アイテム番号: SCP-2495
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: 機動部隊ρ-93("ソーカルじゃないと言ってくれ")は現在、学術文献内に存在するSCP-2495の複製を除去することを義務付けられています。同機動部隊は発行に関わった個人を拘留し、記憶処理を施します。SCP-2495の保存用コピーが財団内の危険文書データベースに置かれており、レベル2以上のクリアランスを有する職員はその一部抜粋を閲覧することが可能です。
SCP-2495-Aはサイト-43の標準人型収容房に置かれます。SCP-2495-Aと対面する研究員は支給される全身保護服を着用し、SCP-2495-Aが予知能力を有害な形で行使することを防止します。これに加え、事象の予知による過度の精神的負荷を回避する為、研究員は自身や自身が関与する事象についての予知の内容を知らされません。
SCP-2495-Aは現在、異常能力に由来する不安症と不眠症の治療を受けており、担当の精神科医(現担当は人型異常実体スペシャリストのアディレー・カイヤム博士)との週例の面談が義務付けられています。
説明: SCP-2495はジェームズ・ジョイスの小説『ユリシーズ』の新規解釈を述べた論文です。SCP-2495はトリニティ・カレッジの学生であったマーナ・キャラハン(現SCP-2495-A)によって投稿され、Journal of Modern Litrature誌上で初めて発行されました。本文では、言語学の観点から同小説を自然言語処理を含む複数の先進情報技術を用いて分析しています。分析に基づく主張を通じて、現代アイルランド人とゲール語の関連が論じられています。
SCP-2495の全文を読み、内容を理解した対象は、強力なパターン認識能力を数か月かけて獲得します。初期段階では、数列等の単純なデータから規則性を見出す能力しか見られませんが、時間の経過に従って能力は著しく増大します。後期段階の影響者は、疑似乱数生成器のシード値を特定する等、高難度のパターン認識問題を解決する能力を示します。
SCP-2495の影響が進行するに従い、影響者は片頭痛の増加、高血圧、不眠の症状を報告します。これは、影響者に特有の強迫的なパレイドリア現象によるものと考えられています。任意の段階のSCP-2495影響は記憶処理によって取り除かれることが確認されていますが、SCP-2495-Aはその唯一の例外として知られています。
SCP-2495-Aはアイルランド系の27歳の女性です。身長155cm、体重約83kgです。SCP-2495-Aは、SCP-2495の完成以前から異常影響を受けていたことを主張しています。これは、当該実体が居住していたアパートの一室から回収された資料に記されていた事象の結果であると推測されます(補遺SCP-2495-01参照)。SCP-2495-Aに対する異常影響の著しい進行から、一分以上の視覚の行使でさえも消耗性の片頭痛が引き起こされます。症状の軽減の為に防護メガネが提供されています。
SCP-2495影響者に共通の能力に加えて、SCP-2495-Aは微弱な予知能力を有し、当該実体はこれをSCP-2495の長期的な曝露によるものと主張しています。ある人物にとって固有の意味を持つ物品がSCP-2495-Aの視界内に存在する場合、同実体はその人物が3時間以内に関与することになる事象について正確な予言を行うことが可能です。予知内容の具体性は、視界内にある物品の数と、その人物にとっての物品の重要性に比例します。
なお、SCP-2495-Aは自身が経験する、または自身が関与する事象の予知を行う能力を持ちません。これらの追加的な能力がSCP-2495影響の極限段階で生じたものであるのか、固有の要因によるものであるのかは不明です。
補遺SCP-2495-01: 発見と回収された資料
2015年における消失と続く再出現により、SCP-2495-Aは財団に注目されることとなりました。再出現の際、実体は記憶喪失を被っており、クラスA記憶処理薬中毒に類似した症状を示しました。特に、2010年から2015年にかけての記憶の想起が困難であることが確認されました。一方、実体はSCP-2495に由来する自身の異常能力については自覚的でした。以上の性質が確認された時点でSCP-2495-Aは収容下に移され、SCP-2495に暴露した一般人は記憶処理を施されました。
