SCP-3724-JP

[フレーム]

評価: +64

クレジット

タイトル: SCP-3724-JP - 財団メシ:魂の壺
著者: Hoojiro_san Hoojiro_san ,stengan774 stengan774
作成年: 2024


本記事は、CC BY-SA 4.0ライセンスの下で提供されます。これに加えて、本記事の作成者、著者、翻訳者、または編集者が著作権を有するコンテンツは、別段の定めがない限りCC BY-SA 3.0ライセンスが付与されており、同ライセンスの下で利用することができます。

「コンテンツ」とは、文章、画像、音声、音楽、動画、ソフトウェア、コードその他の情報のことをいいます。

評価: +64
評価: +64

アイテム番号: SCP-3724-JP

オブジェクトクラス: Pending

特別収容プロトコル: サイト-81UO所属職員による実地調査が完了していないため、SCP-3724-JPのクラス分類は保留されます。Nx-54の知卦山は現時点で警戒レベル4の監視下に置かれ、民間人の入山を阻止する目的でカバーストーリー"落石・土砂崩れの恐れ"を流布し封鎖されます。

説明: SCP-3724-JPはNx-54("四十八町")の知卦山に出現した、ヘビ類(Serpentes)に類似する霊的実体です。SCP-3724-JPは20██年5月22日に「登山中に蛇の化け物に襲われた」という119通報が財団の興味を惹き、発見されました。SCP-3724-JPに襲われた登山客4名は五十嵐病院に搬送され、カバーストーリー"毒蛇咬傷"が流布されました。

目撃者の証言と状況証拠を鑑み、現時点でSCP-3724-JPは以下の特性を持つと推測されています。

  • 推定体長50cm。
  • 体色は全体的に白く複数匹で群れを作り、地面を這うようにして移動する。
  • 周囲の生物全般に敵対的であるが、特に人間に対して積極的な攻撃を行う。
  • 咬傷を受けた場合、嘔吐、下痢、チアノーゼ及び呼吸困難などの症状を呈する。

補遺: SCP-3724-JPの発見された知卦山には「知卦ちけおおオロチ」に関する伝承が存在し、当該オブジェクトとの関連性が強く指摘されています。この伝承によれば、かつて修行をしていた修験者に恋した娘が思いのあまりに白蛇に変生し、付近一帯に大規模な災害をもたらしたのち知卦山にて眠りについたとされており、Nx-54の監視を担当するサイト-81UOにより定期的な調査が実施されていましたが、同様の異常存在の発見には至っていませんでした。

SCP-3724-JPがこの「大オロチ」に関連する異常存在である場合、伝承での描写に従い当事案は河川の氾濫、土壌汚染、"眷属"である毒蛇の大量出現などの甚大な被害が発生する前兆であると予想されています。以下は、警戒レベル4発令に伴い緊急で招集された対策本部による会議記録の転写です。

サイト-81UO — 職員間会議ログ
20██/05/22 — 11:22 am
  • 蔵元 大斗 管理官: サイト-81UO管理官
  • 墨谷 佳澄 副管理官: サイト-81UO副管理官 秘教術師
  • 織戸 鹿三郎 博士: 研究・開発セクション 心霊学/霊体工学主任
  • 稲生 一成 編纂官: 文献室(神話・民俗学)管理アーキビスト
  • エージェント(Agt.) 八谷 美緒: Nx-54担当フィールドエージェント

墨谷副管理官: 消防・警察への要請が通った。予定カバーストーリーは打ち合わせ通り「土砂崩れ」及び「有毒ガスの発生」で行こう。避難計画に関してGOC極東部門はしぶしぶ追認、十和田八幡平JAGPATO非公開オフィスの支持でひとまずこちらの要求は通せた。ICSUT恐山キャンパスからはまだ応答がない。いつも通りと言うべきかな。

織戸博士: 知卦山の調査班から報告です。辺り一面にエクトプラズムの特性を示す不明な黒色の液体が溢れ出ており、その中をヘビと思わしき霊体がのたくりポルターガイストをまき散らしている、と。現在応用秘儀セクションの秘教術師が応戦中ですが、既に数十匹の出現が確認されています。

蔵元管理官: 多いな、厄介だ......オーケー。伝承での描写と照らし合わせた上で具体的な対処を

稲生編纂官: あーすまん、ちょっといいか?その描写ってところなんだが、どうもそのヘビが知卦の大オロチ関連だとは思えなくなってきた。報告が上がって来るたびに疑いが強くなってきてるんだ。

