SCP-2560-JP
評価: +82

クレジット

タイトル: SCP-2560-JP - 車窓の先に手は届かない
著者: ©︎hakuyou_shiro hakuyou_shiro
作成年: 2021

評価: +82
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SCP-2560-JP内部

アイテム番号: SCP-2560-JP

オブジェクトクラス: Safe

特別収容プロトコル: SCP-2560-JPは収容が不可能ですが、カバーストーリー『回送運行』を適用させ、SCP-2560-JPを時刻表から削除し、乗車拒否の張り紙を貼ることで一般人の乗車を防いでいます。

説明: SCP-2560-JPは、██県██市██町に存在するバス停「██町」において発生する、バスに似た実体です。SCP-2560-JPは1月11日、2月23日、4月29日、5月5日、8月11日、9月20日、11月3日の13時53分にて突如出現し、14時18分にバス停「███駅」に到着した瞬間に消失します。SCP-2560-JPに人間(以下対象)が乗車した場合、SCP-2560-JPはバス停「███駅」まで停車せず、途中での乗車は現在までの実験において不可能であると判断されています。

SCP-2560-JPの異常性は、対象が乗車時に車窓から見える景色を認識した際に発生します。この際、車窓から見える景色は対象の過去に経験した出来事を俯瞰した風景に変化します。認識される景色は、対象が最も後悔した経験と認識している記憶が改変されたもので、多くの場合は後悔の原因となった人物の行動が事実と異なった形で投影されます。対象が風景を認識すると、この風景に則した形で記憶や認識が改竄され、総じて満足感や多幸感に近い感情を示します。この感覚は降車後も持続し、繰り返し乗車したいと言う強い欲求を獲得します。

SCP-2560-JPには、運転手(以下SCP-2560-JP-1)を務める男性の人型実体が存在しており、一般的な成人男性と大差のない意思疎通が可能です。SCP-2560-JP-1は運転時にのみ覚醒し、それ以外の状態では常に睡眠状態である様子が確認されています。運転中のSCP-2560-JP-1は常に薄い笑みを浮かべており、SCP-2560-JP-1の表情を見た対象はその所感として「満ち足りた表情だった」「嬉しそうだった」と一様に評しています。

SCP-2560-JPは2017年11月█日、近隣住民が地元の警察署に「不可思議なバスに乗った」と言う旨の通報が複数件確認されたことがきっかけとなり、財団によって収容されました。調査の結果、警察署に通報した時期より半年前である5月5日に、SCP-2560-JPが出現していた地域ではバスが崖から転落する事故が発生していたことが判明しています。当事故の被害者は負傷者14名、死亡者1名が現在までに確認されていますが、該当する車体は現場から消失している等の異常な点が見られることから、詳細な事故の原因は不明です。通報の発生時期から、転落事故以降にSCP-2560-JPが発生していることなどから、転落した車体がSCP-2560-JPであると推測されます。

特筆すべき点として、地域住民への調査ではSCP-2560-JPを認識・乗車した人物は過去にも複数人存在していたものの、SCP-2560-JPに対して異常であると認識した人物や違和感を持つ人物は見られませんでした。これは後の実験により判明した、SCP-2560-JPの記憶改竄の異常性から派生したものではないかとの見解が研究班から提言されていますが、詳細は不明です。財団はSCP-2560-JPを認識していた人物の記憶処理を施し、現在の収容体制を確立しました。

補遺: Dクラス職員を用いたSCP-2560-JPの潜入記録と、SCP-2560-JP-1への接触記録です。Dクラス職員にはカメラと通信機を持参させています。

対象: D-1753

担当者: 龍玄たつね博士

付記: 今回はSCP-2560-JPの異常性の確認のため、SCP-2560-JP-1の接触を行っていません。

<録画開始>

龍玄博士: D-1753、SCP-2560-JPに乗れましたか?

D-1753: はい。乗れましたけど、ここから駅まで乗ってればいいんですよね?

龍玄博士: そうです。それと、最初に言ったように運転手への接触は避けてください。

D-1753: 分かってます。結構揺れが激しいですね。どこに座ろうかな。

(平坦な道を走っているにも関わらず、車内は激しい揺れがある)

龍玄博士: 出来れば、窓が見えやすい場所で座っていただけますか?

D-1753: 窓ですか?あ、ここなら大丈夫かな。はい、座りました。

龍玄博士: では、異常が発生したら教えてください。

D-1753: はい。

(乗車から5分後)

D-1753: え、何ここ?博士!

龍玄博士: どうしました?

