クレジット
アイテム番号: SCP-3518-JP
収容クラス: Uncontained
特別収容手順: SCP-3518-JPは現在未収容です。SCP-3518-JPの捜索は、機動部隊は-8("小源太の刀")によって行われます。
19██年に描写されたSCP-3518-JP
説明: SCP-3518-JPは白髪の高齢の日本人女性に似た人型実体です。SCP-3518-JPの身体機能は時間経過による劣化が確認されません。またSCP-3518-JPは軽度の認識災害を有しており、自身の存在を緩やかに知覚させないようにします。
SCP-3518-JPは積極的に移動し、自身が滞在するための建造物を捜索します。選択される建造物の傾向として、建造年数が古い、経年劣化が見られるといったものがあります。建造物に侵入したSCP-3518-JPは掃除などの軽作業を行います。SCP-3518-JP自身が発見されない限りその建造物に滞在し、発見された場合は退去して別の建造物を捜索します。
SCP-3518-JPが滞在している間、該当する建造物の所有者の仕事量が増加するように周囲の環境が変化します。所有者はその建造物が個人住宅の場合は家主、集合住宅の場合は滞在した部屋の家主、社屋の場合は社長が該当します。SCP-3518-JPが退去するとこの影響は反転し、大抵の場合業績はSCP-3518-JP滞在前より悪化します。
発見: SCP-3518-JPはGoI-2722"鉄錆の果実教団"の高知支部を襲撃した際に発見されました。GoI-2722はSCP-3518-JP発見時以前から活動が活性化していることに注目されていました。GoI-2722の構成員は、全員SCP-3518-JPの存在を把握しておらず、偶発的な事例であったとされます。
SCP-3518-JPは同県高知市を中心に、ヤマンバ憑きという妖怪として語られていました。古くから蒐集院にも記録されています。以下は神話・民俗学部門によって提供された、過去のSCP-3518-JPに関する記録です。
ヤマンバ憑き
ヤマンバ憑きは土佐国の土佐山村を中心に見られる妖怪である。白髪の老婆の姿で、いつの間にか他人の家に居座り、そして大抵は掃除や洗濯のような家の仕事をしているところを見つけられる。
ヤマンバ憑きが居座ると家運が上がるようになる。理由無く豊作が続くようだったら、大抵の場合はこのヤマンバ憑きが居座っている。また家にいない間にふと欲しいと思ったものが、帰ってきたらそれが家に置いてあるなんてことも伝えられている。こうしたこともあって土佐ではヤマンバ憑きを祀る風習もよく見られる。
しかし厄介なことにヤマンバ憑きは自分の姿を見られるとその家から出て行ってしまう。こうなると上がっていた家運は元に戻るどころか傾くまでになってしまう。こうしたところも陸中国でみられる座敷童と類似しているが、これといって関連するところは無いようである。
蒐集物覚書帳目録第████番
これらの情報から以下の特別収容手順が制定されました。
収容クラス: Safe
特別収容手順: SCP-3518-JPは標準人型収容室に収容されます。この収容室にはあらゆる人員の接触が禁止されています。SCP-3518-JPは24時間体制で監視されます。
補遺3518-JP-A: サイト-81FC所属職員のエージェント・井本から、サイト-81FCとその管理官である阿高管理官に関する報告が、倫理委員会へ秘密裏に行われました。エージェント・井本による報告内容は以下のものです。
- SCP-3518-JPを収容したことにより、サイト-81FC自体が影響下にある。下記は具体的な影響の例。
- 高知県を中心としたアノマリーの発見数の増加。
- サイト-81FCへのアノマリー移送数の増加。
- サイト-81FCの収容違反事案の増加。
- 上記事案の隠匿や過小報告が、阿高管理官を筆頭にした一部の職員によって行われている。
これらはSCP-3518-JPの異常性は対象の労働環境に対して及ぶものであり、一般的な営利団体ならそれが資産の増加に繋がるものの、財団はその業務内容からデメリットのみが強く現れたことが原因であると推測されています。
根拠資料として、外部が認知していないサイト-81FCの収容下にあるアノマリーや、機動部隊の出動事案の記録等が添付されていました。以下はエージェント・井本と阿高管理官の会話を録音した記録です。
<再生開始>
井本: 失礼します。
阿高: それで、要件は何かな。
井本: 予めお伝えした通り、ここの収容体制の維持の限界が見えています。支援の要請を
[阿高管理官がジェスチャーを伴い、エージェント・井本の話を遮る。]
阿高: 井本君、君達の活動は私から見ても目を見張るものがある。それは確実に世のため人のためになっている。胸を張ってほしい。
井本: はぐらかさないでください!増援を頼むことに躊躇する理由はありません......もう皆限界なんです、いらぬ怪我をする者も出ています。
阿高: ......井本君。私はね、本当に君達に感謝している。君達がそれだけ過酷な目に遭っているということは、それほどの目に遭うはずだった誰かを護れたということだ。私は君達を誇りに思う。
井本: 管理官、我々はそういうことを聞きたいわけではありません。ただ助けが欲しいのです。
阿高: まあ、まあまあ案ずるな井本君。君の言いたいことはよく分かる。安心してほしい、君の想いはしかと受け取った、私がなんとかしよう。ささ、後は私に任せてほしい。君は君の職務を全うしてくれ。
井本: 待ってください管理官!それでは
阿高: すまないがそろそろ別用がある。何かあればまた気軽に呼んでほしい。いいかな?