織戸博士: なぜです?大オロチ伝説について熱心に調査して来たのは貴方でしょう。

稲生編纂官: だからこそだ。伝承では大オロチは丸太程度の巨大な体躯と水流操作能力、毒蛇の使役能力を持つとされている。が、今のところの報告ではどれもこれも微妙に符合しない。大オロチが発見されていないのに眷属である毒蛇が暴れているのもおかしいし、知卦山の河川観測所は水位の異常な増減を確認していない。

墨谷副管理官: それホント?もう関係各所には大オロチってことで共有しちゃったよ。かつて大災害をもたらした白蛇の神が目覚めたって。

蔵元管理官: オブジェクトに危険性が無いってわけじゃないだろう。ただ稲生編纂官の意見は興味深い。"幽霊の正体見たり枯れ尾花"、正体を見誤って下手な手を打つ可能性があるなら慎重になるべきだ。

織戸博士: それならちょうどよいタイミングですね。現場のAgt.八谷から通信が来ました。オブジェクトが大オロチ関連か否か、直接確認できるかもしれません。スピーカーと繋ぎます。

Agt.八谷: もしもし、こちら八谷です。対策本部でよろしいですか。

墨谷副管理官: 八谷くん、現場の方はどうなってる?

Agt.八谷: とりあえずひと段落ってところですかね。辺りで暴れてた実体については何とか支援を受けて大部分を無力化できました。発生源と思しき物品も回収できたので、後ほどサイトに移送します。

蔵元管理官: 大オロチについてはどうだ、発見されたか?

Agt.八谷: あーいえ。今K-515で捕獲した実体を確認してるんですが、こいつらどうも大オロチ関連では無さそうです。ちょうどそれを報告しようと思ってたところでした。

稲生編纂官: やっぱりな。オブジェクトは無関係なヘビだったか。

Agt.八谷: いや、ヘビでもないですね。こいつらウナギです。

・・・

・・・

・・・

・・・

・・・

・・・

JAR

収容以前のSCP-3724-JP及びSCP-3724-JP-A(民間人撮影)。

アイテム番号: SCP-3724-JP

オブジェクトクラス: Euclid

特別収容プロトコル: SCP-3724-JPはサイト-81UOのレベルIII防霊収容庫において、開口部を上に固定された状態で収容されます。開口部は多重エクトプルーフ処置を施したチタン合金製固定具で密封され、内部に設置した小型ポンプでSCP-3724-JP-Aの回収を行います。エクトプラズムの抽出後、回収されたSCP-3724-JP-Aは非異常廃棄物処理プロトコルに則って廃棄され、エクトプラズムは濃縮処理を経てサイト-81UOの霊素資源として活用されます。

担当職員の制御下に無い状況でSCP-3724-JP-BがSCP-3724-JP内から収容違反した場合は、即座にホフマン携帯電気奇跡的ユニットによる強制祓除処理が実行されます。担当職員は定期的にプロトコル・ゲンナイに基づくSCP-3724-JP-Bの捕獲を行い、SCP-3724-JP内の個体数の制御を行ってください。この際、SCP-3724-JP-Bによる咬傷を避けるため職員はレベルIIIボディスーツを着用することが義務付けられています。

説明: SCP-3724-JPは異常な耐久性を持つ、一般的に「壺」と呼称される種類の小型陶製容器です。後述する発見経緯以前には知卦山に出現した起源不明の霊的実体がオブジェクト指定されていましたが、SCP-3724-JPの発見を受けて旧仮説は棄却され、現在は壺内を満たしている調味液(SCP-3724-JP-A)と内部に存在する霊的実体(SCP-3724-JP-B)を包括したオブジェクトとして再指定されています。

SCP-3724-JP-Aは黒色に視認され粘稠性を示すエクトプラズム溶液です。エクトプラズムの霊素立体構造内に醤油・砂糖等の調味料数種類が混合した液体が内包されている形で溶液化しているため、目視及び食味などの一般的な判別方法においてSCP-3724-JP-Aと一般的な鰻の蒲焼き用の調味液(タレ)との大きな差異は確認できません。

SCP-3724-JPは外観上推測される体積の9割までSCP-3724-JP-Aで満たされています。SCP-3724-JPの内部底面はSCP-3724-JP-Aに満たされた異常空間に接続しており、壺内部のSCP-3724-JP-Aが何らかの形で減少した場合、直ちに同量が内部底面から平均毎分2mlの速度で湧出することで壺内部の総量は回復し一定に保たれます。この異常空間の体積は、後述するSCP-3724-JP-B群の攻撃によって探査・撮影機器の破損が引き起こされたため現状では判明していません。

