クレジット
発見時のSCP-3546-JP。クラスΓ知覚免疫を有していない職員にはサラブレッドとして認識されることに注意
収容クラス: Keter Euclid
特別収容プロトコル: SCP-3546-JPおよびSCP-3546-JP-A群はそれぞれレベルIII収容ユニットに収容されています。収容以前の管理手法に倣い、ユニット内には藁が敷き詰められ、サラブレッド用飼料を模したヒト用の食料および水が容器に入れられた状態で設置されます。食料や水が無くなり次第、新たな食料や水が補充されます。
SCP-3546-JPの情報の閲覧には、対抗ミーム-3546-JPの摂取が必要です。また、SCP-3546-JP担当職員にはクラスΓガンマ知覚免疫獲得プロトコルの実施が義務付けられています。
説明: SCP-3546-JPは20██/██/██に自殺した真桑友梨佳氏の死体です。真桑友梨佳氏は自宅にて首吊り自殺を行っており、遺書において所属する高等学校の同級生たちに「馬面」とからかわれいじめを受けたことや、家族や担任教師が助けてくれなかったことを自殺の理由として挙げていました。
SCP-3546-JPは拡散性のクラスΓ認識影響特性のベクターであり、クラスΓ知覚免疫を有さないヒトには鹿毛の牝馬(サラブレッド)として認識されます。広範囲かつ遡及的な副次作用として、外部記録に対する認識や過去の脳内記憶も不整合の解消とともに改変される場合があります。この副次作用は、クラスΓ知覚免疫を有さない場合も対抗ミーム-3546-JPによって予防可能です。SCP-3546-JPは心肺および神経系が停止しているにもかかわらず生前とほぼ同様の身体機能を保っており、自律運動によりサラブレッドを模した振る舞いを見せます。
SCP-3546-JPは日本中央競馬会(JRA)に「マクワユリカ(Makuwa Yurika)」という名前で競走牝馬として登録されており、3歳未勝利や3歳以上1勝クラスなどの競走で勝利していました。また、登録抹消後から財団に収容されるまでは[削除済]ファームにて繁殖牝馬として繋養けいようされていました。以下は、複数の競馬関連メディアに記載されていたSCP-3546-JPの4代血統表です。
マクワケンタ 19██ 黒毛
マクワカナコ 19██ 鹿毛
マクワゴンゾウ 19██ 芦毛
マクワトモコ 19██ 芦毛
ツルミシンイチ 19██ 芦毛
ツルミケイコ 19██ 芦毛
マクワタロウ
マクワトモエ
オオツキトモヒコ
オオツキチヨ
ツルミゴウ
ツルミハナ
ニシカワシゲオ
ニシカワトミ
マクワカズナリ
マクワサチコ
シマダサブロウ
シマダトシコ
オオツキキヨシ
オオツキミツコ
ニッタミノル
ニッタヒサコ
ツルミタダシ
ツルミアイコ
トミノイサム
トミノシズコ
ニシカワヒロシ
ニシカワチヨコ
ノジマタケシ
ノジマキヨコ
また、真桑友梨佳氏の3親等以内の親族や同級生および担任教師(SCP-3546-JP-A)も同一内容のクラスΓ認識影響特性を帯びています。SCP-3546-JP-Aはサラブレッドの自認を有しており、その振る舞いもサラブレッドを大まかに模します。SCP-3546-JP-Aの挙動はヒトの身体能力を逸脱したものになる場合があります — 例として、真桑友梨佳氏の遺書に名前が記載されていた氏の同級生である沢城蓮氏(SCP-3546-JP-A-8)は、競走馬「サワシロレン(Sawashiro Ren)」として20██年G2産経賞オールカマーおよび同年G1天皇賞(秋)に勝利しています。SCP-3546-JP-Aの特異性は生物としての死亡後も持続し、SCP-3546-JPと同様にサラブレッドとしての振る舞いを継続します。
