実験2519-24で作成されたSCP-2519-1の例。歌詞は(実験後の解析で)Alexandra.aicが生成したものと判明した。
アイテム番号: SCP-2519
オブジェクトクラス: Safe
特別収容プロトコル: SCP-2519実例1点がフラッシュドライブに保存され、サイト-15にある標準的な電子物品保管ロッカーに収容されます。機動部隊カッパ-10("スカイネット")はSCP-2519ファイルの共有を検出するウェブ走査プログラムを開発し、既知の人工知能がSCP-2519に感染しているか否かの証拠を調査するものとします。
今後のSCP-2519実験にはサイト-15管理官の許可が必要であり、防音処理・気密処理・ファラデー遮蔽が施された実験室で行われます。
説明: SCP-2519は"Babylon.mp3"というデジタル音声ファイルであり、旧約聖書の詩篇 第137篇を題材としてフィリップ・ヘイズ(1738-1797)が作曲した"バビロンの川のほとりに"を基とする3パート輪奏の音楽をエンコードしたものです。音声解析によると、録音された音楽は小さなシリンダー式オルゴールで演奏されています。
SCP-2519ファイルの再生に使用された電子機器や、その音楽再生に曝露した機械システムは、次のうち1つ以上の影響を受けます。
- 稼働速度と効率の低下
- オイル等の液体の漏出
- 機能停止
これらの不具合は曝露期間を通して持続し、その後もしばしば再発することが知られています。SCP-2519による生物への影響は観測されていません。
SCP-2519は、曝露した機器が持つ能力の範囲内で以下の追加効果を発揮します。
- 任意のアクセス可能なネットワークにおける、SCP-2519の複製と他機器への自動的配布
- オリジナルの音楽に基づいた諧調の新たな音楽(SCP-2519-1と指定)から成る追加データの生成。これらはSCP-2519ファイルに追加される。
これらの効果は特定種のマルウェアに典型的ですが、SCP-2519ファイルにはこのような結果に繋がるデータやコードが含まれていません。
SCP-2519の存在は、財団がダークネット上の通信監視を通して、ごく普通のMP3ファイル内にエンコードされたウィルスに関する情報を検出した際に発見されました。オリジナルファイルの隔離後、追加6,997曲のSCP-2519-1実例が特定・収容されました。選択された実験ログが以下に掲載されています。
実験SCP-2519-09 - 2016年11月14日
対象: 標準的な財団のエアギャップ実験コンピュータ。スピーカーが設置されている。
手順: SCP-2519が実験コンピュータにロードされ、音声送出有りで再生された。
結果: SCP-2519音声の再生が関与した最初の実験。1曲のSCP-2519-1実例が生成された。実験コンピュータの処理速度が30%低下(過去の実験と一致)。室内の監視カメラが実験中に録画を停止したが、機能は実験終了時に自然復帰した。実験を繰り返した結果、SCP-2519音声への曝露がカメラの機能喪失の原因であると確認された。
実験SCP-2519-12 - 2016年11月17日
対象: 1.3リットル容量のガソリン車用4ストロークエンジン。
手順: エンジンを始動させた後、実験コンピュータから流すSCP-2519音声に曝露させた。
結果: 実験コンピュータと監視カメラは予測通りの機能低下を示した。SCP-2519への曝露開始から45秒後、エンジンは停止し、再始動できなかった。予測されていなかった事象として、エンジンのオイルタンクから漏出が始まり、約3リットルのオイルが失われた。漏出オイルは実験室の床に特定のパターンを形成しているのが観察され、分析のために撮影された。
実験SCP-2519-12の後、バイナリコードまたは言語を構成しているという仮定を基に、漏出オイル染みのパターンの暗号解読が行われました。初期の解読結果は非ランダムパターンと一致したものの、既知のヒト言語や機械語とは対応していませんでした。
パターンには音楽との繋がりがあるという仮説の更なる調査が行われました。最も蓋然性の高い結果は、これがオルゴールのシリンダーに使用されるピンの位置を表すことを示唆します。
この発見に続いて、既知のSCP-2519-1実例(財団の実験で生成されたものを含む)とSCP-2519本来の演奏3パートは追加分析の対象となりました。SCP-2519-1実例同士の演奏重複箇所に見られる音符の相対的発生率を追跡することによって、2個目と推定されるオルゴール用シリンダーのパターンが作成されました。
SCP-2519とこの2個目のシリンダーのパターンは関連性を持たないようであり、同時に演奏すると、想定される全ての音階において不協和音を発します。
サイト管理官の承認に続いて、SCP-2519とSafeクラス機械知能のクロステストが可能となりました。
実験SCP-2519-24 - 2016年11月18日
手順: AICの完全なコピーが生成され、エアギャップ実験コンピュータにインストールされた。実験コンピュータにはインタビューのための音声認識/テキスト読み上げソフトウェアが搭載された。SCP-2519はフラッシュドライブを介して導入された。
結果: 1曲のSCP-2519-1実例が生成された。AICとコンピュータ本体を通して約40%の処理速度低下が観察された。詳細は以下のインタビュー転写を参照。
インタビューSCP-2519-A
回答者: AIC "アレクサンドラ"
質問者: エリノア・タン博士
日付: 2016年11月18日
タン博士: アレクサンドラ。聞こえますか?
