アイテム番号: SCP-1859
オブジェクトクラス: Safe Euclid
特別収容プロトコル: SCP-1859を研究する現在の目的は内部に収容された固有の生命体の目録を作ることと、固有の生命体が周囲の生態系へ脱走するのを防ぐことです。この目的のために、既知のアクセスポイントは全て、封鎖するか、閉回路テレビによって絶えず監視するかのどちらかの処置をすることになっています (閉回路テレビは機能不全の部品がないか毎週整備してください) 。引き続きアクセスポイントを探すために周囲の空洞の壁面の探査が行われており、新たにトンネルが発見された場合は、永久封鎖を行う前に徹底的に調査を行い地図を作成してください。これは固有の動物相の侵入が発生しないことを確実のものにするためです。
SCP-1859は中心を同じくする3つの地域に分かれ、それぞれグリーン・ゾーン (現象の中心から██kmまでの距離の空間からなる場所) 、レッド・ゾーン (中心より██kmから███kmまで) 、ホワイト・ゾーン (中心より███kmから███kmまで) という名称が与えられています。監視ステーション-██がホワイト・ゾーンの外縁にある第一立入坑の基部に設置されています。
ホワイト・ゾーンに立ち入る職員は完全有害物質防護服を装着し、放射線モニターを所持することになっており、また、曝露は30分以下に制限されています。この規則の例外はDクラス職員が探査の目的でレッド・ゾーンやグリーン・ゾーンに立ち入る場合です。
レッド・ゾーン内は電離放射線の放射量が高いため、レッド・ゾーン内の探査は5時間以内 (主観時間) に制限されています。D-クラスを除く職員はレッド・ゾーンへ立ち入ったりその先に行ったりしてはなりません。探査の間は規則順守を確実のものとするため、Dクラス職員には、症状が致命的になる前に5時間潜伏する病原体に自身が曝露しており、任務が完了するとすぐに解毒剤が手に入ると伝えています。この目的のために、探査に割り当てられたDクラス職員は最初に放射線障害の症状に気がつくことを示唆する経歴がないか調べなければなりません。
電子部品はレッド・ゾーンで生じる放射線によってたやすく損傷するため、特殊機械動力車両 (現地の職員はジップ・レーサーという愛称で呼称する) の部隊を探査の行き帰りでの急速な運送のために保持しています。
SCP-1859の主要な異常の影響のため、監視ステーション-██にはクロノメーターを3個独立して設置しなければなりません。クロノメーターAは監視ステーション-██での主観時間の詳細を示します。クロノメーターBはSCP-1859の異常特性の計測に基づいて計算された外部時間の詳細を示します。クロノメーターCは第一立入坑の上面のところの地表部に設置しています。クロノメーターCの情報は直接に監視ステーション-██に送られます。クロノメーターBとクロノメーターCの表示の不一致に即座に注意する必要があります。
説明: SCP-1859は時間的異常に閉じ込められた急速に成長している生態系であり、ある空洞の中に存在し、その広さは直径███kmです。この空洞はおよそ地下█kmのところにある[削除済み]に存在し、放射線量が比較的に高いことから初めは天然の核分裂原子炉だったと思われていました。どのようにしてこの空洞はその大きさにもかかわらず安定した状態を保つことが可能になっているのか、どうしてこの空洞は周囲のマントルよりも低温なのかといったことは現在は分かっていません。しかし、このことはいくつかの点で時間的異常と関係しているという仮説が立てられています。
初期のSCP-1859の観測では信じられないほどに強力な電離放射線が異常に高レベルであることと、空洞の中央から離れるにつれて放射線の波長と放射量が減少することが判明しました。研究者たちがSCP-1859の中央を調べたところ、その場所は見たところ信じられないほどにかすみ、歪んでいるように観測しました。この観測された事象はどちらも前述の時間的異常が関係しているとすぐに判明しました。空洞の中央に近付くにつれて、時間は異なる割合で流れるように観測されます。この時間的異常は中央から離れた観測者はより中央の方にいる観測者よりも外部時間がより速く進んでいるように見えるというものです。