D-1753: あの、さっきまで道路を走ってたんですけど、急に景色が変わって。歩道を走ってます。

龍玄博士: 他に何か見えませんか?

D-1753: 他に?あれは公園ですかね?家族連れの人が公園で遊んでます。あ、あの子供、小さい頃の私です!

龍玄博士: 子供の頃の自分が写ってるのですか?

D-1753: はい!それにお父さんとお母さんもいます!懐かしい。

(映像には仲睦まじい家族の姿が写る)

龍玄博士: その人達は本当に貴方の家族なんですか?

D-1753: はい!忘れもしませんよ!少しだけ父親の顔が見えにくいですけど。こんなに幸せな思い出を忘れるはずがないです!

龍玄博士: なるほど。では、降車ボタンを押して、降りることは出来ますか?

D-1753: ボタンってこれかな?[ベル音]

(バス停を通り過ぎる)

龍玄博士: どうですか?

D-1753: ダメです。バス停を通り過ぎちゃいました。なんだ、降りれないのか。

龍玄博士: やはり、駅までは降りれませんか。それでは運転手に何か変わりはありませんか?

D-1753: 運転手ですか?そう言えばボタン押したのに、何も言われてないですね。こっちに見向きもしてません。

龍玄博士: そうですか。分かりました。もう一度確認をしたいのですが、いいですか?

D-1753: はい、何でしょう。

龍玄博士: 貴方は三人家族だった、ということでいいんですよね?

D-1753: そうですけど、それが何か?

龍玄博士: いえ。確認がしたかっただけです。では、駅に着いたらその場の職員と落ち合ってください。

<録画終了>

終了報告書: D-1753の家族構成は母親がD-1753を出産する前に、両親が離婚していたことが既に判明しており、D-1753の記憶に矛盾が発生しています。D-1753は離婚の原因を、以前から自身のせいだと主張していました。事実確認のため、D-1753の母親に事情聴取を行った際に回答を渋っていましたが、"離婚を理由にD-1753に手を上げていた"と証言しました。D-1753は現在、乗車時の多幸感からSCP-2560-JPに執着心を見せ、SCP-2560-JPは依存性が高いことが確認されています。

また、この後も続けられた実験では対象が理由無く殴られるなど、通常では不幸とも取れる体験であっても景色は対象が望んでいたものを写し、対象が感じた満足感や多幸感に変化は見られませんでした。これらも事情聴取によって同様に、記憶が改変されたものであることは一致しています。

対象: D-2882

担当者: 龍玄博士

付記: SCP-2560-JP-1の調査で人物の照合が終了し、SCP-2560-JPを担当していた運転手とは別人であることと、元運転手は墜落事故の死亡者であることが判明したため、Dクラス職員による接触を開始しました。D-2882には外の景色を見ないように伝えています。また、SCP-2560-JP-1への接触を目的としているため、龍玄博士との通信内容は省略します。

<録画開始>

(依然車内の揺れは激しい)

D-2882: なぁ、ちょっと良いか?

SCP-2560-JP-1: はい、どうしましたか?

(SCP-2560-JP-1がD-2882の方へ向く)

D-2882: あんたの名前を教えて欲しいんだけど。

SCP-2560-JP-1: 私は林田と言います。住所は今は多分変わってると思いますが、誕生日は2月の。

D-2882: あ、今は名前だけでいいよ。それで、あんたはこのバスがおかしいことに気付いてるのか?

SCP-2560-JP-1: もちろん、知っています。

D-2882: 流石にそうだよな。それじゃあ、いつからここにいるんだ?

SCP-2560-JP-1: どうでしょう。結構長くいると思いますよ。

(SCP-2560-JP-1は笑顔を向けながら語る)

D-2882: 結構長く、ね。もう少し詳しく教えてくれないか。今2018年なんだが、何年からここにいるとか。

SCP-2560-JP-1: 私がこのバスを運転し始めたのは2017年からですよ。何月だったっけな。すみません、そこまで細かくは覚えてません。

D-2882: へぇ。でもこんな状況になったのに、あまり驚かないんだな。

SCP-2560-JP-1: 慣れですよ、慣れ。

D-2882: 出ようと思ったことはないのか?

SCP-2560-JP-1: (2秒の沈黙)最初は、もちろん出ようとしましたよ。でも出来ませんでした。ご存知でしょうが、このバスは終点まで降りれません。終点で降りようとしても急に眠気が出て、始発には既に乗客がいて、扉が閉まった後に起きるんですよ。最近はあまりその乗客はいませんが。一度事故ってでも扉に行こうとしましたが、それでも駄目でした。

D-2882: なるほどな。その間、あんたの家族とかは大丈夫かよ。

SCP-2560-JP-1: どうでしょうね。私の妻と子供たちは心配してるでしょうが、幸せにいることを願うしかありません。こんなに日が経っては、心配以前にもう手遅れですよ。死んだとか思われてるんじゃないですか?

