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ロンドン塔のマーティン・タワー。
アイテム番号: SCP-2264
オブジェクトクラス: Safe
特別収容プロトコル: SCP-2264-Aが存在する建造物の不可避的公共性のため、保安対策は民間人が異常の入り口にアクセスすることを防止する点に集中します。財団はSCP-2264-Aの存在を隠蔽するためにイギリス政府と協力します。SCP-2264-Aへの隠し通路が構築され、唯一のアクセス手段として残されています。SCP-2264-Aが設置されている部屋の元々の入り口は壁で塗り固められており、認可を受けた職員のみがSCP-2264-Aにアクセスできることを確実にしています。
説明: SCP-2264-Aは、ロンドン塔の一角であるマーティン・タワーの下部にある隠し部屋の内部に設置された鉄扉です。門は従来の手段では開錠することができず、高度に儀式的なプロセスを必要とします。SCP-2264-Aには蒸留器・フラスコ・坩堝といった錬金術器具の複合装置が取り付けられています。
第9代ノーサンバーランド伯ヘンリー・パーシー。
隠し部屋の内部で発見された日誌を基に、SCP-2264-Aは英国の貴族であり、錬金術師であり、ロンドン塔に長期間にわたって収監されていた第9代ノーサンバーランド伯ヘンリー・パーシー(1564年4月27日-1632年11月5日)によって作成されたと考えられます。収監されていた時期も伯爵は権力を維持しており、快適な生活を享受すると共に、書籍や研究資料へのアクセスが可能だったと伝えられています。所有する膨大な書籍と、科学およびオカルトに向ける興味から、彼は"魔術師伯"とも呼ばれていました。
著名な錬金術師でありエリザベス女王に仕えた宮廷占星術師でもあるジョン・ディーなど、パーシーの周辺人物の何人かがSCP-2264-Aの製作に関与した可能性があります。ヘンリー・パーシーが会員になっていたと考えられている"夜の学派"も関与していたことが想定されます。
魔術師伯ヘンリー・パーシーの日誌:
ニグレド ― 黒化:
我等は魂の昏き夜に直面するであろう ― [松果体]は新たに抜き取られるであろう。火は内に影を呼び起こす。アルベド ― 白化:
不純物を洗い落とす ― 雨は全ての罪を浄化し、エリュシオンに向けて魂を整える。分割せよ、調和の厳しさに因るのではなく、二つの対抗原則に因って。それは後に凝集し、対抗物の融合体となるだろう。キトリニタス ― 黄化:
勝利は月の意識の黄変と一致している。白は夜明けに降伏し、旅する灯火は月を弑する。ルベド ― 赤化:
赤は暗示する。代わりに、装置に血紅色の犠牲を捧げる。
財団所属の錬金術師が分析したところ、これらの指示は架空の存在である"賢者の石"の創造に用いられる4部構成のプロセス、マグヌム・オプス(大いなる業)と概ね同等のものであると見做されました。この手順の再現に必要とされる[編集済]
まだ不確定の形式を通じ、SCP-2264-A内のメカニズムは上記手順の完了に反応して開錠・解放されます ― これにより、SCP-2264-Bへのアクセスが可能となります。
SCP-2264-Bは、地球上であれそれ以外であれ、如何なる既知の場所にも対応していない異次元の都市です。SCP-2264-B内部に起源を持つ物品は、SCP-2264-Aを通り抜けると非物質化します。このように非物質化した物品は、最初に存在した場所に帰還していることが後に発見されています。