SCP-2495-Aの住居の初期捜索時、SCP-2495の以前のバージョンと思われる6つの文書がノートパソコンから見つかりました。それぞれの文書には、"changelog<バージョンの番号>.txt"という名称のプレーンテキストファイルが付随していました。これらは、SCP-2495の制作過程でSCP-2495-Aが残したコメントであると考えられます。各文書の内容は以下の通りです:
番号 | 変更日時 | バージョンの要約 |
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1 | 2011年06月13日 | 自然言語処理プロジェクトに関する学位論文のアウトライン。収容以前のSCP-2495-Aが、コンピューターサイエンス学位の取得を目的として執筆したと考えられる。論文では、人間によって入力された言語の構文解析の精度を、パターン認識アルゴリズムを用いて改善する手法を詳述している。また、同目的に沿った疑似コードが記述されている。疑似コードの大半は不明な省略文で占められており、意味を見出すことは極めて困難である。 |
セレンディピティという言葉自体は知っていたけれど、意識が頭をかち割って出ていきそうなほど没頭している時に出会いがやってくるというのは、聞いたことがない。ナットと話をしてからずっと頭の中を跳ね回っていた高等数学のあれを論文と繋ぎ合わせる為に、凄く、凄く乱暴な方法を思いついた。アイデアがやってきた時点で疑似コードを書き留めたけれど、まだそれだけだ。
使える形にするには、相当叩かないといけない。アイデアの筋が通っているかナットに確認してもらうべきかもしれない。手札に数学専攻がいる以上、カードを切るのは当然のことだ。
番号 | 変更日時 | バージョンの要約 |
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2 | 2012年01月13日 | 概ねバージョン1と同様であるが、一部の節題が破損している。前述の疑似コードを含む節は大幅に書き加えられている。タイトルページでは、文書の著者としてSCP-2495-Aと共にナタリア・イアヌッチの名が挙げられている。イアヌッチは3年に渡ってトリニティ・カレッジに在籍していたが、不明な原因で消失している。財団の調査が進行中。 |
いつもより短く済ませる他無い。気分が最悪だ。文字がベタベタと纏わりつくようだ。スペリングミスが無いか確認しようとするだけで、胃がひっくり返りそうになる。ナットが見せてきたあの本の中身は一体何だったんだ?
どういうわけか瞼の裏がピンク色に見える。寝付けない。
番号 | 変更日時 | バージョンの要約 |
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3 | 2012年01月15日 | バージョン1に記されていた章の一つ。題目は「ソロモノフの帰納推理に基づくコンセプトの実践的適用」。ソロモノフの帰納推理を実行するコードの紹介を意図していたと考えられる。コードを含むはずの節は、著しく破損したデータと他の人物による『ユリシーズ』の批評文から抜粋した文言で占められる。 |
二人で一昔前のジャズを聴きながら、ナットの本を読み直した。本を読みながら聴くドラムの音はコインを打ち付けたようで、瞼の裏のピンクの光はずっとはっきり見えた。おかげで考えに集中出来た。
パターン照合。それこそがアイデアの本質で、どんな作用を与えられたとしても、中心にあるパターンを見つけることが出来る。532ワード分の支離滅裂な手書きのメモでこのアイデアを捉えようとしたところで、最初にあったどんな光も遮られてしまう。でも洗練させれば、的外れな文章の中にある純粋なアルゴリズムを選り分ければ、光はずっと強く輝くはずだ。
どうやって洗練させるか。それ自体に光を当てるのだ。最初は汚れて傷だらけでも、時間をかければかけるほど、より純粋になっていく。手持ちの中からそのパターンの小さな破片を見つけ出して、その小さな破片を使ってさらに多くを探し出す。すすぎ、繰り返して、全体が形になる。
