SCP-2467-JP
評価: +50

クレジット

タイトル: SCP-2467-JP - 夢から覚めた。もうその夢を思い出せない。
著者: fish_paste_slice fish_paste_slice
作成年: 2025



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アイテム番号: SCP-2467-JP

オブジェクトクラス: Keter

特別収容プロトコル: SCP-2467-JPの発生原理は解明されておらず、特別収容プロトコルは被影響者(以下、SCP-2467-JP-aと表記)に対する情報収集及び負担軽減措置に主眼が置かれます。

財団ウェブクローラー及び異常発見部門により未来予知が疑われる事象を収集し、SCP-2467-JPの影響が疑われる場合は関係者の行動を監視します。SCP-2467-JP-aが特定された場合は対象を拘束して尋問を行い、獲得された情報は時間異常部門の精査を経て、関係する各部門へ共有して下さい。対象に重度の記憶障害が見られる場合は、レベル4以上の研究員2名およびサイト管理官の承認を得た上で記憶処理による脳負担軽減を図るタキムラ式ミーム記憶削除エージェントを処置することが可能です。

SCP-2467-JP-aの存在は超常コミュニティにおいて広く認知されており、超常組織に所属/拘束されている、あるいはその記憶を有するSCP-2467-JP-aが相当数存在すると考えられています。

説明: SCP-2467-JPは、ヒトの死亡時に低確率で発生する現象です。SCP-2467-JPの影響下にある人物が死亡した場合、死亡時点で対象が有する全ての記憶が、対象の過去の特定の時点の脳に複製(以下、"リセット"と呼称)されます。対象の意識は一環としており、対象の主観では"人生をやり直している"と認識されます。また、"リセット"後のSCP-2467-JP-aが死亡すると再度SCP-2467-JPが発生し、以後、対象が死亡する度にこれが繰り返されるため、対象は自身が所謂"ループ状態"に陥ったと感じます。

記憶が時間的に遡及して複製されるという特性のため、"リセット"の瞬間を観測することには成功していませんが、SCP-2467-JP-aの死亡時にはタキオン粒子の流動に微かなゆらぎが生じることから、その存在が確実視されています。過去に複数のSCP-2467-JP-aに対してSCP-2467-JPを無力化する試みが実施されていますが、いずれも対象の死亡時にタキオン粒子のゆらぎが発生しており、また、一部のSCP-2467-JP-aは財団を含む超常組織によりSCP-2467-JPの無力化実験を受けたと証言していることから、いずれの試みも成功していないと考えられます。

"リセット"を繰り返すことでSCP-2467-JP-aは知識と経験を蓄えていきますが、蓄積された記憶の増加に伴い、記名障害やエピソード記憶障害等の兆候を示します。これは"リセット"を重ねるにつれて重症化し、やがて感覚器官や運動等の能力にも影響が及び、最終的に対象は自力での生存が困難になります。これは獲得された膨大な記憶が脳の許容量を超過して他の能力が制限されるためであると考えられ、記憶処理により一定の緩和が可能です。しかしながら複数のSCP-2467-JP-aは、過去のループにおいて財団による記憶処理を受けたことを証言しており、一部には記憶障害の兆候を示すことから、記憶処理後に複数回"リセット"を経験することで、再び記憶が脳の許容量を超過して記憶障害が再発するものと考えられます。

補遺1: "タキムラ式ミーム記憶削除エージェント"概要

タキムラ式ミーム記憶削除エージェント取扱ガイド抜粋



タキムラ式記憶削除エージェントは、記憶処理部門所属の多岐村了平研究員により考案された、視覚投与型ミームエージェントです。これは、特定のシナプスの活動をトリガーに活性化して接種者に記憶処理を行うという既存のミームエージェントを改良したもので、接種者の脳で瞬間的に大量のシナプスが生成されることで活性化し、生成されたばかりのシナプス群の結合を即座に断ち切ります。また、ミームエージェント自体はこの対象外となるため、恒久的に脳に残存し、何度でも活性化が可能です。
通常、長期に渡る記憶を削除する場合は対象を拘束した上で、記憶のスクリーニングや複数回にわたる投薬、催眠治療等が必要となり、記憶処理が完了するまでに数日を要します。また、削除される記憶量に比例して対象の脳や精神への負担も高まり、自我喪失等のリスクが高まります。タキムラ式記憶削除エージェントは瞬間的に発生した記憶を対象とし、自動的に削除するため対象者を拘束する必要が無く、また脳への負担を軽減することが可能であり、虚偽の記憶を植えつける等の記憶影響を与えるアノマリーの確保/収容に有用です。

[後略]



