SCP-2184-JP

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評価: +91

クレジット

タイトル: SCP-2184-JP - 自由を望んだ青年たちの進撃、あるいは未成年飲酒運転
著者: CrabButter_12 CrabButter_12
作成年: 2025

評価: +91
評価: +91

音声記録2184-JP.1
Record 1994/██/██


関係者: ルドルフ・アダムス、グレッグ・ウィンストン


«ログ開始»


[[足音]]

アダムス: こんな時間に呼び出して何のつもりだ。

ウィンストン: どうも。かなり面白いものが見つかったから見せようと思ってね。

アダムス: ......酒くせぇな。これは流石にサツに見つかった時言い逃れできんぞ。

ウィンストン: 大声出したりしない限りは、こんな夜遅くにわざわざ来ることはないさ。

アダムス: それなら問題なさそうだな。お前が笑い上戸なことを除けば。

[[数秒の沈黙]]

アダムス: そもそもこの家は誰の所有なんだ?空き家にしては小綺麗すぎるし、確実にお前の家ではなさそうだが。

ウィンストン: さあ?俺の見た限り住人はいなさそうだった。だが妙に取っ散らかってたり、窓が開けっぱなしだったり、慌てて誰かが家を出たような痕跡はあった。

アダムス: 未成年飲酒に不法侵入、加えて窃盗か。高校生とは到底思えないな。

ウィンストン: この後もう一つ罪を犯すつもりだから安心してくれ。

アダムス: 何をどう安心しろと。

ウィンストン: せっかくだしそれが何なのか当ててみてくれ。

アダムス: 銀行強盗?

ウィンストン: 違う。

アダムス: 殺人?

ウィンストン: そんな野蛮なことじゃないさ。答え合わせをしよう。

[[ドアが開く音]]

アダムス: ......飲酒運転か。確かに未開の地に住む野蛮人には到底できない所業だな。

ウィンストン: そう。これはキャデラック・ドゥビル、俺らの手には決して届かないはずの高級車だ。

ウィンストン: ......そんな興味なさそうな顔するなよ。

アダムス: リスクとリターンが見合ってないんだよ。こんなのよりバイクの方がずっと使いやすいし、とっとと売り払うべきだ。

ウィンストン: ならこいつを見てくれよ。考えが変わると保証する。

アダムス: ......これは説明書か何かか?

ウィンストン: おそらく。まあ大事なのは最初の方だけだ。

アダムス: ......「任意で3次元座標を逸脱し、空間跳躍・時間渡航が可能」?

ウィンストン: あと最高速度は950マイル出るらしい。

アダムス: バック・トゥー・ザ・フューチャーみたいなことが出来るってことであってるか。

ウィンストン: 多分。少なくとも子供だましじゃないことを今から証明してやるよ。

アダムス: ......おいお前何を——

[[金属音]]

ウィンストン: 今ハンマーでこいつのフロントガラスを思いっきり殴ったけど、傷一つついてない。ドアもタイヤも同じくね。少なくとも、これは絶対に普通の車じゃない。

アダムス: ......ならこいつが本当にタイムマシンってことも十分あり得るかもな......。

ウィンストン: それを今から確かめようってこと。

アダムス: 酒飲んだ状態でか?

ウィンストン: これでもシラフのお前の運転よりずっとマシだろ。

アダムス: ......黙れ。

ウィンストン: それじゃあ早速始めよう。

[[ドアの開閉音]]

アダムス: 今更だが、自分が今から何をしでかそうとしてるか本当に分かってるのか?とっくにお遊びで済まされるラインは踏み越えてるぞ。

ウィンストン: お前の方がな。これが本当に悪いことだと思ってるなら、ここに来る前に警察を呼びつけてたはずだ。

[[沈黙]]

ウィンストン: 「ガキは酒を飲むな」とか「真面目に学校に行け」「人のものを盗むな」だの、そういう当たり前のルールは最初からあったわけじゃない。昔に大人たちが自分のルールを押し付けるために作ったんだ。

ウィンストン: そんなものに俺たちは縛られて、苦しめられて、不自由でつまらない生き方を強いられている。お前もそれが理不尽だと思っているんだろ。

アダムス: ......あいつらが「反抗期」って呼んで、適当にあしらってるものだな。

ウィンストン: なら反抗してやろうぜ。そして俺らをガキ扱いする奴らに見せつけてやるのさ、俺たちはお前らなんかに縛られないって。

アダムス: 素敵だな。あいつらの吠え面を拝んでやりたいわ。

ウィンストン: お前ならそう言うと思ったよ。

[[エンジンの起動音]]

ウィンストン: 今の俺たちは、誰よりも自由だ。

[[走行音]]

