アイテム番号: SCP-2529-JP
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: SCP-2529-JPはサイト-81██の大型標準収容ロッカーに車両盗難防止装置を取り付けて収容されます。担当研究員のSCP-2529-JP収容棟への立ち入りは認められていません。未収用のSCP-2529-JP実例発見時や統制下にない教育イベントの発生時は、直ちに機動部隊う-11("貞操帯")により教育イベントの終了およびオブジェクトの回収、SCP-2529-JP-A群への必要に応じたカウンセリング、記憶処理、カバーストーリーの流布が実施されます。SCP-2529-JPの実験の開始または終了には倫理委員会の承認と担当主任研究員による監督が必要であり、実験や移動の申請なしにSCP-2529-JPの車両盗難防止装置が解除された場合は直ちに担当研究員の指揮により機動部隊が出動します。また、SCP-2529-JP収容房を含むサイトでは業務上の過失および服務違反への処罰は担当主任研究員によって発令されます。
説明: SCP-2529-JPは認識汚染作用を有する一定の現象を発生させる車椅子です。SCP-2529-JPの構造は非異常性の市販品と概ね一致していますが、多数の錠前と鍵束を収納した小袋が結び付けられ、破壊耐性を有する革ベルトが座面・肘掛け・足置きなどに複数連結されている特徴を有します。また、SCP-2529-JPの背面部には以下の文言がプリントされたラベルが張り付けられています。
子供たちを育む為に、禁制の道具を! - 体罰選択の解放戦線より寄贈
Planed in Japan
SCP-2529-JPを保管する施設の敷地内で懲罰を行うことを宣言した際に、SCP-2529-JPの異常性は活性化します。懲罰執行者はごく自然な動作でSCP-2529-JPを持ち出し、懲罰対象者に脱衣してSCP-2529-JPに座るように指示します。その後執行者は対象者をSCP-2529-JPに付属するベルトで拘束し、さらにツク棒に開けられた穴に錠前を通すことで第三者による開放を阻害します。なお、この錠前は備え付けの鍵束によって開錠できますが、鍵束および錠前を小袋から取り出すことが可能であるのは執行者のみです。
その後、対象者を拘束したSCP-2529-JPは講堂、通用口などの共用スペースに設置されます。対象者を衆目に晒す理由として、羞恥を与えることが懲罰の一環であると執行者は説明します。同様に懲罰の目撃者には対象者へ交流を図り退屈させないよう気遣う規定を伝達します。また、この期間中の飲食や排泄は施設内にいる対象者と親密な人物によって介助されます。懲罰の終了が執行者によって宣言され対象者が解放された段階でSCP-2529-JP固有の異常性は非活性化します。このような一連の行動は教育イベントと指定されています。教育イベントの継続期間は懲罰対象者の懲罰事由によって変化し、12時間が下限と推測されています。懲罰対象者が教育イベントの実施に反抗的な場合は特に継続期間が長大化する傾向にあり、統制下における最大拘束日数は████日間です。なお、教育イベントの中止は懲罰執行者への交渉によって可能であることが確認されています。
SCP-2529-JP-Aは教育イベントの立会人を含む全参加者です。SCP-2529-JP-AはSCP-2529-JPと同じ所在地にいる間はSCP-2529-JPの用途や使用手順を漠然と理解した振る舞いを行うことが確認されています。SCP-2529-JPの使用が本来の罰則規定に対し過剰である場合や対象者へ懲罰を与えること自体に不服がある場合にはSCP-2529-JP-Aは反感を露わにしますが、教育イベント実施からの自発的な逃亡や妨害、外部告発は放棄します。SCP-2529-JP-Aには教育イベントを経て学習意欲および運動意欲の向上が確認され、言動は一般的に優等生と評される品行方正な振る舞いへと変化していきます。また、第二次性徴が発現していない場合には精通・初潮が確認されます。この作用はいずれも心身の成熟化の特性を有しSCP-2529-JP-Aを反社会的行動から遠ざけ更生させる結果をもたらします。これは後述の発見経緯と併せて、SCP-2529-JPが未成年者の非行抑止の目的で製造されたという仮説を支持しています。なお、SCP-2529-JP-Aは教育イベント終了時点にて指導目的の乱暴に違和感や忌避感を抱かなくなることが確認されています。これにより、教育イベントの内容を当然の行動として認知するようになるため、SCP-2529-JP-Aは教育イベント後にSCP-2529-JPについて他者から言及されない限り周囲に発信することはありません。
