SCP-1667-JP
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クレジット

タイトル: SCP-1667-JP - 風船クラゲで満たされる
著者: ©︎Tutu-sh Tutu-sh terukami terukami
作成年: 2025


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音声及び思念転写記録-11

日時: 2028年02月19日 19:23 (JST)

場所: サイト-81██ 快適居住型上級収容室

対象: SCP-1667-JP、神田智絵里 氏(9歳・女性)



<記録開始>

SCP-1667-JP: やあ智絵里!またお話しようよ。

神田氏: 風船さん!今日はもう来ないかと思ってた。

SCP-1667-JP: はは、君みたいな利口な子を放っておくわけないじゃないか。[沈黙] とはいえ、ちょっと出入りがしづらくなったのはそうかもね。どういうわけかこの部屋はどこか変な雰囲気が漂ってるし、特に出るときは何かに邪魔されるような感じがする。

神田氏: この施設の人たちのせいかも。

SCP-1667-JP: と言うと?

神田氏: ここの職員さん ⸺ 白いマントみたいな服着た人たちがね、風船さんのこと捕まえたいんだって。よく調べて、話してみたいって。

SCP-1667-JP: ふうん。すると彼らの仕業か。[沈黙] まあ、ちょっと面倒臭いだけで、出ようと思えば出られるから、そこまで支障は無いんだけどね。僕はまたいつでも君に会いに来るよ。

神田氏: 良かった!

SCP-1667-JP: でも君も可哀想だ。確かにこの部屋は明るいし、温かさや空気も君に合わせて調節してあるんだろう。生きていく上で必要な最低限のことは、きっとこの施設の大人たちが準備してくれてるんだね。[沈黙] でも、もっと大切なものが欠けてるんじゃないか、僕はそう思う。

神田氏: 大切なもの?

SCP-1667-JP: ここには友達や家族が居ないだろ。仲間と言葉を交わしあって、手を取り合って、そうやって僕らは生きていくんだ。そうでなければ寂しいし、自分でそう思ってなかったとしてもいずれ心が弱って腐り落ちてしまう。それはひどく辛く、暗く、冷たいことだよ。

神田氏: [沈黙] そうかも。私もママやパパと離れて何ヶ月も経ってる。学校にも行ってないし。

SCP-1667-JP: そうだろう。コンクリートの壁に閉じ込められて ⸺

神田氏: 友達は、風船さんくらいかな。

SCP-1667-JP: [沈黙] ふふ、ありがとう。そうだな、僕はここに居るね。

[沈黙]

SCP-1667-JP: 前にもちょっと話したけど、僕にも家族が居た。遠い遠い昔、遥か遠く離れた場所で、僕は兄弟たちと暮らしてた。 ⸺ と言っても、君たちの暦で言えば何千回も春が訪れるほどの昔だ。記憶は薄れちゃうし何なら考え方や人格も移り変わっていくくらいの時間が経ってるから、流石に生まれた時のことは覚えてないけど、たぶん、一緒に生まれたんじゃないかな。そう思うくらいには皆で遊んで過ごしてた。

神田氏: 何して遊んでたの?

SCP-1667-JP: そうだね。同じご飯を分け合って食べて、一緒に旅をして。いろんなものを共に見て、経験してきた。この宇宙に散らばる星々を渡り歩いてきた。

神田氏: 例えば、どんなだっけ?

SCP-1667-JP: そうだねえ。ある時には、輝く星の大きな爆発。物凄い勢いでプラズマが吹き出していて、僕らはその流れに乗って遊んだりもした。たまらなく爽快だったよ。兄弟で散り散りになって飛び回って、惑星系を駆け巡るんだ。

神田氏: 太陽風みたいなもの?それを滑り台みたいにして遊んだってこと?

SCP-1667-JP: そうだねえ。[沈黙] そういえば、僕が初めて君に声をかけたのは公園だったね。あそこの滑り台を、惑星を跨ぐくらいにでっかくすれば、そんな感じかも。

神田氏: なるほどね。熱くないの?恒星から噴き出すんだから、物凄い熱なんじゃ?

SCP-1667-JP: 僕らならへっちゃらだよ。

神田氏: 凄いね、人間じゃ絶対無理。他には?

SCP-1667-JP: 別の惑星系では、天体の整列を見た。地球も含めて、惑星が構成の周りをぐるぐると回ってるのは知ってるね。地球そのものは凄まじい速さで宇宙の中を飛んでいる。惑星の速さはまちまちだから、気が遠くなるような長い時間をかければ、そのうち全ての惑星がほぼ一直線に揃う時が来る。僕らはそれを見た。時計の針のように普段はてんてんばらばらの惑星たちが、示し合わせたかのようにぴったりと並ぶんだ。

神田氏: 太陽系でもそれは起こるの?

SCP-1667-JP: 起きるね。

神田氏: いつ?

SCP-1667-JP: [沈黙] 君たちの暦だと、だいたい130年後かな。

神田氏: あは、じゃあ私はもうお婆ちゃんだ。[沈黙] いや、とっくに死んでるかな。

[沈黙]

SCP-1667-JP: とにかく凄い物を見てきた。宇宙は、光と岩とガスの集まりが広い空間の中に浮かんだり飛び交ったりしてできている。そうした物質たちが織り成す奇跡こそ僕らが体験してきたことだし、そして智絵里、君でもある。

神田氏: 私?