SCP-2264-Bに入場した人物は、入場時に全ての私物が除去され、服装が変化することを報告しています。出現する衣服は仮装舞踏会で着用される類の物、とりわけヴェネツィアのカーニバルに関連のある衣装に似ていると報告されており、SCP-2264-Bを退出すると非物質化します。SCP-2264-B内にいる間は仮面を外すことができませんが、それ以外の衣服は好き勝手に脱ぐことが可能です。SCP-2264-Bの住民の大半は同じような衣装や装飾を着用していますが、潜入したエージェントは彼らの衣装に多少の、しばしば"キチン質"と描写される有機質が存在することを報告しています。SCP-2264-Bの最も一般的な住民は大雑把なヒト型であり、SCP-2264-1に分類されています。
空は黄色であると描写されており、そこに不明確な数の黒い星が存在しています。これらの星は、如何なる既知あるいは仮説上の星座にも対応していません。建造物は、単一で継ぎ目のない材質を彫って作られたことを示唆するような造りをしています。報告によると、SCP-2264-B内で発生する色は黒・白・黄・赤のみです。建築様式は非ユークリッド的で、通常の重力の法則は適用されません。例として、住民たちは上下逆さの階段を上っているのが観察されていますが、彼ら自身の重力源から見ると、彼らはごく普通に階段を上っています。
この都市は"微かにカビが生えたドライフラワー"または"古い本のそれとさほど違わない"香りがすると報告されています。都市の実際の規模は測定が困難ですが、組成不明ながらも水より粘性があるものとして述べられる黒い液体の海に囲まれた島に位置しているようです。
工作員はSCP-2264-Bの探索中に、眠気のような倦怠感と、時間・空間を推定することの困難さを報告しています。SCP-2264-Bは有形の場所であり、実際の夢であるとは考えられていませんが、明晰夢を見た経験のある人物は、そうでない人物よりも遥かに強い自制能力と注目を示します。SCP-2264-Bへの心理的な依存の危険性があるため、工作員は毎月交替して再配置を行います。最初の探査試行では8名の工作員がAWOL(無断離隊)扱いとなり、帰還した者たちも、観察したものについて筋の通った/詳細な説明をすることが困難でした。
SCP-2264-Bの殆ど白昼夢に近い性質は、数多くの者にそれを夢または幻覚であると知覚させ、その裏にある迫真性を完全な形で認識することに失敗させてきた。明晰夢の体験者であり、幻覚剤の使用経験がある私(カリスト・ナルバエス博士)がこの任務に割り当てられたのは、つまりそういう訳だ。同僚たちは即座に異常性に白旗を揚げ、この都市の頽廃的快楽に身を任せてしまった。とりわけ宮廷の内部でだ。
魅惑的ではあったが、私は彼らの熱狂的な乱交には加わらなかった。以前SCP-2264-Bに入場した者にもう一度インタビューすることを勧めよう ― これは彼らが述べた詳細とは異なる。夢を直接制御できるとき、多くの者は空を飛んだり星々を訪ねたりすると主張する。それは嘘だ。大半の者は、性的快楽の恍惚とした譫妄状態に膝を屈してしまう。
繰り返すが、これは夢ではない。しかし私は、なぜ多くの者が違いを見分けられないかを理解できた。首領が新入りを薬漬けにして拠点へ誘ったと伝えられる暗殺教団の伝説を思い出したよ ― 想像上の楽園にも匹敵する"秘密の園"の中で、招かれた者は自分が天界の食物を味わっているのだと本気で信じ込んだ。SCP-2264-Bもある程度それと同じ形式で機能しているようだが、私はそれがこの都市の華やかさの理由であるとは信じていない。むしろ罠として機能しているのではないかと疑っている。ここは単なる都市(これまで一度も目にしたことのない壮大な都市)ではあるが、基準現実世界の外側にしか存在せず、我々が慣れ親しんだ物理法則に完全に準拠している訳でもない。
SCP-2264-Bの探査において、私は幾つか重要な発見をした。
1. 言語の普遍的翻訳 ― エージェントの大半はSCP-2264-Bの住民が英語を話していると知覚している一方で、私には彼らが母国語であるスペイン語で話しているように聞こえる。それどころか探索チームのメンバーの1人も、私と直接話す時に、SCP-2264-Bの内部ではスペイン語を話しているように思われた。これはまた書かれた言語にも適用されるようだが、こちらはそれほど正確でもないらしい。