SCP-2529-JPは██県██市の少年院で催された社会貢献活動にて財団の関心を引きました。支援団体のボランティアとして参加した財団エージェントは院内に教育イベント中のSCP-2529-JPを発見し、聞き込みの中でSCP-2529-JPの通常では暴力的と認識されるその使用法が施設内および聞き取り中の財団エージェント本人すら正規の指導法として違和感なく受け入れられていることが財団に報告されました。この報告を受けた財団研究員は認識改変や精神汚染を疑い、施設職員及び収容者へ記憶処理を実施しカバーストーリー『骨折の完治』を適用し懲罰対象者を解放させ、オブジェクトを回収しました。
補遺:事案SCP-2529-JP-01およびインタビュー記録SCP-2529-JP-01 - 20██/06/05
財団日本支部は他支部職員による『娘が留学先の校内で音信不通になっている』という報告の対応中にSCP-2529-JP実例を複数発見しました。厚生労働省に潜入していた財団エージェントは表向きの業務である学校保健統計調査と偽装し訪問調査を実施したところ、車椅子に拘束され凌辱を与えられていた████氏(報告を行った職員の実子である)を発見しました。これに対し財団エージェントは教員へ事実確認を行ったところ、████氏当人の学園生活に"拘禁による躾"が大いに寄与すると意見を述べました。これを受けて財団エージェントは車椅子をSCP-2529-JP実例であると判断、カバーストーリー『リコール対象品』を適用して████氏を保護するとともにオブジェクトを回収しました。その後の調査により、学内にSCP-2529-JPと同様の使用状況にある一般的に教育機関では使用されない様々な拘束具やジョークグッズが確認されています。これらの不審な物品の存在から、財団は断続的に教育イベントによる認識改変を受け続けてた結果同学に特異な教育制度が形成された可能性に着目し、このような懲罰体制を制定した経緯を確認するため学校職員へのインタビューを順次実施予定です。なお、学内より確保されたSCP-2529-JPの背面部には以下の紋章と文言が刻印されたプレートが装着されている点に注目してください。
AKIエンジニアリング
子供たちを育む為に、金星の道具を!
Produced in Japan
インタビュー記録2529-JP-01
対象: ████氏
インタビュアー: 小林研究員
付記: 当インタビューはサイト-81██の面談室において、保護された████氏の移送直後に実施された。
<録音開始>
小林研究員: こんにちは。お加減はどうでしょうか?
████氏: まぁなんとか、気分悪くはないです。
小林研究員: あなたがお元気そうで何よりです。ご家族の方に重苦しい報告をしなくてもよくなる。
████氏: あら、ちょうど私、家族と話がしたくて......この後テレビ電話してもよろしいです?
小林研究員: うーん、それは一旦やめておきましょうか。首筋にベルトの痕がついているので。では本題に入りましょう。少し酷な話にはなります。あなたはご両親より財団の業務について聞いているということでしたね。......このような異常な出来事の存在も教わっていると。そこで今回はあなたが受けた仕打ちについて大まかに話していただきたいとこのような場を設けました。お願いできますか?
████氏: できることはしたい、と思います。父母の業務の助けになるなら、協力します。親愛なる日本支部の皆様。
小林研究員: ありがとうございます。まず初めに時系列を追ってあなたがどうしてあのようなひどい目に遭ったのか理由を聞いてもいいでしょうか?