SCP-1667-JP: 君は特別だ。超新星の爆発で放たれた星の原子たちが、何十億年もかけて集まって、君の体を作ったんだ。夥しい数の組み合わせの末に君が現れた。僕はその様子も見てたんだよ。

神田氏: 私が生まれたときに風船さんが居たの?

SCP-1667-JP: ああ、ごめん、さっきのは比喩 ⸺ ものの喩えだけど。岩の塊がぶつかり合ってこの星ができて、水が大量に降り注いでごうごうと流れ下るところは見た。大きな牙や角の生えた動物たちが暴れ回ってたり、そして毛の生えた生き物が2本脚で立ち上がったり。そういう、君に至るまでの道筋というか。

神田氏: つまり、地球誕生以降の歴史を追い続けていたってこと?さっきの整列もそうだけど、それってとんでもない時間が ⸺

SCP-1667-JP: ああ、僕は時間を越えられる。君たちが本のページを捲るように、46億年分の時間を掻い摘んでこっそりと見守ってきた。新しい生命、僕らと違う星に根差した生命の生まれる様子をね。その果てに居るのが君なんだ、智絵里。

[沈黙]

SCP-1667-JP: そんな連続性を保った世界の中で、君を独りにしておきたくない。空っ風の吹き荒ぶあの公園でも悲痛だったのに、ましてやこんな閉鎖空間に独り閉じ込めておくなんて許せない。どうにかしたいんだ。僕はいつしか兄弟と生き別れて張り裂けそうになりながら、何も無いヴォイドの暗闇の中を孤独に漂った。君までそんな目に遭わせたくない。

神田氏: 風船さん。

SCP-1667-JP: [沈黙] 少し、喋りすぎちゃったかな。ごめん。

神田氏: ううん、大丈夫。ありがとね、風船さん。実は私も、そろそろ出られないかって職員さんに相談してみてはいるの。

SCP-1667-JP: 本当かい?

神田氏: うん。もう明日は私の誕生日だし。10歳になるのに、ママやパパと一緒にケーキ食べられないなんて嫌だし。

SCP-1667-JP: 誕生日?

神田氏: うん、誕生日。つまり、私の生まれた日。10年前の明日、私は生まれたの。風船さん風に言うなら、私が生まれてから地球が太陽の周りをちょうど10周するってとこかな。

SCP-1667-JP: なるほど、君たちには天体の動きか暦に合わせて、既に過ぎ去った生涯の節目を祝う文化があるんだね。僕らには無い発想だ。

神田氏: 時間の概念が無いとそうなっちゃうのかな?普段ずっと飛び回ってるんだもんね?終わらない旅を続けてる、家を持たない旅人。

SCP-1667-JP: そうかも。その ⸺ 誕生日っていうのは、何をするんだい?

神田氏: パーティを開くの。家族でケーキを食べたり、お茶を飲んだりとか。部屋に飾りを付けることもあるかな。ちょうど風船さんみたいな、バルーンって言うのかな。そういうのを飾ったりもする。

SCP-1667-JP: 僕みたいなのを?

神田氏: そう。もしここを出てウチに帰れるなら、風船さんも飾ってあげよっか。もし嫌じゃなければ。

SCP-1667-JP: はは、嬉しいな。そう言えば、智絵里の家族にはまだ会ったこと無かったね。

神田氏: 紹介する。驚いちゃうかもしれないけど。

SCP-1667-JP: だろうねえ。君たちから見れば僕は得体の知れない風船の怪物だ。何かしらの病気を疑われるかもしれないし、信じてもらえたとして怪訝な思いをされるかも。

神田氏: じゃあ、やめとく?

SCP-1667-JP: いやいや!出会いっていうのは嬉しくなるものさ。僕も楽しみにしてる。希望と不安、そのどちらかと言うなら希望だよ。

神田氏: そう、なら良かった。

SCP-1667-JP: そうだ、お祝いと言っちゃあなんだけど、実は仲間を連れてくる方法があるかもしれないんだ。僕の仲間も君に紹介しよう。

神田氏: 風船さんの友達?遠い宇宙ではぐれたんじゃなかったの?

SCP-1667-JP: そうとも。だけど僕らの種族には得意技 ⸺ もとい、誤魔化しの技がある。なんとなく、本能的な部分で分かる。実際には友達が増えるわけじゃなくて、僕が増えるだけかもだけど、パーティを賑わせるには良さそうだ。それには君の協力も要る。

神田氏: 何すれば良い?

SCP-1667-JP: 紐の部分を持つ、それだけ。そうして君の家へ連れて帰って、どこかの部屋の隅に置いてくれるだけで良い。辺り一面が君を祝福する風船だらけになる。

神田氏: それだけで良いの?

SCP-1667-JP: そのはずさ。少し早いけど、誕生日おめでとう、智絵里。

神田氏: ありがとう、風船さん。

[ノイズ]

<記録終了>






ページリビジョン: 2, 最終更新: 17 Mar 2025 23:16
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