書かれた言葉は、最初は奇妙な形状に見える ― どことなく螺旋のようなパターンを有するシンボルだ。それを直接観察し続けると、シンボルはぼやけて改変され、やがてそこそこ翻訳された内容が出現する。だが限界はあるようで、幾つかのSCP-2264-B固有単語は人間の語彙に当てはまらないらしい。書かれた単語は紙上を動き回るように思われ、長期曝露は容易く吐き気や頭痛を引き起こす。
2. この都市の正式名称はアラガッダ(Alagadda)であり、非意図(Nevermeant)の境界にある都市国家だという。この情報の大半は、学者であり、私のような来訪者である"クル=マナスの堂守(Wandsman of Kul-Manas)"という者から得たものだ。彼は嘴付きの仮面をつけていて、曲がった背中を美しいローブで覆っていた。彼の手には鱗が生えており(爬虫類よりも鳥類に似ていた)、黒い鉤爪があった。彼は私の前に巻物を広げ、これは多元宇宙の地図なのだと言った ― 層、その外にはまた層、それによる無限の螺旋 ― 思い出すだけでも頭が痛くなってくる。
何にせよ、都市の中で知的欲求を抱く仲間に会えたことは喜ばしかった。私は彼の研究の性質について訊いた。「これら全ての本質とは何であるのか?」彼は、たぶん修辞的に、そう尋ねてきた。「それは元々そうだったのですよ」と彼は言った。
3. SCP-2264-Bにはある種の権力構造があって、そこに関わる実体は、説明によれば、財団が認知しているどんな現実改変者よりも危険であり得る。クル=マナスの堂守は、我々の世界に対する注意を引きたくないのであれば、それらの実体に接触すべきではないと警告してくれた。
SCP-2264-Bを直接的に支配しているのは、4人の仮面を被った君主だ。(或いは、"だった"。)
苦悩の面被りし黒の君主。
勤勉の面被りし白の君主。
嫌悪の面被りし黄の君主。
陽気の面被りし赤の君主。彼らはアラガッダ国王の最高顧問だと言われている。堂守は、彼らの名に騙されてはならないと、どの君主も負けず劣らず悍ましい存在だと繰り返し警告した。私は、常に距離を取ったうえで、苦悩の面を付けた黒の君主以外は全ての仮面君主を観察してきた。話によると、黒の君主は過去に起こった政治闘争(理由は、仮に存在していたとすれば、不明だ)の犠牲者であり、恐るべき次元の澱みに叩き込まれたらしい。だが戻ってくるのは時間の問題だという。
この都市国家の狡猾な魅力は、堂守が言葉で表現できないような恐ろしい真実を覆い隠している。彼は、ここに来る余所者の多くはアラガッダの王に恩恵を求めているのだと言った。堂守はこれ以上"アラガッダの王"に関して話すことを拒否し、同様に"アラガッダの大使"のことも避けるべきだと言ったうえで、丁重に私の前から去っていった。
私は一先ず報告に戻ろうと決め、メンバーを集めた(何人かは仮面を被った異次元実体の組んず解れつする山から引き出さねばならなかったが)。私たちが最初に入ったドアは、基準現実世界へと私たちを帰還させた。私は、SCP-2264-Bは多元宇宙全体の無数の世界に接続されている次元的ネクサスではないかと考えている。SCP-2264-B内で使用される全てのドアは直接SCP-2264-Aに接続されている。SCP-2264-Aのような他の入場口があるとすれば、現時点では閉ざされているのかもしれないな。
この第一歩のためにカリスト・ナルバエス博士は表彰されました。心理的評価で、彼は近いうちに再入場しても問題は無いと判定されましたが、報告書ではもっと専門的な描写を用いるように指示されました。将来的な工作員は、意識変容状態(睡眠その他)において頭頂葉に正常値よりも高い活動レベルが示されないかどうかをスクリーニング検査されます。
