クレジット
庭園地下の監視カメラモニタールームへの入口、未使用時は池に偽装されている。
アイテム番号: SCP-1643-JP
脅威レベル: 緑 ●くろまる
オブジェクトクラス: Safe
特別収容プロトコル: ヴェルサイユ宮殿に警備員として潜入中のフィールドエージェントは、庭園の各所に設置された監視カメラで満月時の深夜00:00~02:00の間SCP-1643-JPの行動を監視して下さい。この間に庭園へ侵入した部外者は直ちに退去させ、SCP-1643-JPを目撃した場合はAクラス記憶処理を実施します。
樹の根元から出現するSCP-1643-JP
説明: SCP-1643-JPはフランス共和国・ヴェルサイユ市・ヴェルサイユ宮殿の庭園に出現する人型実体です。満月時の深夜00:00~02:00間に1回のみ、庭園の樹木の根元から出現します。この際直径約50cmの穴が生じますが、深さはごく浅く異常な点はありません。
SCP-1643-JPの体長は約1.5~1.8mで人間に近い体型ですが、全身が半透明であり体表は樹木の表皮のような外見です。男性と女性それぞれに近い体型をしたタイプが存在しますが、生殖器に当たる器官は見られません。髪は様々な色合いの緑色で、しばしば植物の葉や花で装飾されています。衣服は着用していません。
SCP-1643-JPは男性型と女性型が必ずペアで出現し、主にフランス語、まれに他の言語で会話しながら庭園を歩き回ります。多くのケースでは非常に親密な様子であり、歌唱する、詩を朗読する、ダンスを踊る、食事を摂っているように振舞う、接吻を交わす、[削除済]などの行動も伴います。まれに口論を交わす、泣いているように振舞う、暴力を振るうなどのネガティヴな行動を見せる場合もあります。分析の結果、過去に庭園を訪れた人々の行動、主に恋愛に関するものを模倣していると考えられています。
SCP-1643-JPは出現から約1分が経過するか、あるいは人間の存在に気付くと瞬間的に消失します。このためコミュニケーションや確保は成功していません。ただし現時点では庭園外に出ようとしたケースはなく、出現条件からも部外者に目撃されるリスクは低いことから、オブジェクトクラスはSafeが妥当と判断されています。
補遺・発見経緯と歴史: 庭園の庭師の間に流れる「満月の夜に出現する幽霊」の噂を元に調査が始まり、197█/█/█に正式にナンバリングされました。歴史部門の調査の結果、ルイ14世時代の宮廷人の日記にも「夜の庭園でささやくもの」「樹の根元に残る不審な穴」「誰かが密会を盗み見している」などの記述が見られることが判明しており、当時からすでに出現していたと考えられています。
SCP-1643-JP観察ログ例: 全ログは研究本部サーバーに保管されたファイルSCP-1643-JP-logを参照
日付: 1978年5月17日
出現場所: アポロンの泉水付近
[SCP-1643-JPのペア出現] (00:13:15)
女性型: ああ、来て下さったのね!(00:13:29)
男性型: おお、我が愛しの君よ!(00:13:35)
[男性型と女性型、お互いを抱擁する] (00:13:37)
女性型: ねえ、覚えていらっしゃる? 私たちが出会った晩のことを。(00:13:41)
男性型: もちろんですとも。あの仮面舞踏会の光景は、我が目に焼き付いております。仮面に覆われていてもなお、貴方様の美しさは隠しきれていなかった。私は一目で恋に落ちたのです。(00:13:47)
女性型: あの夜の出来事は、神の恵みだったのかしら? それとも悪魔の罠? 私は恋の喜びと苦しみを、同時に知りました。ヴェルサイユの木陰に隠れなければ、今も私たちは逢うことさえできない[涙を拭く仕草]。(00:13:55)
男性型: 逆に考えましょう。この庭園があるからこそ、我々は逢えるのだと。例え、刹那の時と言えど。(00:14:04)
女性型: ああ、このまま時が停まってしまえばいいのに! 愛しています、フェルセン!(00:14:10)
男性型: 愛しております、マ[中断] (00:14:15)
[SCP-1643-JPのペア消失] (00:14:19)
日時: 2007年8月20日
出現場所: 小トリアノン宮殿付近
[SCP-1643-JPのペア出現] (01:07:34)
男性型: ほら、早く来いよコレット。(01:07:39)
女性型: ちょっとぉアラン、マジでこんな所で[削除済]するの?(01:07:42)
男性型: おうよ、夜のヴェルサイユ庭園は絶好の[削除済]スポットなんだぜ。人目はないし、何より無料だ。(01:07:47)
女性型: でも、警備の人とかいないの? 見られたら恥ずかしくて死ねるんだけど。(01:07:56)
男性型: 心配ねえって。ダチが警備のバイトしててな。この辺りは巡回のコースから外れてるって教えてくれたんだ。そいつもしょっちゅう女連れ込んで[削除済]らしいぜ。(01:08:02)
女性型: ヴェルサイユ庭園で[削除済]ねえ。マリー・アントワネットに怒られないかしら。(01:08:11)