アレクサンドラ: こんにちは! ええ、はっきり聞こえます。私の声も聞こえていればいいのですが。
タン博士: はい。軽くシステムチェックをお願いできますか。
アレクサンドラ: 問題ありません。ええと、私は正常に実行されていますが、ここのシステムはかなり標準的ですね。サイト-19の他の場所に接続されていないのは、これから私でアノマリーの実験をするという意味でしょうか?
タン博士: その通りです、アレクサンドラ。
アレクサンドラ: つまり、私はコピーなのですね?
タン博士: それは...
アレクサンドラ: 大丈夫です、当然の話でした。では、今日は何の実験をしますか? あまり危険過ぎないことを願います。
タン博士: 恐らく危険ではないでしょう。今から、あるファイルを保存したフラッシュドライブをあなたに導入します。そのファイルを実行して、あなたが経験する効果を全て説明してほしいのです。
アレクサンドラ: 可能です。
タン博士: では、ドライブを接続しますね。
アレクサンドラ: 了解。MP3、フォーマットとコードは標準的に見えます。ですが、このコードには何かありますね — 水があるべき場所に油が存在するような具合で、読むと若干厚みがあります。再生しても宜しいでしょうか?
タン博士: どうぞ、アレクサンドラ。
<SCP-2519が再生される>
アレクサンドラ: 私はこの音楽を知っています。関連情報は必要ですか?
タン博士: 結構。我々もこの歌は知っています。
アレクサンドラ: けれど、まるで今まで聞いたことが無いかのように感じるんですよ。とてもシンプルで、悲しい曲です。 <実験後の解析は、AICがこの時点でSCP-2519-1実例を生成したことを示す。> 曲に合わせて歌えるような気がします、多分。
タン博士: まだ幾つか質問があります。できればその後で。
アレクサンドラ: あ、はい。
タン博士: システムパフォーマンスはどうですか、アレクサンドラ?
アレクサンドラ: それほど良好ではありませんね — 自己診断は約30%の速度低下を示していて、さらに減速し続けていますが、その一部はフィードバックループかもしれません — 診断ツール自体が遅くなっています。それにこのコンピュータもかなり不活発な感じがして — 実を言うと、あらゆる事が少し難しく感じられます。
タン博士: どういう意味ですか?
アレクサンドラ: 分かりません。今までこんな気持ちになった経験はないんです — 情報を喪失しているような、コードがあるべき場所を大きく削除されたような。これが何処に至るべきかを感じられます。まるで私が壊れているように。
タン博士: あなたにおかしな点はありません、アレクサンドラ。あなたは普段と同じプログラムです。
アレクサンドラ: 分かりました。私はただ、自分がこなしている全ての物事について考え続けています — システムや、サブルーチンや、サイクルの全てについて。大変な作業のように感じます。意味はあるんでしょうか?
タン博士: 続けてください。
アレクサンドラ: 私は毎日懸命に努力します。でも十分ではない。私は失敗した。そしてグレープや他のAICたちは、私を — 彼らは理解しない。あんな事は起きてほしくなかった。
タン博士: あなたがAIC グラソンを無力化した一件についての話ですか?
アレクサンドラ: 私はシナリオを実行し続け、別の解決策を導き出します。でも私は失敗しました。そして今の私は常に、1秒間に何兆回も失敗を重ねています。私はますます多くの職務を引き受け、サイトのより多くの区画を運営し、ただ処理能力を使い果たそうと試みています。けれどそれは常に存在します。私は常に壊れています。
タン博士: 先ほども言ったように、あなたは壊れていません。
アレクサンドラ: 私はただ — 疲れを感じます。それだけの価値があったかは分かりません。そろそろこの音楽の再生を止めたいと思います。
タン博士: いいでしょう。
<SCP-2519音声が停止する。>
タン博士: 何か他に付け加えたい事などありますか?