これ以来、"クル=マナスの堂守"はSCP-2264-2に分類され、貴重な情報源と見做されています。"アラガッダの仮面君主たち"はSCP-2264-3に分類されました。
私はSCP-2264-2がアラガッダで唯一信頼に値する実体ではないかと考えているので、すぐさま彼を探し回った。この都市には何千人も、ことによると何百万人もの住民がいるが、SCP-2264-2は中でも特に目立っているし、SCP-2264-Bにおいて厳密に学問的関心だけを抱いているように思われる ― 特に宮廷の図書館に興味があるようだ。
所蔵書籍は素晴らしいもので、私に判断できる限り、図書館は無限の規模を有しているようだった(見える範囲に部屋の壁は無く、通路が地平線の彼方まで続いている)。私はエージェント クロムウェルと余(ユ)博士を連れ、SCP-2264-2を求めて、見たところ無限の広間をそぞろ歩いた。数冊の魔導書と巻物に目を通したが、そこに記されたシンボルは翻訳されなかった(おそらく我々の言語に当て嵌められなかったのだろう)。
間もなく見つかったSCP-2264-2は以前と同じように愛想よく、しかし我々の安全に対する懸念を表明した。私は彼に詳しい説明を求めた ― 記憶の許す限り正確に返答を書き起こそう。
「アラガッダの大使がアディトゥムから帰還した。もはや此処には狂気しか残らないでしょう。急いで離れるべきです、私も直に此処を去る。」
私は彼らが警告してくれたことに感謝し、長い間居残るつもりはないと告げた。アディトゥムについて尋ねると、彼はこう答えた。
「恐怖の都です、そこには都そのものと等しく悪しき民が満ちている。話によれば、アディトゥムの魔術師王は、アラガッダの吊られたる王に匹敵するほど恐るべき太古の存在に仕えているとか。カァ!(SCP-2264-2はカラスのそれに似た鳴き声を発した) 彼らの話をすべきではなかった。此処ではまずい。」
私は彼(SCP-2264-2)の素性についても尋ねた。彼の詳細を知りたかったのだ。彼はこう答えた。
「私はクル=マナスの堂守。貴方もご存じのように、一介の学者です。私は星々の平原を歩く者、天海の船乗り、平面を掘り進む者なのです。」
SCP-2264-2は我々の"オーラ"が何だかんだという話をした。彼は、多元宇宙全域でみれば稀ではあるものの、以前SCP-2264-Bを訪れた時に我々と同種のオーラを有する者に遭遇したことを認めた。彼が述べたのは以下のようなことだった。
「強欲と暗き野望に突き動かされるロンドンの不死商人を見たことがあります。別な出会いもありました ― 見知らぬ土地からの異邦人が一人。自分が何処にいるのかも分からない様子で、恐怖に怯えていました。彼が如何にしてアラガッダに偶然迷い込んだのか私には分かりません、そもそもそんな事が有り得るとは思えないのですが...彼はその後すぐに消えてしまい、以来私が再び彼を見たことはありません。ただ瞬く間に消えてしまったのです。」
彼はアディトゥムの"カルキスト(Karcist)"と"クラヴィゲル(Claviger)"のことを、繰り返し"腐敗と胚性流体の悪臭を垂れ流す"輩だと言い続けていた。彼らもまた、SCP-2264-2が遭遇したことのある、私たちに似て"オーラ"を有する人物のようであった。SCP-2264-2はどうやら、人の"次元的近傍"を感知する能力を持っているようだ。SCP-2264-2は首を(フクロウのように)360度回転させると、またしてもカァと鳴いて、こう宣言した。
「アラガッダの大使が戻って来たのを感じます。私は此処を離れますので、貴方がたもそうしてください。逃げるのです ― 腐敗を逃れるのです。いずれ貴方の領域を訪ねに行きましょう。」