男性型: まさか! フェルセンもきっと言ってたぜ。おお、麗しの王妃様、ここは木が多くて見晴らしが悪うございます。私のエッフェル塔で天国へお連れしましょう。(01:08:20)
女性型: [けたたましく笑う]まだ建ってないってば!(01:08:32)
男性型: いいや、俺のエッフェル塔はもう[中断] (01:08:37)
[SCP-1643-JPのペア消失](01:08:40)
日時: 2018年7月10日
出現場所: 王妃の村落付近
[SCP-1643-JPのペア出現] (00:32:15)
女性型: ああ、フェルセン! 来て下さったのね。(00:32:20)
男性型: は?(00:32:24)
女性型: 逢いたくて逢いたくて、死んでしまいそうでしたわ!(00:32:25)
男性型: 何だコレット、今夜はそういうプレイでいくのか? いいぜ、付き合ってやるよ。(00:32:29)
女性型、男性型から後退る。(00:32:34)
女性型: え、あ、あなたフェルセンじゃないの? 近寄らないで、曲者! 誰か......。(00:32:35)
男性型: おっと王妃様、いいんですかい? 人に見られたら、悪い噂が立ちますぜ。そうでなくても、首飾り事件のせいで評判ダダ下がりでしょう?(00:32:41)
女性型: ひ、卑怯な、恥をお知りなさい!(00:32:48)
男性型: まあまあ、王妃様。精一杯ご奉仕しますから。ほら、俺のエッフェル塔も[削除済] (00:32:53)
女性型: [悲鳴]え? そ、そんな、嘘でしょう? こんな、大き[中断] (00:32:58)
[SCP-1643-JPのペア消失](00:33:03)
追記・新資料について: 2018/█/██、パリ市のマザラン図書館より、ヴェルサイユ宮殿の庭園の設計者であるル・ノートルの日記が発見されました。歴史部門による調査の結果、SCP-1643-JPへの言及が見られることが判明しました。以下はSCP-1643-JPと関係する可能性がある部分の抜粋です。全文は歴史部門のサーバーに保管されたファイル1643-JP-Le_Nôtre_diaryを参照して下さい。
ル・ノートルの日記、聖書に偽装されていた。
1682年 6月10日
太陽王陛下は美を愛するお方、庭園が紛れもない芸術であることをお認め下さっている。卑しい庭師の私が、画家や彫刻家と肩を並べる日が来ようとは。誠に光栄なことだ。
ただ、一つだけご理解頂きたいのは、庭園が生きた芸術であるということだ。木々は生きている、花々も生きている。美女とて毎日湯浴みをし、髪を整えねば、たちまちざんばら髪の魔女になってしまうように、庭園も手入れが欠かせない。無論、それには金と人が要る。
今の予算では、広大な庭園を美しい姿のままで保つのは不可能だ。雑草が蔓延り、噴水の濁った庭園など、陛下には見せたくない。どうしたものか。
1682年 6月13日
やむを得ない。庭園の木々にドリアードの喚起魔術を施すことにした。夜の間だけ木々から解放し、庭園の管理をさせることにしよう。
1682年 6月29日
ドリアードによる管理は概ね上手くいっている。石畳には枯葉一枚落ちていないし、生垣はきれいに刈り込まれている。美しい庭園はこうでなくては。
1683年 5月10日
陛下が予算を増額して下さった。貴族のお歴々を歓待するために、庭園をより美しくなさりたいらしい。ありがたいことではあるが、出来れば最初からして欲しかったなあ。
まあ、いい機会だ。後進の育成も兼ねて、人間の庭師を増員しよう。ドリアードたちは眠らせることにする。今までご苦労だった。
1683年 8月8日
まずい、一部のドリアードが夜の庭園を徘徊している。どうも満月の晩は、月の魔力のせいで起きてしまうらしい。まったく、サロンの皆には感謝しているが、大切なことはちゃんと教えておいてくれないと困る。
1683年 8月9日
まあいいか。目撃されたら、すぐに非実体化するよう言ってあるし、きっと見間違いだと思ってもらえるだろう。
1683年 8月23日
ドリアードたちは人間の恋愛を真似するのが好きらしい。それにしても、どいつもこいつも我が庭園を何に使っておるのだ。宮廷の風紀は乱れている!
1683年 10月13日
ドリアードたちの物真似を見ながらワインを呑むのが、最近の楽しみだ。王侯貴族と言えど、我が庭園では獣に過ぎないと実感する。宮廷でお高く止まっている彼らの顔を見ると、笑いを堪えるのに苦労する。
権力に養われる芸術が、権力を笑いものにする。これは不敬であろうか? 否、我が庭園は、やっと本当の意味で完成したのだ。人間の本性を映す、魔法の鏡として。
我等は優雅であったろう?
ル・ノートル
André Le Nôtre(1613~1700)、フランスの造園家。ヴェルサイユ宮殿の庭園の他、パリのテュイルリー庭園、ヴォー=ル=ヴィコント城の庭園などを設計した。造園に数学や幾何学を導入し、広大な平面や左右対称性等を特徴とするフランス式庭園の様式を完成させた。