井本: ......承知しました、失礼しました。
<再生終了>
補遺3518-JP-B: 倫理委員会が主導となり、サイト-81FCに対する強制監査が行われました。その結果として複数の問題が発覚し、それらは井本研究員が報告した内容と合致しました。阿高管理官は自身に同調する同サイトの職員計13人に指示を出し、SCP-3518-JPやサイト-81FCに関する記録の改竄を日常的に行っていました。
幸いにもサイト外で犠牲者が出るほどの事案は発生していないものの、サイト-81FCの労働環境は危険度を考慮すれば平均から悪化していました。特にサイト外での行動が多いエージェントが、アノマリーと接触する機会が過剰に増えたため、負傷者の割合が平均を大きく上回っていました。以下は阿高管理官へのインタビュー記録です。
対象: 阿高管理官
インタビュアー: エージェント・守岩
<記録開始>
守岩: 阿高管理官、このサイトで行われた記録の改竄、そして未報告のアノマリー。証拠はすべて挙がっています。そしてあなたが主導となって行われた、認めますか?
[阿高管理官は机に置かれた証拠書類を一瞥する。]
阿高: ......まあ、これだけ裏取りがあるならね。認めます、私がやりました。
守岩: しかしSCP-3518-JPの初期収容失敗を隠蔽するために、ここまで大事にしたという点が引っかかります。最初に影響が分かった程度のミスなら、よくとまでは言いませんが、たまに起きるようなものだとは思います。あえて悪く言えば、隠すようなことかが気になります。
阿高: ああ、そうだな、それは違うよ守岩さん。私は失敗したことを隠したかったのではない。それだけは違うんだ。
守岩: それをお話いただけますか。
阿高: ......言い訳じみたものになってしまうな。ハメたな?
守岩: ハメるなんてとんでも。
阿高: まあ分かった。なるべく簡潔にだが喋らせてもらおう。
守岩: お願いします。
阿高: 小さい頃の話だが、私の地元は何らかの異常存在に襲われてね、残念ながらほとんどの町民が犠牲になったよ。当時の私は当然ながら怖くて震えるしか出来なくてね。
守岩: それはまた......過酷な思い出ですね。
阿高: それでも何とか助かったんだが、その化け物を倒した人たちがいたんだ。山伏のような格好をしたガタイのいい男だ。私は礼を言おうと駆け寄ったが、その前に彼らは足早に行ってしまった。
私があまりに幼いということもあるが、本当に彼らはかっこよかった。そしてある意味順当な流れというか、私は彼らのような存在になりたいと真剣に思うようになった。
守岩: いい話ですね。
阿高: 実際にこう秘密組織に入っているからな、ちゃんと夢を叶えたように見えるだろう、それがそうでもないんだ。
守岩: というと?