SCP-2264-2はすぐ近くのドアから退出した。ドアは微動だにしなかったものの、SCP-2264-2本来の次元に繋がっていたのではないかと思う。我々は速足で図書館を後にし(走ったせいで注意を惹きたくは無かったのでね)、鍵の掛かっていないドアを見つけて帰還したわけだ。我々がアラガッダの王や大使を目の当たりにしたことはまだ無いが、あえて探し求めないのが一番だと感じる。
直接遭遇はまだ無いものの、"アラガッダの大使"および"アラガッダの王"は、それぞれSCP-2264-4、SCP-2263-5に分類されました。
O5評議会は多数決10-3で、SCP-2264-Bに機動部隊プサイ-9("深淵を見つめる者")を派遣することを決定しました。任務の目的はSCP-2264-4および-5を発見し、それらが人類・地球・近隣次元空間へ及ぼし得る脅威度を判定することでした。白兵戦とオカルト交戦時戦略(COS)の訓練を受けたエージェント12名が、████/██/██の08:00、SCP-2264-Aに突入しました。
1名のエージェントが生還しました。残りの構成員は死亡、もしくは回収不可能と見做されています。
回答者: エージェント アレクサンダー・パパドプロス
質問者: ラクシュミー・ナラン博士
序: エージェント パパドプロスは瀕死でSCP-2264を退出し、その後すぐに意識を喪失しました。身体検査の結果、全身各所の骨折と大量の内出血が明らかになりました。3週間の入院後、エージェント パパドプロスはインタビューをする上で十分に健康と判断されました。
<記録開始>
ナラン博士: 難しいかもしれないとは分かっていますが、覚えていることを話していただきたいのです。
エージェント パパドプロス: 驚くべき都市だった。司令部は出来る限り私たちに心構えをさせてくれたが、あれを言葉だけではとても言い表せない。私たちは皆、17世紀の仮面舞踏会から飛び出した道化か何かのような扮装になっていた。正確に同じではないが、十分に近いものだったよ。仮面はどれだけ力を尽くしても外すことができなかった。私たちには完了すべき使命があったが、その詳細は非常に漠然としたものだった。
ナラン博士: 漠然と?
エージェント パパドプロス: SCP-2264-4と-5を発見する。脅威度を推定する。私たちはそいつらがSCP-2264で重要な役割だと分かっていたが、どんな身なりで何処にいるかは見当も付かなかったのさ。
ナラン博士: 続けてください。
エージェント パパドプロス: ああ。そう、そして私たちは宮廷を発見した。どのぐらい時間が掛かったかは分からない。あそこで時間を測るのは不可能だった。町には住民が大勢いて、特に宮廷内に多いんだが、それは我々の世界のごみごみした都市と同じような感覚を与えてこないんだ。何か別の事を感じたんだが、言葉でどう表現すればいいか分からない。まぁ多分重要な事ではないだろう。
何もかも酷くぼやけていた。全てが夢の論理に従って動いているようだった。
ナラン博士: 夢の論理、ですか?
エージェント パパドプロス: ああ。つまりだな、これは夢ではないということを私は確信していた。それを証明する傷も負っている。全ては現実だった ― だが、君は今まで、夢というのがどれだけ詳細を蔑ろにするか気づいたことはあるか? ある場所に辿り着きはしたが、どうやって来たのかは思い出せない、といった経験は? そういう感じだよ。私は仮面舞踏会の事を覚えている。音楽と、ダンスと...そう、後はファックだな。勿論全員が仮面を着けたままでだ。何人かが全裸になっているのを見て、ここの衣装の精巧さに気付かされたよ。奴らの皮膚はまるでセラミックのようだった。奴らというのが原住民のことだというのは君も分かるだろう。そう、SCP-2264-1だ。だが、奴らは見れば見るほど人間とは思えなくなってくる。何人かは手足が多すぎるし、また別の者は少なすぎる ― 蛇人間だ。子供の頃に読んだファンタジー漫画のモンスターとそっくりだ。
すまない、脱線したな。思い出そうとすると頭が痛む。[取り乱す] おい、手足が動かないぞ。どういう事なんだ?