[[複数の衝突音]]

[[悲鳴]]

[[爆発音]]


«ログ終了»

アイテム番号: SCP-2184-JP

オブジェクトクラス: Keter

特別収容プロトコル: SCP-2184-JPは1967/██/██以降基底世界上で観測されておらず、現在まで捜索が進められています。

2148-JP

SCP-2184-JPと同型の自動車

説明: SCP-2184-JPは改造されたゼネラルモーターズ製キャデラック・ドゥビルです。財団による収容が行われる前にオブジェクトが消失したため詳細な性質は不明ですが、回収された情報から破壊耐性及び任意の空間座標への移動、時間跳躍能力を有していたと思われています。

SCP-2184-JPは1994/██/██にマーシャル・カーター&ダーク社のオークションへ出品された際、初めて財団に認知されました。財団は現在の所有者と目される人物の自宅への調査を実施しましたが、住居は既に無人となっており、住居付近のガードレールや電柱には車両が高速で衝突したような損傷が確認されました。現場付近から回収された音声記録から、SCP-2184-JPの所有者が財団による追跡から逃れるためにオブジェクトを放置した状態で逃走した後、ルドルフ・アダムス、グレッグ・ウィンストン両名がSCP-2184-JPを発見し、異常性が行使されたことで消失したと推測されています。

SCP-2184-JPの時間跳躍に伴い、複数の過去改変が引き起こされました。以下はその内容の抜粋です。

  • 過去・未来のさまざまな地点でのSCP-2184-JPの痕跡の発見。
  • 古代において「戦車・チャリオット」と呼称された発明の衰退。
  • 飲酒等、アルコールの摂取に対する厭忌感の増大。イスラム教など、該当行為そのものを禁じるように改変された宗教・文化も存在する。
  • 人類文明全体における「自動車」及びその運転という概念をタブー視・拒絶・憎悪する伝承や思想の発生。これらは創造主の名を唱える、イスラム教における豚肉の摂食などの破戒的行為と同等かそれ以上の禁忌として見なされており、19██/██/██にアンニュイ・プロトコルが実施されるまで極めて強力な文化的影響力を保持していた。

補遺1: 発見されたSCP-2184-JPに関する痕跡
以下は現在まで発見されているSCP-2184-JPに関する痕跡(以下:SCP-2184-JP-A)の記録です。ほぼ全ての記録において「ふらついた動き・運転」「静止しようとする意志が見受けられない」といった記述・言及が含まれています。また、痕跡が発見された年代・出現時間等が不規則的であること、運転しているグレッグ・ウィンストンが酩酊状態であった可能性が高いことから、搭乗者はSCP-2184-JPの時間跳躍を制御できていなかったと推測されます。

指定: SCP-2184-JP-A-1

発見地点: ドイツ国アンハルト自由州

発生時期: 1925年11月24日

内容: 民間人によるSCP-2184-JPの目撃情報。衝突痕などの物的痕跡も確認されている。

指定: SCP-2184-JP-A-4

発見地点: 中華人民共和国

発生時期: 紀元前220年~紀元前180年

内容: 『史記』巻8にてSCP-2184-JPと思われる存在が記載されている。

指定: SCP-2184-JP-A-10

発見地点: ██████

発生時期: 約2億5190万年前〜約6600万年前

内容: 地層からタイヤ痕が発見される。おそらく足跡化石等と同様の経緯で形成されたと思われる。

指定: SCP-2184-JP-A-17

発見地点: イギリス マンチェスター

発生時期: 1976年08月13日

内容: 住民約26000人が「路上を歩いていると突如自動車が出現し、目の前を通り過ぎた」という同一の内容の夢を見たと報告。自動車の外見はSCP-2184-JPと一致。

備考: 内容からSCP-2184-JPによる影響であると思われるが、SCP-2184-JPには形而上領域に侵入・干渉する機能は備わっていない可能性が高いため原因は不明。

補遺2: 音声記録2184-JP.2
20██/██/██、[編集済]の際に召喚されたTartareanクラス悪魔実体と接触した際、SCP-2184-JPの影響によって発生した伝承に関して有力な情報を得られました。以下はその際の音声記録です。

音声記録2184-JP.2
Record 20██/██/██


関係者: ██研究員、悪魔実体


«ログ開始»


[[中略]]

██研究員: ......待ってください、あなたは自動車という概念が世界共通の禁忌になった原因を知っているんですか?

悪魔実体: そうだが。

██研究員: それについて少しお話を聞かせて頂いても?

悪魔実体: いいぞ。まずありとあらゆる場所・時間で馬鹿みたいな速度で走るアメリカ車については知ってるか?