タキムラ式記憶削除エージェント取扱ガイドの全文は、財団記憶処理部門へ閲覧を申請してください。


SCP-2467-JP-aがタキムラ式ミーム記憶削除エージェントを投与した状態で死亡した場合、"リセット"直後に複製された記憶はただちに削除され、接種者は"リセット"を認識しません。また、ミームエージェント自体はこの記憶削除の対象外であるため、その後に接種者が死亡した場合も再度"リセット"時に記憶削除が行われます。これにより、SCP-2467-JP-aは恒久的に自身の人生の繰り返しを認識することなく、非異常の一般人として人生を送り続けます。

現状ではSCP-2467-JP-aの記憶障害は回避できません。多くの場合、複数の"リセット"を経験したSCP-2467-JP-aは記憶障害の緩和のために記憶処理を要求しますが、これも一時的な対処療法に過ぎず、根本的解決とはなりません。タキムラ式ミーム記憶削除エージェントは、これらSCP-2467-JP-aの記憶障害への救済措置と見なされ、倫理委員会の承認を経て、2020年より特別収容プロトコルに組み込まれました。

補遺2: 多岐村了平研究員の手記
記憶処理部門所属の多岐村研究員は、タキムラ式ミーム記憶削除エージェントを完成させた翌年、若年性の記憶障害の兆候を示しました。多岐村研究員は休職と治療を勧告されましたが、その翌日に自室にて自己終了しているのを発見されました。
自室で発見された手記には、多岐村研究員がSCP-2467-JP-aであり、過去の"リセット"で既に記憶処理を経験していることが記されていました。なお、当人が死亡済みであり、その証言の真偽を確認する手段が存在しないため、多岐村研究員のSCP-2467-JP-aへの指定は現在保留されています。
以下は、多岐村研究員の手記の全文です。

最初の人生は、57歳まで生きた。ありふれた企業に就職して、香織という女性と出会い、26歳で結婚した。子供を男女一人授かり、息子には晶、娘には陽菜と名付けた。どちらも妻に似た子供だった。私は仕事に熱心で家庭をあまり顧みず、妻や子供との会話は少なかったが、家族仲はさほど険悪でもなかったと思う。そして不摂生が祟ったのか、心筋梗塞で人生に幕を下ろした。まあ、ありふれた人生だったのだろう。
そして気がつくと、私は17歳になっていた。そこは高校生の頃の自室のベッドの上で、窓から見える景色は間違いなくあの頃の故郷の街並みだった。
これが、最初の"リセット"だった。

しばらく混乱した後で、「自分には、何かやらねばならない使命があるんだ。」と考えた。見当違いも甚だしいが、その頃は大真面目だった。そして最初にしたことは、最初の人生では交通事故で死んだ同級生を救うことだ。彼が事故に遭った日も覚えていたから、その日は彼が事故現場に近づかないようにした。当時は"運命"というものを信じていたから、私が何をしても結局彼は死ぬんじゃないかと不安だった。だが、それは杞憂に終わって、彼は生き残った。
"運命"なんて無かった。そして、私は、これが自分の使命なのだと確信した。
その後は、これから起こる国内外の災害を覚えている限り書き記して、新聞社やテレビ局、行政に送りつけた。何人かの有名人には、死ぬ時期と死因を手紙で知らせたりもした。
そして、当然の帰結として、超常組織に目をつけられた。

最初に私に接触した超常組織は、世界オカルト連合だ。連中はある日突然現れて私を拘束し、決して穏やかとは言えない"長いインタビュー"を行った。
幸いなことにGOCもSCP-2467-JPのことは把握していたようで、私はアノマリーとして粛清されずに済んだ(もっとも、粛清されたところであまり意味が無いが......)。
連中は、私が"異常"な病気なのだと説明した。そして、その病を根絶するために、私に協力して欲しいと言い出した。まだ自分が選ばれた存在だと信じていた私は、連中の言葉は信じられなかったが、拒否権は無かった。その後に待っていたのは、治験という名の投薬や催眠療法、脳への電気刺激を受ける日々だ。心身ともに疲弊して、次第に何も考えられなくなり、いつの間にか二度目の"リセット"を経験していた。

二度目の"リセット"を経験した時、初めて恐怖に襲われた。この先ずっと、自分が何をしても、死ぬ度に17歳に戻ってくるのだと感じた。これは、自分にやるべき使命があるわけではない。たまたま、異常な何かに巻き込まれただけなのだというGOCの言葉を思い出して、打ちひしがれた。
逃げ出したかったが、逃げ場所なんてない。死すらも救済にはならない。
この繰り返しから逃れるのに、唯一頼れるのはGOCだけだった。仕方なく、また連中に接触しようと、予言者の真似事をした。
やって来たのは蛇の手だった。