SCP-3724-JP-Bはニホンウナギ(Anguilla japonica)の外見を有するクラスCレベルIV霊的実体です。SCP-3724-JP-Bは通常SCP-3724-JPの底面から通じる異常空間内を遊泳していますが、壺の外部においては周囲の生物全般に敵対的な反応を示し、特に人間に対しては積極的に攻撃を行います。またSCP-3724-JP-Bによる咬傷を受けた場合、その人物には不明なプロセスにより一般的なウナギが血液に有するイクシオトキシンを摂取した場合と類似した影響が発生します。

EEL

ハルトマン霊体撮影機によって撮影されたSCP-3724-JP-B群。


発見経緯: SCP-3724-JPは20██年5月22日、「登山中に蛇の化け物に襲われた」という民間人の119通報を受けて知卦山で実地調査を行っていたサイト-81UO職員によって、不法投棄現場から土中に埋められた状態で回収されました。当時の現場周辺は土砂崩れにより地表に露出し転倒したSCP-3724-JPから流出したSCP-3724-JP-Aによって浸水しており、SCP-3724-JP-B群による大規模な騒霊現象(ポルターガイスト)が発生していました。

回収された大量の黒色液体の成分分析でニホンウナギ由来の油脂成分が検出された事などから、同年5月上旬に廃業した付近の飲食店『鰻の恵比寿』の関与が疑われ、元店主に"不法投棄に関する事情聴取"というカバーストーリーの下でインタビューを行ったところ、「蒲焼きのタレが湧き出る壺として先代から受け継いだが、廃業するにあたって処分に困り地中に埋めて投棄した」という回答が得られ、付属していたとされる以下の文書を提出しました。

調伏法: 鰻の祟りをたれに沈む

稼業にて縁あり、小川原にて外法を授かる。まず荒ぶる鰻の魂を壺中に封じ[大部分破損]して、人間への恨みを[破損]、旨味を染み出させる。あっさりしているがコクもあって美味。

以上の現代語訳された断片的な文書の内容から、SCP-3724-JPは何らかの秘教術的手法により敵対的なウナギの霊的実体を収容・利用する目的で構築されたと考えられています。同店舗ではSCP-3724-JPの保有を理由に、長期間にわたって「鰻供養」を意図的に実施してこなかったとする元店主の証言もこの説の根拠の1つとなっています。


インシデント記録: 20██年6月12日、当時SCP-3724-JPの開口部を閉じていた強化プラスチック製の栓が突然破損し、推定数百匹のSCP-3724-JP-Bが収容エリア内から溢れ出しました。これにより職員15名の負傷、他4体のオブジェクトの連鎖的収容違反が発生し、更にSCP-3724-JPが倒れた事で噴出し続けた大量のSCP-3724-JP-Aによるサイト-81UO地下エリアの約10パーセントの浸水といった事態を招いています。

オブジェクトの再収容と大規模祓除処理作戦の決行後、収容違反の発生原因考察と再発防止策の協議のためサイト-81UO職員会議が招集されました。以下は、SCP-3724-JPの収容方法改定に関する職員会議記録の転写です。

サイト-81UO — 職員間会議ログ
20██/06/18 — 05:27 pm
  • 蔵元 大斗 管理官: サイト-81UO管理官
  • 墨谷 佳澄 副管理官: サイト-81UO副管理官 秘教術師
  • 織戸 鹿三郎 博士: 研究・開発セクション 心霊学/霊体工学主任
  • エージェント(Agt.) 安東 創二: Nx-54担当フィールドエージェント
  • 武内 哲檻 収容スペシャリスト(Con.s.): 応用秘儀セクション 仏教課 秘教術師

蔵元管理官: 諸君、インシデント・ぬるぬるウナギパニックの収拾、ご苦労だった。まずは推測される当インシデントの原因を、織戸博士から。

織戸博士: では。第一に、発端であるSCP-3724-JPを閉じていた栓の破損について。これは監視カメラの映像により内部からの破壊だと判明しました。直後にSCP-3724-JP-B実体が大量に"噴き出した"ことからも推測できるように、この破損は多数のSCP-3724-JP-Bが異常空間から入り込み壺の内部の圧力が高まったことに起因すると考えられます。