██研究員: もちろん。

悪魔実体: 全ての始まりは、あれがローマ帝国の時代のカナン——今でいうパレスチナに現れて、とある人間を撥ね飛ばしたことだった。

██研究員: たかだか一人の人間が死んだくらいで、あれほど大きな伝承が生まれるとは思いませんが。

悪魔実体: そいつがナザレのイエスじゃなければな。

██研究員: ......イエス?

悪魔実体: そうイエス・キリスト。偶然にも祝福された神の子を轢き殺しちまったんだ。

██研究員: ......彼らがキリストを殺したのなら、キリスト復活や最後の晩餐の伝承は存在しないのでは?

悪魔実体: あまりにも哀れな死に方だったから神が復活させたんだよ。その数日後に磔にされてもう一回殺されたらしいが。

悪魔実体: ともかく息子を殺された神はお怒りになって、彼を殺した鉄の塊が何なのか未来を視て調べたら、未来の人間たちが作ったそれに、酒に酔ったガキが乗って暴れてた結果の産物だと分かった。神はそれが後世に生み出されないよう、世界中の色んな人間に「あの「自動車」という名の鉄の塊を許すな、作らせるな」と預言した。これが後々発展したのが自動車を忌避する伝承だ。

悪魔実体: あと酒を飲むことも避けるような教えを授けたり、この後作ったイスラム教では飲酒自体を完全に禁止させたらしい。

██研究員: あともう一つ——あの自動車の現在......現在といういい方は正しくないかもしれませんが......最終的な行方はご存じですか?

悪魔実体: 少なくとも一度は見たことあるな。地獄で。

██研究員: 地獄にあれが現れたんですか?

悪魔実体: そう。しかも神の子を殺した影響なのかは分からんがあの車自体が聖遺物みたいなものになったらしく、轢かれた悪魔は軒並み浄化されてた。

悪魔実体: 現世のものがなぜ死後の世界に来られたのかは分からないが、あの車が元々持ってた力がキリストを殺して得た聖なる力によって増幅されて、行ける場所の制限がなくなったとかそんな感じだと思う。前例がないから推測の余地を出ないがな。あんな所業をしたのに天罰が下った様子が無いし、神が干渉できないような領域に踏み込んでる可能性も十分あり得る。

██研究員: となるとあの車の所在はもう知りようがないというわけですか。

悪魔実体: まあ現世も地獄や夢みたいな形而上空間も観測外の領域の方が遥かに広いし、動いてるとして今もそういう虚無を走り続けてるんじゃねぇの。こっちにまた現れる可能性は相当低いだろう。

悪魔実体: 少なくとも楽しい冒険ではないだろうな。地獄にあれが現れた時、窓から中にいる奴らの顔を拝めたが、あれはどう見ても何かに怯えてるような、絶望し切った顔だった。

██研究員: ......確かに彼らはもうどんな他者にもルールにも、挙句は神にも縛られていないが、それが幸福であるとは限らないと。

悪魔実体: まあ要するにあれだ、「自由には責任が伴う」って話に落ち着くわけだ。


«ログ終了»

補遺3: SCP-2184-JPの影響による自動車及び運転行為をタブー視する伝承は文明の発展を大きく阻害していたこと、これらが異常物品による産物であることから、19██/██/██にアンニュイ・プロトコルが実施され、これらの伝承に関する記録は抹消されました。しかし創造主によって定められた禁忌を犯すことは宗教的な罰が与えられる可能性が、特にキリスト教・イスラム教などの啓示宗教が信仰されている地域では高いと判断されたため、近世に発行されていた免罪符の機能を持ち、所持により運転手を神罰から保護する効果をもつ物品(以下:SCP-2184-JP-T)が開発されました。SCP-2184-JP-Tがその特性を発揮する為には試験に偽装した奇跡術的儀式を通過する必要があり、非合法・不正に入手したものでは効果を発揮しません。

SCP-2184-JP-Tの一般社会への流通システムの構築は成功裏に終結し、現在も運用が続けられています。一方でSCP-2184-JP-Tを所有せずに運転行為を行った人物の内98.4%は、交通事故や検挙により負傷・死亡する、もしくは社会的地位を喪失していることが確認されています。

Japan_Drivers_Licence_Ver2019.JPG

SCP-2184-JP-Tの一例。免罪符としての効果が付与されている。

Footnotes
. 約1530km/h
. 贖宥状とも。当時発行されていたものの殆どは効力が存在しなかったが、一部のものは魔術的・奇跡術的効力により実際に罪を軽減する効果があった。
ページリビジョン: 5, 最終更新: 08 Oct 2025 03:40
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