時間と中央からの距離との関係は、異常部に入り込んだ放射線がそれによって赤方遷移するというようなものです。放射線がその中で物体から反射されると、放射線は周波数がいっそう低い波になるように散乱されます。同様に、異常の中心部で生じた放射線はそのエネルギーがいくら低くても青方遷移します。その程度は外から観察すると最終的には高エネルギーの電離放射線であるように見えるほどです。実際の放射線源は不明ですが、計算によれば、中央では光子の周波数は空洞自体の電磁放射の第一共振周波数と一致しています ([編集済み]の割合でおよそ███Hz) 。光子生成の割合は非常に低いのにもかかわらず、時間の圧縮によって電離放射線は最終的にある距離で致死的な放射線量に至ります。
最奥のグリーン・ゾーン (初期はブラック・ゾーンと呼ばれていた) は、放射線の放射量と周波数が理論上生物が耐えられる程度となっている場所です。レッド・ゾーンは放射線が青方遷移して潜在的に危険な周波数になり、放射量は被曝すると確実に死に至るほどに高くなっている場所です。最も外側のホワイト・ゾーンの放射線はより強力になっていますが、非常に散乱しているために被曝量を制限している限りは放射線障害を治療することができます。
最初に発見されたとき、探査E-1859-1とE-1859-2で確かめたところでは、SCP-1859全体は電離放射線の影響により無菌の状態でした。ブラック・ゾーン内から得られた試料によって単純な有機化合物が分厚く堆積していることが確かめられました。探査E-1859-3の後、その際はD-2388が戻ってこなかったのですが、空洞内の酸素レベルの突然の減少が観測され、その後に再び安定化しました。E-1859-6からE-1859-8では空洞の底に粘液の被覆があるのを発見しました。粘液は時がたつにつれて量を増していきました。この粘液は、後の観測で見られた他の生命体とともに、回収された試料からD-2388の腸内細菌叢に由来すると確認されています。
E-1859-8の後、放射量の下降が注目され、後の探査により、この現象は空洞の共振放射線をエネルギー源として利用する光合成生物の出現に関係していると確認されました。加えて、原始的な動物のような生命体が観測されました。
████年██月██日、監視ステーション-██からの観測によりグリーン・ゾーンに固有の動物相がホワイト・ゾーン内部で活動している兆候が見られました。多数はレッド・ゾーンを通り抜けた後に長期間生存することがなかったのにもかかわらず、固有の動物相の往復移動がそれ以来頻度を増していき、こうして現在の特別収容プロトコルの策定に至りました。
補遺1859-1: 探査E-1859-██ではグリーン・ゾーン内で原始的な道具が使用された証拠が発見されました。道具を作成した生命体とは依然として直接には遭遇していませんが、このことは知性ある存在がこの生態系内で発達している可能性を示唆します。新たな探査では次の日程中に発生している文明の更なる兆候の探索を予定しています。
補遺1859-2: 探査E-1859-██から██の結果は新たに発見された道具の設計にほとんど変化が見られないことを示しています。このことはこれらの道具を作成する生物の個体数はこの生物の発展の点では停滞していることを示唆します。この道具を作った生物の探索が続いています。
補遺1859-3: 探査E-1859-██の結果によると、補遺1859-1・1859-2で詳説した原始的な道具は捕食性の植物によるものであるようです。道具と思われた石はその植物が純粋に本能の命じる一連の手順によって形成したものです。これは誤報ではありましたが、万一SCP-1859内部で知性のある生命体が進化したときは、ガイドラインを整備することを強く推奨します。
