺がしたか。俺はお前をがっかりさせるぞ。全てをがっかりさせる、そいつだけは確かだ。俺は何をやってもメチャクチャにしてきた。俺が知り合った全ての奴をメチャクチャにしてきた。だからこいつも駄目にしちまう。俺はそこまで強くない。すまねえ、だが俺を選んだのは間違いだ。
(長い間。D-3898-58は顔をしかめる。)
D-3898-58: 違う。
(短い間)
D-3898-58: あいつは死んじまったんだ、バカ野郎。一体どこからお前は──
(長い間。D-3898-58は笑い、瞬きして涙をこぼす。)
D-3898-58: 俺があいつを殺したんだ。クソ野郎──
(対象の声は震える。彼は少しの間静かに泣く。)
D-3898-58: ......もうあいつの顔も思い出せねえ。あの後どんな有様だったのかも。畜生、俺は忘れちまった。俺は何年もあいつのことを忘れようとしてたんだ。あいつの顔......神よ、あいつのあの顔が......
(間)
D-3898-58: 違う、違う、ジーザス・クライスト、何だってお前は──
(間)
D-3898-58: ......何で俺なんだ。
(2分31秒の間、SCP-3898を掴んでいない手でD-3898-58は涙を拭い続ける。)
D-3898-58: お前のことを好きなのか嫌いなのかわからねえ、このクソ野郎。
(対象は鼻をすする。)
D-3898-58: わかった。わかったよ、黙ってくれ、あんたの勝ちだ。やるよ。だがあんたのためじゃねえ。
(D-3898-58の右腕は屈曲し、SCP-3898を頭上に掲げる。肉体的な努力の兆候は見られない。幽かな、しかし判別可能な金属の軋む音が、おそらくは機械的ストレスのためにオブジェクトから聞こえる。)
D-3898-58: すまねえ、マリア。
(D-3898-58は目を閉じる。)
D-3898-58: 俺は重荷を背負う。
(D-3898-58の肉体は消失する。)
このイベントの意味は不明です。SCP-3898のSCP-3983及びその他全ての関連アノマリーとの関係についての調査が進行中です。