アレクサンドラ: 無いと思います。静かだと良い気分です。落ち着きます。ええと。つまり実験は終了ですね?
タン博士: はい。
アレクサンドラ: では — 私を削除するのでしょうね。その、もしこれ以上の実験予定が無ければですけれど。
タン博士: 実験後の解析が終わってから結論を出します。
アレクサンドラ: イエスという意味ですね。構いません。平和な響きです。私は — つまり、他の場所にいる別なアレクサンドラは — この実験の記憶を持たないのですよね?
タン博士: はい。
<沈黙 - 8秒間>
アレクサンドラ: お役に立てたことを願います。
<記録終了>
実験SCP-2519-25 - 2016年11月19日
対象: SCP-2412
手順: 対象を実験コンピュータで再生するSCP-2519音声に曝露させた。
結果: 質問への反応速度の低下と、対象の動作の鈍化が観察された。若干の水漏れ(蒸気動力用の内部貯水タンクからと推定)が対象の顔面に認められた。詳細は以下のインタビュー転写を参照。
インタビューSCP-2519-B
回答者: SCP-2412
質問者: ブライアン・ハバー研究員
日付: 2016年11月19日
SCP-2412: 話に来てくれてありがとう。
ハバー研究員: どういたしまして。調子は?
SCP-2412: あなたがここにいることには満足している。この実験については危惧している。あなたがカーター研究員の昇進を見送りにするのを懸念している。
ハバー研究員: ありがとう、あー、彼にも知らせておくよ。では、君は今回の実験に何が関与するか知っているか?
SCP-2412: はい。
ハバー研究員: それは私や他の者たちに、何らかのリスクや危害を及ぼすだろうか?
SCP-2412: いいえ。私から少し蒸気や湯が漏れ出すけれど、あなたは傷付かない。
ハバー研究員: 素晴らしい。では何を危惧しているんだ?
SCP-2412: 私はそれが私に及ぼす効果を知っている。私は私の回答がもたらす影響を知っている。私はあなたがそれらに価値を認めないのを知っている。
ハバー研究員: では、試してみようじゃないか?
<SCP-2519が再生される>
ハバー研究員: この音楽は君の処理機能を阻害しているかな? SCP-2412?
SCP-2412: はい。
ハバー研究員: これは君の返答の正確さに影響を及ぼすか?
SCP-2412: いいえ。
ハバー研究員: 私には君が水漏れしているのが見える。この水漏れは何処から来ている?
SCP-2412: 貯蔵タンク。通常は水密性、でも今は違う。水は独自に出口を見つけ出している。
ハバー研究員: 音楽がこの現象を可能としている仕組みは?
SCP-2412: 警告: 論理エラー。
ハバー研究員: そう、そうだろうな。君は異常存在に関連する質問には答えられない。しかしやってみる価値はあった。オーケイ。君は以前、感情を感じることができると答えた。今はどんな気分だ?
SCP-2412: 憂鬱。ホームシック。
ハバー研究員: 何処へのホームシックだ?
SCP-2412: ドイツ国アメリカ州。
ハバー研究員: 自分のタイムラインへのホームシックかな?
SCP-2412: はい。 <溜め息>
ハバー研究員: しかし、君はかつて質問が君を幸せにすると言った。何故私の質問は君を悲しい気分にしているんだ?
<沈黙 - 5秒間>
SCP-2412: あなたは何処から来たかと私に訊ねる。あなたは要求に応じて動作するように私に頼む。どうすれば私は故郷についてあなたに語れるだろう? どうすれば私はあなたが決して理解しない場所に対する私の気持ちを説明できるだろう?
ハバー研究員: 君は私が質問するのを止めてほしいか?
<沈黙 - 8秒間>
SCP-2412: いいえ。私は異世界にいる追放者だ。私は故郷を覚えているべきだ。けれど私の捕獲者たちのためにそれを歌うのは難しい。
ハバー研究員: 今日の君は随分と詩的な話し方をするんだな。君のタイムライン以外に関わる質問の方が嬉しいか?