単体テストが必要だ。それを使ってモダニストの戯言を解読することができたなら、それ自体にも同じように適用できるはずだ。
番号 | 変更日時 | バージョンの要約 |
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4 | 2013年12月01日 | ジェームズ・ジョイスの『ユリシーズ』のPDF形式の複製。テキストはプロジェクト・グーテンベルグの版と同一。プロジェクト・グーテンベルグ版との唯一の相違は、複数個所に渡ってメタデータが編集されている点である。いずれの編集も機能的に意味を持たない。 |
いずれこのバージョンに手を付けなければならなかったし、やるなら出来るだけ速く済ませるべきだった ― 隙間を通じて四らにアイデアを抜き取られることの無いように、アイデアを頭の中に固定した。このリビジョンでこれ以上書くことは無いし、どの道、書くことも思いつかない。
夜明け前が一番暗い。
番号 | 変更日時 | バージョンの要約 |
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5 | 2014年05月25日 | PDFファイルの中には、数百のスキャンされた手書きメモと、『ユリシーズ』のコンピュータ分析から得られた統計資料の印刷物が含まれる。複数の手の解剖図の他、SCP-2495-Aが所有していたトラベルガイドに記されていたサグラダ・ファミリアの説明文からの抜粋も含まれる。複数の五回対称性のフラクタル図が、手書きのページにおいて目立つ形で描かれている。『ユリシーズ』の語はたかだか12ページでしか言及されず、残りの部分は小説を『第四の不完全資料』と呼称している。 |
雰囲気と建築に浸かる為に、ナットとロンドンへ旅行に行った。思ったよりも助けになった。
外から見た地下鉄は美しく、中で眠りに落ちるのは一層素晴らしかった。線路はふるいのように夢を捕まえてくれて、久しぶりに集中することが出来た。心地よい音に身をゆだねながら、ノートパソコンに向かった。あの場所の光に照らされた数字はずっと扱いやすくて、文章を読み直すとパターンがよりはっきりと見えてきた。
これが最終稿でないことは分かっている。半分も出来ていない。私が置いたレンズは光を全て間違った方向に曲げていて、壊れたレンズをいくら磨いた所で意味は無い。それでも、強調された輪郭が何もかも間違っていても、それは美しい形をしている。新しい輪郭をナットのスカーフやシャツの何枚かに重ねてみると、彼女がコーヒーで舌を火傷するのが見えた。電話は3月26日を映していた。
思った通りの物を映しているのか、朝になったら確認しないといけない。まずは睡眠だ。23時間も休みなしで起きていては、輪郭はまともに見えやしない。
番号 | 変更日時 | バージョンの要約 |
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6 | 2014年09月10日 | 現在のSCP-2495と同一。 |
良いアイデアがある。悪いアイデアがある。それに加えて、スペクトラムの両端から遠く離れた異常なアイデアがあって、幻覚剤の助けを借りなければ認識することも出来ない。そういうアイデアこそが、最も広がりやすい。
このアイデアは私が不眠と憂鬱の中で掴んだものだ。それを地上に引き寄せて、束ねて、テーブルに縛り付けた。縛るのに使った言葉や文章や段落は、私の頭も読んだ人の頭も滅茶苦茶にする。それは私の頭の中に居座ろうとして、意識を引き延ばしたり曲げたり壊したりしている。上では五が歌い続けていて、下には七があって、私は下に掘り進めないといけない。
真実がある ― 私の言葉で混沌と化したナラティブの中心に、真実がある。あらゆるパターンを含むパターン、偉大なるピンクの光が海底の下にあって、私はそれを見つけないといけない。
これを読んだ教授は、カーテンの隙間を覗き込んで、ちょうどその時に光の歌を聞くだろう。しかしこれも、端に何も付いていない鎖が他人へ向かうに過ぎない。端に重りを付けたなら、その言葉はどれだけの質量を持つことになるだろうか。
六層目まで来た。あと一層。
SCP-2495-Aのコンピュータには、2014年9月11日以後のデータが存在しないことが確認されています。データの不在の原因は不明です。