以下は、JRAの公式ウェブサイトで配信されていた3歳未勝利競走の映像です。
映像記録
<記録開始>
SCP-3546-JPは全裸にシャドーロールを含めた馬具や「1 マクワユリカ」と記載されたゼッケンを着用し、四つん這いの体勢をとっている。SCP-3546-JPには[削除済]騎手が騎乗しており、SCP-3546-JPの頭部の轡くつわに繋がれた手綱を握りしめている。発馬機の隣の枠には、大野加奈氏(SCP-3546-JP-A-14)がシャドーロールを除く同様の馬具や「2 オオノカナ」と記載されたゼッケンを全裸の上から着用している。
実況: 収まりました。
発馬機が開き、各馬が走り出す。SCP-3546-JPとSCP-3546-JP-A-14は異常な速度で四肢を運動させ、サラブレッドと同等のスピードで走り始める。
実況: スタートしました。6番[削除済]後ろから。そして2番オオノカナも後ろからです。
SCP-3546-JPは後方から移動して中団中程につける。
実況: さあまず ... 3コーナーへ向かって10番の[削除済]出て、外には16番[削除済]です。さらに6枠2頭[削除済]、[削除済]そして前から5頭目17番の[削除済]追走、内は4番の[削除済]。
SCP-3546-JPが徐々に前方へ進出しはじめる。SCP-3546-JPは首を激しく前後に振っている。
実況: あと中団には9番[削除済]が行って、7番の[削除済]。さらには13番[削除済]、内から1番マクワユリカ上がっていきます。そして1馬身差18番[削除済]。その内には8番の[削除済]が追走して、内から2番のオオノカナ上がっていきます。
SCP-3546-JPが馬群を抜けて中団外に移動する。
実況: あと後方3番[削除済]、後ろから4頭目のところ — 5頭目のところ。そして3枠2頭[削除済]、[削除済]がいて、あと14番[削除済]後方から2頭目、最後方15番[削除済]の体勢。
コーナーに差し掛かり、SCP-3546-JPが中団外でコーナリングする。中団中程から中団後方へと移動する。
実況: 各馬これから3コーナーをカーブして3、4コーナー中間に差し掛かります。わずかに先頭は10番の[削除済]4コーナーへ向かいます。リードが2馬身。残り800mを通過。2番手には11番の[削除済]、縦長です。後は3番手が16番[削除済]で第4コーナーをカーブ、直線コースに向かいます。その後[削除済]、[削除済]など直線コースに向かって残り600mを通過。さあ先頭は10番[削除済]、[削除済]、リードが2馬身。
SCP-3546-JPが中団大外から仕掛け、[削除済]騎手が手綱を激しく前後させ、SCP-3546-JPに何度も鞭を振るう。
実況: そして2番手11番[削除済]ですがドッと横に広がって、外から18番[削除済]今3番手から2番手をうかがっている。さらに外から9番の[削除済]。1番外からは1番のマクワユリカも追い込んでくる。さあ残り200mになる。
SCP-3546-JPが徐々に進出し、他馬を追い抜いていく。[削除済]騎手が激しくSCP-3546-JPに鞭を振るい、SCP-3546-JPがさらに激しく四肢と首を前後させる。
実況: さあ先頭は変わるか? 外から1番のマクワユリカ、マクワユリカ。そしてオオノカナ。間からは2番のオオノカナもようやく追い込んできて、1枠2頭が並んでの追い比べ!
SCP-3546-JPとSCP-3546-JP-A-14が並んで抜け出す。ゴール直前でSCP-3546-JPがSCP-3546-JP-A-14を抜き去る。
実況: オオノかマクワか! マクワ! オオノ! マクワだ、ゴールイン! わずかにマクワユリカ! 3番手は3番[削除済]のようです!