墨谷副管理官: けど、これまで-Bダッシュ・ビーは壺の外部に出さない限り暴れなかった。栓の破損はより高度で堅牢な固定具に取り換えれば防げるだろうけど、-Bの行動が変わった理由を突き止めない限りはまた"ぬるパニ"が起こらないとも限らない。

織戸博士: ごもっともです。では、事前にお配りした資料をご覧ください。どちらもSCP-3724-JP-Bの写真ですが、1枚目はインシデント以前にサンプルとして捕獲された個体、2枚目がつい数十分前に捕獲された個体です。

墨谷副管理官: ......大きくなってるね。明らかに。

織戸博士: ええ、インシデント以前・以後でSCP-3724-JP-Bは肥大化し、また凶暴性と作用力が高まっている傾向にあります。明らかに霊体特性の変質です。

Agt.安東: 実際かなり連中はタフでしたよ。単純に量が多かったというのもありますが、この短期間で壊れるまで霊通棍を振ったのは流石に初めてだった。

Con.s.武内: 全くその通り!専用の防護スーツを纏っていたとはいえ、ウナギの大群が全員口をこちらに向けて押し寄せて来た時は生きた心地がしませんでした。まさか贅沢する日の昼食由来のアノマリーに殺されかけるとは、洒落になりませんなァ。

蔵元管理官: いや2人とも本当にご苦労。それで博士、続きを。

織戸博士: はい。原因究明のためSCP-3724-JPの異常空間内へ再度探査機器を送り込み観察を行ったところ、SCP-3724-JP-Bが共食いを行っていることを確認しました。

Agt.安東: 共食い?ウナギって共食いするんだったか。

織戸博士: 肉食なので、しますね。しかしここではその結果が問題です。他の霊体を吸収した霊体は生物濃縮に似た原理で攻撃性の増加などの霊体変質を起こし、それによって凝縮された負の思念はカルマ則に従い霊体の影響力を強化する。

蔵元管理官: ふむ、共食いか。今まで確認されていなかった行動を見せ始めたことには何か意味があるのか......。

Con.s.武内: 単純に壺の中が手狭になって来たとかでしょうかねぇ?ほら、魚を狭い水槽で飼うとストレスで、という話も聞きますし。

Agt.安東: あながち無いではないかもしれないですな。これまで確認された-B群の総数は、推定される『鰻の恵比寿』内で提供されていたウナギの総数を大幅に超過している。-B実体は何処か別のところから壺の中に迷い込み続けているというのが妥当な考えです。もしかしたら壺自体がウナギの霊体を誘引する性質を持っているのかも。

墨谷副管理官: ハハ、日本全国で食べられたウナギの幽霊が全部ここに来ているとは思いたくないね。ただでさえニホンウナギは絶滅危惧種だし、共食いで「人間許すまじ」の怨念がドロドロに凝縮されていそうだ。さしずめ壺の中で開催されるウナギの蟲毒か。

蔵元管理官: その呪詛の対象が我々となると笑ってもいられんよ。......ともかく原因はこれで判明した。ここまでを聞いて対策をどうするべきか、皆の意見を求めたい。

織戸博士: 単純な方法としては"間引き"ですね。観察を兼ねて定期的に捕獲を行い、個体数を調整する。これだけでSCP-3724-JP-B個体の霊体変質は抑制できるはずです。

Agt.安東: 悪くはないですがね。毎回毎回ウナギとぬるぬる格闘するのは気が重いところです。

墨谷副管理官: 攻撃的な霊体を完全にエクトプラズムへ還すのはかなり手間だしね。ホフマン・ユニットだって秘教術師が居ないと満足に効果を発揮できないから完全自動化とも行かない。

Con.s.武内: じゃあ、せめて捕獲したSCP-3724-JP-Bを有効利用できませんかねぇ。蒲焼きにしてしまうとか。

蔵元管理官: 蒲焼き?