D-2882: その子供って何人もいるのか?

SCP-2560-JP-1: 3人いますね。妻はもう1人妊娠していましたが。

D-2882: (3秒の沈黙)そうか。じゃあ、これも聞きたいんだが。

SCP-2560-JP-1: はい。

D-2882: 何でこのバスの運転手でもないのに、あんたが運転手になってるんだ?

(さっきまで笑顔だったSCP-2560-JP-1が真顔になる)

SCP-2560-JP-1: それを聞いてどうしたいんですか?

D-2882: え、急にどうしたんだ。

SCP-2560-JP-1: 何故あなたがそのことを知ってるんですか?

D-2882: (慌てながら)落ち着いてくれよ。別にそれで弱みを握りたいとかじゃないんだ。ただ、教えて欲しいだけで。

SCP-2560-JP-1: (ため息)すいません。取り乱しました。私だって、こうなるとは思わなかったんですよ。

D-2882: こうなるって?

SCP-2560-JP-1: 私もみんなと同じように、このバスに乗っていた乗客の一人です。

D-2882: え、じゃあ、あんたも外の景色とか、見たのか?

SCP-2560-JP-1: はい。今と違って他の客もいましたが、その景色が見えたのはどうやら私だけのようで。だけど、あの日は自暴自棄になっていたのもあって、ずっとその景色を見ていたいと言う欲望が出てきてしまってね。

D-2882: その景色って、どんなのなんだ?

SCP-2560-JP-1: 彼女らはとても楽しそうでしたよ。あんなに笑顔な妻は久しぶりに見ました。もう少し構ってやれればとは、前から思っていたのですが。今はその時感じた幸福はありません。あの景色も本当は。

D-2882: 奥さんとは、あまり仲が良くなかったのか?

SCP-2560-JP-1: はい、だけど私のせいなんです。だから(2秒の沈黙)、ん?

D-2882: どうした?

SCP-2560-JP-1: (小声で)そう言えば、何であの日バスに乗ってた?そうだ、休日に、祝日に仕事が入って。いや違う、誕生日で、ケーキを。

D-2882: ケーキ?

SCP-2560-JP-1: え?何か言いました?

D-2882: (3秒の沈黙)いや、何でもない。あれ、でも結局俺らと同じ乗客だったってことは、前の運転手は一体。

SCP-2560-JP-1: 殺しました。

D-2882: え。

SCP-2560-JP-1: 私が殺しました。そして崖から墜落して、頭を打ったのかしばらく記憶が飛んだのですが、気付いたら、私が運転手に成り代わっていたのです。何故か服まで。だけど、これでずっとあの景色を見ていられると思ったんです。でも違いました。

D-2882: (2秒の沈黙)違ったって、何が。

SCP-2560-JP-1: あの幸せな景色をずっと見れると思ったのに、今は私が殺した運転手を、ずっと轢き殺している景色を見てるんです。あいつは、私を見つめながら轢き殺される。(3秒の沈黙)でも何でなのかな。あの妻の景色でさえ心が満たされていたのに、今はただ、後悔だけです。

D-2882: (沈黙)

SCP-2560-JP-1: 揺れ、激しいですよね。おかしいと思いませんか?道路がでこぼこになってる訳でもないのに。

D-2882: あ。

SCP-2560-JP-1: 私が轢き殺してるからですよ。私はこのバス諸共、入るべきではないあの景色の中に入ってしまった。

(SCP-2560-JPの扉が開き、D-2882は逃げるようにSCP-2560-JPから降りる)

<録画終了>

終了報告書: D-2882はその後、依存の症状は発症していませんが多少の心的外傷を負っています。また、SCP-2560-JP-1が見ているとされる景色ですが、映像からは確認されませんでした。SCP-2560-JP-1の言動からSCP-2560-JP-1が乗車時に見たとされる景色は、改変された記憶であることに気付いているとされますが、SCP-2560-JP-1が運転中に見た景色も同様に改変されたものであると推察されます。

しかし、SCP-2560-JP-1が発言した"あの景色の中に入った"はどのようにして行われたか、またD-2882がその景色を見れなかったのかは未だ不明です。SCP-2560-JPはこの記録から、これと言った変化は確認されていません。

Footnotes
. 詳細は潜入記録-2560参照。
ページリビジョン: 8, 最終更新: 17 Sep 2021 14:00
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