████氏: それはキクノのせい......ということになります。あの出来事はキクノのプランなのです。
小林研究員: 菊野さん、あなたと寮でルームシェアしている方ですか?
████氏: そうです。キクノは風紀委員で、以前から私に目をつけていたと拘禁を受けるときに言われました。私に睡眠薬を飲ませました、麦茶を作ったよと出して。目が覚めたら、裸で車椅子に縛られていました。
小林研究員: あなたは校則に違反していたのですか?
████氏: キクノは罪状の1つ1つを言いましたが、全部とても些細なことです。箸の使い方が上手じゃなくて食べこぼしたとか、そんなことの積み重なり。キクノは言っていました、これは風紀委員の特権だと。それだけ言って......キクノと私の顔が重なりました。
小林研究員: 菊野さんはあなたを好いていたのでしょうか。
████氏: はい......その時に気付いたんです。そして、私の身体をきれいだと言ってくれました。恥ずかしいところも、全部褒めてくれました。
小林研究員: ええと、次なのですが、私たちの同僚があなたを見つけるまであなたがあの車椅子のオブジェクトに拘束されながらどうやって過ごしていたかを教えてください。
████氏: あ、えっと、そうですね。キクノは車椅子に乗せてクラスの隅に置いた私の世話をしていました。キクノは私とキクノがおしゃべりに夢中で下校が遅れた規則違反として私がこうなって、キクノがその世話係をさせられているんだ、と説明しました。クラスメイトはそれで納得していましたし、私やキクノをかわいそうだと言ってくれる人もいましたが、すぐに慣れてしまって私はそのままクラスに溶け込みました。それで、財団の方に車椅子から降ろされるまで、3日間拘禁を受けていました。キクノは週末が終わるまでの拘束期間と言っていたから、1週間は私をこのままにしておくつもりだったと思います。
小林研究員: 我々が対処しなければより大変なことになるところでしたね。ところで、あのオブジェクトには心のあり方に影響する作用があります。その、拘禁というのを受けて、あなたの心や周囲の態度に変化はありましたか?
████氏: 私があの時すぐ感じたのはクラスメイトの視線です。あれは......幼児が見たこともない虫を捕まえた眼差しでした。
小林研究員: あなたの羞恥的な姿を見て興味深そうであった、ということでしょうか。
████氏: そうですが、もっと......サディスティック。捕食者の興奮が私に向いていました。さっきクラスの中に溶け込んだと言ったのですが、誰も気にしなくなったということじゃないです。私やキクノを理不尽に重い罰則を課せられた不幸なスクールメイトとする雰囲気が収まって次に始まったことは、私が皆の玩具になることでした。私は休み時間のたびに囲まれて、代わる代わる体の全部を触られて、舌を引っ張られたり胸を揉まれて......とか、されてました。敏感なところは授業の時以外はずっとキクノや誰かの手に触れられていました。反抗できない私は正真正銘の、ただただ同性の痴態を見せてくれるだけの道具としてクラスに馴染みました。あとクラスメイトもそうでしたが、学校が終わった後もキクノから私の監視を引き継いだ夜勤の警備員の方が私の様子を気にして見に来ました。それも、視線がもどかしくて、そしていつも、食事休憩のときにしか最後まで気持ちよくさせてもらえることはありませんでした。
小林研究員: ええと、一応確認なんですが、異性の私にそのような苦しい経験を打ち明けて、無理をしていませんか?気丈に振舞っていられていますが、少しでも居心地が悪いようでしたら女性のインタビュアーに今からでも引き継ぎますが。
████氏: いえ、構いません。私は辛くないです。
小林研究員: 少しいいですか。どうにも私には疑問なのが、あなたは今回の事案で負った自分自身の痛みをよく分析していらっしゃいます。しかしどこか上の空で、自分のことじゃないように話していらっしゃる、そんな印象を受けます。そのせいで私はあなたが自分を押し殺しているように見えます。我々はできることなら事案の究明のためにあなたの傷を広げたくはないのです。もう一度だけ聞いてください。無理はしていませんか?