Con.s.武内: はい、ウナギは美味しく食べてこそ。

織戸博士: 機器を使って実体化させることは可能ですし、出来なくはないでしょうが......ウナギに意識的侵襲でもされたいのですか?ハルトマン越しのアレは、とても美味しそうに見えませんが。

Con.s.武内: いやァ、自分が食べるわけじゃないですよ。ぬるぬるパニックを経験した後だととても暫くそんな気は起きません。

墨谷副管理官: じゃあどういうことだい。

Con.s.武内: 簡単な理屈です。幽霊のウナギなら、幽霊に振る舞うべきでしょう。


協議を経て、SCP-3724-JP-Bの定期的な捕獲及び有効利用に関する特殊プロトコルの職員間合意が得られたことを受け、サイト-81UO研究・開発セクションと応用秘儀セクションの共同により新たにプロトコル・ゲンナイが実験的に立案・開始されました。以下はプロトコル資料の抜粋です。

プロトコル・ゲンナイ

LEVEL 3/3724-JP CLASSIFIED


概要: プロトコル・ゲンナイはSCP-3724-JP-B群の収容違反を抑制するため、SCP-3724-JP-B群の個体数調整と有効利用を行うことを目標としています。

プロトコル・ゲンナイ実行時、担当職員は研究・開発セクションによって開発された仕掛けをSCP-3724-JP内に投下します。霊体の陰性質誘引を利用した誘霊灯により、内部に規定量のSCP-3724-JP-Bが収容された時点で仕掛けを引き上げ、汲み上げたSCP-3724-JP-Aとともにサイト-81UOの調理部へと移送します。

調理部に回されたSCP-3724-JP-Bは特定の要注意団体から接収された秘教的調理技術及びサイト-81KKの調理・美食論セクションの協力により開発された特別調理手順によって、SCP-3724-JP-Aと共に蒲焼きに調理されます。以下はSCP-3724-JP-Bの特別調理手順です。

  1. 仕掛け内部から捕獲したSCP-3724-JP-Bを取りだし拘束した上で、霊通棍で武装した機能的ロボット5台によって殴打させて無力化する。
  2. 非物質変異無効装置(nPDN)の影響下にて包丁で腹開きに身を開く。肝や骨、ヒレの下処理が終わったら、次に神酒に塩を混ぜたブライン液に3時間漬け込み、鎮魂と供養の代替とすることで霊体内の負の思念を除去する。
  3. 銀メッキ加工された串で串打ちを行い、SCP-3724-JP-Aを塗布しながら、Nx-54内で確保された鬼火を用いて焼き上げる。

調理されたSCP-3724-JP-Bの蒲焼きは、財団に雇用されている霊的実体の職員(死後再雇用職員)及び協力的な霊的実体オブジェクトに報酬として提供されます。

サイト-81UO内に勤務する死後再雇用職員及び収容下にある霊的実体オブジェクトの「娯楽としての食事」は以前からの問題であり、霊体になったことで食事をとる必要がなくなった一方、飢餓感を訴え心理状態が悪化しているという事例も多く報告されていました。プロトコル・ゲンナイは、この問題への解決策となることが期待されています。



KABAYAKI

ハルトマン霊体撮影機によって撮影された、調理済みのSCP-3724-JP-B。

陳述記録3724-JP

Record 20██/██/██

対象: 国木田 都築 研究員

前書: 国木田研究員は過去、SCP-2199-JPの収容違反により死亡した経歴を持つ。その後20██年にNx-54内に霊的実体として出現し、現在は死後再雇用職員としてサイト-81UOの研究・開発セクションに勤務している。


今回プロトコル・ゲンナイ最初の被験者となるにあたって、私は調理部での調理風景を見学させていただきました。塩と神酒で浄化して毒を抜いて、最後に鬼火でカリっと焼き上げる......料理というより儀式みたいだな、と感じたことを覚えています。それでもぱちぱちと火の上で爆ぜる脂の音は、否が応にも、死んで以来の「食事」への期待を高めてくれるものでした。

一通り見回ったのちは、別室で待機するように命じられました。部屋に入ると、テーブルの上には箸置きと木製の箸。私は箸にそっと触れてみて、小さな、しかし生きている時には気にもしなかった喜びを感じました。ちゃんと触れるのです。この箸は霊的実体のための特製。お盆の送り火に用いるアサガラを主原料として作られたので普通の割りばしよりも数段軽いのですが、作用力の弱い私にとっては、また箸を持てるということ自体が感動的でした。

暫くすると、ついにウナギの蒲焼きが運ばれてきました。途端、部屋にタレと脂が混ざり合った馥郁たる濃厚な香りが広がります。私は思わず口元を押さえました。生きていたころの名残の仕草ではありますが、私がまだ肉体を持っていた場合、そうしなければあふれ出た唾液が口から零れ落ちていたでしょう。蒲焼きは脂の照り輝く熱気を纏っており、目の前に置かれた料理から立ち上る湯気が、顔に当たって鼻に吸い込まれていく、そんな生前の感覚を思い出しました。