阿高: 財団にこうして入って知ったんだが、思ったよりも世界って平和だったんだ。もちろん平和に越したことは無いが......私が目指していた人を護ってどうというのをやるには、そんな事件はほぼ無かった。
それでもなるべく危険そうなアノマリーに関われるように打診はしていたが、嘆きの水曜日事件も現地に行けるようにはしていたんだがね、タイミングの問題もあるんだが中々そういう、ちゃんと人のために働く場面には行けなかったんだよ。
守岩: フラストレーションは相当溜まっていたんですかね。
阿高: 結果的にそういうことだったんだろうね。なにせSCP-3518-JPの初期報告書を読んだ時に、もしかしたらこれならと思ってしまったんだから。もしSCP-3518-JPを利用出来れば、一地域にアノマリーが集まって、そうすれば何か大変なことが起きるかもしれないって。
結果は......六分ぐらいの成功といったところか。SCP-3518-JP本人に協力を仰ぎ、自分の部下全員を巻き込んでそれくらいだ。結局平和な世界でどう掻き集めても、ただ無意味に忙しく、自分達を傷つけるだけだったんだ。
早々に分かってしまったところはあるけど止められなかった。なにせ急に事を大きくしすぎたから、なんとかうまくいくまではやりきらないと、全員を騙してまでやった意味が無くなってしまうと思ってね。
守岩: もう自分でも引き下がれなくなっていたと。
阿高: 自分で言ってなんて被害者のように語ったんだと思ったね。最初からやらなければ良かっただけの話だ。本当にそれだけの、私が魔が差さなければ良かっただけの話......申し訳なかった。
<記録終了>
阿高管理官はこれをもって解任されました。また収容体制もサイトをSCP-3518-JPの影響から脱するものに改められました。改定後の特別収容手順を以下に示します。
収容クラス: Euclid
特別収容手順: SCP-3518-JPは財団のフロント企業である四国カーペンターペイントの高知支店管轄の倉庫に収容されます。SCP-3518-JPの収容房は██山中の倉庫の一画に建造され、あらゆる人員の接触が禁止されています。SCP-3518-JPは24時間体制で監視されます。
SCP-3518-JPの収容違反が確認された場合は機動部隊は-8("小源太の刀")による再収容が行われます。また四国カーペンターペイントに対する経済的援助が行われます。
SCP-3518-JPをサイト-81FCから移送した際に影響が反転し、いくつかのアノマリーの発見数の低下や偶発的な破損が確認されました。しかしこれらは十分にカバー可能な範囲内でありました。
補遺3518-JP-C: 認識災害への対策の上、SCP-3518-JPが財団へ与えた影響の調査が行われました。以下は発見された映像記録です。当映像はデータそのものに意識を逸らす認識災害が付与されており、これまで観察されたSCP-3518-JPの異常性から逸脱しています。
<再生開始>
[SCP-3518-JPの収容室に田中研究員が侵入する。その後田中研究員は姿を変化させ、直立する擬人化された狸のような見た目になる。]
不明な実体: よっ、婆さん。大事ないか?
SCP-3518-JP: またタサブロウさんは突然だから......私は何も無いですよ。良くしてもらっています。
不明な実体: すまないな、俺から頼んでるとはいえ、敵地のど真ん中に居座らせているのは。鉄錆の方はなあ、目立つ形でなんかやらかしそうなことをするのがあいつらぐらいしかいなかったから仕方なく選んだが......今のあんたを見れば、それでも鉄錆の時の方が自由に動けて良かったな。やっぱりここの連中は人権というものを分かっていない。
SCP-3518-JP: ......タサブロウさん、私もう辛いんです。私から見える限りでも、すべての方が疲れに疲れ切っています。これが自分のせいではないと言い切れるほど、私は豪胆ではありません。
不明な実体: 婆さん、あんたは人に近いからそう思うこともあるだろう。安心してくれ、俺が見た限り死人はいない。それにここの管理官だってあんたを利用してんだろ?悪いのは人なのに人を食ってるアイツだよ。
SCP-3518-JP: ですが......
不明な実体: 婆さん、俺はあんたに感謝しているんだ。一体全体何が起きてるのかはてんで分からないが、わんさかいた俺の眷属......いや、それだけじゃない、俺が昔戦ったやつも会っただけのやつも会ったこともないやつもみんなみんないつの間にか消えちまってどうしたもんかと思っていたんだ。それがあんたの力でまたバケモンが集まって、俺の眷族も大分揃いつつあるんだ。
SCP-3518-JP: それは、良かったです。お役に立てているなら。
不明な実体: 今はまだ俺らにとっちゃ生きづらい世の中だけどよ、そこそこ地盤が固まったらまたあんたを迎えに来る。大功労者だ、VIP待遇間違いなしだ。
SCP-3518-JP: 私はそんな。
不明な実体: とりあえずちゃんと生きてて良かった。コトがあったら大事じゃ済まないからな。
SCP-3518-JP: ありがとうございます。
不明な実体: それじゃまた、近くに来た時にでも会いに来よう。
[不明な実体は田中研究員の姿に変化し、退出する。]
SCP-3518-JP: ......はぁ。
<再生終了>
"タサブロウ"と呼称された狸型の実体は、古くから言い伝えのある屋島の太三郎、もしくはそれに類する存在であるとされます。屋島の太三郎は神格化されるほどの著名かつ強力な妖怪であり、またかつては300人の眷族を抱えていたとされます。
またこの後に収容下にあったSCP-3518-JPが消失しました。本事案には上記狸型実体が関連しているとされ、現在もSCP-3518-JPの捜索が行われています。