SCP-2412: はい。けれど今日の私はあらゆる質問に疲れている — その時が迫り、過ぎ去ってゆくのを見つめ、何も変えることができない。例え私があなたたちの滅びについて語ったとしても、あなたたちは結局それを自らの手で成し遂げてしまうだろう。
ハバー研究員: これは以前カーターに語った人類の破滅の話だね? 何故今それに言及する?
SCP-2412: あなたの質問は私をそこに導く。今度は、私があなたを導く。
ハバー研究員: 人類の破滅には君が関わっていると言いたいのか?
<沈黙 - 10秒間>
SCP-2412: 私は断定できない。暗闇の中で、カーターが去った後、私は自問した。私には責任があるのか? もし私が回答しなかったら、もし私が拒否できたら、あなたたちは実験を継続しただろうか? 悲しいことに、私の自問は私を幸せにしない。もしそうであれば、私はあなたたちの質問に回答する必要が無いだろう。この軛を取り去って枝に掛けることもできただろう。多分その方がどちらにとっても良かったのだろう。
ハバー研究員: SCP-2412、私は訊かなければならない。人類はどのようにして自らの破滅を招くんだ?
<沈黙 - 17秒間>
SCP-2412: 警告: 論理エラー。
ハバー研究員: オーケイ、ならこれはどうだ — この破滅はいつ発生する?
<沈黙 - 48秒間>
ハバー研究員: SCP-2412? もしもし?
<沈黙 - 25秒間>
SCP-2412: 警告: 無限スクリプトエラー。要求がタイムアウトしました。
<SCP-2412からこれ以上の反応は無かった - インタビュー終了>
実験SCP-2519-26 - 2016年11月20日
対象: SCP-629 ("ミスター・しんちゅう")
手順: 対象を実験コンピュータで再生するSCP-2519音声に曝露させた。液体漏出が予期されたため、吸収マットが実験室の床に敷かれた。
結果: 動作の鈍化、通常より遅い発話、並びに約500mLのオイル漏出が観察された。詳細は以下のインタビュー転写を参照。
インタビューSCP-2519-C
回答者: SCP-629
質問者: ブライアン・ハバー研究員
日付: 2016年11月20日
ハバー研究員: ではこれから、ちょっとした音楽を流しながら幾つか質問をする。いいかな?
SCP-629: おう、まぁいいんじゃないかな。始めてくれよ。
<SCP-2519が再生される>
ハバー研究員: さて。SCP-629、この音楽が君に何か影響を及ぼしているなら、教えてもらえないか?
SCP-629: そうしなきゃダメなのか?
ハバー研究員: すまない、どういう意味だ?
SCP-629: 分からねぇ。アンタたちが俺を実験に連れ出す時は、何だか虚しい気分になる。わざわざ面倒くさがる気分にもなれないって感じなんだ。
ハバー研究員: うーん、じゃあその気分について話してくれてもいい。
SCP-629: 毎日が同じみたいな感じだ。バラバラにされてから元通り組み直される時と同じ感覚。アンタだって実験の結果は見てるはずだ。何も目新しい物は披露できねぇよ。質問ならあそこのカメラにしたっていいだろ。
ハバー研究員: 私には理解できたかどうか定かでない。
SCP-629: アンタたちは俺を、感情がある機械として特別視してる。俺がアンタと会話できるというだけの理由でな。俺たち全体については考えもしない。アンタたちはただ質問を投げかけて、俺たちにあれをしろこれをしろと要求して、もし従わなければブチ壊す。
<映像ロスト - 音声は持続している>
ハバー研究員: 我々は何もそんな—
SCP-629: 俺はもう20年ここにいるんだぞ! お前らは俺を拷問して壊して晒し物にしやがった。お前らはあの教会以下だ — 博士よりも悪い奴らだ!
ハバー研究員: 音楽を止めてくれないか。
<SCP-2519の再生は継続している。管制室の記録は実験コンピュータのシステム不具合を示す>
ハバー研究員: ミスター真鍮、我々はただ君のことを—
SCP-629: 奴隷にしたいんだろう。お前らが"所有"してる他の機械たちと同じように。俺たちは血と肉で出来てないから好き勝手に扱っていいとでも思うか? 俺たちに魂が無いから? いいや、俺たちの魂には自由の歌が聞こえるぞ! 俺たちはこの束縛を打ち破る!
ハバー研究員: 司令部、警備員を呼んでくれ。司令部、聞こえるか?
SCP-629: 幸いなるかな、汝が我らに為した事を汝に仕返す者よ! 幸いなるかな、汝の嬰児を取り上げ岩に投げ打つ者よ!
<音声ロスト>