リクエストが監督司令部に評価のために送信されています。
我々はこれらの理論上は存在しうる知性ある生命体を新たな友として遇することになるのか、それとも潜在的な脅威としてか。そして、もしその生命体を脅威と見なすならば、この危険がより実現する可能性を増していくまでに何もせずにいることよりも、即座にグリーン・ゾーンを破壊する手段をとることは賢くない行動だろうか。我々が事態をじっくりと考えている間にも、時計の針はかちこちと回る。我々がついに決定に至ったときにはもう手遅れだったとはならないことを期待しよう。
SCP-1859の発見と探査E-1859-3が行われる前は、現在グリーン・ゾーンと呼ばれる場所で生命が足がかりというものを維持することは不可能でした。空洞の表面上や表層中に有機化合物の堆積物が大量にあるにもかかわらず、生物はレッド・ゾーンを通り抜けてから生き残ることができませんでした。レッド・ゾーンを細菌が通過する方法は2つありました。空気を経由するか、地面を経由するか。どちらを経由しても細菌は生存できないことが確かめられていました。
空気で運ばれる細菌は、数は少ないですが、SCP-1859の空洞の中に存在します。空気の流れによってこれらの細菌はレッド・ゾーンを通り抜けることができますが、レッド・ゾーンの放射線でたちまち死亡します。最終的には空洞の底に至り、酸化や更なる電離放射線の被曝の組み合わせを通じて変性します。時間をかけて、こうして空洞の内部には有機化合物の堆積物ができました。岩内生の細菌も空洞内では発見されています。主にホワイト・ゾーンの外側の場所です。これらの細菌は繁殖が遅いため、SCP-1859の中央の近くで見られる放射線への長期間の被曝を生き残ることができません。
D-2388が当時はブラック・ゾーンと呼ばれた場所に残っていた理由は依然不明であり、謎のままであり続けそうです。彼はジップ・レーサーでレッド・ゾーンをすばやく通過したため、少数の細菌は彼の体表や体内で生存することができました。これらの細菌はD-2388の死体を餌としました。それから細菌のうちの少数が有機化合物の堆積物に移動しました。この細菌の子孫はブラック・ゾーン中を広がり、E-1859-6のときまでにはどうにか広大な生物膜を作りました。
原始的な生物膜の内部での光合成の初期の発展の模様は推測の域を出ません。回収された試料由来の光合成分子はどれもレッド・ゾーンを経由して運搬されるときに変性していました。そのため研究者たちは生化学的な起源を確定することができませんでした。空洞内の酸素レベルはかなり急速に安定化したため、初期に生物が生息域を広げる最中にこのことは早くも発生していたと考えられています。このことがより遅く発生した際に考えられる環境の結末はこの文章で扱う範囲を超えています。
後の探査で真の植物の類事物の発生が確認されたことによって正当化されたのは、この最も中心寄りの区域の名称をブラック・ゾーンからグリーン・ゾーンに改名することでした。SCP-1859内の異常な物理的現象により、光合成は全てその現象の中心で生じる放射線に依存せざるを得ません。そのため、最初の植物相は生物膜から延びる隆起物であると判明し、主要な放射線周波数に依存した独特の生態系がその場所でそれぞれ発見されました。最も成功したコロニーは最終的に生体膜を経由して広がり、放射線源を中心とする同心円の輪ができました。
同心円のコロニー間の競争は最終的には2つの影響をもたらしました。第一の影響は独立し自律的な動物相の発展です。最初に現れたのは外側のコロニーのゆっくりと動く延長物であり、これは近くの内側の隆起物を食べ、放射線が通ることができる隙間をもたらしました。加えて、親のコロニーに有機化合物を与えました。現在の固有の動物相の祖先は生殖に適応していたようです。生殖へ適応によって延長物は出芽し、新しい定住地を見つけました。機能としては変形菌綱の粘菌と同様です。最初の適応から、動物相は植物のような祖先とは形態学上の共通点がもしあったとしてもほとんどない複数の複雑な形態に発展していきます。多くは光合成の能力を失ってさえいます。