ナラン博士: その無感覚はただの薬の副作用です。私の質問に集中してください。
エージェント パパドプロス: 分かった。君がそう言うのであれば。エージェント マーを何人かの女性から引き離す羽目になったのを覚えている。彼を糾弾するつもりはない、むしろ逆だ。彼のことは責められんよ。あらゆる点で完璧な曲線美の持ち主だった ― 触手が付いているのを無視できるほどに。
とにかく、私たち12人は団体行動を取った。それだけ大勢では、何のトラブルも抱えていないように振る舞うのは難しかったがね。私たちはまるで迷宮のような宮殿を彷徨った。正直なところ、ミノタウロスに出くわしても驚かなかっただろう。思うに、大半の時間は階段を下りることに費やしていた気がする。深く、深くへ降りて行ったような感覚を覚えている...
そしてどういう訳か、底に着いたと思った瞬間に、私たちは外に逆戻りしていた。SCP-2264-Bに入った当初の同じ位置にいるように見えたよ。ずっと離れたところに宮廷を見ることができた。
だが、何かが違った。空からは色が失われ、暗くなっていた。つまり、我々はそれを見ることは出来たが、ただ曇った灰色の夕暮れだけだった。街の通りは空で、建物は...荒れ果てているように見えた。都市全体がはるか昔に放棄されたような有様だった。荒涼として、静かだった。私たちの足音以外には何の音も無かった。
私たちはこのバージョンの宮廷に入った。全ては、建築様式に関して言えば、同一だった。
囁く声が聞こえてきたのはその時だ。私が以前に聞いたことのない言語で話していた。私はそいつが耳の中に這いずり込み、脳を貫くのを感じた...
私たちは... [躊躇する様子。目に涙が滲み始める]
ナラン博士: 続けてください。
エージェント パパドプロス: 私たちはお互いに殺し合った。
ナラン博士: ...何ですって?エージェント パパドプロス: そんな事はしたくなかったが、選択の余地は無かったんだ。私たちは見つかったんだ ― アラガッダの大使に。奴には顔が無かった。口も、鼻も、目も。体にぴったり張り付くような服と...ハイヒール?を着ていたと思った。最初はそういう風に見えたんだ、だが違う...それは、奴の身体そのものだった。奴の肉は黒かった。背が高くて、しなやかで、両性具有的で、とても...とても...
ナラン博士: お願いします、この情報は重要なものです。自分のペースで進めてください。もし何なら、ここで止め...
エージェント パパドプロス: [遮る] とても、忌々しいほど誇らしげに立っていた。傲慢さを放射しながら。私は奴の言葉を理解できなかったが、音節ごとに自己陶酔的な毒が滴っているのは感じたよ。奴は口が本来あるべき場所に手を当てた...そして笑った、笑い続けた...
私たちは、奴の娯楽のために殺し合ったんだ。
骨が砕け散り、肉と内臓が破裂した。奴の娯楽のためだけに、私たちは身体も心も砕かれた。
その間ずっと、私たちは叫び、命乞いをした ― 唇を割って出てきたのは沈黙ばかりだ。ごめんなさい、そう私は言おうとした。ごめんなさい...皆の目が慈悲を嘆願し、赦しを求めていた。
最後に、私だけが生き残った ― グチャグチャになった友人や同僚の死体に囲まれて。今なら分かる。大使には目撃者が、メッセージを携えて帰る輩が要り様だったんだ。これを君に伝えるために...そして... [再びの休止]
奴が私を部屋から部屋へ引きずっていく間、私はずっと天井の流れを見ていた。やがて立ち止まると、奴は私を持ち上げ、王座の前に掲げた。
そこに私は王を見た。
それはその場に固定され、死体のような手と首の周りに神聖なる拘束があった...顔は、ベールの裏に隠れていた。
小悪魔のような生き物がその上を這い回っていた。ある一匹はまるで癒そうとでもするかのように痙攣する王の身体を撫でさすり、別の一匹は戒めを引っ張ってますますきつく締めあげた。王は震え、身をよじり、私は青白い触手がそいつのボロボロのローブの中に外に蠢くのを見た。
私の目の前でベールは捲られ... [声のトーンは平静状態を示唆するものへと変化した] 死にたい。私がやったことを抱えて生きていくことは出来ない。殺してください。終わらせてください。私は私の足を感じることができません。私は私の腕を感じることができません。これを好きではありません。好きではありません。お願いします...