████氏: 私は......平気です。いや......望んでいます。私は、私が受けたことを伝えたいです。話すのは、恥ずかしい記憶を思い出すのは、楽しいから、です。
小林研究員: 楽しい?でもあなたが受けたのは同性からのリンチそのものじゃないですか。そんな言葉をそんな冷静に、どうして......
████氏: あの3日間で私の半分以上は壊れてしまったんだと、思います。私はあの時一度でも、絶頂に救済を見つけてしまったから。平静でいるようで本当は、恥ずかしい行為をされたくてたまらない気持ちです。つまり、高揚が恋しい、単にそんな気分しかないのです。今の私を満たしてくれるのは頭がキリキリと軋んで身体を突き抜ける刺激と、絶頂に一歩手前まで迫ったあの歯を食いしばらないと耐えられない無慈悲な興奮だけです。これが、拘禁によって変わった私の全てです。
[小林研究員は████氏への心理カウンセリングの実施を要請、即時承認された。]
小林研究員: ......わかりました。ところで、あなたのそのような心の変化は前例にないものでして、これがオブジェクトの作用なのか、精神的なショックによるものなのかを鑑定する必要があります。その時はまた別の職員が案内しますね。では、そろそろインタビューに一区切りつけたいと思いますが、ここで最後に私個人から質問させてください。この後あなたはメディカルチェックを受けたり更なるインタビューを受けたりすることになりますが、最終的にはあなたは財団が保護した一般人に対する対処に基づき、今回の事件に関する記憶は誤魔化されてまた元通りの学校生活を送ることになります。何か思うことはありますか?
████氏: ......いろいろあるけど、一言で言うなら、ありがとう、です。
小林研究員: それは我々へ、ですか?
████氏: いいえ、全員に。もし、父母や日本支部の方たちが私を気にして助けてくれなかったら、私は本物の中毒になってこの記憶を失っても快感に腰砕けになったまま立ち直れなかったと思います。でもクラスメイトやキクノを怒ることはしません。暗い、闇の底に捕らえて、せめて自分を慰めるくらいにしかならない絶頂の光を与える彼女たちの行為にはそれでも愛がこもっていました。ここまでの体験をした私は何も恐れません。私は何でもできると思います、たとえこの記憶を失っても。キクノがそんな私に作り変えてくれたから。
<録音終了>
終了報告書: ████氏に対しSCP-2529-JP-Aとして従来の報告とは異なる精神影響が確認された。さらに、既知の精神作用である口調の丁重化も確認されており、インタビューにおける████氏の言動には教育イベントを通じた価値観の再形成が推察される。また、本インタビューを受けた心理検査では████氏に心的外傷は確認されず、また性的興奮への依存が確認された。加えて████氏には有意な被暗示性の強化が確認されており、性依存との関連性が指摘されている。████氏への追加の心理検査が現在申請中である。
インタビュー記録2529-JP-01を受けた追加調査により、教育イベント発生時点で19歳未満のSCP-2529-JP-A(暫定的にSCP-2529-JP-A-Yと呼称)には感覚器の活性化、性行為への関心の強化が確認されています。この関心は元来抱いていた性嫌悪に関わらず発生し、関係の深化を目的とした対話を誘発します。また、感覚器の活性化には身体接触による快感の増大という副作用が付随し、これらの要因によりSCP-2529-JP-A-Yは心身ともに性的交流による充足を覚え、急速に依存が増長されます。なお、このSCP-2529-JP-A-Yの性的関心の増加現象は同時に発生する素行変容により表面化が回避されるため、事案発生時点までその性質の発見が遅れたと結論付けられています。このようなSCP-2529-JP-A-Yの思想や行動の変化は永続的であると推定されていますが、Cクラス記憶処理はSCP-2529-JP-A-Yの貞操観念を再学習させる程度まで向性行動感情を緩和させる事が報告されています。