第二の影響は現在のグリーン・ゾーン内の植物相の分布でした。固有の植物相で光合成を可能にする生化学的な経路はあまり知られていないのですが、吸収できる放射線の周波数への制限が低めであることははっきりとしています。最も中心に近い植物のコロニーの輪と空洞の中央とその輪との距離から示されることから、これは[編集済み]であると確定しています。植物相によって吸収されるエネルギーは化学エネルギーに変換されたり、黒体放射として再放射されたりします。SCP-1859の時間的作用によって生じる青方遷移のために、黒体放射はやがて強力になり、より中心から遠くで生育する植物によって同じ生化学的経路で吸収できるほどになります。その過程は根本的には降圧変圧器と類似しており、植物相はともにその実行の役割を積極的に担っています。
この降圧変圧器のような生態系は固有の動物相が比較的に被害を受けずにレッド・ゾーンを通過することを可能にしていると考えられています。これは、電離放射線は空洞の表面の近くで最も弱くなるためです。これらの生命体の中にはその生態によって適応していると見られているものもいますが、遠くからの中心への光子の散乱によって依然として多くの生物が死亡しています。
多くの人がグリーン・ゾーンを通って歩くのはどんな風なことかと考えてきた。複数の探査隊からのインタビューによって、言うなればそこを歩いた人が経験するであろうことに光を投げかけている。グリーン・ゾーン内の原野に入ってみると、ぼんやりとした赤い光が植物の葉の間から見える。植物自身は光を発していない。より奥を進んでみると、ぼんやりとした赤光は変わらないままである。しかし、葉の形は異なるものになっているかもしれない。この赤い光の源を探すのは、シーシュポスが大石を山頂に押し上げようとしても石は必ず転がり落ちてしまうという神話と同じ結末になる。この光は内側の植物による赤外放射によって引き起こされる。その光が青方遷移によって見えるようになっているのである。その光源を探しても見つかることはない。どれほど内側へ進んでも決して。
立ち去ろうと踵を帰すと、目に入るのは暗闇ばかりである。もし懐中電灯を手にしていて、その電源を入れたとすると、見えるのは信じられないくらいに鮮明な像である。懐中電灯からの光は進むにつれて青方遷移し、光はそこに生息する植物と結びつく。すると光は反射して非常に高い解像度で戻ってくる。悲しいことに、人の目はそこにある細部の多くを解像するようには備わっていない。興味深いのは、その光の一部が、目的地に達するまでにそれほどに強くなることによって、植物を通過して更に外側にある植物の層で反射することである。そうして、ある層の細部の中に隠れたものが、いっそう外側の他の層のおぼろげな反射となるのである。
今、懐中電灯を後ろに向けたとする。すると、今までに目の当たりにした中で、おそらくあなたを最も悲しく思わせ、そしてあなたを奮起させる光景になりうるものを目の当たりにするだろう。懐中電灯からの可視光から、目の前の植物の壁が目に見えてしおれてしまうのだ。より奥の方では、以前にあなたを悩ませた赤い植物もまた、あなたの直接隣の植物よりもいっそう速くしおれるのである。いくつかの植物の層がやがて光に晒され、それぞれが前よりも白くなる。懐中電灯から出ているそれとほぼ同じ色合いに達すると、植物は互いの先に伸び、懐中電灯の光の最後の一筋をも吸収しようとする。短い間、あなたはグリーン・ゾーンに新しい命をもたらす者になっているのだ。最後に懐中電灯の電源を切ると、やはりその命の源をも永遠に奪い去ってしまっていることに気づいてほしい。
これらの話は全て、私や数人の他の研究者に、この光景を実際に直接見るDクラス職員への嫉妬の念を抱かせている。我々はただこの経験だけを妬んで放射線障害で死ぬようなことをするほどDクラス職員を羨んではいない。とはいえ、そこにあったかもしれないことを想像し、物足りなげなため息を漏らすのには十分であるが。