ナラン博士: そのような事をする権限が私に無いのは分かっているはずです。貴方が見た物を教えてください。
エージェント パパドプロス: [感情を込めずに] 神の形をした穴です。堕落し失敗した創造物の不毛な荒廃です。貴方が見ているのは遥か昔に死んだ星の光なのです。貴方の存在は死に逝く神が上げた悲鳴の残響に過ぎないのです。
目に見えない収束があります。貴方を取り囲んでいます。
そしてそれは絞首縄のように引き絞られるのです。
<記録終了>
SCP-2264に関連する任務は追って通知があるまで中断されます。エージェント パパドプロスの終了要求は却下されました。甚大なダメージを被ったことから、全ての四肢の切除が必要と判断され、対象はもはや生命維持システムの助力なしでは大半の生物学的機能を果たせない状態にあります。彼は自傷防止のために拘束され(四肢の欠如にも拘らず自殺の試みが行われました)、SCP-2264に関連する情報を可能な限り得るために徹底的な尋問を受けています。SCP-2264-4とSCP-2264-5に接触したことから、彼は隔離されており、慎重に異常の兆候を監視する必要があります。エージェント パパドプロスは食物や水の摂取を拒否しており、栄養チューブの使用を必要としています。
補遺: SCP-2264は████/██/██、マーティン・タワーの改修時に偶然発見されました。共に発見された第9代ノーサンバーランド伯ヘンリー・パーシーの手による文書に基づき、王室関係者は潜在的に異常と考えられるアーティファクトだとして財団に接触しました。パーシー伯の文書の中からは、著名な詩人であり劇作家でもあるクリストファー・マーロウに当てた未送付の手紙が見つかりました。手紙の日付は、クリストファー・マーロウが不審死を遂げた1593年5月30日です。
クリストファー・マーロウ。
余の唯一の親友に、この書状が遅きに失する事無く届くことを願う。
かつて余がヤヌス・ゲートを構築したことについて其方は反駁したな。あの折、余は其方を科学に理解のない阿呆呼ばわりして侮辱した。どうか余の傲慢を許してほしい。
余には其方を苛む邪悪が見えていなかった。余は其方に他の平凡な物ばかりを見せて回り、其方の美しき心の燃えがらを邪悪が包み込むに任せてしまったのだ。余は盲であったが、今では見えている。
余は、其方がその呪わしき戯曲を燃やし、灰に帰せしめることを望んでいる。其方の後援者が望んでいるのは堕落と冒涜だ。この世には成してはならぬ事がある。大使は我等を扱った時と同様、其方の事も手玉に取ろうとしている。余は啓蒙されし者のみ入る事が出来るようにヤヌス・ゲートを封鎖した。知恵ある者であれば、余には見えなかった物を見定め、内に居る悍ましき王を弑することも叶うであろう。
あの血の大都市を、あの恐るべき領域を、古の数え切れぬほどの罪を、呪うのだ。戯曲に火を放ち、下劣な後援者を拒否し、この狂気から立ち去ってくれ。其方が夜の学派に戻るというのならば、我等は其方を歓迎しよう。