SCP-3546-JPが走り続ける。[削除済]騎手がSCP-3546-JPの首を軽く叩く。
<記録終了>
SCP-3546-JPの繁殖牝馬時代、SCP-3546-JP-A-8との産駒であるサワシロバッカス(Sawashiro Bacchus)が20██年G1皐月賞に、マルベリー(Mulberry)が20██年G1ヴィクトリアマイルに勝利したことで、父サワシロレン母父マクワケンタがニックスとして注目されました。このため、真桑友梨佳の全姉ぜんしである真桑早紀(SCP-3546-JP-A-1)が繁殖牝馬「マクワサキ(Makuwa Saki)」として注目されました。なお特筆すべき点として、SCP-3546-JPやSCP-3546-JP-Aの産駒はいずれも遺伝的異常や特異性を有していないサラブレッドでした。
ほぼ同時期に財団がクラスΓ知覚免疫獲得プロトコルを開発し、それに伴いSCP-3546-JPを発見しました。また、各地のサラブレッド繋養施設にて繋養されていたSCP-3546-JP-A群もサラブレッドではなくヒトである事実を確認しました — ヒトとして不適切な飼料の提供によって死亡していたSCP-3546-JP-A個体の総数は18体でした。このため、財団欺瞞部門は関係者へのカバーストーリー「疫病による死亡」の流布と同時に、SCP-3546-JPおよびSCP-3546-JP-A群の収容を行いました — 関係者へのクラスA記憶処理は、生じる記録や記憶の不整合を含めた規模の大きさを懸念して実施されませんでした。
映像記録
対象: 栃谷克己氏(SCP-3546-JPが当初繋養されていた[削除済]牧場の経営者)
インタビュアー: エージェント梅原翔
前記: カバーストーリー「疫病による死亡」の流布が実施される以前のインタビューです。
<記録開始>
エージェント梅原: — それでは、あの馬に関するお話をお聞かせください。
栃谷氏: はいはい、ユリちゃんね。あの馬はもともと、うちの牧場で飼ってた馬なんですよ。というかまあ、あの子の血統はゴンちゃんの代からうちで管理してましたね。
エージェント梅原: ゴンちゃん?
栃谷氏: ああ、マクワゴンゾウです。ユリちゃんの父父。
エージェント梅原: なるほど。つまり、馬産の一環としてマクワユリカ号やその近親サラブレッドも管理していたと。
栃谷氏: そんな感じです。
エージェント梅原: しかし、あなたの牧場は馬産を行っていなかったのでは?
栃谷氏: え? いや、やってますよ。まあ、ケンちゃんとかサキちゃんとかぐらいしか生産出来てないですけど。
沈黙。
エージェント梅原: ... なるほど。それで、マクワユリカ号をセールに出した、と。
栃谷氏: ええ。まあやっぱ、名血統ってわけじゃなかったんで安かったんですが、それでも1勝クラスとかは勝ってくれて嬉しかったですよ。欲を言えばオープンとかリステッドとか勝ってくれたら良かったですが、まあ振り返ってみればそれで充分だったんだなって。
エージェント梅原: 繁殖牝馬としての活躍のことでしょうか?
栃谷氏: そうそう! いやあ、まさかG1馬のお母さんになっちゃうなんてビックリで! いやあ、売らずにうちで繁殖させとけばって思いと、うちじゃあそこまで出世しなかったんだろうなって思いがあって。だって、あの小さい子がそんな仔出し良くて、まさかニックスかもなんて言われるなんて思わないじゃない。はー、世の中何が起こるかわからんもんですね。
エージェント梅原: そうですか。ちなみに、マクワユリカ号のこちらの牧場での様子はどうだったのでしょうか?
栃谷氏: まあ、そうですね。飼い食いがちょっと悪くてガレ気味だったかな。まあ流石に重賞馬ほど立派な馬体じゃないっていうか、やっぱ全体的に小さめでしたよ。ただ、素直でいい子でしたね。走ってるときも、気性に関して悪い話聞かなかったし。あ、ちょっとビビりだったかな。シャドーロールつけてたし。
エージェント梅原: なるほど。
栃谷氏: いやあ、これからが楽しみですよ。何たって、うちにはユリちゃんの全姉サキちゃんがいますからね!
全裸の真桑早紀氏(SCP-3546-JP-A-1)が馬房から頭部を出して、栃谷氏の顔を舐める。
栃谷氏: はは、こらこら。やめなさい。ほら、ニンジン食っとき。
栃谷氏がSCP-3546-JP-A-1にニンジンを与え、SCP-3546-JP-A-1がそれを齧る。
栃谷氏: いやあ、奮発してサワシロレン付けちゃおうかなあ、やっぱ。頼むぞ、良い仔を出してくれよ、サキちゃん。
<記録終了>