「いただきます」そう言って手を合わせ、ぷつりとウナギの皮に箸を入れました。

ウナギの蒲焼きといえば関東風と関西風があり、ウナギの背中を開くか腹を開くか、焼く前に蒸すかそのまま焼くかといった違いがあります。今回特別調理手順を作成するにあたって協力を仰いだ調理・美食論セクションが関西のサイト-81KKに所在していることから、この蒲焼きは関西風のやり方がベースです。蒸さずに焼く関西風は、香ばしい風味とパリッと焼き上がった皮の食感が特徴。箸でその皮を破る感触を味わいながら、口へ運びます。

蒲焼きの熱さを逃がすように呼吸をし、その香ばしさをいっぱいに吸い込む。そうすると、焦げていないのに香ばしい、調理担当の方の「焼き」の上手さが伝わってきました。タレの甘さはくどくなく、それでいて濃厚さの深みを湛えています。パリパリとした皮の下には脂の乗った柔らかな身。先述したように関西風では蒸さないので、この柔らかさはウナギ本来の持ち味です。

夢中で箸を進め、私は気付けば蒲焼きを完食していました。皿に残ったのはウナギの頭の骨だけでした。

思えば、生きていた頃は忙しさにかまけ、食事というものを適当に済ませたまま生涯を終えました。とにかくエネルギーとなる糖分を摂取し、おいしいかどうかは二の次。たまに贅沢をしようと思っても食事は選ばず、ましてやウナギなんて食べることは殆どありませんでした。

それが今はどうでしょうか。「この蒲焼きにご飯がついていたならさらに良かったのに」などと考えています。皮肉なものです。肉体を失った今になって、食事のありがたみが分かるなんて。

私は箸を置き、手を合わせました。

体験の陳述は以上です。大変おいしゅうございました、ごちそうさまでした。


プロトコル・ゲンナイ実施後、飢餓感を訴え非協力的な態度を取っていた霊的実体オブジェクトが協力的になった事例が複数確認されています。この成果を受けて、蔵元管理官によって今後もプロトコルを継続する事が決定されました。直近のプロトコル・ゲンナイ実施例は収容ファイル: SCP-A974-JP("知卦の大オロチ")」[本日更新]を確認してください。


Footnotes
. 異常活動集中領域(Nexus)-54: 日本国青森県の四十八町よそはちまちが指定されている、心霊学的超常現象の多発領域。領域内における霊的実体の出現数が平均を大幅に超過し、またその多くがNx-54及び周辺地域以外を起源としている。
. 霊子の集合によって生じる流体であり、霊的実体の主要な構成要素として知られる。
. 知性を持たず作用力を持ち、攻撃的な霊的実体。
. 主にウナギに関連する事業者によって行われる慣習。ウナギの需要が高まる「土用の丑の日」の前後に催され、その1年に消費された鰻に感謝し敬意を表するための仏事を執り行う。
. ここでは、蔵元管理官により暫定的に定められた当該事案のインシデントコード。現在は廃止されている。
. 霊通棍(Ecto Club): 霊的実体へ打撃を行うことのできる警棒状の武器。高い吽霊荷を帯びており、霊体中の霊子を引き剥がすことによりダメージを与える。
ページリビジョン: 10, 最終更新: 15 Mar 2025 14:06
特に指定がない限り、このサイトのすべてのコンテンツはクリエイティブ・コモンズ 表示 - 継承3.0ライセンス の元で利用可能です。
ページを編集するにはこのボタンをクリックしてください。
セクションごとの編集を切り替えるにはこのボタンをクリックしてください(ページにセクションが設定されている必要があります)。有効になった場合はセクションに"編集"ボタンが設置されます。
ページのソース全体を編集せずに、コンテンツを追加します。
このページが過去にどのように変化したかを調べることができます。
このページについて話をしたいときは、これを使うのが一番簡単な方法です。
このページに添付されたファイルの閲覧や管理を行うことができます。
サイトの管理についての便利なツール。
このページの名前(それに伴いURLやページのカテゴリも)を変更します。
編集せずにこのページのソースコードを閲覧します。
親ページを設定/閲覧できます(パンくずリストの作成やサイトの構造化に用いられます)
管理者にページの違反を通知する。
何か思い通りにいかないことがありますか? 何ができるか調べましょう。
Wikidot.comのシステム概要とヘルプセクションです。
Wikidot 利用規約 ― 何ができるか、何をすべきでないか etc.
Wikidot.com プライバシーポリシー

AltStyle によって変換されたページ (->オリジナル) /