蛇の手で、他の多くの異常な物品や存在を知った。さらに、GOCや蛇の手の他にも多くの超常コミュニティがあることを知った(財団の存在を知ったのもその頃だ)。治療室という牢獄に閉じ込められることもなく、身体に何かをされるわけでもない。蛇の手での生活は、GOCとは比べ物にならないほど快適だった。
だが、最初の"リセット"で私が出会ったのがGOCで良かったとも思う。もし最初に蛇の手と出会っていたのなら、私はきっと、この異常性をポジティブに考えて、予言者ごっこを続けて、何度"リセット"をしても同じことを続けていただろう。そしてある時、自分が記憶障害を起こしているのに気がつくのだ。GOCに否定されたからこそ、そうなる前に私はSCP-2467-JPを解明する決意ができた。

だが、そこから7回目の"リセット"までのことは、あまり覚えていない。
蛇の手で少しずつアノマリーの知識を身に着けていき、そこから様々な超常組織を渡り歩いたのは間違いない。だが、7回目の"リセット"を経験した頃に、自分の記憶力が急激に落ちていることを自覚した。自分の記憶が脳のキャパシティを越えつつあることは分かっていた。だから私は、記憶処理に長けた超常組織、つまり財団に接触した。そして、それまでに得た要注意団体や超常技術の知識と引き換えに、記憶処理を受けたのだ。
3回目から6回目の人生で、SCP-2467-JP-aについて様々な方面から研究を進めたはずだが、それらの知識も大半は無に帰した。合計で150年近い人生の記憶はあまりに膨大かつ古すぎて、内容を取捨選択をすることが困難で、そのほとんどを丸ごと削除せざるを得なかった。まあ、いまだに"リセット"が続いているのだから、それらの努力は無駄に終わった不要な知識ということなのだろう。
記憶処理には、かなりの時間を要する。通常でも、数年分の記憶処理には複数回の投薬や事後のカウンセリングが必要だ。150年分の私の記憶を消すためには、1か月以上の時間を要した。
記憶処理を受ける間、改めて自分の人生を振り返った。そして、妻と子供達が懐かしくなった。

8回目の"リセット"では、最初の人生をやり直すことにした。超常組織とは関係を持たず、できるだけ記憶通りに行動した。そして最初と同じように香織と出会い、26歳で結婚した。
授かった子供は、私によく似た娘だった。晶でも陽菜でもない、最初の人生ではいなかった子供だ。晶と陽菜には、もう二度と出会えないと悟った。
"運命"なんてない。それは理解していたはずなのに。

晶でも陽菜でもない娘は、光里と名付けられた。光里には、晶や陽菜と違って、精一杯の愛情を注いだつもりだ。
だが、時間が経つにつれて思い知らされていった。恐らく、この先何度"リセット"したとしても、晶にも陽菜にも、光里にも出会えないのだろう。

どれほど努力しても、ほんの些細な差異は生じてしまう。それがバタフライエフェクトを生み、数十年単位では全く異なる結末を生むことになる。例えば、私は何もしなかったのに、事故で死ぬはずだった同級生は一命をとりとめて、消えない傷を抱えながらも生き延びた。私より長く生きるはずの香織は私が48歳の時に癌を患い、それから2年で彼女の人生に幕を閉じた。

SCP-2467-JP-aは、何度も人生をやり直せる。だが、決して同じ人生は歩めない。

9回目の"リセット"からは、私の目的はSCP-2467-JP-aの解明ではなく、この無限に繰り返される"リセット"から解放されることになっていた。記憶障害に怯えながら幾度も知らない人生を送らねばならない苦痛には、もう耐えられなくなっていた。
私はSCP-2467-JP-aであることを隠して勉学に勤しみ、微かに残された記憶を手掛かりに財団へ入り込み、記憶処理部門に籍を置いて、記憶処理の研究を始めた。
10回目の"リセット"でも同じだ。
そして11回目の"リセット"、つまり今のループで、ようやく望んだ成果を得られた。

ミームエージェントを用いたこの方法なら、"リセット"する度に長い記憶を忘れられる。その後は、自分が人生を繰り返していることに気づかずに、一度しかない人生を送るのだ。
これは、根本的な解決ではないことは分かっている。だが、死すら救済とはならないSCP-2467-JP-aにとっては、もはや必要なのは問題の解決ではなくて、問題そのものに気づかないことなのだ。

後は、このミームエージェントを自分に投与すれば、長い人生は17歳が見た一瞬の夢になり、私は苦しみからは解き放たれるだろう。
だが、この期に及んで、私は躊躇している。
晶、陽菜、光里。
あの子たちを覚えているのは、私だけなのだから。


本ドキュメントの執筆時点では、タキムラ式ミーム記憶削除エージェントに類似する処置を経験したSCP-2467-JP-aは確認されていません。
脚注
. 新たに知覚し、体験した情報を記憶し続けることができなくなる障害
. 個々の出来事は記憶しているが、その時間的順序や相互関係が思い出せなくなる障害
ページリビジョン: 5, 最終更新: 13 Sep 2025 18:12
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